薬草採り
今残っているミッションと言えばこんな感じだ。
・宿屋を取ろう ←完了
・武器を買おう ←完了
・冒険者ギルドで冒険者登録をする。 ←未
・ダンジョンでモンスターを一匹倒す。 ←未
・パーティーに入る。 ←未
・レベルを5に上げる。 ←未
・Fランクの依頼を達成する。 ←未
残り5項目。
『ダンジョンでモンスターを一匹倒す。』
簡単な物から片付けるのならば、これしかない。
武器も防具も用意出来てるし、倒す敵の強さは指定がない。
これならば俺でも十分いける!
これしかない!
と思ったんだが……。
ナビちゃんは俺を止めた。
――『死にます』
――「へっ?」
――『間違いなく死にます』
マジで?
――「一匹って言うのはラスボスを倒すんじゃなく、雑魚でもいいんだろ?」
――『ええ』
――「雑魚相手で死ぬことなんてあるのか?」
――『指定の狩場は人間とモンスターの争闘が繰り広げられるダンジョンです。街の外の草原とは全く違う、まさに戦場! 街の外の草原と同じく相手が一匹で来てくれればいいんですが、戦場であるダンジョンですよ。ダンジョンではモンスターがグループで襲ってくるのが普通なんです』
――「いや、でも、一匹でうろついている敵を探して仕留めればいいんじゃないのか?」
――『戦場で一匹でうろついている敵に出会えればいいんですけどね』
俺が納得いかない感じでため息をついていると、ナビちゃんは物わかりの悪い子に言い聞かせるようにわかりやすく説明を始めた。
――『例えばです。ダンジョンは無法地帯の夜の渋谷や歌舞伎町としましょう。夜の風俗街を一人でうろつくチンピラやチーマーはいませんよね? いたとしたらかなりの腕っ節の持ち主です』
そういわれると、そうかもしれない。
そんな奴に手を出したら、想像するだけで恐ろしい。
――『大抵は群れて行動して……少なくとも三人組で行動してますね。トドロキさんと同じぐらいの戦闘力のヤンキーが三人で襲ってきてトドロキさん一人で勝てますか? 勝てるんですよね?』
勝てるわけがない。
相手が一人だとしてもヤンキーだったら多分勝てないだろう。
ボコボコにされて身ぐるみ剥がされてパンツ一丁でゴミ捨て場に捨てられるのがオチだ。
――『そんな夜の繁華街を一人で歩いていたらいいカモにしかなりません。冒険者ギルドは仲間を作る場所です。仲間と一緒にダンジョンに潜りましょう』
俺はナビちゃんに勧められるまま冒険者ギルドでパーティー参加の希望を出してみたんだが、誰にも誘われない。
そりゃ戦闘経験ゼロの初心者だもんな。
募集を出しているのが美人のお姉ちゃんでもない限り好き好んでパーティーを組もうと思う野郎なんて居るわけがない。
仕方ないので自分から声を掛けてみたんだが……。
「FランクでLV4の冒険者なんて要らないよ」
「パティーに入りたいなら街の外に行って一人でレベル10ぐらいまで上げてから参加希望を出した方がいいんじゃないの? 俺か? 俺はレベル4の冒険者はちょっと……」
「お金をくれるならパーティーに入れてやってもいいぜ。ガハハハ!」
なんでパーティーに入って仕事をするのに金を払わないとならないんだよ。
バカにされまくりだ。
「無職をパーティーに入れてもな」
無職ってそんなにダメなものなのか?
なんでダメなのか理由を思い切って聞いてみた。
「そりゃそうよ。無職はいくらレベルが上がってもスキルを覚えない。スキルを使えないから職持ちよりも明らかに弱いだろ? そんな奴を好き好んでパーティーに入れる奴は居ねーと思うぞ」
この異世界では無職ってそんな扱いの設定なのかよ。
日本よりもひどい扱いじゃないか。
どうすりゃいいんだ?
ダンジョンでモンスターを一匹倒す → 一人で戦っているときにモンスターの集団と出くわしたら命が危うい。
パーティーに入る → レベル4では誰もパーティーに入れてくれない。絶望的な難易度。
――『先ほどアドバイスを貰ったように街の外に行って一人でモンスターを倒してレベルを10迄上げるしかないですね』
あれってアドバイスって言うよりも俺を馬鹿にしてただけだろ?
まあ、ナビちゃんがそういうならそうしてみるか。
ちょっと遠回りになる気もするが、このまま酒場で延々断られ続けていても面白い動画は撮れそうもない。
ミッションカードを見てみるとうってつけのクエストがあった。
・レベルを5に上げる。 ←未
レベル4を10まで上げるので、そのついでにクリアできそうだ。
――『ついでに冒険者ギルドの正式採用のための依頼も3つ片付けてしまいましょう』
そんなのもあったな。
冒険者ギルドの登録も急がないといけない。
あれも期限が3日でかなり厳しいんだったな。
とっとと片付けてしまおう。
俺は受付嬢のエリアスさんに聞いてみた。
「誰にでも出来るFランクの依頼ですか? それなら薬草集めですかね? 戦闘もなくて簡単ですよ」
さっそく街の外に出て薬草集め。
そのついでにモンスターを見つけたら狩りをしてレベル上げだ。
*
街の外にやって来たものの、雑草と薬草の違いがわからない。
わからないで先に進めないのも困るので、手あたり次第薬草っぽいのを刈り取って受付嬢のエリアスさんの元へ持って行った。
ちなみに不幸というか幸いというか、モンスターとは出遭うことは無かった。
納品された雑草混じりの薬草の山を前にエリアスさんはため息をついている。
「本来は依頼の薬草以外の納品はペナルティーとなるのですが、今日は初めてということで大目に見ましょう」
ペナルティーって、いきなり問題有りな冒険者になるとこだったのかよ。
ナビちゃんもクビにならないと聞いてホッとしている。
――『いきなり冒険者をクビにならなくて良かったですね』
――「おおう」
エリアスさんは冒険者のしおりを取り出しページをめくる。
「初心者冒険者のしおりに薬草の見分け方を書いてあるんですがちゃんと読みました?」
「いえ。書いてあることさえ知らなくて、すいません」
「納品官を紹介するので、このページを見ながら一緒に仕分けして下さい」
すぐにやって来た納品官。
やはり、見栄え重視で犬耳がチャームポイントのかわいらしい女の子だった。
犬族の設定なのかな?
異世界っぽくていいね。
「納品官のリオンです、よろしくね。では、さっそく薬草の仕分けをするよ!」
納品所の片隅で作業を仕分け始めることとなった。
俺が薬草と雑草を仕訳けて、リオンさんが正しいかチェックする感じだ。
なかなか手早くて、かなりの経験を積んでるっぽい。
俺が仕訳けた薬草と雑草をリオンさんが手早く確認する。
リオンさんは仕分けのポイントを俺に説明する。
「これは葉の先端が丸いから雑草だよ!」
「これは葉が2対だから薬草だね!」
「これは葉に白い筋が入っているので雑草だよ!」
説明はわかりやすかった。
リオンさんは仕訳けた薬草と雑草の山を一つに纏めてかき混ぜた。
「せっかく仕訳けたのに……」
「一人で間違いなく仕訳けられるまで、特訓だよ!」
俺は薬草を手に取り冒険者のしおりを見ながら仕分けする。
俺の仕分けを見てリオンさんが仕分けの結果が正しいのか教えてくれる。
「これは葉が長いから雑草」
「正解だよ!」
最初は間違いも有ったけど100本ぐらい仕分けをしていると間違いも無くなって来た。
リオンさんが褒めてくれる。
「鑑定スキルを持ってないのに、かなり見極めが上達したね!」
「鑑定スキル?」
俺が聞いたことのない言葉に戸惑っているとナビちゃんがフォローしてくれた。
――『アイテムの価値を見極めるスキルですね』
――「あー、武器屋の親父が持っているスキルか」
3度目の仕分けを終えるとリオンさんが薬草の納品を受け付けてくれた。
「もう君に教えることは何もないよ、薬草専門の納品官にスカウトしたいぐらい完璧だね!」
いや、それはちょっと……。
納品官動画とか映像的に映えなさ過ぎる。
絶対に再生数1桁の糞動画の出来上がりだ。
リオンさんには申し訳ないが丁重にお断りした。
「じゃあ、薬草の納品を受け付けるよ。この量だと2回分ね」
おお!
2回分も受け付けてくれるのか。
これは嬉しい。
と、喜んでいたら『ピロン!』とミッション達成の効果音だ。
ミッションカードを見る。
・Fランクの依頼を達成する。
進行:完了
報酬:スキル『鑑定』取得
鑑定だと?
これさえあれば薬草の採取なんて余裕じゃないか!
俺にも運が向いてきたようだ!