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両刃の悲しみ  作者: ひふみん
1/7

序章

新作です!

ただ、実はこちらは大学時代に書き上げた長編小説になります。

そちらを、週一くらいのペースでアップしていこうと思います!

前作、「海に向かって」とは世界観も雰囲気も設定も何もかもが違います。

ジャンルとしては、いわゆる「伝記物」といわれるものになります。

前作を読んで頂いた方は、こういうジャンルも書くんだという感じで読んで頂ければ幸いです☆




それは、「在」るのに「無」いもの。



そんな「矛盾」だ。



だが、そんなことはなかった。



世界は矛盾で出来ていた。



世界に矛盾は溢れていた。



人々は、ただそれに気付いていないだけ。



ただ、それだけのことだった。



だが、私は違った。



違ってしまった。




世界は、矛盾で出来ていた。



それを知った時、私は思った。



矛盾で出来た世界の中で。



ここに居る私は、




――「在」るのか――



――「無」いのか――


⚫︎⚫︎⚫︎



 とても静かな夜だった。


 窓から見上げた空に見えるのは、真っ白な一つの月。星の瞬きもない真っ黒な夜空には、ただ一つ、その月だけが輝きを放っていた。地上に降り落ちる光は、ただ暗闇に埋もれるだけの地上をぼんやりと照らし出していた。


 その輝きは見惚れるほどに美しく、そしてなぜだか、背筋がスッと寒くなるように空恐ろしかった。


 こんな感想を抱いたのは、今日が初めてだ。あまりに日常の中で当たり前となっている月の存在に対して、改めて「美しい」という感想を抱くなんて、我ながらどうしてそんなことを考えたのか、よく分からなかった。


 ただ私は、今見ているこの月を単純に美しいと感じ、なぜだか今、通い慣れた教室に来ていた。


 私は、窓際の一番前の席に座っていた。ここは、私の席で、ここからは外の風景が良く見える。


 何処からか、音が聞こえてきた。


 まだ音は遠く、聴こえてくる音も微かだ。一体、何の音かもよく聞き取れないが、その音は廊下の方から聴こえてくる。


 音は、段々とボリュームを上げて、少しずつこちらに近付いてくる。


 タン、タン、タン、と一定のリズムで刻まれるその音は、どうやら足音のようだ。


 足音は、急ぐ様子も焦る様子もなく、ただ淡々とこの空間に刻まれていた。静寂を壊さない、その静謐な足音は、ゆっくりとだが、確実にこちらに近付いてきていた。


 少しずつ、少しずつ、、


 音は、大きくなっていく。


 そして、私の居るこの教室の前で音は止まった。


 足音の残響も消え去り、純粋な静寂が広がる。それは、じわりじわりと教室の中を侵食し、あっという間に教室は静寂で包まれた。


 それから、果たしてどれだけの時間が流れたのか、もしくは大して流れてはいなかったのか。


 そんな長い静寂の後で、


「……」


 私は確かに、誰かの静かな溜め息を聞いた。


 ガラガラガラと、引き戸を開ける音が響いた。


 その音には、一切の乱暴さや乱雑さがなかった。


 一瞬の沈黙の後、誰かが教室に入ってきた。


 タン、タン、タン、と先程の足音が再び刻まれた。その音は、確実に私に向かって近付いてきている。だが、やはり、今日はよく分からないことが多い。


 足音は、廊下を歩く時と全く変わらないリズムでその音を刻んでいた。


 その足音の主に、私は心当たりがない。そちらに顔を向ければ、「あぁ、あなたか」となるのかもしれないが、正直わざわざそんなことをする気が起こらない。


――なぜか、今見上げている月から、眼を放したくはなかった。


 音は、止まる様子もなくこちらに近付いてきていた。


 だから、私は顔を向ける代わりに言葉を向けた。


「誰?」


 足音が、止まった。


 そして、静寂。


 返答は、なかった。


 いつまでも返ってくることのない返答に、私はその沈黙こそ答えだと察した。


「なんだ…」


 そして、ほっと息をつく。


「私だけじゃなかったんだ」


 どうして、そんな呟きが漏れたのか。


 そして、


「今日はさ、月がとっても綺麗だね…」


 私は、そんな感想を洩らしていた。


 そう言えば、おそらくこの足音の主は答えてくれるだろうと、なぜかそんな気がしていた。


 しかし、その後に聴こえたのは、


 静寂を切り裂く、シュッという鋭い音だった。




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