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前回の投稿からかなり空きましたが……どうぞ!
「ラインハルト。本当はあなたを外に連れ出してあげたいのだけれど、それをすることが出来ない弱い母を許してね。せめて、せめて私と同じ茶目であったならどんなに良かったことか。……今、あなたを表舞台に出せば必ず『あなたを王に』と担ぎ上げる者たちが出てくる。それだけは防がなくてはいけない。このナヴァール王国にはもうアルベールと言う立派な王太子が居るのだから…!!」
「あう!(本当にその通りですね!)」
とこの人が母親のローゼマリーさん。この人、この半年間ずっと同じようなことを延々と私に聞かせてくる。……途中から愚痴に変わる事の方が多いけれど。多分、外で私に会わせろって貴族が多いのだろう。
ローゼマリーさんは長い銀髪に目がパッチリと大きいツリ目……所謂猫目の茶色の瞳を持つ美人、と言うより美少女の方が合っている人だ。
ローゼマリーさんは見た目が年齢と合っていない。今年で28歳と言うのに、見た目は17、18歳ぐらいなのだ。実はエルフなのでは?と私は思っているが、祖母も祖父も人間だそうです。
「私はこれからお茶会があるから、ラインハルトはマリアンナの言うことを聞いていい子にしててね?」
「あ~う、あい!」
「ふふ、いい子ね。マリアンナ、ラインハルトの事をお願いね」
「はい。ラインハルト様の事は私に任せて下さい」
「じゃあ、行ってくるわねラインハルト」
「あいあう~」
名残惜しそうに出て行くローゼマリーさん。これから女同士の腹の探り合いがあるからか、行きたく無さげだ。
「それじゃあ、ラインハルト様。今日はナヴァール王家についてお話しますね」
「あい!」
とこんな風に、何時もこの世界の事を教えてくれるのだ。今日はナヴァール王家についてか。
「まずは国王と王妃について説明しますね。現在のナヴァール王家は、王であるクリストフ様と正妃である第一王妃カミーユ様、第二王妃のアデル様、第三王妃のクリスティナ様、そしてラインハルト様の御母上である第四王妃のローゼマリー様の5人です」
「あうあ~」
私のお父さんであるクリストフさんには嫁が4人いるのか。ハーレム?ハーレムか?
「次にラインハルト様の御兄弟について説明しますね。カミーユ様の御子で王太子のアルベール様と第一王女のアリーナ様、御二人は双子です。アデル様の御子で第三王子と第四王子のマクシ様とイワン様、御二人も双子ですよ。クリスティナ様の御子で第二王子のユーゴ様と第五王子のジュリアン様、ローゼマリー様の御子で第二王女のシャルロッテ様とラインハルト様の8人兄弟です」
「あう?」
えっとつまり…
王 クリストフ様
正妃 第一王妃 カミーユ様
第二王妃 アデル様
第三王妃 クリスティナ様
第四王妃 ローゼマリー様
カミーユ様の子
王太子 アルベール様
第一王女 アリーナ様 双子
アデル様の子
第三王子 マクシ様
第四王子 イワン様 双子
クリスティナ様の子
第二王子のユーゴ様
第五王子のジュリアン様
ローゼマリー様の子
第二王女のシャルロッテ様
第六王子のラインハルト(私)
ってことか?多いな~兄妹。てか、末っ子かい!
「ラインハルト様は末の子ですよ。…本当ならシャルロッテ様との顔合わせを行っても良い頃なのですが、今行うとちょっとした問題が起こりそうなので顔合わせはもう少し待ってくださいね」
「あい!」
しかし、お姉ちゃんか。前世では兄しかいなかったから会ってみたいけど、騒動の種にはなりたくないから我慢我慢。それに、3、4歳位になれば会えるだろうしな。
……この時の私は、子供の行動力を侮っていた。
●●●
「あうあうあ~(暇だ~)」
今日もローゼマリーさんはお茶会だし、マリアンナさんは仕事中。玩具はあるけど、遊び気にならないし。あ、そう言えば、この世界には魔法があるってマリアンナさんが言ってたっけ。確か、イメージが必要なんだっけ?ああ、でも使い方?知らんわ。あー暇だー。暇すぎて幼女の幻覚が見えてきたわー。……幼女?
「ねえ!君がラインハルト?私はシャルロッテよ。ラインハルトのお姉ちゃんよ!」
「あうあ!?(お姉ちゃん!?)」
マジですかい!?何で此処にいるの!?
……覚えているだろうか?現在の私は(ほぼ)軟禁状態にあると。それは私の目が原因であり、その為この部屋に来る人も制限されている事を。
…なのに何で此処にいるのですかねぇ!?お姉様!!
「あうあー!ギャァピーヤーー!!(マリア―!マリアンナさんーー!!)」
「あ、駄目!静かにしてて!ラインハルト!」
「ムギュウ…」
思いっきり声を上げたら、口を塞がれてしまった。でも、直ぐにマリアンナさんが来るだろう。今までこんなに大声で泣いたことが無いから、不安だが聞こえる筈だ。
「ねえ、ラインハルトは外に出たことが無いってクランシーから聞いたの!だから、お姉ちゃんがラインハルトに外を見せてあげる!」
ん?待て待てお姉様。それって外に連れ出すって事だよね?止めて?今出たら騒動になるから止めて?てか、クランシーって誰?
「どうしました!?ラインハルトさ、ま?」
「あ」
扉を突き破るかの勢いで入って来たマリアンナさん。息が乱れてるから走って来たんだろうな。お姉様を見て唖然としてるよ。対してお姉様は吃驚したのか、目を見開いて硬直している。
「…何故、此処にいらっしゃるのですか?シャルロッテ様」
「えっと、それは……」
「此処には、北の塔には近づかない様にとローゼマリー様から言われていた筈ですよね?」
「どうしてよ!?私はラインハルトのお姉ちゃんなのよ!?なのにどうして、ラインハルトに会っちゃいけないの!?ユーゴお兄様はジュリアンにすぐに会えたって言ってたのに!!」
……成程。つまり、弟か妹が出来ると知って楽しみにしてたのに、生まれても会いに行くことも顔を見ることも出来なくて寂しかったって事か。マリアンナさんも複雑な顔をしてるよ。
まぁ、子供に後継者争いやら権力者争いやら言っても理解できないだろうし、お姉様って4~6歳位だろ?外に元気に遊びまわってる年齢だよ。
「ラインハルト様は御体が弱い可能性があるのです。なので、成長して御体が丈夫になるまでは外に出さず成長してから、とローゼマリー様から言われませんでしたか?」
え?私、病弱設定なのか?あ、でもそれなら表に出てこなくても疑問を持たれにくいか。
「…で、でも、クランシーが言ってたもの!ラインハルトがこの部屋に閉じ込めてるって!だから、私がラインハルトに会えないのはそのせいだって!!」
「!?」
……は?待て待て。今の言い方じゃ、まるで私が軟禁されているのを知っているみたいじゃないか。
マリアンナさんも同じ事を思ったのだろう、険しい顔をしている。
「……シャルロッテ様、クランシーとはケル・クランシー侯爵の事ですか?」
「?そうよ。クランシーがお母様がラインハルトに意地悪しているんだって言ってたの!」
「そうでしたか。(ケル・クランシー…彼は反王太子派。アルベール王太子殿下を嫌っている事も噂にある。……一体、何を考えているのかしら?)…ですが、それは彼の勘違いですよ。シャルロッテ様」
何か妙に間が開かなかったか?今。それにお姉様はまだ不服そうだし、どうするつもりだ?
「……本当でしたら、ラインハルト様が1歳の御誕生日の日に顔合わせをする手筈でしたが、これは仕方ありませんね。シャルロッテ様、次に来訪する際はローゼマリー様とご一緒に来て下さいね」
「!…いいの?」
「はい。ローゼマリー様には私から説明しておきますから、次からは普通に来訪してください」
「分かった!ラインハルト、また遊びに来るからね!バイバイ!」
「またの御来訪をお待ちしております」
「あ~う」
何か、元気いっぱいなお姉様だったな。まあ、子供だから当たり前か。
こうして、姉 シャルロッテとの邂逅は最後までドタバタな感じで終わった。そして、不穏な空気と思惑を残しつつ、私はすくすくと育ち――
――姉 シャルロッテとの邂逅から数年が過ぎたある日、それは起こった。
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