入社式
入社式会場は新宿の高層ビルの中にあるとは思えない広さだった。
その会場の中央にポツンと新入社員用の椅子が20脚程と、対面に社長たちが立つらしい演台が置いてある。
過疎地の中学や高校なんかの入学式をイメージしてもらうとわかりやすいかも。
そして新入社員が座る椅子には高校生と大学生っぽいいかにも優等生っぽいグループと、俺と大して変わらない歳のチンピラというか不良ポイのがグループになって固まって座っていた。
その2グループの間にポツンと一人で座る俺。
不良グループからはガンを飛ばされ、優等生グループからは好奇の目で見られる。
居辛れぇ!
せめて話し相手になるトリアが居ればと思うが、会社に来てから一度も会っていない。
きっとどこかで食い物でも漁ってるんだろう。
すぐに社長さんと秘書さんが入ってきてくれて助かった。
「やあ皆さん、お待たせしたね」
演台に着いた社長はにこやかな笑顔で手を振る。
すると金髪のリーゼントをした一人の男が立ち上がり社長に怒鳴り声をあげた。
その人は人事部の採用担当の人じゃなく社長なんだから怒鳴り声とか上げたらダメだし!
ヤンキーは空気を全く読めてねぇ!
「剣を振り回して暴れられると聞いたからこの会社に入ったのに、いったい何時まであんな薄暗い地下室で訓練を続けないとならないんだよ!」
そしてヤンキーは俺を睨みつける。
「訓練を一切してない雑魚が異世界へ行って剣を振るってるのになんで俺たちはまだ戦う事さえ許されないんだ!」
ゾッとする眼光で俺は思わず背筋に寒気が走る。
きっと俺のトレーラー動画の事を言ってるんだな。
早く異世界セットへ行って活躍したいんだろうけど、俺を睨みつけるのは筋違いだ。
別のチンピラって言うかバレットベルトを肩から掛けた軍人ポイのがヤンキーを宥める。
「おい、その位にしとけ。今は訓練をして実力を身に着ける期間、時が来たら好き放題暴れられるはずだ」
「だか、しかし! 俺には時間が無いんだ」
「ウルセー! 俺の言うことを聞けねーのか!」
「元傭兵部隊の軍人だかなんだか知らねーが、この俺様がてめーに指図される筋合いなんてねぇ!」
するとブチ切れた。
軍人じゃなく秘書の女の人が!
「社長の御前です! 静かになさい!」
ヤンキーも黙ってなかった。
秘書さんにメンチを切る!
「黙れ、このクソアマが!」
秘書さんも黙っていなかった!
「座りなさい!」
ヤンキーを怒鳴りつける秘書さん。
するとヤンキーに苦悶の表情が現れる。
「ぐぬぬぬ!」
目に見えない、なにか強大な力に押さえつけられるような感じで無理やり座らせられようとしている。
ヤンキーは必死に抵抗するが徐々に押し潰される様に姿勢が低くなっていく。
「なにをしやがる! 俺は、俺はぜっていに座らねぇ!」
だが、ヤンキーの努力の甲斐も空しく、すぐにヤンキーは白目を剥き気絶し座らされた。
「やるねぇ、秘書さんも」
口笛を吹きつつ、軍人が感心していた。
「フィリア君、ご苦労」
「いえ、社長。申し訳ございませんでした」
社長に褒められポッと頬を赤らめるフィリアと呼ばれた秘書さん。
それ以降は誰も騒ぐこともなく、入社式が始まった。
社長の挨拶と説明が終わるとなぜか俺にマイクを振られる。
「それじゃ、トドロキ君。ゼロ期生の先輩、そして経験者として最初に自己紹介をして下さい」
え、俺が自己紹介するの?
いきなり発言を振られても心の準備が全く出来て無いんだけど?
でも、俺も芸人の端くれを始めることにしたんだ。
ここで怖気づく訳にはいかない。
俺は震える手でマイクを持ちながら、みんなに挨拶を始める。
「トドロキです。よろしくお願いします。前職はスポーツ大会で検温係をしていました」
人前でマイクを持つような経験なんて無かったのでおどおどしてるように見えたのか、女子高生っぽいのが俺を見て腹を抱えて笑ってる。
この前チハルに声を掛けていた女子高生だ。
「めっちゃおどおどしてて受けるんですけど! あの動画のヘッポコぶりって演技じゃなかったんですか?」
包まれる笑い声。
他の新入社員たちも俺をバカにする。
「動画と同じく冴えない男だね」
「スケルトン如きにボコボコにされたヘッポコだったしな」
「幼女に助けられて大笑いだぜ」
スケルトンのあれは演技だし!
トリアが来なくても多分一人で倒せたし!
年上なんだし少しだけでも先輩なんだから敬って欲しい。
秘書のフィリアさんが騒ぐ女の子とおっさんを止める。
「社長の御前です、静かになさい!」
なにか強烈な力に押し付けられるようにすぐに笑い声は静まった。
次々に自己紹介がされる。
どうやら不良グループのメンバーと優等生グループでメンバー自体がかなり違うようだ。
優等生チームはスポーツの達人みたいな人が多く、不良グループは本当のクズ揃いだった。
優等生グループは見た目重視なのか成人前の女の人が多かった。
まずはポニーテールのきりっとした顔の女の人だ。
「剣道三段の御剣灯里だ。剣の道を極めるために、このプロジェクトに参加した。よろしく」
次は可愛らしい感じの女の子だ。
「弓道三段の矢倉愛です。自分を試したくてこのプロジェクトに参加しました。よろしくお願いします」
次は古風な感じのする和服少女だった。
「草薙しのぶどす。よろしく」
次は眼光の強い少女だった。
「鬼龍院真紀。よろしく」
次は影を持った少女だ。
「那智美琴です」
最後はこの前俺に声を掛けてきた女の子だ。
「薬師丸千治です。よろしく」
殆どのメンバーは名前を言っただけで特技も職業も明らかにしてなかった。
不良グループになるともっと酷い。
紫のスーツを着たどう見てもヤクザっぽいおっさんはいきなり偽名を使った。
「俺は……首領だ」
次はヤンキー君にマイクが渡されたが、まだ口から泡を吹いて絶賛気絶中だった。
次のミュージシャンというかデスメタルバンドでもやってそうな革ジャンに鉄の金具がいっぱい付いたのを着た奴はギターを振り回しながらマイクを取る。
「俺はメタルだ! よろしく!」
メタルが歌を歌い始めたのでマイクをレディースっぽい姉ちゃんにマイクをぶんどられていた。
「勝手に歌ってんじゃねーよ! カスが! 私は姉貴と呼んでくれ」
不良グループになると本名を言う人は一人もいなかった。
次は軍人ぽいのが自己紹介を始める。
「俺の名前はジョーだ、よろしく」
そして最後の不良グループのメンバーだ。
この中では常識派寄りっぽい感じ。
まともな色の背広を着てる唯一のまともなメンバー。
なんで不良チームに入っているのかわからない。
「私の名前は木村正雄です、よろしく」
常識人ぽくまともな挨拶が出来ていた。
自己紹介が終わったのを確認した社長がメンバー分をする。
「では、右側と左側でチームを組んでください」
て、ことは不良グループと優等生グループでチームを組めという事か。
不良グループのチームは纏めるのが大変だろうな……って、俺はどっち?
チハルをチラチラ見つつ身体を右側の優等生チーム側に寄せて社長に聞く。
「あの……トドロキですがどちらのチームに入ればいいでしょうか?」
「6人と6人でチームを組むので、トドロキ君はチームに入らないで一人でやってください」
「えっ?」
マジで一人なの?
そりゃないよ……一人じゃなんにもできないぞ。
さすがに敵の集団が出るダンジョンを一人で攻略るのは無理過ぎるっていうか間違いなく死ぬ。
俺は社長に抗議をした。
「なんのスキルも持っていない俺一人でダンジョンを攻略するのは無理過ぎます。剣士の女の子のいるパーティーに入れてもらえないでしょうか?」
社長は俺を諭すように語り掛ける。
「あのパーティーは女の子のメンバーが売りのアイドルパーティーなのですよ。そこに男性のトドロキさんが入れば間違いなくトラブルになります。どうしてもパーティーに入りたいのならば熟練パーティーの方ですかね」
あのヤバそうな雰囲気満載の一癖も二癖もあるおっさんの寄せ集めのパーティーだけは関わりたくないな。
あんなとこに入ったら俺みたいに何もできない奴だと間違いなく使いっ走りにされる未来しか見えない。
俺はソロで攻略するしかないのか。
俺が気落ちしていると社長が慰めてくる。
「でも、トドロキ君は一人で冒険しないといけないってわけじゃないんです。今まで通り冒険者ギルドでメンバーを募集して現地の人とパーティーを組んで下さいね」
現地の人ていうのは異世界セットの役者の人たちか。
あの役者の人たちは、今日ここに集まった新入社員とは扱いが違うみたいだな。
今まで通りやるしかないのか。
戦力になるメンバーの中に入って少しは楽になると思ったんだけどな。
世の中そんなに甘くない。
「それにトドロキ君は現地人のトリア君と既にパーティーを組んでるみたいですしね。あんな感じでお願いします」
「はあ……」
ソロか、仕方ない。
俺みたいになにも特技の無い奴は動画受けしないしな。
すると再び笑い声が上がる。
「おじさん、一人なんですね」
「この歳になってボッチとか笑える」
俺よりずっと歳の若い女の子にダメだしされまくり。
「まあ、無能のオヤジが俺らのチームに入られても困るしな」
「こんなおっさん要らねーよ」
不良チームも俺をバカにしだす。
俺より年上のおっさんが俺の事をおっさんと呼ぶな!
それに不良チームに入るなんてお断りだし!
秘書さんが皆に閉めの挨拶をする。
「これで入社式は終わりにします。宿泊所に戻って指示を待って下さい」
宿泊所ってなんだよ。
そんなの初耳だし。
「あ、トドロキさんは宿泊所に行かずに自由に行動して下さいね」
って同じ社員なのに俺だけ扱い悪すぎ。
俺は今後も一人で実況することになりそうだ。




