其之七
一年が過ぎた。
何事もなく、過ごすことができた。店にも馴染んでいた。
「ルディコちゃ~ん、おかわり、ちょ~だいっ」
「ちょっと、飲みすぎなんじゃないの、もうやめた方がいいんじゃない?」
「へいき、へいき、水みたいなもんだから」
「それは聞き捨てならねえなあ。ここの酒が安物とでも言いたいのか、え、ロナよお」
「マ、マスター、ちがうよ、へへへ、かんべんしてくれよ~」
「あはは」
自分でも驚くほど、自然に笑えるようになっていた。私がそうしようと意識したのではなく、店に来る人たちが早くから私を受け入れてくれていたからかもしれない。ここは、それほど悪いところではないと、そう感じていた。友達、と、言えるのかどうか分からないが、世間話をして笑いあえる仲間が何人かできた。けれど、私をエルフだと気付く者は一人もいない。嬉しくもあり、悲しかった。私はエルフの村で生まれた、ただの人間のようで。たしかに、エルフだからと言って、特殊なことができるわけではない。相手のことをなんとなく感じ取れることはできるが、それを証明する事はできないし、するつもりもない。結局、この町での私はまわりと同じ人間なのだ。
ここのマスターは、実はこの町を取り仕切っている頭だった。威厳はあるが、押さえつけ制圧しているような、そんな野蛮さはない。そのためか、みんなに慕われている。以前、なぜ酒場のマスターなどしているのかと聞いた事があった。
「そうだな、酒場のマスターが頭だって事はあまり聞かない。大概、地下に潜んでいたりするからな。簡単に言えばカモフラージュだな。あと、酒場って言うのは、どんなやつでも一回は覗きに来ちまうところなんだ。だからここにいれば、今、どんなやつがこの町に来ているのかが瞬時に分かる。思い出してみろよ、ルディコだってそうだっただろ? あとは、そうだな、俺がここで目を光らせていれば、周りのやつらも気が引き締まるだろう」
同じ売りをしている人の中には、私のことを快く思っていない人もいるようで、あの子は病気だとか、お頭がイってるとか、そんな事を言いふらされた。だけど、私がこの町に来た日のことを知っている人たちは、そんな事にはまったく耳を貸さなかった。重々承知です、という感じだった。
この国には盗賊や山賊が頻繁に出ると、以前、雑貨屋で聞いた。酒場でも被害にあったという話を耳にすることも少なくない。賊同士の抗争もあるようだ。
「マスター、覚えているか、あの山賊」
「ああ」
「なんでも、最近急に力をつけはじめたそうだ」
「それほど大きいチームではなかったな。ただ、頭はかなりの使い手だったが」
「だけど、そこまで強いって言う感じじゃなかった。他の賊にもあいつより強い奴はいっぱいいた」
「なぜ力をつけ始めたのか、調べたか?」
「それが分からないんだ、突然なんだよ。さっき聞いた話じゃ、山に潜んでいた賊を全て束ねることに成功したって話だ」
「ばかな、いくらなんでも奴には無理だろう。七、八はあったはずだ、冗談が過ぎる」
「やっぱ、ただの噂だよな……」
「……」
「でも、この手の噂って、大概は本当の事が多いからさ、気になったんだ。マスターの耳には入れておこうと思って」
「そうか、一応覚えておく」
「何の話?」
興味津々という目つきでマスターを見つめた。
「なに、昔やりあった山賊の話さ、大した話じゃねえ」
「ふ~ん、そんな感じじゃなかったけど」
そういって、眼を細くしてマスターを見つめた。
「な、なんだよ」
「べつに~」
それから何日かたったある日、一人の男が店を訪ねてきた。
「マスターいるかい」
その男は小柄で、背丈は私の鼻辺りである。黄色と赤のボーダーの、袖のないシャツを着ている。ズボンは濃い青で、所々穴が開いており、スソの方も破れ、今にも裂けてボロキレになってしまいそうだ。頭に赤いターバンを巻いている。真っ赤ではなく、赤茶に近い。腰には、手動と思われる小型の銃と、刃のずいぶんと反り返った剣をぶら下げていた。
「おい! 相変わらずそんな格好で寒くねえのか! ははは」
テーブルに座っていた男が野次を飛ばした。ターバンの男はそちらに目を向け、言った。
「撃ち殺すぞ」
「おお、こええ、こええ」
前を向きなおし、カウンター席に腰を落とした。
「久しぶりだな、ゾタ。一年と半年ぐらいぶりか」
「マスター、兵を貸してくれ」
「いきなり、そんな話かよ。まあ、楽にして、思い出話でもしようぜ」
「それどころじゃない、かしてくれ」
「まあまて、相変わらず愛想のねえ野郎だな、積もる話の一つや二つあるだろう?」
「ない」
「トラジ、相手してやれ」
カウンターの隅でちびちびと酒を煽っていたトラジが、ゾタの隣の席に移動した。にやけた笑みを浮かべている。
「ゾ、タ、ちゃん。久しぶりー、最近見なかったが何してたのかなあ、船長のおもりかい?」
肩に手を回し、ポンポン、と、その肩を叩きながら言った。
「なんだと」
「おっと、そんな恐い顔するなよ、どうしたんだ、そんな険しい顔して、いつもだけど」
「……」
「黙ってちゃ分からん! 言ってみなさい、このトラジちゃんに!」
「……ライトハウスだ」
「なに?」
「ライトハウス、あいつはやばいぞ、知ってるだろ?」
「あの山賊か」
マスターが言った。
「ライトハウスが何をしたか、きいたか?」
「ああ、他の山族どもを束ねたんだってな、きいたよ」
「そうか、なら話は早い。なぜ、あいつがあんなに力をつけ始めたのか、俺はずっと調べてきたんだ。あいつは、俺でも何とかなる相手だった。そんな奴が急に、だ。変だろ」
「ああ、だが、ただの噂かもしれないんだろ」
「いや、俺は見てきたんだ、本当の話だ」
「そうなのか」
「きいてくれ、あいつらは、この国を潰そうとしている」
「まさか、この国は元々国としては機能していない。それに、何のために追い討ちを掛けるようなことをする?」
「知るかよ。それで、あいつらは手始めに、オーイズを襲った」
「あの山のふもとの町か? あそこは前から山賊どもの縄張りだろ。今更襲う意味がわからん。お前、大丈夫か?」
「最後まで聞けよ、あいつらは町を跡形もないぐらいに破壊しているんだよ。当然町にいた奴らは皆殺しだ。全てを土に返したのさ」
「妙だな、その行動の意味がわからない」
「だろ、あいつらは必ずこの町にも、この国の全ての町にやってくる」
「……」
「今なら、まだ俺たちが集まればあいつらを叩くことができる。兵を貸してくれ、頼む」
「……」
「俺はこの国で生まれ育ったんだ、こんな住みやすい国はないぜ、あんな奴らに潰される道義はねえ。マスターだって、トラジだって、この国が好きだろ」
「マスター、どうするんだ?」
トラジは黙りこくったマスターに対し、機嫌を伺うかのように、オドオドしく聞いた。
「兵は出せない」
「なぜ、なぜだ!」
「確証がない。お前の言っている事を疑うわけじゃないが、お前に聞くまでそんな話を聞いたことはなかった。何か他の理由があってオーイズを潰したのかもしれん。仮に今兵を貸し、奴らにケンカを売って敗れたら、反感をかって潰す気のなかったこの町を潰しに来るかもしれない。わざわざ俺たちを危険にさらすだけだ。今の段階では様子を見るのが得策だ。」
「それじゃ遅いんだよ! 奴らが完全な力をつける前に叩かないと取り返しのつかないことになるぞ!」
「落ち着け!お前は一体何を根拠に、そんな自信たっぷりに話をすることができるんだ。実際にライトハウスにあって、直接、そう聞いたのか、え、なんだっていうんだ」
「俺にはわかるんだよ、俺には。あいつらは、何か、とてつもない事をしようとしている、俺には感じるんだ……」
「……そんな事だから、お前らの船は沈められたんだぜ」
「……」
「小さい海賊団が国を相手にするなんて、バカだ。今なら、そう思うことができるだろ?」
「……」
ゾタはうつむいたままだった。微動だにせず、手元を見つめたままだ。
「船長も気の毒にな、こんな部下を持って。船長も船長か、あんな戯言を信じてケンカ売っちまうんだから。死んだ他の団員はうかばれねえぜ、きっとな」
「……」
「ところで、タラノはどうした?」
「隣の、マタタの町へ行っている。兵を調達に」
「あいつまで巻き込んでるのか」
「ちがう、俺たち二人で決めたことだ、巻き込んだんじゃない」
「そうか、何にしても、俺は兵を貸してやれねえ」
「……、わかった、すまなかったな」
「なあに、気にするな。今日は飲んでけよ、つかれただろ」
「ああ、そうするよ」
マスターは後ろの棚から酒瓶を一本取り出し、ゾタの目の前に置いた。すかさず、トラジが栓を開け、コップに注ぐ。ゾタはそれを一気に飲み干し、ため息をついた。
「うまいな……。ああ、そうそう、ちょっと外で聞いたんだが、この店にはいい女が入っているって聞いたんだ」
「ああ、いるぜ。そういえばお前は知らないんだよな。この町じゃ有名人だ。ルディコ、こっちこい!」
「ゾタ、大丈夫か? 高いぞ」
トラジは、目を少し垂らし、いやらしい顔つきで笑い、ゾタの顔を覗き込んだ。
「はあい、呼んだ?」
「どうだ、ゾタ、すげえだろ」
ゾタは目をまん丸にしてルディコを見つめた。
「すごいな、こんなに綺麗な娘は初めてだ」
ゾタは軽く食事をし、コップ一杯の酒を飲み干した。その後、二階に上がり、一番奥の部屋に入った。身につけていた武器を座卓ぐらいの高さのテーブルに置き、ベッドに仰向けになった。ベッドのきしむ音が、静寂の中で大きく聞こえた。
この部屋もそうだが、ここの建物自体、全て防音仕様になっており、見た目のボロさとは裏腹に、かなり高度な作りとなっている。下の階では毎晩、ドンチャン騒ぎが繰り広げられているが、宿を取った客の妨げにはならない。
「……」
コンコンとドアをノックする音がした。
「入るよ」
「ああ」
ゾタの顔を見ながら、手を後ろに伸ばしドアを閉めた。
「眠そう」
「……ん、そうか?」
「ふふ、眠いなら出てくけど?」
「い、いや、すまんすまん」
「シャワー」
「ん?」
「浴びたほうがいい?どっちでもいいけど」
「ああ、そうだな。……その前に、聞きたい事があるんだ」
「え、なあに?」
「エルフか?」
動きが止まり、自分の身体が硬直するのが手にとるように分かった。瞬きすらすることが出来ない。この一年間、他人から言われる事はもちろんのこと、自分でもエルフであると言い聞かせることはなかった。なぜ、この、今日、突然現れた男はこんなことを言うのだろうか。
「どうした?」
「な、なぜ、そんな事聞くの?」
やっとの思いで声を出した。額から汗がにじみでてきた。
「前に、エルフを見世物にしている一座に会った事があってな。その時のエルフの感じと、お前の感じがなんとなく似ていた。雰囲気というか、なんか、直感的に、感じた」
人間の中にも、エルフのように他人の事を感じ取れる能力があるのだろうか。今まで出会わなかっただけで。それともこの人は特別なのか。
「やっぱり違うか? ……、俺の勘も鈍ったな」
部屋に供えてあったタバコを手に取り、くわえ、火をつけた。一回だけ吹かし、灰皿に置く。
エルフだと打ち明けた。
この男には新実を告げるべきだと思わされた。なぜ打ち明けたのか分からない。初めて見破られた驚きと、自分を見抜いてくれた嬉しさからかもしれない。
「そうか」
タバコに手を伸ばし、もう一度吸う。
「他の人には言わないで」
「隠してたのか?」
「そういうわけじゃないけど、あまり、知られたくない」
「わかった」
知られたくないというのは嘘だった。本心ではない。ただ、このまま人間として生きていく事に抵抗がなく、自然に暮らすことが出来るから、今まで自ら言おうかと迷うことはなかった。もし、ばれたとしても、それがなんなの、と笑い飛ばす自信もあった。だが、実際、こうも簡単にお前はエルフだと言われると、エルフであるために自分の存在が否定されているかのような、そんな、感覚にさいなまれた。そんな中、この人がエルフだと気付いてくれたこと、知っていたこと、正直、うれしい。私はやはり病んでいたのだろうか。この一年の間。いや、あの時から。
「何か事情がありそうだな、話すか?」
「え?」
「話せば楽になるぞ、さっきの顔、かなりひどい顔だったぜ。あれは何か思いつめているときの顔だ。話してみろよ。俺は別にお前がエルフだからって摂って食ったりはしないよ。安心しな。人間の中にはエルフを見世物にして金を巻き上げる輩もいる……。けど、俺だってそんな奴ら鼻持ちならねえ。少し姿かたちが違うからって、そんな事していいとは思わない。さっき、そういう一座に会ったって言ったろ? 実は皆殺しにした。誤ってエルフも殺しちまって、結果的には俺も同じ、ひどい奴かな」
全てを打ち明けた。あの時、起こってしまった事も、あの青年の事も、何もかも。
「おかしいでしょ……、今思うと、現実味が全然ないの。夢や空想していた事みたいなの。だってそうでしょ、みんな消えちゃったのよ、あの青年も。全て幻覚や妄想だったのかなって。だけど……、今着ている、お母さんが作ってくれたこのワンピースとお母さんのニットガウン、これを見ると、間違いなくあれは現実だったって思う。温もりを感じるんだ」
涙がこぼれていた。泣く事なんてなかった。あの時の私に一気に戻ったような気がした。もしこの人に会うことがなければ、私は一生この町にいたかもしれない。今になって、ここは私の居場所ではないと感じ始めていた。いや、確信していた。旅立つ時だと。この人と共に。
「エルフのことなんて、俺は全然知らない。こうやって面と向かって話すのも初めてだ。だけど、これだけは分かった。別に特別な存在じゃないってな。俺もお前も同じ存在だよ。その耳、別に不思議じゃない。人間の方がもっと変だ、目の位置が少しずれて生まれてくる子だって、指の数が足りなかったり腕がない子もいるし、だからといって、そんな迫害は受けない。おまえの親父さんがしたこと、その仲間がしたこと、正しかったんじゃないか? 悲しい結果にはなっちまったが、話を聞く限りでは、お前の意思で滅ぼしたんじゃないと思う。お前は“忌み子”なんかじゃなくて“選ばれし者”だったんだよ」
「選ばれし者……」
「なんてな。そう思えば少しは気が楽だろ」
「……そうね」
「でも、両親のこと、仲間のこと、決して忘れちゃだめだ」
「うん」
「俺も忘れたことはない……」
「あなたも、何かあったの?」
「ん、ああ、ちょっとな」
「……」
「……」
「ねえ」
「え」
「私をここから連れ出してくれない?」
「なんで、また」
「私はこんなところで一生を終える運命じゃない。そう感じるの。あなたと一緒に旅にでる。」
「旅に出るって言われても、俺はこの国から出る気はない」
「じゃあ、仲間にして。いるんでしょ、仲間が」
「ああ、いるにはいるが、……いいのか?」
「うん」
「そうか……わかった」
「ありがとう」
「支度しろ、今、出発する」
ゾタは身支度を整え始めた。普通の人だったら、こんなお願い聞いてくれないだろう。この人は私から何か特別なものを感じ取ったのかもしれない。私のように。
訪ねてきた時と同じように、腰に銃と剣をさした。身支度が整ったようだ。
「よし、いくか」
ゾタがマスターと話している。マスターは険しい顔をし、眉間にしわを寄せている。腕を組み、相づちを打ちながらも、所々で首を振る。
「だめだ、ルディコは俺たちにとって大事な存在だ、連れて行かせるわけにはいかん」
「それは稼ぎ頭で金づるだからだろ」
「はじめの内は確かにそうだった、だけど今は違う。大事な俺たちの仲間だ」
「じゃあなぜ未だに店の中に閉じ込めておくんだ、聞いたぞ。それは、お前が店の外に出したら逃げられてしまうと心では思っているからだ。信じちゃいないんだ。それは仲間ではない」
「理由が気に入らない。なんなんだ、彼女はお前とここから出る運命だと? 笑わせるな。お前の勘などには付き合いきれん。みすみす殺すようなものだ」
「今日、ここで俺と彼女が出会ったことが、何よりの証拠だ」
「ふざけるな、お前は昔からこの町を出入りしていた、いつか顔を合わせるに決まっているだろうが」
「どうしてもだめなのか」
「そうだ」
聞いている限りでは、私がエルフだとか、私自身の事は何一つ告げていないようだった。
「じゃあ、力ずくでも奪っていく」
「正気かお前! マスターの相手をするって言うのか、ばかげてるぜ」
トラジが立ち上がり、大声を張り上げながら近づいてきた。ゾタの胸に拳を当てる。
「お前なんか、俺で十分だぜ、マスター、おれにやらせてください。必ず返り討ちにします」
「……いいだろう」
「じゃあ、トラジに勝ったらルディコは連れてっていいんだな?」
「ああ、好きにしろ。だが、お前がトラジに勝てるとは思えないけどな」
突然、トラジが飛び上がり、カウンターの上にのった。
「のれ、お前にハンデをくれてやる。ここから俺が落ちたら、負けを認めよう」
「調子に乗るなよ、俺を甘く見すぎだ」
そういい終わると、ゾタもカウンターに飛びのった。腰の銃をマスターに渡し、剣を抜く。刃の中心部の幅はかなり厚い。私の手を一杯に開いたぐらいはある。二十センチといったところか。刃が反っているところを見ると、突きには向いていないように思える。足場の狭い場所では突きはかなり有効だ。あの武器では不利だ。一方、相手トラジの剣は両刃で長さは一般的。一メートルぐらいだろうか。マスターやトラジのいうように、実力に差があるのなら、ゾタに勝ち目はない。
「へっへ、そんなダンビラでいいのか、ゾタよ」
「無駄口叩いてないでかかって来い」
「楽しませてくれよ」
右足を前に踏み込み、剣を突き出した。ゾタはとっさに右から左へなぎ払う。キン、と耳を突く金属音が響く。一歩後ずさりし、構えを整えるトラジ。
「ふっふっふ、届かねえよ、そのダンビラじゃ」
ゾタは、剣を持っている手を前に伸ばし、刃を横に倒して、そのまま上段に構えた。
「……死ね!」
先程と同じようにトラジが突っ込んでくる。さっきよりも深く踏み込み、低い姿勢で突き上げる。ゾタは剣を振りおろした。真下にではなく、右から弧を描くように振りおろし、そしてまた頭上にかえす。背後から見ていた私には、その軌跡が光り輝く月のように見えた。同時にガッという鈍い音がした。金属片が宙を飛ぶ。トラジの剣が綺麗に半分に切断されていた。勢いが止まらず、そのままゾタの身体に突っ込む。あの状態の剣でも刺さればかなりの傷になる。ゾタは左肩を九十度後ろに回転させ、それをかわす。そして、左こぶしで思い切りトラジの顔面を殴った。上半身が一気に後ろにそれ、倒れこんだ。背中をカウンターに打ちつけ、弾んだと思ったら頭から床に落ちた。どす黒い血溜りが徐々に広がる。頭を割ったようだ。鼻も折れているだろう。へこんでいる。
「俺の勝ちだ」
「……トラジが負けるとはな。信じがたい光景だ」
「この数年、こいつがここでぬくぬくとしている間も、俺は訓練を怠らなかった。常に先陣を切って戦ってきた。その差がこれだ。俺にとっては当たり前の光景だ」
「……わかった、負けを認めよう。つれていくがいい」
ゾタと顔を見合わせた。初めて笑顔を見た気がした。
トラジが二階へ運ばれ、医者が呼ばれた。
「ルディコ、この一年間、なかなか楽しかった。元気でな」
「ええ、マスターも」
「そうだ、ナイフ、お前に返そう」
後ろにある棚の引き出しから、ナイフを取り出した。受け取り、腰に挿した。これでこの町に来た時と同じ格好になった。あの時と違い、今は少しだけ晴れやかな気分だった。
「ゾタ、一つだけ言っておくぞ。この女はお前の思っているような、生易しい奴じゃない。こいつは俺たちよりも簡単に人を殺す」
「知っている」
「なに?」
「行こう」
「ええ」
振り返り、肩を並べて歩き出した。私の方が少し肩の位置が高いことが、少しおかしかった。入り口まで歩いたところで、二階にいた医者が降りてきて、言った。
「トラジが死んだ。打ち所が悪かったようだ」
「ゾタ、気にすることはない、ここのルールだ、誰も咎めない」
「わかっている」
振り返らずに返事をした。そのまま酒場を後にした。
道具屋で軽く身支度を調え、雑貨屋にも立ち寄った。
「出て行くんだって? 今のお前、この町に初めて来た時のようだ。でも、すこしちがうな。すくなくとも、あの店で働いていた時よりは生き生きとしている」
ゾタがそそくさと歩くので、町の入り口でも立ち止まることなく歩き続けた。軟禁状態だったとはいえ、一年過ごした町だ、後ろ髪も引かれる。だが、それをゾタは許してくれないようだった。
「どこへ向かうの?」
「隣町、マタタへ行く。そこに俺の仲間、タラノがいる」
「仲間はどれぐらいいるの?」
「俺とタラノ、二人だ。それとお前」
「三人しかいなんだ。ねえ、昔なにがあったの?」
「ん?」
「宿で、ちょっと何かあったって言ってたでしょ。教えてよ」
「……」
「私は全部話したのよ。ずるい」
「……、そうだな。マタタまでは随分あるし、話してやるか」
「やった」
「黙々と歩くよりはよさそうだな。何から話す?」
「始めから全部」
ゾタはうつむいた。考えているようだ。首を回した。ボキボキ音が鳴る。
「俺はこの国で生まれ育った。これから会いに行くタラノとは幼馴染で、よく悪さした。そのうち、仲間達と盗賊まがいの事を始めるようになったんだ。はじめは悪ふざけの延長だったんだが、ある賊に手を出して、冗談じゃすまなくなった」
「ある賊?」
「海賊タイガーシャーク団。この近海を仕切っている海賊で、俺たちもその事は知っていたが、まさか奴らがそうだとは思わなかった。その場で半殺しの目にあって、海賊見習にさせられた。仕事はきつかったが、みんないい奴らだった。船長もいいオヤジで、タイガーシャークなんていう大層な肩書き、全然合ってないと皆で笑ったもんさ。虎のように鋭く、鮫のように冷酷、それが由来らしいんだが、そんな面影なし」
暗がりを、月明かりだけが頼りだった。吐く息が白む。ぎしぎしと、雪を踏む音を立てながら前へ進む。町らしき明かりは全然見えてこない。
「一人前の海賊になって、いろんな奴らと戦った。仲間がやられる事もあった。死線を共に越えた仲間ってのはいいもんで、毎晩バカ騒ぎさ。いい奴らだった」
「……」
「俺は、ガキの頃から不思議な力があったんだ。力というか、勘がいいというか。なんかこう、相手の思っていることが分かる様な、なんかそんな感じなんだ」
「エルフにもそんな力があるわ。相手のことを感じ取れる。生き物なら何でもね」
「似てるな。俺はさらに、未来というか、予感がするんだ。こうなりそうだ、こうなるんじゃないか、そういう予感が。実際にこの能力のおかげで随分と命拾いしたんだぜ。海賊になってからもこの予感はあって、皆に驚かれたもんさ」
「人間の中にもそういった能力を持った人っていっぱいいるの?」
「分からない。ちなみに、タラノも同じ力を持っている。だけど、タラノ以外にそういう能力を持っている奴には会った事がない。ガキの頃はそれが当たり前なんだと思っていたが、でかくなる内に俺たちが変わってるんだって気付いたよ」
「不思議ね。同じ土地で、二人だけが同じ能力を持っているなんて」
「ああ。だから俺たち二人はガキの頃からこう言っていた。“俺たちは選ばれし者なんだ”ってな。あの時お前に掛けた言葉は、実はこの時の言葉なんだ」
「なんか、急に安っぽく聞こえてくるわ」
「悪かったな。そんな俺たちの能力は、仲間達の間でも重宝された。そしてある時、俺たち二人は同じ予感に苛まれた」
「どんな?」
「海を隔てた、隣のシン王国の王は、人間やエルフなど、そういった現世の者ではない。物の怪や悪魔など、おとぎ話に出てくるような、そんな未知の生物だっていう予感だ」
シン王国
ヴィラニク大陸の西に位置するシンラ大陸。そこを統治するのがシン王国である。水資源の豊かな国で、滝や湖などが多数あり、それぞれの光景はまさに圧巻、絶景である。
シン王は女王で、その昔聖戦を戦い抜き世を平和に導いた聖騎士の末裔で、その聖なる力は今も宿る。争いを嫌い、城下での武具の製作、輸出入を禁止している。ドワーフやエルフなど、人間と区別なく城に向かい入れている。そのため、世界で人間以外の人口率が一番高いのはこの国である。
「あそこで少し休憩しよう。休んでおかないと、まだ先だからな」
大きな岩を指差し、そう言った。高さは背丈の倍ぐらいある。これだけ大きな一枚岩も珍しい。雪の上に座り、背をもたれた。
「続き、お願い」
「……、誰も信じてはくれなかった。言っている俺たちだってにわかには信じ難い事だったしな。だけど、日に日にその予感は強まるんだ。シンの王は近隣の国だけでなく、世界をも、地獄へと変えうる存在なのだと。無視する事は、なぜかできなかった。何かを実行するまで、この予感は消えないと思った。説得したよ、毎日。途方もない事だったが、最終的にはみんな信じてくれた。そして、シン王を倒すための計画を練り、準備をはじめた。あの国は城でのみ貿易を行っていたから、貨物船に化けて入港したんだ。入港、すなわち入城だ。荷物に隠れていた俺たちは、まっしぐらに王を目指した。だが、相手は城だ、とてつもない戦力だった。弓隊による矢の嵐、連続する砲撃、騎士団までいやがった。まるで戦争するつもりでいたかのような手際の良さだった。その時確信できた、俺たちの予感は当たってたんだって。だが俺たちは、王の顔を見ることなく撤退した。船に乗り込んだときにはもう、数人しか生き残っていなかったよ。それでも船を出し、海にまで逃げたんだが、追って来た戦艦に集中砲火を浴び、俺たちの船、タイガーシャーク号は沈んだ。気がついたら俺とタラノ、船長の三人だけが浜に打ち上げられていた。俺とタラノには目立つ怪我はなかったが、船長は両足と右腕を捥がれていた。何とか処置をして、隠れ家でずっと看病してきたが、先月、亡くなったよ」
「……そう」
「船長さえ、タイガーシャーク本人さえ死ななければ、海賊タイガーシャーク団はまた復活すると思っていた。だが、今考えると、看病していたあの二年間、船長にとっては地獄の日々だったかもな」
ふと顔を見やると、目を潤ませていた。
「全ては、俺たちのワガママさ。仲間を殺してしまい、船長まで苦しめた。恩を仇で返してしまった。悔やんでも悔やみきれねえ。生き残って、五体満足でいられたのは俺とタラノだけだ。ガキの頃思ったように、俺たちが本当に“選ばれし者”なら、この仕打ちは残酷すぎるよ」
「……」
「少し寝よう。寒いが、この時間なら賊も出ない」
「ええ」
ニットガウンに身をくるめ、目を閉じた。
なぜか、アルバニスタ達と取っ組み合いをして遊んでいる時の事を思い出していた。力では誰にもかなわなくて、悔しくて泣いていた。
随分と眠ってしまったようだ。空はすっかり青々としている。隣で眠っていたゾタは、大きな口をあけ天を仰いだ状態で横になっていた。呼吸をする度に、ンガガ、といびきをかく。昨日は頼りになりそうな人だと思ったが、今この姿を見て、とてもそうは思えない。むしろ、手のかかる近所の子供を預かってしまったような、そんな感じだ。
ゾタの身体を左右にゆする。起きない。強めにゆする。それにつられ、頭が左右に行ったり来たりした。その時の顔があまりに間抜けで、思わず吹き出しそうになったが、こらえた。こぶしを握り、胸の上を何度か叩いた。
「う……、ん、朝か」
「朝というより、昼に近いみたいよ」
身体を起こすと、空を見渡した。少し間をおき、言った。
「最近、あまり眠っていなかったからな。昨日酒も飲んだし、すぐ、出発しよう」
立ち上がり、服に付いた雪や水滴を払った。動作がぎこちなく、私の目を見ようとしない。どうやら照れを隠しているようだ。
「ふふ」
(何で笑ってるんだ……?)
隣町、マタタへと向かって歩き出した。風もなく、雪の粉も舞っていなかったので、遠くを十分に見渡すことが出来た。かすかに、建物らしき影が地平線にたたずむ。敢えて、そのことに触れることはなかった。
「ねえ、昨日の話のことなんだけど」
「ん?」
「あの予感はどうなったの?シンの王が怪物だっていう」
「予感はしなくなった、返り討ちにあった後、まったく。そのためか、団の復活は願ったが、また戦争をしようという気にはならなかった。タラノも同じ思いだった。たぶん、もう危険はないんじゃないかと、シンの王は今回の件で策がバレた事を危惧し、中止したのではないかという結論に達した。これは予感ではなく、単なる憶測だ」
「じゃあ、まだ世界を陥れるような計画を実行しようとしているかもしれないのね」
「かもな。だが、もう俺たちには関係のないことだ。分からない事を考えてもしょうがない。ただ……」
「ただ?」
「一月ほどしてから、新たな予感がしたんだ」
顔つきが一瞬にして険しくなる。
「今度は、この国に危険な奴らがいるってな」
「それは、どんな?」
「詳しくは後で話す。タラノと交えて話したほうがいい。今俺たちが追っているのはこの件なんだ。二年近くかかってやっと真相を突き止めた。俺がお前のいた町、ネガーに出向いたのは、マスターにこの事を話し、兵を借りるためだった。結局は、断られたがな」
「……」
「一度、俺たちは仲間を犠牲にしている。というか、ほぼ全滅にしてしまった。そんな奴に兵なんか貸してくれねえよな、よく考えれば。今思うと、俺の人生は、この変な予感に翻弄されっぱなしだよ、ははは」
引きつった笑顔で笑った。よほど辛く、そして決して忘れられない過去なのだろう。ほぼ肉親だった仲間を失った痛み、悲しみ。私にこれほどの思いは、ない。だけど、いたたまれない気持ちは同じだ。
その後は、黙って歩き続けた。黙々と。数時間後、町にたどり着いた。ぱっと見た感じでは、町並みや雰囲気は私のいた町と変わらないようだった。
「ここがマタタだ。ネガーほど荒れてはいないが、そう変わらない。タラノを探そう」
そういい終わると、まっすぐに人の集まっているところへ歩き出した。
軽装の鎧を身につけた四人組の前に立ち止まる。皆、よく目にする長剣を腰にぶら下げていた。体つきは私より一回り以上ありそうだ。ガタイがよく、目つきが悪い。こういう連中にはさすがにもう慣れた。
「ゾタじゃねえか、隣の女は何だ? えらい綺麗だが」
手前にいた男が振り返り、一瞬ゾタの目を見た後、私に顔を向けて言った。右手の親指と人差し指で顎を掴み、強引に顔を上に向かせる。
「若いな、どこで捕まえたんだ?」
「はなして」
「威勢がいいな、そんな恐い目で見るなよ」
「やめろ、汚い手をはなせ」
「ん、ははは、大事な妾のためならば、か?」
ぐっと、顎を掴む指に強い力が加わる。ナイフをその腕に突き上げた。
「ん?」
(はやい!)
ゆっくり右に引いていく。皮の裂ける音がかすかに聞こえた。
「ぐああああ」
ナイフを突き刺した瞬間に、ゾタは私の顔をみた。戸惑ったのか、少し間をおいてから口を開いた。
「ばか、早く抜け!」
そう言い終わる頃には、相手の腕は綺麗にパックリと割れていた。血がとめどなく流れ落ちる。
「こ、このアマあああああ」
少し後ろにいた三人は、驚いた様子で、口を半開きにしたまま動こうともしない。目玉だけが、私と斬られたこの男を追っている。
少し前かがみになって右腕を震わせていた男が、左手を腰にぶら下げている剣の柄にかけた。とっさにゾタが私の肩を突き飛ばした。三人分ほど左に飛ばされ、よろけたが何とか転ばず止まることが出来た。
左手であったせいもあり、剣を抜き取るのにもたついた。その一瞬をゾタは見逃さない。
「まて、そのまま抜いたら、お前の頭を吹き飛ばす。俺の剣は岩をも砕く、知っているな?」
いつでもその男の頭を吹き飛ばせる構えになっていた。見た目の感じとは違い、かなり素早い動きをゾタはもっている。
「ぐ、わ、わかった」
「では、手を離し、二、三歩下がれ」
男は従い、後ずさりした。ゾタは私に顔を向け、睨みつける様な目で、言った。
「ルディコ、こいつに謝れ」
親指で男を指した。
「なんで私が、だってその男が……」
「斬られるような事はやっていない!」
大声を張り上げた。その声に驚き体がびくついた。本気で怒っている。
「謝るんだ」
「……、ご、ごめんなさい」
男はずっと私を睨みつけていたようだ。ちっ、と舌打ちをしゾタの方を向く。
「おい、ゾタ、何なんだこいつは、ただの女じゃねえ」
「すまん、少し気性が荒くてな、それにまだ若い、許してやってくれ」
「少しだ? こいつはヘタしたら、俺たちよりヤバイんじゃ」
「黙れ。もうくだらない詮索は無しだ。一つ、教えておく。こいつは俺たちの新しい仲間だ。さっきのようにこいつに気安く手を出したら、今度は俺たちが容赦しない、皆に伝えておけ」
男の血がとまらない。本人もそのことに気付きだしたようだ。
「わかった」
「おい、うしろの、こいつを医者に連れて行ってやれ」
「あ、ああ」
後ろにいた一人が男を連れて町の奥へ消えた。残った二人はその姿を目で追い、またゾタに向きなおした。
「な、仲間だといったな?」
「ん、ああ、そうだ」
「今更、仲間増やしてどうするんだ。タイガーシャーク団は終わったはずだ」
「……なんだと」
「ま、まて、けんかを売っているわけじゃない。タラノが兵を募っていた、俺も誘われたんだ。あいつ理由も言わず、ただデカイ戦があるとしか。だから、気になったんだ」
「海賊タイガーシャークは終わっていない。船長の意思は俺が継ぐ」
「だ、だが、お前が滅ぼしたんだろうが、仲間もろ共、意思もくそもねえ」
そう言い放った男とゾタの距離は二メートルほどしかなかった。右足を踏み込み、剣に手をやる。抜いたと思った瞬間、その男の上半身と下半身が別々の方向へ倒れた。もう一人の男がとっさに剣を抜く。だが、すでにゾタの切っ先は頭上にあり、縦に眩い閃光が走る。甲冑を砕き裂く金属音をきく間もなく、二人は肉の塊と化していた。
「……すごい」
単純にそう思った。もし、私が斬りつけた相手がゾタだったら、一瞬で死んでいる。そのような出会いであったなら、私の生は、運命はそこで終わっていた。だが、私があのような出会い方をすることで、生きる選択をしていたのだ。……、させられたというべきか。人知を越える、何かに。
「俺たちは似ているよ。病んでいる、確実に……」
「……」
「俺が今まで戦ってきたのは、こういう口の悪い奴ばかりだった。船長の、団の事を言われ、殺す。俺自身、仲間に対して悪かったと心の底から思っていない証拠だ……、俺は正しかったんだと、な……」
剣を振り、血を払う。腰に収め、歩き出した。
「いくぞ」
酒場で、ついさっきタラノを見かけたという情報を得、その場所へ向かった。
「ところで、俺も人のこと言えないが、あの時、無意識にやったのか?」
「……ううん、なんか、身体がそう動くの。無意識じゃなくて、頭で斬ろうって、ちゃんと思ってから行動に移ってる。誰かが操っているとか、出てくるとかじゃなくて、私の意志なの、ちゃんとした。けど……、わからない」
「そうか……」
町のはずれにある、噴水跡にタラノは腰掛けていた。
「タラノ」
「ゾタ、どうだった?」
タラノの顔立ちは不思議な感じだった。綺麗とか、可愛いという表現はあわないが、どことなく女っぽい。分かりやすいオカマのような気色悪い感じではなく、男といえばそう見えるし、女といえばそう見える。決して華奢ではないが、ゴツくもない。セーラー服を身につけていて、見るからに船員だ。大陸、土の地面とまったくマッチしない。かなり目立つはずだ。腰に左右二本ずつ短剣が挿してある。どれも全長四十センチぐらいで、細かな宝石や装飾、彫刻が施されている。よく手入れされていて、切れない物は無いのではないかと思わされるぐらいだ。
「だめだった、あのマスターは何も分かっていない。まあ、無理もないか」
「おれもだめだ。話は聞いてくれるんだが、金の話になる。そうなると大勢は無理だ」
「まいったな」
「おい、その女なんだ?」
「ん、ああ、そうだ、ネガーで仲間にしたんだ、収穫はこいつ一人」
ゾタは簡単に出会ったいきさつを説明した。
「なるほど、エルフか、確かになんとなく分かる。その姿じゃ、他の連中には見分けはつかないだろうな」
「ええ」
「ゾタはなぜルディコを受け入れたんだ?」
「さあ、なぜかな、なんとなく、だ。境遇がなんとなく似ていたからかもしれない」
「そうか。なあゾタ、俺とお前、少しずつ感じ方が変わってきたような気がするんだ」
「感じ方?」
「なんというか、別々の物を見れるようになったというか、いつもガキの頃から同じモノが見えただろ?」
「ああ、そうだな」
「俺には見えるんだ」
「なにがだ?」
タラノは笑みを浮かべ、私とゾタの顔を交互に見た。そして下を向き、顔をあげた。
「俺たち三人は、同じ星の元に生まれた、選ばれし者、だ」