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《始まりを告げる桜の風》

 俺の名は「柏木 千」。

 27歳男性、仕事は和菓子職人をしている。

 絶賛恋人募集中だ!


 さて、話に戻ろう、

 それは唐突に起こった。


 深夜、その日はとても満月が綺麗な夜のことだった。

 和菓子の研究のため、いつも通り誰もいない仕事場で和菓子の形を整えていた。




 今の季節は春。

 最近気温も穏やかで、とても心地良い風が吹いている日が続いていた。


 桜も満開。


 心も満開。


 皆、喜びでどことなく浮足立っているようだった。



 そんな訳で、ここ数日の季節や風を取り込んだ和菓子を作りたかったのである。

 恥ずかしい事に、この道に入って多少年月が経つも未だに見習い職人である。

 ということで、


 毎日深夜、誰もいない厨房での一人和菓子研究はほぼ日課とかしていた。

 ボールに張っておいた水に月が揺らめく。

 時折、聞こえる蛇口がら滴る水の音が心地良い。



「できた」



 そういって柏木 千の眼鏡の淵が光る

 和菓子を整え終え完成した和菓子を月あかりに照らした。




 さて、味の方はいかがなものか。。。

 そんなことを考えていると





 それは突然起こった。





 何の前ぶりもなく。





 窓の方からガタッと

 音がしたかと思うと


 たくさんの桜の花びらとともに

 つむじ風のような強い風が舞い込んできた。



 少し強い風だったので思わず目を瞑った


 うーん、とても暖かい良い風だ。。。



 実に完成に相応しい風だ。




 。。。





 。。。







 。。。いや、いや、これはやりすぎだろう。




 目を瞑っても感じるくらいに

 さっきから無数の桜の花びらが頬や体中を叩く。



 強すぎて帽子吹っ飛んでしまったようだ。

 それに、一向に風が収まる気配もない。



 一体どうしたんだろうと?

 気になって目を開けると。




 驚いた。




 辺り一面桜の花びらが舞っている!




 というより、花びらしか見えない。




 厨房の輪郭すら見えないではないか。

 おいおい。。。



 見えるものといえば。水を張ったボールくらいだ。




 。。。ていうか、


 このボール空に浮いてね!?



 輪郭が見えなくなったせいで起こる現象なのか!?

 いやいや、そんな訳ないだろう。



 眼鏡をかけなおしながらそんなことを考えていると。

 ボールが光を帯び始めた。




 ん!?




 気になってのぞき込む。

 と光一瞬にして増大した。




 増大する瞬間に妙にリアリティ溢れる月が見えたような気がしたが確認する暇はなかった。




 気が付くと


 俺は光と桜が逆巻く世界に投げ出されていた。




 左右どころか上下も解らない世界。

「不安」だとか「ここはどこ」と考える前に



 ただ綺麗だった。

 空間が水平線の果てまで続いているようだ。



 遥かかなたには花びらが集まって

 砂時計のようにゆっくりと収束している。



 時折水面下のような波紋が辺りを穿つ。

 いつのまにか積乱雲の中にいるような風だったのと

 眼鏡がずれていたため、視界の端でしか見ることができなかったが

 そう感じた。



 だが、不思議と不安はなかった。

 周りの温かい空気や花びらがそういった気持ちにさせるのかもしれない。








 その日、








 柏木 千は現実世界から姿を消した。





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