其之六
ポグロたちは長老にルディコの探索を頼んでいた。森の奥へ迷い込んでしまったルディコを心配してのことだった。
「わかった、とりあえず、ダルの家に行こう」
長老が険しい顔をしながら早足で歩くので、村の者たちが何かあったのかと、興味半分でついて来る。いつの間にか長い行列ができてしまっていて、村の半分の者が集まっていた。
「ダル、わしじゃ、入るぞ」
返事も聞かず、せわしなくドアを開けた。長老に続き、ポグロたちも中に入っていく。野次馬数人がドアから顔を覗いた。
「おお、エリザ、聞いてくれ、ルディコが森の奥へ迷い込んでしまったようなんじゃ」
「なんですって……」
「今、カラウン爺に探らせている。やつは離れた人物を探る能力に長けておるからな。すぐ見つかるじゃろ、心配せんでいいぞ。一応、ダルとエリザにも伝えておかなければならぬと思っただけじゃ」
「そう……、本当にあの子ったら」
「ぼ、僕たちが悪いんです、無理に誘ったから」
アルバニスタが半べそをかきながらいった。
「なあに、大丈夫じゃろあの子なら。それにしても本当に元気な子じゃなあ」
「男の子のように育てた覚えはないんですけどねえ」
「うむ。ところでダルは?」
「寝てます。最近ではもう、立つ事もできないみたい」
「そうか……」
慌しく、熊のような男が入ってきた。
「長老、エリザ、わかったぞ居場所が」
「ジルーロ!」
「結界の外にいる、早く行こう」
「それは大変じゃ、すぐに何人か連れて行ってこい」
「私も行くわ」
ジルーロとエリザ、そして村の男を三人連れて森へと入っていった。居場所はわかっているので直線にすすむだけで、途中、足場の悪い箇所もかなりあったが、身の軽さもエルフの特徴で、難なく進んで行った。ルディコのいる場所までは二十分ほどで到着した。
「ルディコ!」
そこは少し開けた場所で、雪の上にルディコが立ち尽くしていた。目の焦点が合っておらず、緩やかに体が前後に揺れている。右手に、銀色に輝く剣を握り占めていた。月の光を浴び、眩いほどに輝いている。細い刀身で、全体には巧みを思わせる彫刻が施してある。
「ルディコ、どうしたの!」
「何かあったようだな」
「ルディコ、ルディコ!」
「お、お母さん……」
「ルディコ!」
ルディコの肩をゆすっていた手を背に回し、エリザは強く抱きしめた。
「本当にこの子ったら、心配かけるんじゃないよ……」
「まあ良かったじゃないか、無事だったんだし」
そういうと、ジルーロはルディコが手にしている剣に目をやった。
「あんな物、村にあったかな……。まあ、いいか。」
「じゃあ、そろそろ戻ろう。夜は冷え込むし、ルディコも早く温まりたいだろう。話は後で聞けばいいさ」
安堵の表情を浮かべながら、連れの一人がそういった。
「そうだな、エリザ、ルディコ、戻ろう」
「ええ、わかった」
そういうと、ジルーロたちは元の道を歩き出した。エリザは自分が着ていた、茶色のニットガウンをルディコの肩にかけ、そっと背中に手をあてがった。
「さ、行きましょ」
「ねえ、お母さん……」
「ん、なあに?」
ルディコの目を見た瞬間、一筋の光が首元を通り過ぎた。
「なにかし…ら……」
エリザの頭部が首から離れ、雪の上に顔を埋めるようにずしりと落ちた。胴体はルディコに倒れ掛かるようにして、そのままうつ伏せに崩れ倒れた。エリザの周りの雪が少しずつ赤く染まっていく。
「どうした?」
変な物音に気がついたジルーロが後ろを振り返った。
「な、……エリザ!」
ジルーロは慌てて駆け寄ったが、真っ赤に染まった雪の上に、すでに変わり果てたエリザの姿があった。
「な、なんなんだ、一体何が……。そ、そうだ、ルディコはどこだ?」
ドジュ、と鈍い音がした。ジルーロのみぞおち辺りから銀色に輝く金属の固まりが突き出ている。
「なんだこれ……」
振り返えろうとするが、体が激しく震え、首が後ろまで回らない。赤い液体が、銀色の金属が突き出ている部分から流れ出ている。暖かい。何故こんな物が流れ出てくるのか。
「どうした、ジルーロ……ジルーロ!」
連れの男たちが駆け寄ってきた。首が二つ、雪の上に落ちていた。一つはエリザ、一つはジルーロ。
「ど、どうしたんだ、なにが……」
ドサ、ドサ、と、隣にいた二人が突然倒れこんだ。
「え、お、おい!」
残された男は背後に気配を感じ、とっさに振り返った。
「ル、ルディ……」