其之十二
「コラナス……」
「久しぶりだ、ゾタ。二人を行かせて良かったのか? お前だけでは死ぬことになるぞ」
含んだ笑みだ。
「ふざけるな、小さな山賊頭ごときに苦戦などするか。複数で組まれると厄介だからな、確実に一人ずつ仕留めさせてもらう」
剣を手にとり構えた。相手も槍を構える。
「昔の俺と一緒にしない方がいい」
「なに?」
一瞬の間もなく、一気に槍を突き出してきた。
(く、はやい)
横へ飛びこみ、何とか難を逃れた。槍はそのまま伸びきり、木に突き刺さる。と思いきや、そのまま大きな轟音と共に木をなぎ倒した。直径四十センチはあろうかという太さだった。
(バカな……)
「よくかわしたな。さすがだ。これはどうだ?」
頭上で槍を振り回しだした。ものすごいスピードで、刃先が何処にあるかまったく見えない。ブンブンと耳をつく音に邪魔され、神経を集中する事ができない。目にも木のカスなどが飛んでくる。
その時、相手の動きが止まった。足を踏み出し腕を前に伸ばしている。槍の先は、視界の下、腹だ。
「ぐおっ!」
体が吹き飛ぶ。腹を抱えたような前かがみの状態で、後ろに五メートルは吹き飛んだ。不運にも大木に背中を思い切り打ち付け、一瞬、目の前が真っ白になった。そのまま地面に前のめりに倒れこむ。
「もう殺してしまったか」
(こいつもか、こいつもライトハウスと同じだ……)
腹を押さえ、よろめきながらも何とか立ち上がった。
「立った、なぜだ?」
腹をまさぐる。手が湿らない。鎧の腹部の辺りを見ると、どこも貫通していなかった。衝撃跡のみで、体は無傷だ。だが、その衝撃で下のアバラが何本かイっているようだ。背中の肉も震えている。
「おかしいな、甲冑でも破壊する自信はあったのだが」
(そうか、このエルフの鎧のおかげか。それにしても、どう勝つ。腹に槍を受けた瞬間に手を伸ばしても、あいつの槍の長さを越えることは出来ない。かわすしかない)
「いくぞ」
今度はすさまじい速度で連続に突いてきた。目の前に刃先の残像が残るほどだった。後退りする。何度か先端が鎧に当たり、カチカチと音がする。
(このまま後退りしていたら、足を踏み外しかねない。そうなったら終わりだ)
右真横に木が現れた。数センチ右に下がっていたら肩がぶつかり、よろけていた。
(そうだ!)
ズボンのポケットに手を突っ込んだ。相手には見えていない。手を出し、右に避ける。
「木の裏に隠れても無駄だ!」
轟音と共に槍が木を吹き飛ばす。そのまま木は後ろに倒れこんだ。
「む、どこだ?」
相手が木に気をとられている内に、右斜め上に飛び上がっていた。
「そこか!」
「おそい!」
コラナスの顔面めがけ、手に握っていた数個の鉛玉を投げつけた。とっさに右手で顔をふさぐ。
(いまだ!)
残った左手で槍を突き出すが、あさっての方向へ流れる。もう既に、コラナスの左サイドを捉えていた。一気に剣を振り下ろす。狙いは伸びた左腕だ。
「ぐあああ!」
左腕が、振り下ろした剣と共に地面へ落下する。コラナスの上半身が後ろへのけぞった。横に構えなおし、そのまま一気に胴体へ振り切る。血しぶきが顔にかかった。コラナスは数歩うしろによろけ、そしてこちらに顔を向けた。
「まさか、お前如きにやられるとは……」
胴の三分の二を切り裂いた。普通ならしゃべるのもままならない。
「お前はどうやら、ライトハウスとは違う。速いが、奴ほどのスピードはなかった。その様子をみると、致命傷を与えたようだな」
ライトハウスはタラノの一撃に対し、何のダメージも負っていなかった。だが、コラナスは確実に負い、死に近づいている。口から血を吐き出した。
「ハァ、ハァ、俺を倒したぐらいでいい気になるな……、人間に、止められるわけがない……!」
「人間、に?」
コラナスはそう言い切ると、後ろに倒れしりもちをついた。その衝撃で軽く体がびくつき、背も地面についた。
「……人間ではない何者かが、やはりいるというのか……。二人だけ先に行かせたのは間違いかもしれない……!」