其之十
ヴィラニク大陸はL字型をした大陸である。その南部を統治するのがヴィル王国。
南西部にはザルジュと呼ばれる巨大な密森が存在する。
北部中央から北西部、さらには大陸の北部にかけて、広大な山岳が聳え立つ。全面、背の高い樹林に覆われているため、山賊の隠れ家としては恰好の地である。
北部中央、山のふもとを背に、王城が存在する。側に城下町があるが、何十年も人は住んでいない。
中央部は、草木も生えぬ平原が広がる。
巨大な山の姿が目に飛び込んでくる。背の高い木々のせいかもしれないが、その存在感に圧倒され飲み込まれそうだ。
「着いたな」
「何度みてもすごい迫力だ。恐ろしいぐらいに」
「これからここが戦場となる。俺たちにとって、圧倒的に不利な最悪の状況だ。だが、やるしかない」
二人はおもむろに足を踏み出した。私がとっさに静止する。
「まって、ねえ、まさか正面から突っ込むの?」
「そうだ、それしかない」
私のいうことが間違っていると断言するような口調だった。
「なんで、以前話をしたとき、作戦があったじゃない」
「俺たちが攻め込む事は既にばれているんだ。奇襲のかけようがない。あいつらも準備万端で構えている。横から攻めようが真正面から攻めようが同じ事」
「……」
「ものすごい数の敵をたった三人で相手することになる。いいか、目指すはライトハウスのみだ。誰が傷ついても振り返らず先へ進め。かまってたら共倒れだ。刺し違えても奴をやる」
その時、一番考えたくない最悪の状況が頭をよぎった。
「……ねえ」
「わかっている。あそこにいる奴ら全員がライトハウスのようなふざけた力を持っていたら、俺たちは終わりだ」
二人も気付いていた。これは間違いなく、死ぬ事が目的の特攻である。
「いくぞ」
「ちょ、ちょっと待って!」
「なんだ!」
二人の腕を掴む。その手を振り解き、怒りに満ちた表情で私を見た。それに怯むことなく、私は指をさした。
「あ、あそこ……」
「え?」
指差した先を二人は見やった。
「……」
西の彼方に人影が見える。一人や二人じゃない。五、六十人はいる。雪の粉を巻き上げながら、こちらへ近づいてくる。
その面々を見て、私たちは驚きを隠せなかった。
「マスター……」
「よう」
ゾタもタラノも面食らった表情で、何も言葉がでなかった。
「何をそんなに驚いているんだ?」
目の前にいるのはみんな、ネガーの酒場によく来ていた人達だった。
「死んだんじゃ……」
タラノが小声でつぶやいた。
「おいおい、勝手に殺すなよ。町は潰されたが、俺たちは生きている」
「一体どうやって……?」
「実はゾタの言ったことが気になってな、一応準備していたのさ。だが、ライトハウスの力は半端じゃなかった。町を守ることは出来ず、ほとんどの者は殺されたが、俺たちは逃げ切ることが出来た」
「そうだったのか」
「その後、遥か遠方から奴らの行動を監視していた。お前らとライトハウスの戦いも見た。思ったよ、あいつらとやりあえるのはお前らしかいないって。だから全面的にサポートすると皆で決めた。森へ入っていったのは謎だったが、必ずここへ来ると信じていた。俺たちも連れて行ってくれ、必ず役に立つ!」
三人で顔を見合わせた。そして、ゾタがマスターに手を差し出す。二人はがっちりと握手をした。
「ありがとうマスター、助かる」
「なあに、俺たちの国だ、俺たちで守るのがスジじゃねえか。それと、マタタの生き残りもいてな、そいつらも別の所から攻め込む事になっている。心置きなく戦ってくれ。あいつを、倒してくれ」
皆の思いが一つになっている事が手にとる様に分かった。ライトハウスの脅威を目の当たりにした事が、他ならぬ原因であろう。直感したのだ、このままでは本当にこの国は潰されると。
足を揃え、突き進む。この国を愛した男達と共に。