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面接

 俺は今にも雨が降り出しそうな曇り空の中、新宿にある天をも貫くような高層ビルにあるオフィスに再就職の面接に来ていた。

 しかもただの面接ではない。

 運よく辿り着いた最終面接だ。

 書類審査を通り、一次筆記試験を受け二次筆記試験も通過したあとの最後の面接である。

 ここさえ通過すれば正社員としての道が待っている。


 なんとしても試験を通過せねば!


 気合を入れた俺は面接室に入る。

 面接官はエリートサラリーマンのような人が一人。

 眼鏡を掛けた几帳面そうな人事部の面接官が手にした書類に目を落としながら俺に話し掛けてきた。


「お名前はトドロキ祐介ユウスケさんですね」

「はい、轟です」


 面接官は俺の出した職務経歴書に目を通しているようだ。

 書類を見終えた面接官が俺に視線を向ける。


「前のご職業は警備のアルバイトで間違いありませんか?」


 前職を聞かれたか。

 並以下の大学を卒業して入ったのは残業と休日出勤の上限なしの飲食チェーン店で、そこを3か月で辞めた俺に誇れるような経歴はなにもない。

 ここ何年もバイトしかしてない俺に面接官に誇れるような職歴も技術は無い。

 だが、ここで圧されたら終わりだ。

 無職である俺は正社員になり、この不安定なバイト暮らしからなんとしても抜け出してやる!


 全ては自信だ!

 職歴にならないような仕事も自信満々に語れば実績になる。

 俺は胸を張り面接官の問いに答えた。


「はい! 世界的なスポーツ大会の検温係をしていました。大会も終わり契約が満了となったのでこの経験を是非とも御社で生かしたく、応募しました」

「なるほど、それで当社に応募したのですね。でも検温係ですと当社で生かせる経験は無いと思いますが……」


 >面接官の突っ込み。

 >トドロキはダメージを30食らった。

 >残りHPは5。今にも死にそうだ。


 ぐはっ!

 ド直球のダメ出しかよ!

 フリーターに社員登用の夢を見せておいて、ぬか喜びをさせるだけさせてここにきてお断りするプレイなのか?

 面接官の直球ドストレートなパンチが俺の心を殴りつけ心臓がキリキリと痛む。

 さすがにそれは鬼畜の所業。

 前職を理由に落とすなら履歴書を見た時点で落とせよ。

 俺が絶望していると俺へのダメ出しは無かったかのように試験官は話を進めた。


 >面接官の攻撃。

 >面接官は新たな呪文を唱えた。


「ところで実況者という職種についてどの程度の知識を持っていますか?」


 実況者?

 この試験官は何を突然言い出すんだ?

 実況者ってあれだろ?

 動画サイトの生放送とかでゲームをプレイしながら雑談するやつ。

 知っているけどなんで面接で突然実況者なんて聞いてくるんだ?

 意味が分からない。


 だがそんなことを思っていても面接官に悟られた時点で俺の正社員登用の夢が終わる。

 俺は食らいつくように答えた。


「ゲームの実況者なら知っています。ゲームをプレイしながら感想を述べる仕事ですよね?」

「まあ、そんな感じの仕事です。まあ簡単に言ってしまえば役者というかコメディアンですね」

「役者なら小学校の学芸会の時に経験があります」

「役者と言っても小学校の学芸会の演技では……」


 >面接官の攻撃。

 >面接官はスキル『威圧』を使った。

 >トドロキは目が眩んで倒れそうだ。


 ぐはっ! 面接官のゴミ屑を見つめるような目が痛い。

 だよな。

 言ってて俺も無理があり過ぎると思った。

 おまけに経験と言っても実際に役者をしていた訳ではなく学芸会で照明係兼村人で出演したぐらいで、実質素人と変りない。

 面接官もそれを見抜いているんだろう。

 だが、ここで引いたら負けだ。

 この面接を落ちたら他に社員登用なんて言う好条件の就職先のあてなんて有るわけないし、ここで仕事を決めないと来月の家賃も払えない。

 俺はグイグイと面接官の懐に攻め込む。


「どうです? 轟さん」


 >面接官の攻撃、面接官はダメ出しの呪文を使った。

 >だがトドロキには効いていない。

 >必死過ぎて面接官の呪文を聞いていないようだ。

 >トドロキは『威圧』を無効化した。

 >カウンター! トドロキは『屁理屈』を唱える。


「求人票に経験者優遇、ただしやる気があれば未経験でも可と書いてありましたよね? 経験は無いかもしれませんがやる気だけは人一倍持っている自信があります!」

「ものすごいやる気ですね」


 >面接官はトドロキの勢いに威圧されてしまった。


「やる気だけは他の人に負けません!」

「では、今すぐに仕事を始めろと言われたら出来ますか?」

「もちろん出来ます!」

「ほう。凄いやる気ですね」


 俺はソファーの上で土下座をする。


「お願いします! ここで落ちたら仕事が無くて路頭に迷います。頑張りますので是非とも採用をお願いします!」


 >トドロキは『威圧効果』上昇のスキルを使う。

 >面接官はドン引きを通り越して魅了された!


 俺の必死な願いが届いたのか面接官は笑顔を見せた。


「まあ、いいでしょう。面白そうな人なので採用することにしましょう」

「あ、ありがとうございます!」


 トドロキはクエスト『最終面接』をクリアした!

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