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自転車アブノーマル  作者: 謎の自転車乗り
1章.出会い、始まり
7/9

6.

 ◆ 


 それから毎日、少女はセナの店にやって来た。

 

 アイカは始めの方こそやりづらさを感じていたが、すぐに徹底的に無視を貫き通す姿勢に入った。

 

 少女は最初に現れたときと同じように4人掛けのテーブルをひとりで占領している。常にアイカのことを監視しているようだったが、どうやって買ったのかも知らない酒をたまにちびちびと飲んでいる。酒の種類は毎回変わっているようだった。しかし、ひとりで一晩中そこにいるのだから普通ならば迷惑と考えるところだが、アイカの知ったところではない。最初に少女が現れたときに自分が払わされる予定だった酒代も知ったところじゃない。

 

 ソーカなどの店員たちはアイカが散々脅したおかげで特に何も言ってこなくなったが、悪い意味で胆が据わった用心棒の男たちはいつまでたっても茶化してくるのをやめなかった。さすがにアイカが機嫌を損ねて帰ってしまうほどまで言い続けることはなくなったが、それでもひやかしは止まらない。


 さらには、自らが少女に惹かれる者まで出てきた。実際、はやし立てることをやめた店員たちの中でも、少女の存在は注目の的になっていた。輝きを失うことのない白の髪は嫌でも目に入るし、肌のうるわしさ、大きくてぱっちりと美しい目、小ぶりだが形の整った鼻と唇、もっちりと柔らかそうな頬、丸っこくて小さく、端正としか言いようのない輪郭。どれを取っても女性なら理想とするような出来栄えだ。


 そして、彼らの中で何よりも驚きなのは、そんな美少女が、見た目も性格もごつごつしていていかつい、どう考えても不釣り合いなアイカと関わりがあることだった。しかも、ある意味少女の関心はアイカに独り占めされている。中には密かに嫉妬まで覚える者までいた。


 勇気ある用心棒が数人言い寄ろうとしたが、どれも軽く一蹴される。少女の関心の的はあくまでアイカひとりのようだった。自分の容姿について言及されても一切こだわる様子を見せず、あくまできつい目つきで、アイカを睨み続ける。


 果てには、客の中から少女に近寄る者も出てくる始末だった。かなり強引に詰め寄ろうとする者まで出てきたが、どれも少女の気迫に負けるか、ユオルら保守派(あくまでアイカと少女の関係を発展させることにこだわる一派)によって阻止された。


 アイカはしかし、頑なまでに問題から遠ざかることに徹した。少女をいない者として扱い、話題に触れられると尽く無視をする。


 ここまで毎日付きまとわれると、下手をすれば犯罪に発展しかねないところだが、アイカはそのことすらも気にしなかった。


 我慢比べのつもりだった。どんなことをされても動じないことで、こちらに要求を呑ませることが不可能だということを相手にわからせ、諦めさせるか、少なくとも譲歩させたかった。


 アイカは何よりも、少女の行き過ぎた身勝手さに腹が立っていた。他人の金を盗んでおきながら、仕返しによって出た損害をすべてこちらのせいにし、自分は何も悪くないように主張するなど、自己中心主義にも程がある。子どものわがままなどで済まされることではない。


 いつかは少女の方が諦めるだろうと思っていた。諦めてそのうちいなくなるか、多少は反省の態度を見せてくることだろうと思っていた。


 いくら自我の強いとは言え、たかが少女。子どもである。それに負けるのは、アイカの男としてのプライドも許さなかった。


 そして、一週間ほど経ったある日のことだった。


 我慢比べという意味ではアイカの勝ちだった。少女の方がしびれを切らし、行動に出たのである。しかし、これまたアイカの予想とは違う形でのものだった。


 アイカは店を巡回していた。主に揉め事が起きていないかを見回るためだが、こうすることで好戦的な客を抑制し、事前に揉め事が起こるのを防ぐという目的もある。


 特に目に付くものはなく、厨房に戻って休もうかと考えていた頃だった。不意に背中を突かれた。


 そして、後ろを振り返った途端、左足の脛に激痛が走る。アイカは呻いて思わずうずくまる。覚えのある痛みだった。そう、最初に白髪の少女に会ったときにも同じところを同じ強さで蹴られたのだ。


 その記憶通りに、そこには少女がいた。相変わらず突き刺すような鋭い視線で睨みつけてきている。


 この時にはもう怪我はほとんど治っていたようで、額の包帯も取れていたが、左手首にはまだ包帯を巻いたままだった。やはり階段から落ちたときにかなり痛めていたようであるが、もうあまり気にしている様子でもない。


 アイカが痛みと激闘している間に、少女は有無を言わせぬ調子で言ってきた。


 「いつまで待たせるつもりなの! 早く直してよ!」


 アイカもじんじんと響いてくる痛みを必死に堪えながらも急激に頭に力が上るのを感じ、何とか立ち上がって負けじと怒鳴り返した。


 「だからなあ、お前がそういう態度を取る限りいつまで経っても直してなんかやらねえよ! いつまで待たせるのかってのはこっちの台詞だ。いつになったら態度を改めるのかと思ってたら、頭の中は何も変わってなかったのかよ!」


 突然の出来事に、周囲がしんと静まり返る。店の用心棒と少女の喧嘩と言う予想外の事態に驚いたようで、驚きや好奇を湛えた視線がふたりに集まった。


 アイカは図らず醜態を晒してしまったことに並々ならぬ屈辱を覚えた。用心棒というものは客になめられるようであっては務まらない。客に威圧を与え、下手なことをしたら問答無用で追い出されるということを態度を持ってして示さなければならないのに、小さな子どもに遅れを取ったところなどを見られては、用心棒としても男としても飛んだ失態だ。


 火口から吹き出してくる溶岩のような怒りをあらわにしてアイカは少女の腕をひっ掴んだ。


 「ちくしょう、もう我慢ならねえ。力ずくで追い出してやる!」


 アイカは相手が少女だということも忘れて思い切り腕を引っ張った。アイカの筋骨隆々な腕と違って、力を入れれば折れてしまいそうなくらい細い腕だ。


 「痛いっ、放して!」という少女の悲鳴も耳に入れず、アイカは無理矢理引きずるようにして店の出口へ向かう。少女がテーブルや椅子に引っかかるのも気にしなかった。


 やがてアイカの歩調についていけなくなった少女は片腕を取られたまま床に倒れこんだ。


 さすがにそのまま本当に引きずっていくのはためらわれ、アイカは一旦腕を放す。アイカは何も気にしていなかったが、掴んでいたのは包帯を巻いている方の腕だった。


 こう乱暴に扱われたのではさすがに痛んだらしく、少女は束の間その場にうずくまった。しかし、苦しむ少女に同情している余裕など、怒りに支配された今のアイカにはない。


 「立てよ!」と怒声を浴びせかけ、少女の長髪を丸ごと掴み、花を根っこごと引っこ抜くかのように思い切り引っ張って無理矢理立たせた。


 これには少女も驚いたらしく、悲痛な叫びを上げる。


 「嫌っ、やめて、痛い! ねえったら!」

 

 アイカはしかし、力を抜かなかった。髪をそのままむしり取るかのような勢いで引っ張り、少女を強引に歩かせる。


 騒ぎを聞きつけた用心棒たちが駆けつけ、アイカを止めようとしたが、あまりの気迫に今回ばかりは止めようがなかった。


 猛然と突進する熊のようにアイカは店内を一直線に横切った。吹き出る湯気が目に見えるような憤怒の勢いだった。


 髪をひっ掴まれ、大の大人の歩調で引っ張られては少女には成す術がない。少女はひたすら、「やめて」、「痛い」、「放して」の3語を繰り返し叫んでいた。


 アイカは少女を店の入り口の前まで連れて行くと、通りへと放り投げた。散々引っ張られた挙句に体勢も整わないまま投げられた少女は受け身を取ることもできずに地面へ倒れこむ。


 髪を乱し、衝撃のあまり立てないままでいる少女に向かってアイカは憤然として言った。


 「二度と来んなよ! 今度来たら追い出すだけじゃ済まさねえからな!」


 少女は何も言い返さず、今にも涙が溢れ出そうな目でただ睨みつけてきた。痛み、悔しさ、屈辱の籠った強い視線だったが、アイカは心を動かされる前にさっさと背を向け、店内へ戻る。


 仕事を再開してからも、しばらくは動揺が収まらなかった。また少女が戻ってくるのではないかという気もしていたが、いつまで経っても白い髪が目に映ることはなかった。


 基本的に面倒事は最初から避けるか、腕ずくでさっさと終わらせてしまうアイカだから、普段本気で怒ることはあまりない。それだけに今回の爆発は尋常ではなかった。


 周りにいた者たちも気まずさを感じたのか軽口を叩くのをやめ、アイカの行動を咎めようともしなかった。むしろ、近くをすれ違ったときにはある種哀れみのような視線を送る。


 当の本人はその意味に気づかず、大して気にも留めない。アイカからしてみれば、邪魔者もいなくなったし、厄介な絡みをされることもなくなったからすっきりした気分でいた。


 少女が怪我をしているにも関わらず無理矢理腕を引っ張ったり、髪を引っ張るという、女性にとっては侮辱とも言える行為をしたりしたことに対しても何も感じていなかった。


 ――少なくとも最初のうちは、の話であったが。


 その翌日、少女は一晩中姿を現さなかった。


 いつもだったら少女がやって来る時間になってもあの白い髪がどこにも見えなかったとき、アイカは何とも言えない爽快感、満足感を覚え、勝利の念に駆られた。


 自分は我慢比べに勝ったのだ。最初から負けるつもりなどなかったが、やはり昨日の一撃必殺とも言える行為が効果を成したのだろう。少女はいないし、誰も何も言ってこなくなった。大勝利だ。


 しかし、仕事中のあるときに、話の流れでソーカに言われたひとことがアイカの気持ちに迷いを生じさせる。


 「あんたってサイッテーよね」


 ソーカの眼差しには溢れんばかりの軽蔑が込められていた。


 「何だよいきなり」


 「何だよじゃないわよ。昨日自分がしたことも覚えてないの? そんなでかい図体して、女の子にしていいことと悪いことの区別もつかないわけ? 抵抗もできない子の腕を無理矢理引っ張ったり、挙句の果てには髪を引っ張るなんて。そんなクズ男がどこにいるってのよ。いい? 髪っていうのは、女にとっては命の次に大切なものなの。それをあんな風に力任せに引っ張るなんて、最高に無礼で最低な行為よ。それに、あの子の髪を見なかったの? あんなに透き通った綺麗な色をしている髪なんて他にないわ。世界中探してもふたりといないわよ、きっと。それがわかんなかったって言うなら、あんたの目は節穴ね。眼窩も頭蓋骨の中も空っぽの最低なクズ男よ。クズ、クズ、クズ」


 アイカは顔から火が出る思いだったが、何も言い返すことができなかった。ひとつには店の中の順位付けとしては格上のソーカにここまで強く言われたからというのもあったが、もうひとつには、彼女の言い分にも一理あると、無意識のうちに感じてしまっていたからだった。


 これまでに数々の面倒事に会い、常に至極効率的で楽だと思われる方法で回避してきたアイカだが、相手が子どもだったのは今回が初めてだった。


 大の大人相手のこれまでなら相手に対して憐憫の情の欠片も持たずにあたることができたのだが、今回は違う。少なくともアイカは時間が経つにつれ、あの少女に対して、悪いことをしたのかもしれないという思いを薄々感じ始めていることを否定することができなかった。


 特に彼の癪に障るのが、それがただ単に相手が子どもだったからなのか、もしくは、『あの少女』だったからなのかがわからないことだ。しかしアイカはおそらく、昨日の出来事のように、相手が子どもだったとしてもその気になったら無慈悲に手を下してしまう。子どもだから仕方ないなどという世間的な理屈は彼には通用しないのだ。邪魔な者は誰であっても進路から排除する。それが彼の信念だからだ。


 しかしアイカは今、少女を排除した後となる今、自分のしたことに対して何やら後ろめたさを感じている。これまでにあまりなったことのない気分だったため、奇妙な感覚だった。


 これはやはり、相手があの少女だったからなのだろうか。仮にそうだったとしても一体なぜ?


 ソーカが言った通り、あの少女の髪は自分でも認められるほど美麗なものだった。やったときは何も考えていなかったが、よくよく思い出してみると、掴んだ感触は髪と言うよりも、ふわふわした綿を鷲掴みにしているようだった。およそ普通とは言い難い代物だ。


 そして、その髪を筆頭に、あの少女に関しては何やら何までが整いすぎている。小ぶりな顔立ちから華奢な肢体まで、ただ単に綺麗だというよりも、アイカにとっては非現実的と言っても過言ではなかった。


 これが仮に王女や上層階級の家庭の娘だったとしたら、当たり前と思って特に目を留めることもなかったかもしれないが、あの少女は現実に、自分が関わるものとして目の前に現れた。それに、間近で見たからわかったことだが、あの少女は視覚的なものを超えた魅力とも言えるものを持っている。下手に近づけば強制的に惹きつけられてしまう引力、あるいは魔力とも言うべき力だ。


 アイカの今の気分はむしろ、綺麗な女の子に暴力を振るってしまったという後ろめたさと言うよりも、得体の知れないものに手を出してしまった不安感に近かった。自覚はなくとも、アイカは奥底で波打つような胸騒ぎを覚えていた。


 結局、その日に少女は現れなかった。


 そして、事件が起こったのはその次の日だった。


 ◆


 この日も少女は現れなかった。それを確認したアイカはなるべく気にしないように仕事にあたっていた。


 特に大きな問題もなく、比較的平和と言える日だ。とは言っても、先日のような大きな騒ぎはそんなに頻繁に起こるものでもない。小さないざこざがちょこちょこと起こる程度ならアイカにとっては天下泰平だ。


 特にすることもなく店内をふらふらしていると、ふとユオルがやって来て話しかけてきた。


 「おい、アイカ。お前、どうすんだよ」


 いきなり言われて意味がわからず、アイカは頓狂な声で答えた。


 「はあ? 何の話だよ」


 「あの子のことだよ。本当に来なくなっちまったじゃねえか」


 アイカはもはや呆れることはせず、ただ昨日はこの話題に触れてこなかったのにもう掘り返してきたことに素直な感心を覚えた。職場内で一番仲の良い(?)ユオルならではの早業である。


 アイカは極力何も気にしていない風を装って、泰然と答えることに努めた。


 「知らねえよ。二度と来るなって言ったんだ。頭冷やして悔し泣きでもしてんじゃねえのか?」


 対してユオルは本気で心配してきているような様子だった。


 「俺は本気で言ってんだよ。いいか、アイカ。よく考えてみろ。お前の方こそ頭冷やして、あの子の姿をよく思い浮かべてみろ。あんな子、他にいねえぜ? あれは可愛いの一言で片づけられる代物じゃねえ。顔から体まで完璧じゃねえか。今は確かに胸も膨らみきってない年齢だけどよ、成長したらすごいことになるぞ。数々の女と渡り合ってきた俺だからわかるんだ。あんなのは見たことねえ。あの髪にあの目、あの体……ああ、考えるだけで鳥肌が立つぜ。この世の物とは思えねえよ。悪魔の魅力とはまさにああいうのを言うんだろうな。ちゃんとした服着せれば、最高に色気立つぜ。ああ、アイカ、もったいねえよ。何で逃がしちゃったんだよ。さすがに、あの仕打ちはねえぜ」


 「悪いけど、俺にはお前の頭の中が理解できねえよ」


 アイカは素っ気なく返した。本心だった。


 「ふざけてる場合じゃねえって! いいか、正直に言って、俺はお前が羨ましいんだ。今まで呆れるくらいに女に縁のなかったお前が、いきなりあんな子に巡り合えるなんて。年は離れてるかもしんねえけど、そんなの関係ねえよ。女は取ったもん勝ちだ。そうだよ、本当のことを言えば、俺が奪っちまいたいくらいだった。奪ってぐちゃぐちゃに犯してやりたいくらい可愛かった。でもよ、さすがに親友といい関係になれるかもしれない子を取るなんてことは俺にはできない。俺は心の底から応援してたんだ。なのに、あんな風に逃がしちまうなんて!」


 「そんな下劣な奴に親友呼ばわりされる筋合いはねえぞ。俺もはっきり言うけどよ、そんなに欲しいならいくらでもくれてやるよ。誘拐でも何でもして、何ならついでに俺の金取り返してきてくれよ」


 「ああもう、お前って奴は!」


 互いに心を理解できない者同士の噛み合わない会話はこの調子でしばらく続いた。


 アイカは実際、ユオルが持っているような類の興味は欠片も持っていなかった。女性の魅力についてアイカに語ろうとするのは、平和主義の非戦闘員に対して剣の優秀さを語るのと同じようなものなのだ。


 アイカの少女に対する興味はもっと別なところにあった。異風な容姿もさることながら、彼女の素性が未だに全く不明なのだ。


 少女はアイカに対して、自分のことが何もわからないと語った。家もなくて親もいない。何も覚えていない。だからひとりで生き延びるしかない。


 言葉だけ聞けば、事故や強盗などで親を亡くし、乞食生活を送らざるを得なくなった子どものようにも聞こえる。実際、これがいかにも不健康そうでみすぼらしい格好をした子どもなら何も不思議はなかっただろう。


 不可解に思ってしまうのは、これがあの少女だからだ。少なくともアイカの目には、あの容姿端麗な少女はただの乞食には映らなかった。それに、もうひとつ、そもそも本人が自分の素性をわかっていないという気になる点がある。記憶喪失のように聞こえるが、だとしたら一体なぜ少女は記憶を失ったのか。


 それもこれも、違う子どもだったら全部偶然ということで片づけられたかもしれない。しかし、これがあの嫌でも目を惹かれる白い髪と掛け合わされると、どうしても引っかかってしまうのだった。


 さながら、違う世界から突然やって来たのだとでも言っているかのように。仮にそうなのだとしたら、これは前代未聞の大事件だ。アイカはとんでもない面倒事に関わってしまったことになる。


 気にしないようにすればするほど、アイカの頭は勝手にこの謎に引き寄せられてしまっていた。少女が姿を現さなくなってしまった今だからこそ、余計に気になるのかもしれなかった。


 適当にきりを付けてアイカは仕事に戻る。腹立たしいことに、少女への関心がアイカの心の中で占める割合は刻一刻と大きくなる一方だった。


 頭では拒否しようとしても、心が勝手に動いてしまっているような感覚だ。空前の気分にアイカは不快感と共に戸惑いを募らせた。


 それが人間の身体に備わる未知の力による予感、虫の知らせとでも言うべきものだったのかはわからない。しかし、アイカの心は少なくとも、何の動機もない自分勝手な動きをしていたわけではないようだった。


 ユオルと話してからそんなに経たないうちに、物理的な前触れは何もなくして少女はやって来るのだった。それも、これまでとは比較にならない災厄を引き連れて。アイカの命運を決する、轟轟と轟くおぞましい不吉を秘めに秘めた、冷酷で強大な災厄だった。


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