女の子と一緒の野営
馬車を走らせて一日。
野営地で初めての夜を過ごしているんだが……。
「うーん、寝れん」
あまり考えずにテントを一つしか持ってこなかったんだが、こういう時は男女で一つづつのテントを持ってくるという常識を俺は知らなかった。
だって、女の人とキャンプに出掛けたことなんて人生の初めての経験だし。
恋人でもなければ寝る場所を分けるという常識中の常識を知らなかったんだよ。
おかげでとんでもない目に遭っている。
俺の腕を食い物と間違えてしゃぶっている食欲だけの幼女のトリアはともかく、クッコローネがヤバイ。
クッコローネは鎧を脱いでビキニアーマー@縞パンバージョンで俺の腕を抱きしめて寝ている。
なんで社長もこんな布の鎧を用意するんだよ!
呪われた装備を用意にするにしてもブラジャーと変わらないような物を用意するなよ。
当然ふんわりとしたものを押し付けられる格好となり、俺は性欲に負けてクッコローネに覆いかぶさり犯罪者になる一歩手前でどうにか耐えてる状況だ。
「トドロキ、私を捨てないでくれ」
寝言と共にクッコローネが俺の腕を抱きしめる力が一層強くなる。
ヤバイ。
これ以上抱きしめたら俺の気がおかしくなる。
俺はテントを抜け出て、夜の河原で自己発電でもして気を落ちつけようとしたら、河原へと向かう道のベンチには先客のおっさんがいた。
しかも姿が異様である。
上半身真っ裸でパンツ一丁。
いくら夜といってもあり得ない姿。
よくネットで見かける公園のベンチに座って『やらないか』と誘ってくるおっさんよりもヤバイ格好だ。
このおっさんには近づいてはいけないと俺の生存本能が全身全霊で警告していた。
男は自己発電を済ませたようで荒い息を弾ませている。
ここは武士の情け。
見て見ぬふりをして通り抜けようとしたら、おっさんから声を掛けてきた。
「ここに座って話をしないか?」
「いえ、遠慮します」
これって夜のお誘いだよな?
そんなのは絶対にお断り。
俺がそのまま立ち去ろうとすると、男がいつの間にか俺の前に立っていた。
「まあ、そんなに急がずに」
「遠慮します!」
俺はそんなヤバイ格好をしたおっさんと話したくないの!
でもおっさんは諦めない。
無理やり肩に手を掛けられると、いつの間にかベンチへと座らされていた。
なんで俺はベンチに座ってるんだ?
俺はそっち系の趣味なんてないし。
おっさんは笑顔を浮かべた。
これって途轍もなくヤバい状況なんじゃないのか?
試しに範囲哨戒を使ってみたらこのおっさんは真っ赤。
完全に敵である。
俺の身体を狙っているのは間違いなかった。
やべぇよ、ヤバ過ぎる!
こんなおっさん相手に俺の初めてを散らしたくない。
このおっさんのガタイはどう見ても俺よりもいい。
力ずくで襲われたら抵抗出来そうもない。
ここは宥めつつ隙を見て逃げるしかない。
すると男が話し掛けてきた。
「これからどうするつもりですか?」
しないから!
おっさんとはそんなことするつもりはない。
俺は話をはぐらかす。
「王都の冒険者ギルドへと向かうところです」
さり気なく強者アピールをする俺。
本当は全然強くないけどね。
「ほう、俺には全く用が無いと」
「全くありません! それではこれで!」
うは!
マジかよ!
俺が逃げようとするとおっさんは後ろから抱きしめてきやがった。
これはヤバイ。
俺が逃げようとしたから実力行使だ。
おっさんは荒い息遣いで俺の耳元で囁く。
「ヤル前に逃げられたら困ります」
「俺はおっさんとなんてしたくねぇ!」
俺が隙付いて逃げ出すと、全速力で追いかけてくる。
しかも足がはえぇ!
俺は必死に逃げた。
だが足の速さが全く違う。
10メートルも逃げる前に捕まってしまった。
「困りますね。素直になれないのならこの場ですぐにヤリますよ」
「いやー!」
俺はまるで少女のように泣き叫ぶと背後から悲鳴が……。
「うぎゃー!」
おっさんの悲鳴だ。
おっさんは助けに来たトリアのアッパーカットを食らってお空のお星さまになっていた。
あれだけ吹っ飛ばされれば無事じゃないはずだ。
「ふー、助かった……」
「トドロキ、お前殺されるとこだったぞ」
「えっ?」
ヤラれるじゃなく、殺される?
トリアは地面に落ちている短剣を拾うと俺に見せた。
*
命からがらスターシアのダンジョンから逃げてきた俺。
ここまで逃げれば追っ手もやってこないだろう。
今回の任務は本当にヤバかった。
キングオークとの戦闘で傷一つ付かなかった斬撃防止の加護のついたアンダー代わりに着たダークコルセットが穴だらけで役立たずになるとは……。
異世界人はヤバイとは聞いていたがここまでとはな……。
同じ異世界人の勇者パーティーの4人を相手にして逃げ延びた魔王はさすがといったところか。
俺は装備を全て脱ぎ捨てると霊薬エリクサーを半分飲み、半分は肩と胸と胸の傷口に振りかける。
すると激痛が俺に襲ってくる。
心地よささえ感じる再生の痛みだ。
俺の腕はすぐに生え戻り、腹に食らった風穴も元に戻る。
「はぁ、はぁ」
これで戦いは五分のとこまで巻き戻せた。
任務の調査は完璧とは言えないが十分に収穫があった。
王都へと戻り女神に報告すればとりあえず俺の仕事は終わり。
と思っていたんだが、甘くはなかった。
もう、魔王の眷属が追って来ただと?
ありえない。
追って来たのは一人だ。
しかも、俺がターゲットとはまだ気が付いてないようだ。
運の良さを女神に感謝した。
ならば隙を見て仕留めるのみ。
一般人を装って追跡者に話し掛けた。
「ここに座って話をしませんか?」
「いえ、遠慮します」
これって俺の正体がバレているのか?
いや範囲哨戒で確認しても奴の色は青、敵意は無しだ。
まさかターゲット自らが話しかけてくるとも思っていないのだろう。
俺は少し強引に奴を誘う。
「まあ、そんなに急がずに」
「遠慮します!」
断固たる拒否の姿勢。
だが俺も暗殺者のプロだ。
ここで逃すわけにもいかない。
スキル『精神支配』を使い強引に椅子に座らせる。
「これからどうするつもりですか?」
もちろん返ってくる答えは逃亡者の追跡だと思ったんだが……。
「王都の冒険者ギルドへと向かうところです」
なに?
俺の精神支配が効いていない?
あり得ない。
俺は再度確認を行う。
「ほう、俺には全く用が無いと」
「全くありません! それではこれで!」
奴は俺から離れようとする。
わかった。
奴はプロだ。
あくまでも俺の姿を発見するまでが仕事。
ターゲットを発見しても戦うつもりは無いということか。
ならば、俺は奴の耳元で囁く。
「殺る前に逃げられたら困ります」
「俺はおっさんとなんてしたくねぇ!」
戦う気は無しか。
奴は逃げ出すが、脚力は俺の方が上。
戦いを避けるだけあってあまり戦闘の経験は無かったらしく、素人を相手にするようにすぐに捕まえることが出来た。
「困りますね。素直になれないのならこの場ですぐに殺りますよ」
「いやー!」
叫び声まで素人だった。
本当の素人じゃないか。
こんな奴を警戒した俺がバカだった。
さっさと始末して女神の元へと戻ろう。
そう決めた時に途轍もない衝撃が俺を襲う。
「うぎゃー!」
俺は一瞬で意識を狩り取られ、目が覚めたのは一週間後だった。




