スケルトン
足を取られ一人ダンジョンに取り残された俺に2匹のスケルトンが迫る。
しかも運が悪いことに左右の部屋からの挟み込み。
片方の攻撃を盾で受ければ、反対側のスケルトンから攻撃を受ける最悪の配置だ。
四つん這いになろうが、尻餅を突こうが構わない。
視聴者に笑われたって構わない。
生き延びられればそれでいい。
社員に正式採用される前に死んでたまるか!
俺は何としても生き延びてやる!
スケルトンの武器は棍棒。
棍棒で殴られたら絶対に痛い。
痛いで済めばいい方で、運が良くて骨折、運が悪ければ頭を殴られてそのままポックリあの世行きだ。
なんとしてもそれだけは避けなければならない。
――「どうすればいいんだ?」
――『が、頑張りましょう!』
俺以上にナビちゃんはテンパってるようだ。
俺のカメラ映像を見ながらおろおろしている姿が目に浮かぶ。
頑張ってどうにかなるならいくらでも頑張る。
でも努力じゃどうにもならない現実もあるわけで……。
ナビちゃんが俺以上ににおろおろしているので俺は冷静さを取り戻した。
――「左右からの攻撃を同時に避けるなんて無理だ。どうすればいい?」
――『片側の攻撃を盾で避けて、もう片側は身のこなしで避けるんでしょうか?』
それしかないよな。
俺はナビちゃんが混乱しつつ出した案に乗ることにした。
後ろからの攻撃を盾を突き出して受けて、反対側の攻撃を身のこなしと剣の受け流しで捌く。
お!
意外といけるじゃないか!
でも、素人の避けはそう長く続かない。
2回3回は避けられたものの、4回目で前方の敵に気が取られてしまって後方からの敵の攻撃を思いっきり受けてしまった。
しかも、後頭部に棍棒の直撃!
痛みで目がチカチカと眩む。
これはたまらん!
ギャグマンガで目から星が出るって表現があったけどあれって本当なんだな。
絶対に死ぬ!
「いたい!」
……く、ない?
あれ?
殴られても軽い音しかしない。
もしかして鎖帷子を買ったおかげ?
----------
それはそうである。
過剰なまでに防具に金を掛けたトドロキ。
それは初心者の防具の域を超え、防御力は装備だけでも36もあった。
しかも防御力2倍のスキルもある。
その防御力の合計はなんと72!
中級冒険者の防御力が平均70と言われるなか、それを超える防御力を誇っていたのである。
中級冒険者並の防御力を持っていたトドロキにとって、初心者レベル帯の敵であるスケルトンなぞ殴られても痛いわけがなく、ただ五月蠅いだけの存在でしかなかったのだ。
----------
「ぽくっ!」
殴られても軽い音しかしない。
芸能人水泳大会のバラエティー番組で女子アイドルがプールの中で棒を使って殴り合いをするけど、あのスポンジの棒で殴られたみたいな感じだ。
これってやらせというか仕込みみたいな感じなのか?
これで演技をしろってことだよな?
なんだよ、それならそうと先に言えよ。
そうだとわかったなら、俺もリアクション芸人の端くれだ。
思いっきりいいシーンに仕立ててやるぜ!
ということで、俺は滅茶苦茶痛がる振りをした。
「いたたたたた!」
「なんという重い攻撃なんだよ!」
「受けるだけで手が痺れるを通り越して痛い!」
「こんなキツイ攻撃を受けまくってたら、手が痺れて感覚が無くなって来た!」
「ボキリだと! ぐはー! やばい! 俺の腕が折れたかもしれない!」
臭い演技というな!
必死にやってこの演技なんだからな。
俺は全力で見せ場を作った。
さてと、この辺りで俺の逆転劇を見せてやるか!
と、俺が演技のプランを考えていると、何者かが部屋に飛び込んできた。
「なにを遊んでるんだ? トドロキ」
そこには串焼きを食いまくって俺を借金地獄へと突き落そうとした幼女トリアが立っていた。
「お腹空いた、なんかくれ」
「今はそれどころじゃねーんだよ」
演技中だからな。
するとトリアはなんどか頷いた。
「わかった、その敵を倒せばいいんだな」
トリアは飛び蹴りを放つと俺の目の前のスケルトンは吹っ飛び壁に叩きつけられてバラバラを通り越してカルシウムの粉末となった。
そして俺の後ろに回るともう一匹のスケルトンの棍棒攻撃を受け止めると棍棒を掴んで取り上げ、スケルトンの脳天に強烈な一撃をお見舞いした。
スケルトンはまたまたカルシウムの粉末と化す。
なにこの幼女、つえぇぇ!
幼女は俺が必死に作った見せ場を一瞬で全部持っていきやがった。
トリアは呆れたように俺を見つめる。
「トドロキはこんな敵に苦戦していたのか?」
棍棒を後ろに放り投げドヤ顔で俺を見下すトリア。
結構むかついたがあれは演技で苦戦していただけだ。
俺は今までの苦労を無駄にしないためにも、ここで演技を止めずにさらに続けた。
「ありがとう。トリアが助けに来てくれなければ俺は今頃死んでたところだ」
「うむ、感謝するがよい」
うんうんと、一人頷くトリア。
そして俺を見つめる。
「トドロキの身体も心もお財布も私のものだからな。私に守ってもらったことに感謝の気持ちがあるのならば、もっと私に施してもいいんだぞ」
やたら上から目線の幼女であった。
俺がカルシウムの粉の中からスケルトンの魔石を拾っていると、トリアが俺の袖を引っ張る。
「という事で、トドロキ! お宝を手に入れに行くぞ」
「お宝?」
「今のはこのダンジョンのボスなんだろ?」
「たぶん」
「じゃあ、ボスを倒したんだからどこかにある筈の宝箱を開けに行かないとな」
ということでダンジョンを探し回るけど、どこにも宝箱は見つからない。
トリアは首を傾げている。
「ないなー」
「宝箱って必ずある物なのか?」
「ボスを倒したならどこかにあるはずなんだけどな。おかしいな」
奥の部屋で変な物を見つけた。
壁に埋まってるボタンだ。
なんでこんなとこにボタンが?
「これはなんだろう?」
「きっとお宝部屋への扉を開くボタンだ」
まるで『絶対に押すなよ!』と言って自己主張をしてくるかの存在感あるボタン。
俺がポチっとボタンを押すと「ズゴゴゴ!」と音を立てて壁が上がり隠し部屋が現れた。
するとその部屋には100匹どころじゃ済まないスケルトンや見たことのない敵が待ち構えていた。
慌ててもう一度ボタンを押す俺。
すぐに壁が降りて来て元通りに。
顔を見つめあう俺たち。
「今、なんか、とんでもない数の敵がいたぞ」
「いたな」
「さすがにあの中に飛び込む勇気は無いぞ」
あんな中に飛び込んだら、ハロウィンで陽キャでごった返す渋谷のスクランブル交差点に飛び込むようなもの。
間違いなくボコボコにされて死んでしまう。
「あの数の敵はお腹が空いている今の私では無理だ」
幼女は不満そうだ。
「でもあの先に間違いなくお宝の匂いがしたんだけどな。死ぬ気で行くか?」
「あんな数の大群のスケルトン、倒せるわけがないだろ」
「倒せる!」
「いや、無理だ!」
本当に死にに行くことになる。
二人で押し問答を暫くするが結論は出なかった。
トリアのお腹がグーッとなる。
「お腹空いた……」
「昼にあれだけ食ったのにもうお腹空いたのか?」
「あれだけじゃない、あれしかだ」
「じゃあ飯食いに行くか?」
「いくいく!」
俺たちはダンジョンを後にすることにした。
ダンジョンの未踏破エリアの発見が偉業と言っていいレベルの大発見になったのを知らずに……。




