プロローグ
初めての公の場に出す小説です。勝手も分からず書いたので至らない稚拙な内容、文章だとおもいますが、読んでいただけたら嬉しいです。
厳しい評価も僕の糧になるのでじゃんじゃん感想を書いて貰えると凄い良いです!
彼女はアルカイックな笑みを浮かべて言った。
「貴方が私を忘れない限り、私はここにずっといるのよ」
サラサラの豊かな金髪、非常な程端麗な鼻梁、蠱惑的で、目を惹き付けられる麗しい滑らかな白い身体。そして僕という存在が溶け込んでしまいそうな、美しく輝く菫色の瞳。
女神、と形容すべき姿の彼女はさりとて、人間らしい仕草で左手で右肘を、右手を自らの首に添えて今度はいじらしく笑いながら、言った。
「だからね。私を求めて、愛して、望んで。そして信じて。そうすれば何時でも貴方を癒せる。愛せる。与えてあげられるの。ここにいられるのよ。ねぇ? 」
僕の超至近まで寄って、僕の唇にその白い手を伸ばして、彼女のほっそりとした指がそっと触れた。彼女のしっとりとした指の感触と熱が、唇を通して僕の脳ミソを大いに刺激し、脊髄も戸惑いと興奮に震えた。
「だからぁ……こうして、ね? んん」
甘く吐息のように言った彼女は僕に身体を密着させ、くぐもったエロティックな声を発した。僕は彼女のやわらかさと、甘いミルクのような香りに心臓を走らせながら、上擦りつつも彼女にーー初めてだと思うーー一語一句間違ってしまわないように話しかけた。
「えっ、と。分かった。僕は君を忘れないし、君を求めるし、愛すし、望むし、信じるよ。だから、えっと、……僕を導いて、僕を求めて」
今や僕は彼女の腰に手を回し、しかと抱いていた。彼女が何処へか消えていなくならないように。
まさに理想だ。彼女は僕を求め、僕は彼女を求める。
それはとても
「幸せね。貴方にこんなにも求められるのは初めて……」
彼女は僕の胸に顔をうずめた。彼女の金色に輝く小さな頭が見える。
僕はその金色の頭を、優しく撫でた。くすぐったがるように僕の胸の中で彼女が身をくねらせる。そのまま撫で続けていると、身動きを止めて、ただ静かになった。
永い間抱き合っていた気がする。いつの間に離れた僕達は、逢瀬の終わりが近いのを予感して視線を熱っぽく絡み合せた。後少しだけでも良いから、彼女と過ごしたいーー
「また、逢えるかな」
僕は言った。彼女は聖母のように微笑むと、愚図る子供をあやすような優しい声音で
「逢えるわ、必ず。貴方が私を想っていてくれる限り。私はずっとここにいるから。貴方が望めば逢える。貴方が強く求めれば私から逢いに行ける。だからね、心配しないで。ねぇ? 」
そうだな。と僕は思った。同時にはっきりと逢瀬の末が足元まで来ているのを理解した。だから右手を伸ばして本物だと確かめる思いで彼女の頬に触れた。生命の熱い奔流を感じた。
僕は、言った。
「そろそろだ」
「ええ」
彼女は僕の右手を触って彼女の重さを僕の掌に少し載せた。短く、さりとて決して軽くは無い寂寥を含んだ言葉で僕達は話した。
最後に僕は最も知りたい事を訊く事にした。想いを告白するかのように張り詰めながらも、素早く問うた。
「僕は、君の名前を知らないんだ。…答えてくれるかい? 」
彼女は一瞬、絶句した。よもや答えてくれないのか、と思ってすがる気持ちで彼女のヴァイオレットの瞳を見詰めたら、何故か彼女は僕を責めるような強い目線をジトッと返した。そして、ミステリアスに答えた。
「私にはまだ名前が与えられていないの。貴方も、分かっているでしょう?」
訳が分からなかった。言語が違うのでは、と思える位に理解出来なかった。
「僕が…? 何故……? そんな事では君を」
見付けられないかも知れない。と言いかけたのを寸で危うく心の奥に呑み込んで、それきり僕は何を云えば良いか分からなくて、何も言えなくなった。
彼女は僕が押し黙ったのをじっと見て、それから慈愛を含んだ微笑を浮かべた。そして僕の問の本当の答を答えようと口を開いた。聞きたくない。僕は今にその口から出る言葉を恐れた。
「貴方がいちばん知っているのよ。ねぇ? 理弥君。私を求めたのは貴方なんだから。私を想って貌を描いたのも貴方。貴方が『可能性』という朧げな存在に、よすがとして『私』という形を与えたのは貴方なのよ」
信じたく無かった。考えたく無かった。彼女が僕の造り出した虚構だと。目前に存在する人が本当は何処にもいないと。
「私は存在するわ。ここに、貴方のこころに。忘れないで、信じて、お願い。ねぇ…? 」
彼女は言うにつれてみるみる泣きそうな顔になり、大きな菫色の瞳は水面のようにゆれた。今までの自信を持っていた婀娜な彼女は今は幼い少女のようだった。僕は彼女が僕の想像であれ何であれ泣かせてはならないと思ったから、もう一度抱きしめて、
「ごめんね」
と一言だけ言った。それから頭をそっと触れるように数度撫でた。彼女は僕の腕の中で震えていたけど、「忘れないから。君がいるって信じるから」と言うと、安心したように落ち着いた。
ややあってーー刹那の時だったけれどーーそわそわ彼女は顔を上げると、
「約束だよ? 」
と涙の跡がある、そんなになっても美しい顔で、小動物を連想させる態度で求めた。僕は彼女のそんな態度に図らずもどきっと来て、言った。
「や、約束だ」
***
僕、十一理弥は目が覚めたーーがばっと跳び上がるかのように上体を起こした僕は早朝の暗い部屋を見渡す。一般的な男子の好む調度品と散らかった物達が無言で在るのみで、愛おしい彼女はどこにも居ない。暫く後、あれが夢の中での事だった、現実には彼女は存在しないと理解して、悲しくて涙を落とす。何で彼女が居ないんだろう? どうして可能性を、彼女をあの時想像してしまったんだ僕は。
僕は後悔した。
「クソッ」
悪態を口の中で独り呟いてから息を吐く。また彼女に逢えるだろうか? と思考の何処かで思い、そしてベットに潜り込んで、二度寝した。