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第零話プロローグ



「とりあえず適当な依頼を受けてみたわけっすが……」


「出向く必要性が感じられないわよね。わざわざ危険犯すことも無いし、さくっとやっちゃってよ」


「そっすよね」


 受けた依頼は討伐依頼。それも種族的にかなり弱いゴブリンの討伐だ。

 本来であれば出現報告のあった場所、平原に出向き、ほぼ狩られるだけの存在であるゴブリンめがけて剣を振り下ろす。

 見てるこっちが泣けてくるくらいの悲しい程に弱い拳を避けたりしつつ。夜の洞窟などの場合はもっと強いのだが…。

 だがそれだけの話。ただ倒すだけの作業の様な依頼。しかしこの少女たちにとってはそれ以上にこの話が簡略化される。


「見えた?」


「あー……居ますね。射線は通りますし、多少ちっさいから草が邪魔なくらいっすかね」


「威嚇してみる?」


「だいじょぶっす」


 依頼を受けたギルドの向かいにある宿屋の三階。

 その三階の一室の、この街の門の外にある平原側の窓を開け放つ。


「脚立いらないの?」


「バイポッドの事脚立って言わないでほしいっすね。的が小さいし、多分動くんでー……固定してたら当てづらいかと。立ち撃ちで当てます」


「そんなんでよく当たるわね……」


「それだけが私の役割なんでー」


 窓の前に立つ少女が両手で構えるのは一丁の銃。スナイパーライフルと呼ばれる銃だ。

 カバーを開けて、しっかりとその重さを両手で支え、スコープを覗く。

 探さずとも既にど真ん中に標的が収まっている。

 とはいえ見えているのは草と草の間から見える赤いゴブリンの眼だけだ。


「あー…いたいた、五匹っすね」


「いくらくらいになるのかしらねー」


 雑談する間に、既に少女は引き金を引いている。

 発射される弾丸。それは放物線を描かない。五キロという距離を一直線にゴブリンへと飛んでいき、見事命中する。

 ゴブリンの額のど真ん中に穴が開き、血を吹き出しながら倒れていくのをきちんと確認する。


「ヘッドショット、一匹目」


 スコープの中では草むらががさがさと揺れ、緑の草の中で映える赤い眼が左右に右往左往と行きかっている。


「ツー」


 仲間の一体が不可思議な死に方をして動揺しているのか、左右に駆けずり回るゴブリンたちの、二匹目が同じように額を穿たれ、即死する。


「なんか大物一発じゃないとモチベ下がりますねこれ」


 狙う、と考えることも、集中することも無く。飽きた少女は残のゴブリンをたんたんと射殺する。

 何もわからないままに五匹のゴブリンが絶命した。悲しみに暮れる暇も無かっただろう。怒りを向ける対象すら解らなかっただろう。

 残されたのは家族の様に寄り添う死体。


 仕事を終えた少女はスコープから目を離して外の景色を見渡している。

 遠くに龍らしきモノが空を飛び交い。草原や山岳、池や沼などが広がるファンタジックな風景。


「本当に来ちゃったんすね……異世界」








 其の国……仮にA国と呼ぼう。

 A国は過去の戦争に負け牙を抜かれた。他の全ての国からの攻撃に対して対抗手段を持たず、ただただ蹂躙される日々。それは物理的政治的に問わず。


 だがそんなA国には特徴があった。それは他のどの国よりも長けている分野があるということ。

 いわゆる頭脳労働系統のものであり、腕力は他国の者よりも弱かったが、こと頭脳関係においてはその誰もが秀でていた。研究者ならば尚更に。

 科学、研究、資源、発想。それらを武器に長年ひっそりと研究を重ね、数々の兵器を産みだすことに成功。

 そんな時に隣国Bが着弾地点の設定を間違えミサイルを誤射。Bの隣国であるC国の首都に直撃した。

 突如勃発する二国家間の戦争に対し、A国は援助、傍観、そのどちらでもなく、漁夫の利を狙い打って出た。

 それも勝利し疲弊した片方を狙うのではなく、日々戦争により衰退していくBC両国家への同時攻撃を敢行。

 結果は圧勝。撤退は一度もなく、終始制圧戦。

 新型の兵器を主軸に安全圏からの一方的な攻撃。それはゲームの様な物で、身の安全を確保しながらにして敵を倒すという戦闘法に興奮し士気は上がりっぱなし、ついには数年という短期間で二国家の陥落に成功。両国はA国の属国となった。


 その後、A国はおごらなかった。

 BC二つもの国という、資源技術人員全てを手に入れたA国は更なる研究に邁進し、兵器開発、軍備拡大、あらゆる軍事面を発展させた。

 数十年後、天衣無縫の神聖要塞。国全てが兵器ではないかというほどに、鉄と血にまみれた何とも味気ない国になる。

 だがそれに民の不満はない。いくら鉄の塊と揶揄されようとも、身の安全の絶対なる保証。これに勝るものはないからだ。

 身を守れるという事は、身を守る強さがあるということ、それはつまりすべてに通じる。

 食料の確保、他国への発言力、交渉力、その全てがもはやパラメータを振り切っていた。


 しかしそれでも、とある科学者は完璧を追い求めるのが生きがいであるという。


 次に着手されたのは兵力だ。

 今まで何とかなっていたのは兵器の力。単純な兵力では負けている。

 一人一人の個体戦闘力や集団連携力なども数値化検討され、戦略プログラムだの、肉体改造指標だの、色々と考え出されたが最終的には薬物投与と遺伝子操作に落ち着いた。

 後から直したとて限界があるんだ。

 評価Eの個体を育てるより、評価Aの個体を育てた方が当然伸びしろもあるというもの。

 そして次はとうとう機械と人間の直結。機械化兵団の正式設立。適正有りと判断された兵士は次々に、時にはその脳の一部でさえ機械化され感情を制御される者までいた。


 だが、それから数年後。科学者たちに震撼が走る。


 一般市民の、何の遺伝子操作もされていないただの人間の親から生まれた子供が、驚くべき偉業を成し遂げたのだ。


 施設ひとつ丸々環境変数の演算に使用しての機械との狙撃勝負において、コンピュータがはじき出した限界必中可能距離をはるかに超えて百パーセントの狙撃をやってのけた少女。


 機械化兵との模擬戦において負傷無しで完封。その後クリアするたびに人数を増やし、最高1対100での機械化兵との実銃を用いた実戦形式の模擬戦を生身で楽にこなした少女。


 戦闘用AIを積んだ大中小全ての型の、狙撃&強襲ロボットの同時戦闘で、たった一人でその全てを戦闘続行不可にまで追い込み勝利した少女。


 ホイールさえも感知センサーを多数搭載した機械でできている走行用制御AIが運転する自動車とのカーレースで通常自動車を使用して勝利した少女。更には成功不可と七台ものコンピューターが計算結果を出した悪路の走破を三連続で達成した。


 そして最後に、他の少女より年が上で、既に前線に出て他国の抵抗勢力の殲滅。まだ威の届いていない国への奇襲や侵略戦など多くの戦場を経て不敗にして無傷の少女。



 それら五人の少女は特別な背景は何もない。ただ軍神に愛されたとしか説明のつかない存在。そんな彼女らを前にして、科学者が出した答えは、いかな技術も人の天性の才には敵わないということ。

 生身のままで驚異的な才能と戦果を誇る彼女らは同僚、そして同職者、さらにはその周辺関係者の中で瞬く間に伝説となっていき、それは一般市民の間にまで広まる。


 軍務に従事している彼女らが一般市民に知られる原因となったのは意外にもゲームである。

 仮想現実に潜り込む。ダイバーシミュレーション、DS型のゲームが流行り、もはやPAD型などの2次元ゲームやFPS等が廃れた時代。

 そのDS型ゲームの中の一つで一番人気を博しているゲームが、実際起こった戦争を自分の手で体験したり、結果を変えたり、もしくは全く新しい用意された戦場で敵を倒したりする、まぁやってることはFPSと変わらないのだが、それが実際にリアル体験でできることがとても注目されているもので。

 実際に自分は疲労はせず、痛みの程度も操作でき、体力はステータスバーに表示され、なくなると一定時間の行動制限がかかるなど、肉体の面倒な部分はゲーム性を残してそこに依存させ、体感や視点、感覚などの人間性が有利な部分はそこをダイバー型として取り入れたゲーム。

そのゲームは世界中で流行り、誰もが熱中していた。

 しかもそのゲームを大いに盛り上げているのは実在する兵士たちであり、素人がプロに勝ったり負けたりといった点でたまに開催されるコロシアムやトーナメント戦で大いに盛り上がるのだ。

 そしてそのゲームをやる者に共通の目標としてあるのが、とうとうゲーム発売二周年を記念して殿堂入りさせられたチーム「五色彩展」を倒すこと。


 そう。その五人の少女たちが一般市民の間にも、世界にも知れ渡る原因となったのがこのゲーム、AOW、オールオブウォーで無敗のチームとして名を轟かせたことからであった。




+




 そして現在、そんな彼女らが居るのは真っ白い空間。


「えっ……」


「なんですか此処は?何か、新型に巻き込まれた?」


「急に攻撃されて一瞬で死んだ…?死後?」


 困惑する彼女らの前に光の玉が突如現れ、その光がだんだんと人の形を象り、さらには白い羽の生えた女へと変わる。

 ワンピースの様な白いドレスを着て、少し床から浮いている。髪は金色に光り、その頭上には真っ白な輪っかが浮かび、柔和な笑みと、優し気な瞳を伴って少女らを見つめている。


「構えなくていいのぉ?」


「敵意を感じられません」


 敵意を感じられない、ただそれだけの事で未知の存在に対して無防備に地面に座ったままでいる五人の少女たちには、それだけの自信と力があるという事。


「まず……ここは死後ではありませんよ」


 そんな少女たちを見回して天使の様な女が口火を切る。


「そして、私は女神と呼ばれる存在で……貴方たちの元居た世界から、私の異世界へとこれから転生させたいと思っております」


 対して少女たちの反応は、携帯を弄る者、近況の雑談、きょろきょろとあたりを見回す者、と様々であまり話の内容やら女神の存在やらに興味を示してはいない様子。


「ええ、貴方たちの様な方ならばそういう反応をすると思っておりました……。私の世界には魔神という物が存在していて、悪魔や魔王側の存在ですね。この世界のバランスが私の力に直結しているのです。魔王達の手に世界が渡れば、私は力を失い、魔神に掌握されてしまう。それを阻止するために、私は異世界からあなた方のように武の才のある者を呼び寄せて、力を貸してもらっているのです」


 少女たちは思う。自分たちの世界の、究極に進んだ科学ですら伝説上の存在を確認できたりはしていない。それが居ないからなのか、追いついていないのかは解らなかったが、目の前に居るのは女神だという。それが言葉通りの女神ならば自分たちの科学では存在すら確認できない程の者という事だ。


「存在認知すら私たちの科学ではできていない、この異世界に対して私たちの力が通用するもんなのかしら?」


 「それについては心配いりません。分野の違いと考えて貰えば結構……。貴方たちの世界には神が居ません。なので他の異世界への干渉などはできませんが、その分とてつもない武力を誇っています」

 つまり、索敵ができるが武力が弱い、戦闘力はあるが感知はできていない、そんなことなのだろう。


「私たちはこの白い場所への転移?すら認識できてないのよぉ?なら貴方がマグマに私たちを転移させたとしたら抗う術がないじゃないのぉ?」


 この白い空間に移動させられたのは恐らく一瞬。それならばここがマグマだったなら既に自分たちは死んでいるではないかと。

 そのような事を行える存在が異世界に居たのなら自分たちでは叶う道理が無くはないだろうか。


「いえ、私が呼び寄せることができるのはここだけです。マグマの中などにいきなり移動させることもできませんし……仮に魔王が亜音速の攻撃をしてきたとして、それは元のあなた方の世界とて避けれないと死ぬのは変わりないでしょう?」


 女神やら魔王やらが居ても、理不尽な死を強いる力はないという事だ。


「どうしますか?」


 問うのは五人の中で最年長の少女。


「断る理由はないんすけど、受ける理由もないっすよね」


「それね!強いて言えば異世界での経験を積めるってこと?」


「AOWへのステージ提供とか、はかどったりすんじゃない?」


「まだ流行ってるころに帰れるのかしらねぇ?」


 こんなところへ何の了解もなしに連れてきた女神も自分勝手だが、自由気ままに話しだす彼女らを見てむしろ女神は胸が熱くなるほどに感動していた。


(これなら大丈夫。この人たちなら絶対に世界を救ってくれるはず…)


「ならちょっと行ってみるってことでいいん?」


 暫く話した末に、結局異世界での未知の経験は貴重という事で結論が出たのだ。


「それでは私の世界を救ってもらえるのですね!?」


 女神の笑顔が一段と輝く。目の前で手を組み懇願するその様はよっぽど、この少女たちに期待していることと、世界の事態を憂慮している事が伺える。


「そんなこと知らないけどぉ。魔王とか悪魔とかそういう存在にわたくしたちの力が通じるかなんて未検証だし。貴方が通じるとか言っても嘘かどうかも知れないでしょう? まぁ適当に過ごすわぁ」


 そんな返事を受けても女神の表情に曇りは無い。


「ええ、ええ。勿論ですとも。ですが私は信じています!必ずや悪の存在を打ち倒し、あなた方の世界と同じように貴方たちが伝説となる事を…!」


「大げさだなぁもう、女神さんはさ~」


「そ、それでは私の世界へ送りますね!ご武―――」


 別れを告げる前に速攻でブーイングが飛来した。


「――――え、馬鹿なんすか!?」

「ないわー、マジでないわー」

「うーん。異世界がゴミポンコツっていうのは本当かもしれないですね」


 非難轟々。ひそひそと陰口すら聞こえてくる始末。

 そんな少女五人に対して女神は困惑の声を漏らすしかできない。


「え、えっ…と…?なにか…」


 せめて一番優しそうで答えてくれそうな子を探そうと視線を動かしてみるも誰もやんわり教えてくれそうな子はいなかった。


「ばぁかねー。安全も確保されてない場所に行くのに何の準備も確認もなしで行くわけないでしょぉ?ほんと馬鹿なのねぇ…」


「きっと天然なんじゃないかしら?ほっとこ?」


「すみません、すみません……」

 ハッとした女神は急いで頭を下げて謝罪の言葉を口にしながら、準備ができるまでは邪魔をしないように部屋の隅で待って居ようとすごすごと背を向けるのだが…。


「ねぇ、あんたも会議やるのよ?」


「はぇ?」


 行くのは少女五人なのになぜ自分もそこの輪に加わる必要があるのかと首を傾げる女神。

 そんな女神をじっと見つめて動かない少女達。


「いや、ふぇえ?じゃねーっしょ。はよこいよ」


「あの、私は何をすれば……?」


 もしかすると手が出てくるかもしれないのでとりあえずおそるおそる一人分の空けられた空間にすぽりと収まり六人で輪っかを作った。


「やばい、なんかイラついてきたのだけどぉ?これから行く異世界とやらの情報を持ってるのは貴女だけなのよぉ?馬鹿ぁ?全部情報げろれっつってんのよぉ?」


「馬鹿に対処法はないっすよ。ずっと軍に居たから一定以上の知能の人としか話してなかったっすからね。こういうのも一般的には居るんだと思いますよ」


 馬鹿なら仕方ないか……と憐みの眼で見られてしまう女神。だがこちらはお願いする立場だし、確かに説明をしなかったのは事実。


「すみません、実はあの、もうそろそろ時間が……ここに女神以外の存在を留めておくのは結構力が必要でして……あ、もう…すみません!異世界側へ、世界をお願いします!」


 断られたのなら反対側へ振る予定だった魔力の杖を瞬時に取り出し、異世界側へと、女神の背後側へと振るう。

、烈火のごとく騒ぎ立てている少女達五人を、勝手に始まりの町と呼んでいる異世界の町の付近へと繋げた魔法陣で包み込み、光る魔法陣と共に五人は瞬きする間に姿を消した…。


「ご武運を……」


 こうして少女五人は異世界へ降り立った。


桃色のストレートの髪を肩甲骨辺りまで垂らし赤い瞳を持つ、白いマスクで口元を覆う低めの身長の少女、狙撃担当のシュガープリンス。


 金色のツインテールに碧眼。一番身長が小さいが突撃担当の強襲兵、ステラスカイハイ。


 黒髪短髪に黒い瞳、年も背も一番上の近接戦無双のナイフ遣い、アイヴィ・レア


 ロングストレートの茶色い髪に緑の瞳を持つ、格闘術の使い手、神美シェンメイ。


 波打つセミロングの銀髪に白い瞳の運転手、兼重兵器担当の、リーンエアハート。


 無事に女神の願いは果たせるのだろうか…。五人の旅は始まった。

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