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第一部 麗side② 牢屋

 目を開くと、薄暗いグレーのコンクリートが目に映る。体を起こすと右手に格子が見える。え、何何何。頭の整理が追いつかず、夢の可能性もあるので、足をつねってみる。

「おい、お前。今から俺の質問に答えろ。答えないと痛いことするぞ。」

 格子の外側に座っている人間が、タイミングを見計らってか、声をかけてくる。紺色のようなセンター分けの髪に、真っ黒いコート。その中からは中世を連想させるフリフリの白シャツが見えている。こわー大魔王みたーい。

 言葉を返すタイミングを失っちゃったわ。よく分からないけど、ここは牢屋で俺は今から尋問をされるのかな。怖いような怖くないような。

「お前らの目的は何だ。何故俺らの国に攻め続ける。」

 はい?ヤバい。意味がわからない。

 俺がポカンと見上げているのをみかねて、あちらが言葉を続ける。

「絶対に口を割らないというのか?それとも、何も知らないっていうのか。勇者とまで呼ばれる兵士なんだろう?なあ、レン・サカキ?」

「はあ?」

 ……あー。重たく閉ざされていた俺の口は、開口一番ありえないほど態度の悪い言葉を発してしまった。え、処刑とかされたらどうしよう。

 あっちも思わぬこちらの態度に唖然としている。あー、これどうしようかな。下手な事はしないほうがいいとは思うけど、なんか調子狂うんだよな。

 喋り方が幼いというかなんというか。

 ここは、その“レン・サカキ”のフリをしててもいいんだけど、あまりにも状況が把握できていなくて、こちらが不利だ。ここは正直に吐くかな。

「すみません。僕はレン・サカキではありません。」

「あ"あ?」

 いや、そんな怪訝な顔すんなよ。

「あの、良ければ状況を説明していただけませんか。今の状況は身に覚えがなくて……」

「おい、俺が間違ったやつ召喚したってのか?」

「レン・サカキだってわんさかいるんだよ」

ん?今誰が喋った??

 アニメ声、しかも世間一般でいうイケボ?が聞こえてきて、改めて格子の向う側を見る。

この人が座っている椅子のあたりから声が聞こえてきたような……

「同名同姓の別人を召喚しちゃったんだよ、ケンタのおバカさん。」

 この声は、この人が座っている『何か』から聞こえてきてるような……

「バカはお前だよ、同姓同名だったらレン・サカキじゃないって言わないだろ?」

「確かに。」

 このちょっとエコーのかかったイケボが気になって、イマイチ話についていけなかったけど、一つわかったこと。俺、やっぱり召喚されたんだ。

「じゃあ綴りを間違えたとか?」

「その可能性は否めないな」

「ケンタ字汚いしねえ。」

 異世界かぁ。この感じ。なんか夢じゃなさそう。まあ夢オチでもいいけどね。

赤の他人の会話に混ざれずボケっと見上げている俺に気がついたのか、黒髪の人がこちらを見てすっと立ち上がった。

 この人結構背が高いな。俺も高1にしては高い方だと思うけど、頭1つ分くらい高いかも。その上黒く分厚いロングコートが、威圧感を出している。

 その時彼の座っていた椅子がよく見える。え、なんかシールみたいな目が付いてる。こいつがイケボの正体か、俺は立ち上がりながらよく見ておく。かわいい。

 ケンタさん?は金属の音を鳴らして、鍵を外した。そして、格子の一部が開く。

「聞いててわかったと思うが、俺の勘違いだったみたいだ。ごめんな。」

「いえいえ、お構いなく。」

 あっさりと信用してもらって、一安心だ。今だから言えるけど、ケンタさんは処刑にしたりしなそうだったもんね、何だかんだ生き残れる気はしてた。

 うん。最初の脅し文句もはったりだよね。

「本当にごめんな?そのお、許してくれるよなあ?お願い!許してえええええ!!

 うわっどうしたどうした!?情緒不安定?そんな格子を必死につかんで懇願されても!ケンタさんが捕まった人みたいじゃないか!

「そんなに泣きそうな顔しないでください!」

 それよりさ……よく見たらこの人、触覚みたいなの生えてる。いやあ、髪の毛と同じ黒ってか紺色だし……アホ毛?なんかあり得ない巻き方してるんですけど。

「マジですまん。そもそも俺召喚とかめったにしないから。」

「大丈夫ですよ。」

 触覚みたいに生えてさ、しかも顎のとこくらいまでさ、螺旋状に巻いてるぜ?縦ロールほどけた版みたいな?突っ込んでいいのかわからない。とっても変だ。

「安心しろ。すぐ元の場所に帰してやるからな。」

「はい。え?いいえ?違う、はい。」

 え。まって、うまくいったのは良かったけど、すんなり行き過ぎて拍子抜け。今から帰れるってこと?帰るってこと?すっげーモヤモヤするやつじゃない?後から今のは何だったんだ!って感覚に襲われるやつだよ!

 即座にケンタさんの黒いコートの袖の部分をつかむ。

 いや、動転しすぎだろ、俺。顔色をうかがうべく視線を上げると、ケンタさんと目が合う。

 ここは、腹をくくるしかないよな、今を逃したら、もう二度とここには残れない気がするから。人生一度きり、召喚一度きり。揺らいだ視線を相手へとしっかり向けなおす。

「あの、ケンタさん。少しだけここに残ってもいいですか?」

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