桜の和菓子(八重桜、吉野桜)
「お主面白いものをもっているな」
竜の威厳のある声が響く。
竜がそこにいた。
見上げるほど大きく体だ。
伝記か何かに出てくる竜にそっくりだった。
ただ、伝記によくある固そうな鱗はそこになかった。
ふさふさとした柔らかな毛並みだ
クリーム色の毛が風に吹かれて時折、金色に光り輝いている。
「あなたは誰!?」
センが恐ろしい気持ちを我慢してはっきりとそう言うと
「我は『さいはての竜』だ」
「お主を呼んだのも我だ」
と竜が答えた。
竜の後ろにあるカノープスのような星々がより一層威厳をかもしだしていた。
「何やら強い力を感じてきてみれば面白いものを持ったものがおるではないか、それは何だ」
小さい声なのに不思議と響いた声だった。
あたり一面の空気を震わせるような、そんな声だった。
コレっと
手の和菓子に目をやる。
それを見ていた竜が目を見開き、大きく頷く。
えっと。
「食べ物です。」
「これは日本の伝統的な和菓子というものです」
まさかの質問にセンは思わず答えてしまう。
「ほう。食べれるのか。何やらいい匂いがしたが。」
「どれ。よこせ。」
いきなり初対面の人物(竜だが)に果たして異界からもってきたものを手渡していいものだろうか。
ひょっとして、知らないだけで異界のものには他に秘めた力があるかもしれないし。
竜が欲しがるくらいだからなぁ。。
そう考えていると
「さっさと、よこせ」
そう言ったかと思うと
桜の和菓子は手を離れ
竜の元へと浮かんでいった。
「変わった形をしているな。これは花なのか。」
竜がやたらと作りかたを聞いてきたので簡単に答えた。
★今回つくった 和菓子は★
八重桜、吉野桜の二種類のをモチーフにしたお干菓子だ。
ピンクの練り切りを丸めて
そのうえから白色の練り切りを重ねる
その練り切りで上品な味わいの特性白あんに
桜の葉を混ぜ合わせた「極上桜あん」を包む。
シュウマイを包むように感じで丸めてた後
形を整えたものを再度丸くする
今度は形を整えるように軽くつぶしお饅頭のような形にする
三角棒という木の道具で大きく筋をつけ花びらを作っていく。
(白くしたところは尖らせる感じで
反対側は薄くしてはなびらを作っていく)
できた花びらにシベをつける。
しべのところにゼリー状のようかんを少しつけるのがポイントだ。
と思わず答えてしまうと
「『桜』か。。。かつての同胞より聞いたことはある」
「お主異界より来たか」
そう言ってすでに口に放り込んでいた
和菓子をほおばりながら尋ねた。
「旨いな。生まれてから一度もこのような仄かに甘いものを食べたことがない」
シャリシャリとした半生の食感と
口の中でゆっくりと溶けていく様が素晴らしいと
和菓子の講釈を垂れていた。
しかし、見ただけで異界からきたことを見抜かれたのには驚いた。
さすが竜といったところか
。。。
もしかしたら、
悪い竜ではないかもしれない。
こんな上空で「旨っ旨」と、
竜にしてはやたら小さいであろう和菓子を食べている
こんな状況でなければ
「いやいや、竜さん、絶対足りないだろ!」
とツッコミたくなるところだろう。
直観に過ぎないがどことなく温かさを感じる。
センは思った
「お主これからもこのような食べ物を作ることができるか」
竜が身を乗り出して聞く。
この世界にあるかどうかは知らないが、材料があるなら大丈夫と答えると
「そうか。」
「よし、胸に手を当てろ」
首を傾けて徐に竜は言った。
なんとなしに言われたままに自分の胸に手をあててしまった。
すると、センの胸から一筋の青い光が伸びる。
その光は一直線に竜の元へと向かい。
同じポーズをしていた。竜の胸へと繋がった。
静寂が流れる。
先程まで強い上昇気流が顔や体を打っていたがそれも収まっている。
音も何もしない。
ただどこからか来た温かい風が髪をそっと揺らすのを感じる。
竜の声が長い沈黙を破った。
「よし。できたぞ」
「これで、お主との契約は完了した」