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其之十四

 ライトハウスは、向かって左にゆっくり歩き出した。そして立ち止まり、こっちを見やった。腕を組み、語り始めた。

「見事だといっておこう。生身の人間が、インダーナザークを投与された者に勝てるとはまったく思っていなかったよ」

「インダー……?」

 未知の言葉に意識が集まる。

「ふむ…、どうせ死ぬんだ、教えてやろう」

「ふざけるな、死ぬのはきさまだ」

「まあ聞けよ。土産をやるって言っているんだ、冥土の土産を」

「……」

「インダーナザーク。これは我々に奇跡の力を与えてくれる秘薬だ。戦ってみて肌で感じただろう、奇跡を」

 奇跡……そんなものではない。

「ただ、インダーナザークの効果はムラが激しい。人間だった時に優れていた能力は急激に高まるんだが、その他の能力の伸びはイマイチだ。別にどうって事ないと高を括っていたが、まさか、たかが人間にやられてしまうとはな。俺の完全な誤算だった。まあエルフもいるようだが」

「……」

「……お前らは人間ではないとでも言うのか?」

「当然だ。投与された人間は奇跡の力を手にし、不老にもなる。人間を超越した存在だ」

「…お前らの事はよく分かった。その、何とかっていう薬は、優れた能力だけを急激に高めるんだろ? ということは、お前もさっきの奴らと一緒で何かしら弱点、大して飛躍しなかった能力があるというわけだ。その能力によっては、俺たちにまだ勝ち目はある」

「そ、そうかもしれない、たしかに。希望が見えてきたわ」

「ふふふ、はっはっは!」

 大げさに笑う。

「希望か。よくそんな言葉が出てくる。教えてやろう。俺が投与された薬はインダーナザークではない。インダーニール! これこそ神の作りし薬なのだ!」

「……」

「ザークのようなムラなど一切ない、全てにおいて完璧になれる物なのだよ! この俺は、まさに、今最も神に近い存在だ。分かるか、神だ、お前達は、偉大なる神と対峙しているのだ!」

「狂っている……完全に」

「くっくっく。ところで、この世は神の僕、聖騎士によって救われたという話を知っているか?」

「神話だろ」

 私は聞いた事がない。

「違うな、紛れもない事実だ。実際、その子孫達がそれぞれの国を治めている」

「何が言いたいの?」

「つまりだ、その聖騎士が使用した武具もこの世に存在する」

「はっ、アホか。おとぎ話を持ち出しやがって。その薬は精神も痛めるようだな」

「その内の一つ、聖騎士の剣。白銀の光を放ち、雷をもしのぐ力を秘めている。この世に絶対無二の神の剣、ルディコ、お前の持っているその剣だ!」

「なに!」

「え?」

 この剣が……神の剣。もし、もしそうだとしたら何故、何故私にあのような事をさせたのか、一体私が、何をしたというのか。神に罰を受けるような……。

「俺はやはり、神となるべき存在なのだ。探さずして、自ら神の前にその姿をあらわした。俺の手におさまるために。さあ、おれによこせ、真実の持ち主に返すんだ」

「タラノ、ルディコ、かまえろ!」

 その声に、臨戦態勢に入る。

「神に手向かうバカどもが!」

 怒号が大地を揺るがした。ライトハウスの言っている事で唯一信じられる事は、その超越された力だ。以前交えた時の事を思い出す。勝てるのか……。

 ライトハウスがゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。目的はこの剣だ。

「ライト!」

 叫び声と共に、ゾタは剣を繰り出す。その光景に、私は目を疑った。素手で、手のひらでその剣を受け止めたのだ。血はにじんでいるが、かすり傷程度だ。刃を掴みゾタもろ共投げ飛ばす。

また私のほうへ歩き出し、目の前で立ち止まった。タラノは手を出せないでいた。

「お嬢ちゃん、それを私によこしなさい」

 手を差し出す。

「わ、渡すわけないでしょ」

「ああ、このために、この剣を手にするために、俺はこの国を潰してきたのだ。やっと、手に入る」

「……なんですって」

「聖騎士の剣はどんな力にも屈しない。すなわち、この国に存在する全ての物体、生物を残らずきれいに消滅させれば、唯一その剣だけが大地に残るというわけだ」

「そ、そんな事のためだけに、町のみんなを殺したというの!」

「そうだ」

「ふざけないで!」

差し出したままの手を、後ろに引きながら斬りつけてやった。

「悪い子だ」

 距離をとったはずなのに、突然目の前に現れ、剣を持っている手を鷲掴みにした。ポキポキと関節がなる。すさまじい力で、このままでは拳を潰されてしまう。そう思い、仕方なく手を離した。剣が地面に落ちる。それを、ライトハウスが拾う。

「これか……ん?」

 剣を握った手がバチバチと音をたて、激しくスパークしている。何かが焼き焦げる臭いがした。

「……まさか」

 さらに激しく閃光が飛び散る。徐々にその手が赤く、燃えるように輝いていった。嫌な臭いが辺りを包み、鼻を刺激する。ついにライトハウスは剣から手を離した。そのまま地面に落下する。手が黒焦げになり、煙を発している。

「そんなはずは、そんなはずはない! 俺は神だ、神になれる男だ! なぜ、なぜ俺には使えない……」

「そんな事だと思ったぜ。お前は神なんかじゃない、ただの化け物だ」

 ゾタがいった。みると、三人でライトハウスを囲むようになっていた。

ゾタが斬り込む、それを腕で静止した。肉は切れたが、骨で受け止めたという感じだ。

続けてタラノが斬りつけるが、それはひらりとかわされた。

その時、ライトハウスは私に背を向けていた。すかさず剣を拾い、背中に突き刺す。刺さった、そのまま横へ引き裂く。

「俺の体を貫くとは、やはりそれは神の剣。神はお前を選んだのかもしれないが、殺して俺のものにする!」

 首を強引に後ろまで曲げ、私を睨みつけた。

(……神が、私を選んだ?)

 しゃがんだと思ったら、思い切りタラノめがけショルダータックルをくりだした。直撃し、五メートルほど吹き飛ばされた。

「タラノ!」

 そう叫んだゾタの顔面をライトハウスの拳がとらえる。

「クリイイイイイインヒットオオオオオオ!」

 もろに鼻から拳を受け、そのまま地面に向かって叩きつけられた。後頭部を強打し、ついには白目をむく。鼻が変な形にへこんでいて、血の塊が垂れ流れている。

「ゾタ……」

 私は、さっきの衝撃でタラノが落とした緑の短剣を拾い、ライトハウスに向かって投げつけた。

「こんなもの!」

 腕でなぎ払う。しかし、短剣と腕が触れた瞬間、すさまじい勢いの竜巻がライトハウスを襲った。

「ぐおおおお、な、なんだ!」

 竜巻がライトハウスをすっぽり包み込んでいる。バチバチと、竜巻に現れた小さな電撃が音を立てる。雷雲ならぬ雷竜巻というところか。

「ルディコ……」

「タラノ、大丈夫? それにゾタが」

「まずいな、とどめをさされる前にこちらに注意をひきつけておくんだ。しかし、あの緑の短剣には風の呪力が宿っていたんだな」

「そうみたいね」

「知らなかったのか?」

「ええ。だけどさっき赤茶色の短剣が炎を表しているみたいだったから、もしかしたらと思ったの。あと、この首飾りで呪力が増幅されるかもしれないと」

「うまくいったな」

「うん」

「よし、俺が時間を稼ぐ、その好きにゾタを回復してやってくれ」

「え、だけど…」

「ほっといたら死んじまう。俺だってそう簡単にはやられはしない」

「わ、わかった」

 ライトハウスを取り囲んでいた竜巻はもう姿を消していた。少し前かがみになり、微弱に震えている。全身の所々にこげたアトがあり、小さな煙がたっている。

「ライトハウスーーーー!」

 両手に最後の短剣を握り締め、タラノが一気に駆ける。真っ黒にこげた右手へ、深青色の短剣で斬りつける。その手が青紫色に変わり、そのあと根元からポロリともげた。

「よし、いける!」

「き、きさまあああ」

 完全にライトハウスは逆上し、タラノへのみ意識を向けている。その隙に、私はゾタへ駆け寄った。頭全体に、なでるように手をかざす。蒼白く光りだした。ゾタが黒目をむく、意識を取り戻したようだ。

「ル、ルディコ」

「だいじょうぶ?」

「あ、ああ。タラノに加勢してくれ、すぐ俺もいく」

「うん、無理しないで」

 ちょうどタラノの脇腹にライトハウスの蹴りがヒットしたところだった。タラノの体が宙に浮く。みると、鎧にひびが入っていた。

「タラノ!」

 踏み込み、背中を狙い剣を突き出した。さっき斬り込んだ傷は、表面は切れているが肉では繋がっていた。後ろを向いたままジャンプして突きをかわし、空中で後ろに一回転して私の後頭部を思い切り蹴り上げる。私は前につんのめって、膝を地面についた。頭がくらくらする、意識が飛びそうになるのが手にとるようにわかった。

「うおおおおおお!」

 ゾタが飛び掛る。ライトハウスの首めがけ、渾身の力で剣を繰り出す。ズン、という音と共に首に刀身が刺さった。だが、刃の根元が粉々に砕け、ゾタは勢いよくライトハウスに体当たりする形となった。二人は合わさって地面に倒れこむ。

(こ、こいつの首までもがふざけた強度なのか……。くそ、俺の剣が)

 横になった状態でライトハウスはゾタの髪の毛を鷲掴みにした。

「ぐあ」

「ゾタ!」

 タラノがライトハウスの顔面めがけて短剣を突き刺す。瞬時に、髪を掴んだままゾタを顔の前にさしだした。ゾタの眼球の目の前で剣先が止まる。何とか寸止めることが出来た。

「くっくっく、こいつごと貫いていれば俺を倒せたかもしれないぞ」

(く、くそ…、以前より、確実にやり合えているというのに、その先が、決定的な打撃を与える事ができない…。このままでは、このままでは……)

「どうした? もう攻撃してこないのか」

 ライトハウスがゆっくり立ち上がった。髪を掴んだままで、ゾタは引きずられるような格好になっている。

「俺とした事が、一瞬我を忘れてしまったよ。実にすばらしい攻防だった。お前ら三人にインダーナザークを投与したら、さぞや面白い存在となるだろう。特にルディコ、エルフのお前に試してみたい」

 ライトハウスがチラッと見る。

(俺のこの短剣では、奴を怯ませるぐらいの事しか出来ない。ゾタの剣も壊され……、残ったのはルディコだけだ。ルディコのあの剣なら奴を確実に殺ることが出来る。だが……、これしかないか…)

 ゾタがライトハウスのすねを殴りつける。その姿はダダをこねる子供のようだった。

ライトハウスはゾタを一気に頭上まで引き上げ、思い切り投げ飛ばした。かなりの勢いでタラノに命中する。

「うがっ」

「ぐ、す、すまん、タラノ……」

「そ、それよりゾ、ゾタ、聞いてくれ…」

 二人がなにやら耳打ちをしている。意識を何とか失わずに正常に戻った私が、まず目にしたのはその姿だった。

(何をやる気なの……)

 二人はゆっくりと歩き出した。そして、ライトハウスの前に並んで立ちはだかる。

「何か作戦を立てたのではなかったのか?」

 タラノは両手に短剣を手にしているが、すぐに攻撃できるような構えはとっていない。腕を普通に垂らしている。ゾタにいたっては素手だ。一体、何を考えているのだ。

「この通り、俺たちはもうボロボロだ」

 ゾタが口を開いた。

「何度斬りつけても、お前に決定的なダメージを与える事は出来なかった。俺たちの考えは甘かったよ」

「ふ、そうか」

 ライトハウスは不敵な笑みを浮かべた。

「よく考えたら、俺たちにはもうこの国を守る理由がない。お前と戦う理由も。これは俺たちの意地の戦いだったんだ」

(な、何を言っているの……?)

「たが、そんなものも、お前の力の前に崩れ去った」

「何が言いたいんだ?」

「俺たちは死にたくない、生きたい。もうお前と無駄な戦いをしたくないんだ、だから、これまでの行いを許してくれ。そして、仲間として、向かいいれてくれ……」

「……くっくっく、何を言い出すのかと思えば、そんな事にひっかかる訳ないだろう」

「俺たちは本気だ。たのむ、あんな幹部どもよりよっぽど役に立つ。喜んで何とかっていう薬も受け入れる」

「くさい芝居だ、読めているぞ。油断させておいてタラノが攻撃を仕掛けるつもりなのだろう? だからゾタ、お前一人でしゃべっているんだ。俺がお前にのみ意識を向けた時を狙っている」

「ちがう、そうじゃない!」

 タラノが声を荒げた。

「じゃあ剣を手放せよ」

「……」

 タラノは剣を離そうとしない。握ったまま動かなかった。

「残念だったな、作戦がうまくいかなくて。ここでタラノをぶちのめせば、素手のゾタには何も出来ない、終わりだ。そうだろ?」

「……」

「そうなれば本当に心の底から仲間になりたいと思うかもなあ………おら!」

 ライトハウスはその掛け声と共にタラノの顔面をものすごい勢いで殴りつけた。無防備だったタラノの体は、その渾身の一撃によって遥か後方へと吹き飛ばされた。おそらく首の骨は折れている。最悪、……即死だ。

「かかったな」

「なに!」

 ゾタが殴った隙をついて、ライトハウスの背後から抱きついていた。両足で胴体に絡みつき、左腕を首にかけている。

「いくら化け物と…いえど、首を…締め上げれば…息は出来まい……!」

「ぐ……き、きさま……」

 ゾタは懐から小型ナイフを取り出した。一瞬振りほどかれそうになるが何とかこらえ、力強く握り締めたナイフをライトハウスの眼球にさし込んだ。

「ぐあああああ!」

 ライトハウスが絶叫と共に体を激しくよじる。その動きで再び振り落とされそうになるが、新たなナイフを取り出し逆の目にもさした。

「ルディコ! 今だ! 俺もろ共殺ってしまえ!」

「……!」

「は、はやく……骨が…はやくしろおお!」

 ライトハウスは飛び上がり、勢いよく背後から地面へ落下した。つまり、ゾタを地面に叩きつけたのだ。

「うがあ……」

 ライトハウスと地面にはさまれたゾタが唸り声を上げる。口から血を吐き出した。だが、そんな状態でもさらにナイフで心臓の辺りを突き刺した。

(あ、浅い……こ、これ以上…さ、ささらない…くそ……)

 私は立ち上がった。剣を握り締め、歩き出す。左腕はやはり動かない……。

二人のそばまで近づき、見下ろす形となった。

「ル、ルディコ……心臓を……」

「そ、そうしたらゾタも」

「か、かまうな……!」

 ライトハウスが起き上がろうと身じろぐ。

「うがああ」

 バキバキと骨の砕ける音がした。ゾタも限界の力を超えてライトハウスを押さえつけているようだった。

「ゾ、ゾタ」

「や、やるん…だ……無駄、死…にさせる……気…か」

 ゾタの苦しむ顔を見て、覚悟を決めた。

剣を逆さに持ちかえ、剣先を心臓に標準をあわせる。

「……や、やれ!」

一瞬目を閉じ、息を吸い込んだ。そして、目を見開くと同時に、思い切り剣を心臓めがけて突き刺した。深く、確実に、ライトハウスの体を貫く。

「ぐ……」

 ライトハウスの体が震えている。その震える手で、剣の刃を掴む。すさまじい力が掛かっている事が分かった。

「フフ…フ……」

「な、なにがおかしいの?」

 ライトハウスはその手で剣をさらに奥へと突き刺していった。

「ゾタ!」

 ゾタは目を見開き、同じように小刻みに震えていた。口からはあわ立った血が流れ出ている。

 剣を強引に抜き取り、ライトハウスの体を思い切り蹴飛ばした。反対側に転がり再び天を仰ぐ状態になった。刺した胸元を押さえ、もうそれ以上動こうとはしない。

「ゾタ、ゾタ!」

 ゾタは咳き込み、おびただしい量の血を吐き出した。

「や……やった…な……」

「うん! だから、もうしゃべらないで! いますぐなおすから!」

 ゾタには傷口を押さえる力も残っていないようだった。それ以前に、全身の骨がバラバラになり腕すら動かす事ができない。

 とりあえず貫通している胸元へ手を当てた。蒼白い光が溢れ出す。

「もうすぐだから、こらえて」

「……」

 傷が見る見るうちにふさがっていく。

「ゾタ、もうふさがったよ、もう助かるから!」

「……お、おれはいい……タ、タラノを……」

 依然、苦しそうではあったが、傷はふさがっているので、今度はタラノの元へ駆け寄った。

 殴られ吹き飛ばされた時の衝撃で辺りの木が、細いとはいえ数本折れていた。

 タラノは死んではいなかった。完全に意識を失っているが、首の骨が折れているだけで何とか一命を取り留めていた。

 すぐに治癒の呪術を施す。

「う……うん…」

 首の骨が繋がった時の軽い刺激でタラノは目を覚ましたようだ。

「ル、ルディコ…」

「タラノ! よかった」

「ど、どうなったんだ?」

「やったわ。ゾタが……犠牲になってくれたけど……でも、傷はふさいだからもう安心」

「そうか、作戦通りうまくいったんだな」

「ひどいよ、こんな、二人が犠牲になるような作戦立てて」

「これしかなかったんだ、許してくれ。さあ、ゾタの元へ行こう」

 ゾタの様子がおかしいのが遠目からでもわかった。目を閉じていて、全身の力が抜けているような感じに見てとれた。

「ゾタ!」

 二人とも慌てて駆け寄る。

「ゾタ、おい! しっかりしろ!」

 返事がない。だが、息はかすかにしていた。

「さ、さっき傷をふさいだだけだったから、今度は、全身に術をかけるわ」

 胴体を中心に、骨が折れ青く腫れあがっている箇所を入念に手をあてがった。

「くっ…くっく……そ、そいつは、たすからねえ……」

 こちらに顔を向け、ライトハウスは喘ぐ様に言った。青白い顔色で口から血を垂れ流している。なにより髪の色が白髪に変わっていた。生気を全て使い果たしたという感じだった。

「まんま…と、ひっか…かっちまった……よ。だがな…あんな作戦で…二人と…も無事に……すむわけ…がねえ。お、お前らだって…死を覚悟していたは…ずだ」

「……」

「全身の痛んだ箇所はすべてなおしたわ。後はゾタの生命力の強さを祈るだけ…」

「無駄…だ、死ぬのさ……そいつは」

「ゾタは死なないわ!」

 ライトハウスはさっきから笑みを崩さない。

「くっ…くっく……、そ、それに…しても、か、神に選ばれたのは、お前ら…だったの、か。お、俺という悪魔を…倒すために…遣わされた……。い、いや、そのさきの……」

「なに?」

「せ、聖騎士の剣は、神か、その僕である…聖騎士にしか使えない…。エ、エルフの聖騎士はいなかった。…みんな人間だ。な、なぜ、ル、ルディコ…エルフのお前が……」

「……私は人間とのハーフなのよ」

「そ、そうか、じゃ、じゃあ、父が…聖騎士の血を……」

「父……おとうさん? でもおとうさんは……。ま、まさか…」

 ライトハウスの呼吸が穏やかに、そして弱くなってきた。死が迫っているようだ。

「おい、最後に答えろ。お前は薬を投与されたといったな。一体お前は誰にその薬を投与されたんだ?」

 ひきつった笑みを浮かべたまま、ライトハウスは目をゆっくり閉じた。もう返事をする事は無かった。

「……」

 戦いには勝った。しかし、ライトハウスの最後の笑みが、私たちに敗北を宣言するかのように思えてならなかった。

「……ゾタは意識を戻しそうに無いのか?」

「わ、わからない。でも、絶対にゾタは気が付く。そして、笑顔で拳を突き出すわ」

「そうだ、その通りだ、ゾタが死ぬわけない、そんなやわな奴じゃねえ。忘れてたぜ、ははは」

「うん、そうよ、あのゾタなんだから」

「よし、いこう」

 タラノはゾタをそっと背に担いだ。そして、激しい死闘を繰りひろげたこの場所を二人で見渡した。不思議と、幼い頃の思い出の地に来たような、そんななつかしい気持ちになった。

 その地を後にし、山を降りた。

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