「小さなリズム」
詩の様な、物語となっています。
小さなリズム。
君が機嫌が良い時に、君自身から聴こえる、小さな小さな音楽とそのリズム。
それは時に軽快で、時に物悲しく、時に狂おしいほどの愛に溢れていて。
僕はそのリズムと音楽を聴く度に、嬉しくなったり、哀しくなったり、赤くなったりしてしまうんだ。
君は僕が不思議に思う程、リズムに満ち溢れている人だった。
君は、僕が君のリズムと音楽を聴いていることは、恐らくは知らないだろう。
だって、それは、僕が君を常に見ているから。
ストーカー?
いや、それは断じてない……と思う。
今日も聴こえる小さなリズムと小さな音楽。
君は今日も機嫌が良いらしい。
だから僕も安心して見ていられる。
今日も、一日が穏やかに何事もなく過ぎてゆく……。
ある日。
君から聴いたことも無いリズムと音楽が聴こえた。
僕が不安に思ってハラハラと見つめていると、普段目の合う事すら無かった君と、初めて目が合った。
胸が高鳴った。
そして僕はおろおろと周りを見て、視線を泳がせてしまった。
間違いない。
君は僕を見ている。
君がつかつかと近寄って来る。
真っ直ぐに、僕だけを見て。
僕の心臓のリズムの方がひどく早くドッドッドッ、とその音を刻む。
「見つけた」
「見つけた?」
君の放った一言に、僕の声は裏返ってしまった。
そんな僕にお構いなしに君は言う。
「優しいリズムと音楽の源」
僕が訳が分からずに、ポカーンとしていると君は「やれやれ」と云う風に首を振って、席に座るよう促した。
ここは学校で、丁度今はお昼休みだった。
賑やかな教室内で、誰も僕たちには注目していなかった。
僕は自分の席に座る。
君は、僕の前の席に座り横を向いたまま語りだした。
ある時から、優しい音楽とリズムが聴こえ始めた、と。
ずっと学校のクラス内でその音をを辿ろうとしていた、と。
だけど、いつも音楽とリズムは優しく流れるばかりで、特定できなかったらしい。
そして昨日。帰り道の通学路で迷子の女の子を助ける僕を見つけた時、はっきり分かったそうだ。
音楽の源だ、と。
ああ、見ていたんだ、気付かなかったと僕は思った。
昨日、帰り道の通学路で泣いている三歳くらいの女の子に、偶然出会った。
困って泣いていた女の子を一生懸命励まして、母親の居場所を聞き出し送り届けたのだった。
大変だった。
小さな女の子に色々聞くのがあれ程大変だったとは。
と、僕が思い出していると。
いつの間に僕を見ていたのだろう、君は僕と目が合うと、不貞腐れたようにそっぽを向いた。
「○○くんは、そうやってボーっとしているから気付かなかった」
「うん」
「○○君のおかげで、私、いつも安心していられた。優しい音色が流れていた間はいつも楽しく過ごせた」
「うん」
「ほら、そういう所」
ピッと君は僕を見て指を指す。
「え?」
僕は驚いて聞き返す。
「今、すっごく小さなリズムでヒーリングの音楽流れてた」
胸に手を当ててみるが、僕の心臓のリズムが少し早く聞こえるだけだ。
「○○くんのその小さなリズムのおかげで私、気付いたの」
君は、少し黙った後、思い切った様に言った。
「この音楽の人とずっと一緒に居たい」
真っ直ぐな瞳が僕を射抜いた。
「一緒に音楽作ろうよ。奏でてみよう」
僕は口下手だから、真っ赤になってその返事として頷いたのだった。
君と僕の小さなリズムの音楽は、こうして一つに合わさった。
……時々、あなたの近くで不思議な小さなリズムと音楽が聴こえたのなら、彼と彼女が近くに居たのかもしれませんね。
~Fin~
これが、純文学か。
と自問しましたが、そこまで恋愛色強めじゃないしな~と思いこのジャンルにしました。
違うと思った方、ご指摘よろしくお願いします。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。