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その時  作者: 真澄
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農業実習2日目

 次の日、朝食を済ませると温室前で集合となっていた。温室の前に行ってみると、ツナギに長靴といった、いかにもこれから農作業しますといった格好の人物が二人待っていた。そのうちの一人が俺たちのゼミを集めて、挨拶をした。

「この温室の管理をしています、山本です。よろしくお願います。今日はジャガイモの収穫を担当します。ちなみにあっちでタマネギの収穫の担当をするのが高橋です。研究所に住み込んで農園の管理をしています。僕たちのほかに数名で農園の管理をしています。」その後、二人一組でスコップとコンテナを数個、倉庫から持ってくる指示が伝えられた。

「ジャガイモは茎から20㎝くらい離れたところにスコップを入れて、掘りあげてください。掘った芋は手で出来るだけ土を落としてコンテナに入れてください。その時、スコップで切ったイモと、切れないでキレに掘れたものは分けてコンテナに入れてください。40㎝間隔で植え付けてありますから、茎がみえなくても下に芋がないか確認してください。」そう言いながら山本さんはみんなの前で見本を見せた後、各自で芋を掘るように指示を出した。

「なぁ小林、このジャガイモ枯れてるぜ。」

「田中、もしかして収穫前のジャガイモ見たことがないのか。ジャガイモの収穫の目安って茎の枯れ具合なんだけど」

「そうなのか。それにしても俺たち、なんでスコップで芋ほりしているんだ。こう、テレビで出てくるみたいに大きな機械でガーっと掘るとか。」

「お前、昨日の教授の説明ちゃんと聞いていたのかよ。」

 1.3haの農地を耕作するのには、人力だけというわけにはいかない。かといって、密封空間でガソリンや軽油で動く耕運機を使った場合、二酸化炭素の問題が危惧されたそうだ。そこで農機具メーカーに頼んで、電動式の農耕機械を開発してもらったそうだ。けれど北海道のように見渡す限りのジャガイモ畑でもなければ、専用の農機具を用意するより手で掘った方が早いような気もする。

「これ後でレポートの提出があるんだぞ。大丈夫かよ。」

「小林、後でお前の書いたレポート見せてくれよ。」

「いやだよ。お前そのまんまコピーして提出しそうだもん。」

「さすがにそこまではしないと…思う。ところでさぁ、隣で収穫されている緑の物体あれがタマネギか」

「畑にあるタマネギ見たことないのかよ。タマネギは上の葉の部分が倒れるのを目安に収穫するんだ。俺達、ジャガイモの収穫で正解だったかもなぁ。タマネギって手でとると匂いが付くんだよなぁ。ところで田中の実家って農家じゃないんだろ、何で農学部に入ったんだよ。」

「農学部なら、実習にさえちゃんと出てれば単位が取れると思って。レポートは当てにしているよ。」そんな人懐っこい笑顔で言われると、断りずらいじゃないですか。

「小林の実家は農家だったのか」

「うー、自分の家で食べるものを趣味で作るくらいの田畑はあったけどさぁ。農家かって言われれば微妙だなぁ」そんな話をしていると、山本さんが農業運搬車に乗ってやってきた。

「皆さん、ジャガイモを掘った後周りも少し掘ってみてくださいねぇ。残っていると種イモになってまた芽が出てきちゃいますから。」そう言いながら、ジャガイモの入ったコンテナを回収していく。傷のないジャガイモはかなり長い間保存可能だけれど、傷がついジャガイモはそうはいかないだろうなぁ。スコップで切られたイモたちは、明日の学食のカレーにでも使うのだろうか。

 ジャガイモは倉庫わきの貯蔵庫に運ばれていった。ジャガイモは茎だから日に当たると緑になって毒をもつようになってしまうしね。タマネギは赤いネットに入れられて、風通しのいい専用の場所に運ばれていった。

 昼食をとっているときに佐藤教授から連絡事項が言い渡された。

「今回のレポート提出は1週間後ですからねぇ。農学部の教務科の前の『農業実習A』のポストに1週間後の17時までに忘れずに提出して下さねぇ。」

 学校の行事ってその後に何か書かされる。保育園の芋ほり遠足というわけにはいかないらしい。そんなことを思いながら、バスに乗り込んだ。

 「なぁ小林、レポートって何書けばいいんだぁ。芋ほりして疲れましたってかぁ。」

「お前なぁ、それじゃ小学生の遠足の作文かよ。もっと大学生っぽい感想はないのか。土の力を復活させる植物の話とか。」

 同じ場所に同じ作物を作っていると土の力が落ちて作物が育たなく。そこで作物と作物の間に、土の力を取り戻すマメ科の植物とかトウモロコシとかを作付する。

 例えば農場のある区画にタマネギやジャガイモを作り収穫後にはソバが蒔かれる。ソバの収穫後には、ダイコンやホウレン草やコマツナといった葉物野菜が栽培され、その後マメ科のレンゲが蒔かれる。レンゲは土にすき込まれ肥料となる。別の区画には、春にダイズを蒔き収穫後にタマネギやジャガイモを植え付ける。また別の区画では、トウモロコシを作ってその後にそばを作る。また別の区画ではクローバーやマリーゴールドやヒマワリといった花の咲く土壌改良の植物だけを育てて、土の力を回復しつつミツバチの餌を確保する。区画を少しずつ換えていくことで土の力を落とさないでいつまでも作物が作れるって話だったのだが。

 「なぁ、マメ科の作物が土の力を取り戻す話とか聞いてたか。」

「そんな話あったのか、やっぱレポート見せてくれよ。とこれでさぁ、なんで鈴木教授はあんなに密閉空間だけでの農業にこだわってんだ。」

「鈴木教授の夢は、火星で農業をやることだそうだ。SF映画の見すぎのような気もするけどなぁ。」


 こうして初めての農業実習は終了した。



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