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自転車アブノーマル  作者: 謎の自転車乗り
1章.出会い、始まり
6/9

5.

 ◆

 

 店内はちょっとした混戦状態に陥っていた。誰が起爆剤になったのかはわからないが、これだけ混んでいる店内だ。一か所で勃発した諍いが周りに飛び火し、大きくなることはしょっちゅうある。

 

 しかしこの日は、それも少しばかり度が過ぎていた。一階が階全体ごちゃ混ぜになって乱闘になっているのだ。客が客同士で殴り合い、用心棒と取っ組み合い、何が何だかわからなくなっている。怒声や奇声、謎の歓声が飛び交い、テーブルや椅子は竜巻に巻き込まれて吹っ飛んだかのように散乱している。飲み物や食べ物は床に飛び散り、店員は手出しができず、それはそれは見るも悲惨な光景だった。

 

 交わる気のない客は店外か階上に避難している。とてつもない営業妨害だ。

 

 アイカは手の付けられない連中を片っ端から殴り倒した。しかし、この乱闘の中だ。自身も無傷ではいられない。騒ぎが収まる頃には、アイカも体中にあざを作っていた。一階はもはや店と呼べないほどの被害を受けていた。

 

 幸い厨房は店員や用心棒たちが必死で守ったため、被害は最小限に食い止められたが、それでも飛んできたものに当たった酒瓶がいくつも床に落ちて砕け散っている。

 

 上の階にも被害は及ばなかったが、1階の被害だけでも目に余るものだった。

 

 倒れた客は外に放り出し、不満そうな客は帰らせる。この店の前に、店内で起こった諍いによるいかなる被害も当店は弁償しないという旨の看板を立てているのは、まさにこういった事態を想定してのことだった。

 

 それでも憤懣たる態度を取る客も当然いる。そういった者の対処をするのもアイカたち用心棒の役目だ。アイカのようにいかつい顔でたくましい体躯の男を何人も前にすればたいていの者が怯えて逃げるし、逃げなかろうと力尽くで追い払うだけの話。朝飯前の仕事である。

 

 腕仕事の他は用心棒の専門外だ。散らかった店内を片付けるのは他の店員の仕事である。給仕係が慌ただしく床を掃除し、机や椅子を元の位置に戻している中、アイカは近くに落ちていた椅子を拾って中央の厨房の脇にどっかりと腰を下ろした。

 

 一階は今日限り使用するのをやめたが、上階での営業は続いているため、厨房の中も慌ただしい。しかし、これだけの騒ぎがあった後だからか、上階の空気はいつもより冷めているようだった。客たちの活気が伝わってこない。閉まっている屋根に打ち付ける雨の音が聞こえてくるくらいである。いつもは夜通し熱が冷めることのない酒場であるから、何だか不思議な気分だった。

 

 面倒な店だ、とアイカは思った。この店だけではないが、酒場にはいろいろな客が集まってくる。その中でも多いのは、血気盛んな暴漢たちだ。この街で暇を持て余している者から、大陸中から集まってくる旅の戦士たち。旅をする者にもいろいろな種類があるが、道途で敵の襲撃に会ったときのためにある程度の戦闘技術を備えている者が多い。敵と言うのは、盗賊や猛獣、竜など、道行く者を誰彼かまわずに襲ってくる連中のことだ。この大陸では特に竜の襲撃が多いため、対竜用の訓練を積んでいる者が多い。

 

 そういった竜稼業の者から盗賊まがいのあらくれ者たちが日ごろの鬱憤を晴らしにやってくる店だ。腕自慢が集結して酒に身を任せているのだから、喧嘩が起きない方がむしろ不自然な場所なのだ。

 

 こんな店を続けていられる、または続けたいと思うセナの気持ちがアイカにはわからない。だが、そんなことはアイカの管轄外だ。ここで仕事をして金をもらう。それができれば彼にとっては十分なのだ。

 

 店員たちの慌ただしさを尻目に完全に休憩体制を取っているアイカのそばにユオルがやって来た。彼も顔にすり傷を作り、服のあちこちが破けている。乱闘の凄まじさを改めて伺わせる出で立ちだが、顔は最後に話した時と同じようににやにやとしていた。

 

 面倒な奴が来たと思ったアイカの予想を超える面倒事が、この同僚によって発覚するのだった。

 

 「よっ」と、ユオルは何事もなかったかのようにアイカの肩に手を乗せる。

 

 アイカは邪魔らしくその手を払ったが、ユオルはしきりに意味ありげな笑みを浮かべながら何かを目配せしてくる。

 

 アイカはひたすら無視を貫こうとしたが、ユオルが「ほら、見てみろよ」と言わんばかりに厨房の方を見るように仕草で伝えてくる。従わない限りこの面倒は永遠に続くと思ったアイカは仕方なく、すぐにやめるつもりで厨房に目をやった。そして、後悔した。すぐに視線を戻すつもりが、戻せなかったのだ。

 

 厨房に向かう形で並んでいるカウンター席に、何食わぬ顔で座っているあの白髪の少女がいたのだ。

 

 

 ――すっかり忘れてた!

 

 

 激流が押し寄せてくるような勢いでアイカはつい先ほどのことを思い出した。乱闘のせいで中断していたが、この少女とのやりとりはまだ終わっていなかったのだ。

 

 なりふり構わずアイカは飛び上がり、少女のもとへすっ飛んだ。既に十分厄介なことになっているのに、この少女がここにいると面倒が加速度的に肥大することになりかねない。カウンターテーブルを挟んで向かい合う形になり、周りに聞こえないように声を小さくしながらも早口でしかめっ面の少女を捲し立てた。

 

 「おい、いいか、よく聞け。とにかく、今すぐここから出てけ。説明はなしだ。話は後で聞いてやるから、とにかくここには来るな。ぶん殴られたくなかったら、今すぐ出てけ。面倒なことになる」

 

 アイカの焦りなど微塵も伝わっていない様子で、少女はぽつりと言った。

 

 「嫌」

 

 「嫌、じゃねえんだよ! そもそも、ここはお前みたいな餓鬼が来る場所じゃねえんだ! 痛い思いしたくなければさっさと出てけ!」

 

 「これ直してくれたら、出てってあげる」

 

 再び差し出される宝石のペンダント。店内の明かりに照らされ、さっきよりも鮮明に見えるようになったそれは、やはり一見してただのペンダントのようだった。

 

 しかし、頭を抱えそうになって、アイカはふと、ぱっと目が覚めたときのような奇妙な感覚に囚われる。

 

 

 ――これは、ただのペンダントじゃない。

 

 

 そう思ったのは、ペンダントから放たれる不思議なオーラのようなものに気が付いたからだった。

 

 目を凝らして見ると、その中心にあるのは入れ物にはまっている宝石のように思える。


 とは言っても、実際にオーラが見えたわけではない。ただ、何の関心もなかったのに突如として惹きつけられてしまったのは、その宝石が放つ摩訶不思議な力に魅了されてしまったとしか言いようがなかった。

 

 宝石の色は青い。深く、濃い青色。少女の瞳と同じように、大海原がそこに凝縮されているような青色。卵型で、透明度は物凄く高い。ただ単に透き通っているというのではなく、中に広がる世界がすべて透かし見えるようだ。表面は、そこに表面があるのを感じさせないくらいに磨き上げられている。

 

 さながら、青い世界がそこにその形であるかのようだった。宝石のようではあるが、宝石のような固さが感じられない。触ればぷにっとした感触が伝わって来そうな、もしくは指がそのまま中の世界に入って行ってしまいそうな、そんな質感だった。

 

 ただの宝石ではない。少なくとも、アイカの知っている青色の宝石とは明らかに一線を画している。得体の知れない物体に、アイカは束の間目を奪われた。

 

 我に返ったのは、どこ吹く風の少女がふと通りかかった店員を呼びつけたときだった。

 

 「あの、お酒ください。お勘定はこの人で」

 

 呼ばれたのはアイカと同年代の女性店員のソーカだった。彼女は年齢こそ若いが、勤務年数はアイカより遥かに長く、この店では三本指に入ると言ってもいいほどの実力者だ。

 

 アイカなどは用心棒としての仕事をするだけだが、ソーカは経営者であるセナの補助までをもこなす。細かいことに頓着せず、誰に対しても思ったことをずばずばと言ってのける彼女はアイカの苦手な種類の人間でもあった。

 

 呼ばれて振り返ったソーカの顔を見た途端、アイカは嫌な予感に襲われた。目の前にいる少女とのいざこざにこの女までもに介入されたら果てしなく面倒なことになるに違いなかった。そして、そのことは既に、少女がソーカに声をかけてしまった時点で確定していたのだ。

 

 ソーカは呼ばれて一瞬戸惑ったような顔をしながらも、アイカと目が合うとすぐににっこりと笑った。飾り気のないさばさばとした顔に浮かぶのは、いつも意味ありげな、憎たらしい笑顔だ。

 

 「はーい。ちょっと待ってね!」

 

 何やら嬉しそうな声を上げてソーカは厨房の中へ駆け込んできた。働いても働いても疲れを見せない軽快な動きだ。

 

 あっけに取られてアイカは、思わず大声で怒鳴ってしまった。

 

 「馬鹿野郎! 何がお会計はこの人で、だ! 勝手に注文してんじゃねえよ! そもそも、お前みたいな年齢の子どもが酒なんて飲もうとするんじゃねえよ!」

 

 そして、今度は振り返り、ソーカに向かって、

 

 「お前もお前だ! はーい、じゃねえだろ。この状況でこんな餓鬼の言うこと聞いてんじゃねえよ!」

 

 既にグラスを取り出し、酒樽の蛇口の下に構えていたソーカは困ったような顔になって言った。

 

 「こんな状況でも何でも、お客様はお客様じゃない。大切なお客様の注文を聞いて何が悪いわけ?」

 

 「こいつは客なんかじゃねえ! すぐに追い出すからお前は構うな!」

 

 「こいつだなんて、そんな可愛い子にその言い方はないでしょ。だからあんたは女の子にもてないのよ」

 

 そう言ってソーカは、わざとらしく眉をひそめ、視線を白髪の少女に送った。

 

 少女もそれに応え、呆れたような視線をソーカと交わすと蔑みの目でアイカを見やる。

 

 「待て待て。話を勝手に変えるな! 俺は別に女に好かれようと思ってこんな口の利き方してんじゃねえよ!」

 

 アイカは真摯になって叫んだが、ソーカはまるで、だだをこねる子を母が諭すような口調で返した。


 「まーたそんなこと言って。本当は今も、その子のことが気になって仕方ないんじゃないの?」

 

 「だ……が……っ」

 

 アイカは胸の奥底から噴火してくる勢いで怒りを爆発させそうになったが、威力があまりにも強すぎたせいで声にすることができなかった。

 

 途方のないやるせなさを感じ、がっくりとうなだれて頭を抱える。できることなら今すぐにでもこの世から消え去ってしまいたいくらいの脱力感だった。

 

 少女はまるでわかりきっているというような様子で顔色一つ変えない。

 

 ソーカは何事もなかったかのようにグラスに酒を注ぐ。濃い麦色をしていて、度は強めだが、朗らかな春の陽気を思い出させる香りが心地よい、この国では有名な酒だった。

 

 「はい、お待ちどお! ゆっくりしてってね」

 

 言って、ソーカはもうひとつグラスを取り出し、今度は十数個並ぶ酒樽の中から違うものを選んで蛇口に構えた。

 

 慣れた手つきでグラスに黒い液体が注がれる。グラスになみなみと入ったそれの上の方は、こんもりと降り積もった雪のようにやわらかそうな淡い麦色の泡だ。

 

 麦酒の一種で、黒酒と呼ばれるものだった。アイカの好物でもあるそれを、ソーカは流れるような動作でアイカの前に差し出す。

 

 「はい、あんたはこれでしょ。今日は特別に奢ってあげるわ」

 

 こうして、奇妙な組み合わせの男女の飲みの席が築かれる。アイカはうなだれたまま途方に暮れ、しばらく放心していた。

 

 ソーカはふたりににっこりと微笑みかけると、自らの仕事へ戻って行った。

 

 残されたアイカと白髪の少女。しばらく動きそうにないアイカを他所に、少女は目の前に置かれた麦色の液体を珍しそうに眺めていた。

 

 揺らしてみたり、匂いを嗅いでみたりして一通り観察する。そして、やっと勇気が出たのか、恐る恐る、舌で舐める程度に口に含んだ。

 

 そして、「にがっ」と漏らし、顔を歪める。あまり口に合わなかったようで、しばらくむっとしたような、嫌そうな顔で黙り込んだ。

 

 アイカは再びひしひしと込み上げてくる怒りを感じていた。心なしか、店内の喧騒が遠く離れた世界のように感じる。上階の客たちの話し声も、1階の店員たちの慌ただしさも、ふたりの世界とは遮断されている。

 

 この少女といると自分がおかしくなってしまう。一刻も早く、この束縛から逃れないといけない。

 

 アイカはグラスが揺れて倒れそうになるくらい強く両手をテーブルに打ち付け、やけくそになったように黒酒を一気に飲み干した。

 

 気合で自我を取り戻す。深く息を吸い込み、勢いよく顔を上げて言い放った。

 

 「こうなったらもうやけくそだ。覚悟しろよ。力づくで追い出してやる!」

 

 アイカは有無も言わせずカウンターテーブルを乗り越え、少女の側に移ろうとした。しかし、動き出そうとした途端にがっちりと誰かに肩を掴まれ、遮られた。

 

 不満をあらわにして振り向くと、いたのはユオルだった。人の不幸を面白がることしか考えていなそうな彼の後ろには他にも数人の用心棒仲間がいる。

 

 いつの間にか近づいてきて、今のやりとりを見られていたらしい。全員がにやにやと薄気味悪い笑みを浮かべているのがアイカにとっては何とも腹立たしかった。つまらないことを考えているのが手に取るようにわかる。

 

 アイカは乱暴にユオルの手を払い、同じような体格の男たちに怯むことなく凄んだ。

 

 「邪魔すんな! 下手な真似しやがったらお前らもぶっ飛ばすぞ。俺は頭来てんだ」

 

 ユオルたち用心棒はアイカの威嚇もものともせずに飄然と言い返す。

 

 「おうおう、お客さん。店内で乱暴は困りますねえ」 

 

 「暴力振るう方は歓迎しかねますなあ。いざとなったら、退出してもらわないといけなせんね」

 

 「しかも相手が子どもとなっちゃあ。女子どもに暴力振るうのは男として失格だなあ」


 「お……お前ら……」

 

 アイカははらわたが煮えくり返りそうな思いで歯ぎしりした。

 

 その気になれば本当に同僚だろうと構わずぶっ飛ばしてしてしまいそうな勢いだったが、さすがに同じ稼業の男を一度に数人相手にするのは分が悪い。

 

 どうしたものかと思考を巡らせていると、こちらもいつの間にそこにいたのか、用心棒たちの後ろから店主の声がする。

 

 「そうだぞ、アイカ。子どもだろうと誰だろうと、うちに来て注文してくれてんだ。立派なお客様だぜ。厄介起こされたわけでもないのに、お客様に乱暴するような用心棒は感心できねえなあ」

 

 言った内容は真面目なことにも聞こえるが、やはり笑いを含み、この状況を面白がっている口調だった。そもそも、用心棒とはある意味、客に暴力を振るい放題の職なのである。アイカなどは自分が面倒だと感じた客を片っ端から腕ずくで追い出すし、セナも普段なら細かいことを気にしてこんなことを言ってくる性分ではない。それ以上に客の数があるからだ。

 

 アイカは基本的に女に興味はないし、実際今までの異性との関わりは仕事以外ではほぼ皆無とも言える。つまり、年齢はさておき、アイカが女性とこんな関わり方をするのは珍事とも言っていい事態だった。こんな一大事を仲間は皆放っておけないのである。

 

 アイカはひとり大真面目になって言い返した。

 

 「だから、こいつは客なんかじゃねえって言ってんだろ! 注文したも何も、自分で払う気ねえじゃねえか! 払う気がないだけじゃなくて、本当に払わねえぞ。俺の金盗んでったくらいなんだからな。それに、十分厄介起こしてんじゃねえか! これを厄介と言わずになんて言いやがる。俺にとっちゃ迷惑千万極まりないぜ。お前らにとっちゃ笑い事で済むのかもしれねえけどよ」

 

 不幸な男の悲痛な叫びは当たり前のように届かない。用心棒たちはアイカを取り囲むようにした近寄って来て、ふくれっ面を貫いている少女に次々と言葉をかけていった。

 

 「お嬢ちゃん、ごめんなあ。こいつ、いつもこんな風に頑固なんだよ」

 

 「なになに、さっきの話じゃ、こいつに何か壊されたのか? ひでえやつだ。そりゃ弁償してもらって当たり前だよ」

 

 「こいつの貯金なんて大したことないから、取ったって別になんてことねえよ。こいつはちょっと騒ぎすぎなんだ。気にしなくていいんだぜ」

 

 「それにしても、アイカにはもったいないくらいの別嬪さんだなあ。こいつが見とれるくらいだから、相当なもんだぜ」

 

 「こんな綺麗な子に怪我させたんじゃ、こいつの貯金がいくらあっても弁償できなそうだなあ」


 少女は誰に対しても反応せず、ただずっと蔑むような、呆れたような視線をアイカに送り続けていた。

 

 その青い瞳から放たれる異風の視線にも、周りの男たちの邪魔臭さにも耐え切れず、アイカはついに堪忍袋の緒を切らした。

 

 とは言っても、少女に対してでも、男たちに対してでもない。このやりきれない状況に対してだった。

 

 男たちを強引に払いのけ、ずかずかと店の外へ向かう。


 去りざまに言い放った。


 「もう勘弁ならねえ。俺は帰るぞ! こんな状況で仕事なんてしてられっか。セナ、恨むなら俺じゃなくてそいつら全員を恨めよ。くそくらえだ」

 

 男たちが口々に何かを喚いたが、アイカは全て耳に入れなかった。このまま解雇されてもどうでもいいほどだった。


 とは言っても、セナはこんなことで大事な人材の首を切るような男ではない。それをきちんと踏まえたうえでの行動でもある。


 男たちはその場に留まったが、少女だけは飛び出して後を追いかけてきた。

 

 「ちょっと待って! これはどうしてくれるのよ!」

 

 「うるせえ、俺の知ったことか!」

 

 一度も振り返ることなく、アイカはずかずかと退出した。

 

 外は相変わらず小雨がぱらついている。夜もかなり深まったこの時間になると、眠らない酒場街も比較的落ち着いた表情を見せるようになる。

 

 「直してくれるまで許さないから!」

 

 少女の憤怒も冷たい雨も、もはやアイカの歩調を緩めることはなかった。

 

 アイカはまっすぐ家に帰ると、何もかも忘れようと深い眠りについた。


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