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冒険者登録

 さてと、次のクエストはどれにするか。


 ・宿屋を取ろう ←完了

 ・武器を買おう ←完了

 ・冒険者ギルドで冒険者登録をする。 ←未

 ・ダンジョンでモンスターを一匹倒す。 ←未

 ・パーティーに入る。 ←未

 ・レベルを5に上げる。 ←未

 ・Fランクの依頼を達成する。 ←未


 簡単そうなものから片付けていくのがこの手のクエストの定石。

 スマホゲーのミッションで報酬のいい難しいクエストから手を出して時間切れになり結局どれもクリア出来ずに散々痛い目に遭って学習した。

 ということで『冒険者ギルドで冒険者登録をする。』のクエストをすることにした。

 これなら戦闘もなく書類を提出するだけで済みそうだ。

 まあ他にも理由があって、他のミッションをするにしても冒険者になるのが前提でそれをすっ飛ばしてはクリアは難しそうだからだ。


 ナビちゃんの案内で冒険者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドはゲームやアニメの中でイメージするものと全く同じだ。

 この冒険者ギルドは本物の異世界に存在するギルドではなく、IT企業が新宿の地下に作ったセットの異世界なんで当然と言えば当然。

 壁に掲示板が設置してあって、そこに依頼票が無数に貼り付けてある。

 依頼の受付カウンターに、併設の酒場と昼間から酒を飲んでいるろくでなしな冒険者。

 一言でいえば、まともな仕事のできないクズの溜まり場だ。

 そう言う俺もまともな会社勤めが出来なかったクズの一員なので冒険者ギルドはおあつらえ向きかもしれない。


 ――『まずはカウンターで冒険者登録ですよ』

 ――「おう」


 ナビちゃんに促されて冒険者登録を始める。

 俺は受付カウンターに行くと受付嬢に要件を切り出す。

 対応してくれたのは俺よりも歳が少し若く美人なお姉ちゃんだ。

 金髪で耳も大きく日本人とは見た目が全く違う、エルフの血を引いている設定なのかもしれない。

 経験豊富なおっさんの受付員の方が初心者には安心感があるが、やはり動画なのでアニメと同じく見栄え重視で若い受付嬢なんだろう。


「私はスターシアの冒険者ギルドの受付をしていますエリアスです。今日はどのようなご用件でしょうか?」

「冒険者登録をしたいのですが」

「わかりました。他の冒険者ギルドで働いていた経験はありますか?」


 この企画が始まったばかりなので他で働いていた訳ないだろと突っ込みたくなる気持ちを抑えて素直に答える。

 ここは異世界の冒険者ギルドにやって来た素人というなりきりが肝心だ。

 お姉ちゃんが本気で役になり切っているのに俺が醒めてたらどうする。

 俺も技術は無いがやる気だけはある初心者役になりきる。


「いえ初めてです!」

「では、登録を始めます。登録料は30000ゴルダになります」

「えっ?」


 すまし顔で登録料が掛かるというお姉さん。

 登録料が30000ゴルダだと?

 残金37000ゴルダしかないのに登録料30000ゴルダも支払うのはキツイ。

 俺の所持金のほぼ全てがすっ飛んでしまうじゃないか。


 ――「ナビちゃん、ヤバい。緊急事態、予想外の出費の発生だ。30000ゴルダも払ったら持ち金が尽きる」

 ――『お財布には痛いですが、お役所仕事だから値切るわけにもいかないし払うしかないでしょうね』

 ――「冒険者登録に大金が掛かるのがわかってたならサポート役なんだから武器屋で無駄遣いしないように止めてくれよ」

 ――『そこまでの情報が無かったので、ごめんなさい」


 謝られると何も言えない。

 ナビちゃんも俺のサポートが初仕事だったので完璧というわけにはいかないんだろう。

 それによくよく考えると、防具を買おうとする俺の無駄遣いをナビちゃんは止めていたし、俺の独断で防具を買ったんだしでナビちゃんが怒られる筋合いはない。

 そんな横暴な俺をナビちゃんはフォローしてくれる。


 ――『でも防具は絶対に必要ですから無駄遣いじゃないです』


 いい子じゃないか。

 涙がちょちょ切れるぜ。

 過ぎたことを後悔しても意味は無い。

 俺はナビちゃんと資金不足の回避方法を模索する。


 ――「なんとか、30000ゴルダを値引きするように出来ないのか?」

 ――『この世界ではお得意様でもない限り割引なんて効きませんから、これから冒険者ギルドとお付き合いをするトドロキさんだとどうにもならないでしょうね』


 ここで大金を支払ってしまうと、数日後の宿代が払えるか怪しくなる。

 俺はダメ元を覚悟して受付嬢に値引き交渉を始めた。


「これって値引きとか出世払いとかはありませんか?」

「ないですね」


 愛想笑いをしながらキッパリと値引きを拒否するお姉さん。

 毅然とした態度で交渉の余地なし。

 武器屋で一番いい武器防具一式迄買って散財したのが裏目に出ちまった。


 ――『お金は後で稼ぐとして、払えるうちに払ってしまいましょう』

 ――「そうだな……」


 俺はナビちゃんの勧め通りに、お姉ちゃんに登録料を支払う。

 お姉ちゃんは当然といった感じで事務的に笑顔一つ浮かべずお金を受け取った。

 俺のなけなしの全財産なんだからもう少し嬉しそうに受け取ってくれよ。

 財布袋の中の残り金額は7000ゴルダ。

 ついさっきまで100000ゴルダあったのにもうこれしか残っていない。

 一泊3000ゴルダの宿屋2泊分だ。

 まいったな。


 ――「いえ、2日分ではないですよ。食事代が掛かりますので、多分1日分にしかならないかと」

 ――「マジか?」


 今日の宿代は払ってあるので安心だが、少なくとも明後日の夜までにお金を稼がないと野宿をする羽目になる。

 キャンプとかを学生時代にした経験があるので野宿自体は抵抗はないが、テントも無しに野宿をするのは上級者向け過ぎて厳しすぎる。

 せめて段ボールがあればなんとかなるが、ここは異世界の設定でそんな便利アイテムは無い。

 なんとしても稼がないと本格的にヤバくなってきた。

 そんな俺の焦りを知らぬお姉さんは事務的にカードと冊子を渡してきた。


「これがギルドの『仮登録証』と『初心者冒険者のしおり』です」


 仮の登録証だと?

 俺のなけなしの30000ゴルダを支払ったのに正式登録じゃないらしい。

 どおりでクエスト完了の効果音が鳴らなかったはずだ。

 正式登録に更に登録料が掛かったら完全に積む。

 俺はこの実況者の仕事をクビになり職探しの毎日に逆戻りだ。


「正式な登録証はいつもらえます? またお金が掛かったりします?」

「正式な登録証は依頼を3種類クリアした後ですね。詳しくは初心者冒険者のしおりをご覧ください」

「料金はどうなります?」

「そちらも初心者冒険者のしおりに書いてあるのですが、追加のお金は掛かりませんのでご安心ください。ただし3日以内に依頼を3種類クリアし出来ないと、仮登録は無効になります」

「無効ってマジ?」


 俺はなんとしてでも正式登録すべく、頑張ることにした。

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