3
久々の投稿です。
「おい。このガキを殺されたくなきゃ、静かにしろ」
「ラ、ラインハルト…」
シャルロッテの首元にナイフを当てながら言う男と涙目でこちらを見るシャルロッテ。
何でこうなった?
●●●
事の始まりは姉 シャルロッテの一言だった。
「ねえ、ラインハルト。向こうに秘密の部屋を見つけたの!一緒に行きましょう!」
「はい?」
秘密の部屋?そんな部屋はその庭に無かったはずだけど?
現在、私達が居るのは北の塔の近くにある北の庭園に来ている。シャルロッテとの邂逅から数年が経ち、私は無事に…と言うか風邪一つひくこと無く、元気に育った。3歳の時に父様から貰ったペンダント型魔道具のお陰で今まで使っていた部屋からも出れるようになり、改めて外の世界を知った。流石に与えられていた部屋が北の塔で一番狭い部屋だと知った時は、驚愕を通り越して『王族ってスゲー』という感想しか出なかった。
閑話休題
王城にある4つの庭園は、兵士や護衛が私達王族を守りやすいように造られている。その為、シャルロッテの言うような秘密の部屋などは存在しない。そもそも、此処に来る前には兵士達が危険が無いか確認しているはずだから、そんな部屋が見つかれば大騒ぎになる筈だ。
……何かある。
私の直感…第六感、と言うべきか?兎に角、私の直感が『危険、行くな!』と告げている。
今にして思えば、前世の頃から私の感は鋭かった。友達からは『最早、未来視レベル!』と言われたほどだった。友達と遊びに行った時に私が『このバスには乗るな』と言ったバスは交通事故を起こしたし、旅行先で『此処には行くな』と言った場所は次の日に局地的な地震に襲われたりした。
如何するべきか…。
「ラインハルト?如何したの?」
「…お姉様、探検するなら準備が必要だと僕は思います!荷物を纏めませんか?」
「そうね!お母様も『何事も準備が必要』って言ってたものね!でも、何が必要かしら?」
「(多分それ、そういう意味で言ったんじゃないと思う)お菓子や水筒が必要なんじゃないかな?」
「ジェマに頼んでくるわね!」
「あ、お姉様!?は、半刻(三十間)後に此処で集まろう!」
「分かったわ!」
お付きの侍女の所に走って行くシャルロッテ。さて、私も出来る事をやろうかな。
●●●
「遅いな…」
もう10分も遅れてる。まあ、シャルロッテは子供だし、遅れても仕方ないか。持ってきた本でも読んで時間を潰そう。
「『ナヴァール王家と四聖獣について』か…。面白そうだから持ってきたけど、結構難しい本なのか?」
この世界を知るには、こういう本を読んだ方が情報が手に入る。そう思ったし、実際に手に入りやすいからな。さて、読むか!
~三十分後~
「……ふぅ」
最後のページを読んで、パタンと閉じる。中々に濃ゆい内容の本だった。今の私じゃあ半分位しか理解出来なかった。
「この本は多分、高校生か大学生が読む本だな」
でも、この本の内容は面白かった。特に初代王 ハルト・ナヴァールが転生者だったという事が知れたのは大きな収穫だ。
「って、シャルロッテ?何時の間に来てたんだ?おい、おい、シャルロッテ。…寝てる」
探検(?)はどうするんだよ。と思っていたら、ちょうど目を覚ましたらしい。今は…二刻半(二時半)ぐらいか?三刻からは勉強の時間だし、早めに行動した方が良さそうだ。
「ふぁ…。おはよう、ラインハルト」
「おはよう、お姉様。よく眠れたみたいだね。そろそろ秘密の部屋とやらに行かない?」
「…あああ!そうだったわ!早く行きましょう!ラインハルト!」
「あ、待ってよ!お姉様!」
走り出したシャルロッテの後を慌てて、付いて行くラインハルト。
この姿を最後に、二人は3日間行方知れずとなるのだった。
●●●
で、冒頭に戻る訳だが、誰だ?此奴?何で城内に入れてるんだ?……まさか!?
「おい!言っておくが此処は城の中じゃねぇし、助けを呼んでも誰もこねぇぜ」
「っ」
やっぱり、あれは抜け穴か!巧妙に隠されてあるからその気になって探さないと見つからない様になっていたわけだ。……此処は大人しくした方が良さそうだ。
「分かった、そちらの指示に従う。だから、お姉…シャルからナイフを放してくれ。怪我をしてしまう」
「聞き分けが良いじゃねぇか。ちょっと待て――よし、『動くな』」
「ッ!?」
シンプルな作りの首輪を付けられたと思ったら、体が動かなくなった!?これは……隷属の首輪、か?だとしたら、不味い!逆らえなくなる!
「こっちもよし。おい、『付いて来い』」
勝手に体が動く。やっぱり、隷属の首輪だ。でも、こういった類の物は悪用されない様に厳しく取り締まられているはず。となると、此奴は(当たり前だが)裏の人間。私を狙った風には見えないけど、可能性があるから貴族と繋がっているかもしれないな。
暫く暗い通路(?)を歩いていると光が見えてきた。通路を抜けると古い建物の中に繋がっていた。……これは協会か?とすると、あれは隠し通路、か?男が外に出るから(強制的に)付いて行くと馬車が止まっていた。家紋が付いてるけど、少し全体が汚れている。家紋の部分は特に汚れているから一見、何も無いように見える。
「おい、『乗れ』」
「(命令されなくったって乗るっつーの。)シャル、手を」
「う、うん」
足場は着いてるけど、エスコートは必要だ。シャルが乗ってから、私も乗る。今一瞬、城が見えたな。此処からそんなに離れていないらしい。男も乗って馬車が動き始めた。窓は…駄目だ。カーテンを閉められて外の様子が見れない。仕方ない、この男を観察するか。情報大事。
見た目はスキンヘッドの頭に左眼に眼帯を着けていて、眼帯の下に薄っすら縦線が見える。ぶっちゃけ強面。だけど、理系?と思う眼差しをしているから頭は悪くないと思う。雰囲気もそこらのチンピラやゴロツキと違う。そして、何よりも………滲み出る良い人オーラがなぁ。
家族を人質に貴族から脅されているとか、病気の娘の薬代の為に悪事に手を染めたとか、そんな感じのテンプレを感じる…!
シャルロッテは…怯えているか。当たり前だよな、いきなりこんな事になれば誰だって怯える。あ、でも顔色が悪すぎるな。
てか私、よくこんな状況で落ち着いてられるよなー。自分でもビックリだよ。何と言うか、自分の事って感じがしないんだよなー。……ちょっとヤバいかもしれない。
「……お前、テメェが攫われてるって時に随分と冷静だな?」
「(話しかけられた!?)…そうですか?僕は昔から感情が表に出ないと言われてるので、そのせいかもしれませんね」
「今だって、正確な受け答えしてるじゃねぇか」
「……」
そんなこと言われても。私だって同じ感想を持ったわ!
しかしこの人、本当に悪人か?いや、こんな状況になってるから悪人なのは間違いないけど!
『ライ、逃げないの?手伝うよ?』
『逃げないよ、シル。二度ある事は三度あるって言葉があるんだ。同じことが起きない様に下っ端じゃなくて、上を捕まえる。…そんな事より、城はどうなってる?』
『大騒ぎになってるってシンが言ってる!』
『なってくれなきゃ困るよ。折を見て、例の手紙を僕の部屋に置いてね。スー達が見つけやすい様に、だよ?』
『はーい!』
この子達は私の契約精霊。名前はシルとシン。風の精で姿は子供。背中に薄い翅がある。ザ・シルフってっ感じだ。全体的に緑で、その色が好きなんだそうだ。
そんなことをぼんやりと考えていると、いきなり馬車が急停車し、私は前のめりになった。
「きゃ」
「っと、大丈夫?シャル?」
「ありがとう、ライ『着いたみたいだね』う、うん」
「ほら、とっとと『降りろ』」
移動時間は体感では十分位か?馬車を雑な止め方するから、シャルロッテが怪我をするところだった。まったく。で、此処が目的の場所か。建物は古ぼけた洋館だな。窓も割れてるし、木が腐っている所もある。庭も手入れがされて無いから、雑草だらけで蔦が伸び切っている。『呪いの館』って言葉が御似合いだな。
「こっちだ、早く『来い』」
そうして付いて行くと…1つの部屋に着いた。その部屋は…はっきり言って最悪。隙間風が酷く、天井は雨漏りの後か、腐っている。ベットと椅子、机が用意されているが、それよりも床が抜けないかが心配だ。
「死にたくなきゃ『この部屋から出るな』よ。飯は朝と夜の2回だ。安心しろ、この部屋には誰も近づかねぇように言ってある。見張りは居るがな」
そう言うと男は出て行った。しっかりと外から鍵を閉めて。出るなって命令されたからこの部屋からは出れないけど、やれることは色々ある。あの男は暫くここには来ない。見張りが何処に居るか分からないけど、近くではない事は気配で分かる。
さて、下準備を始めますか!
早々に厄介事に巻き込まれたラインハルトとシャルロッテ。無事に帰る事は出来るんでしょうか?