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旅というのは偶然の重なりだ。
人と人が出会って、何かの拍子にどこかへ出かけることになり、それが思ったより長引いて旅となる。
その出会いはどんなんだっていい。誰と誰だっていい。辺境の地を訪れたはぐれ者同士が出会うにしても、王族の美しい娘と貧しい農民の男が運命的な出会いを引き起こすにしても、どっかの街の角でひねくれた男と悪魔的に可憐で煩わしいほどに天真爛漫な少女が鉢合わせるにしても、旅というのはその偶然の出会いから始まる。
旅といっても、何も全部が大陸を横断するような壮大な旅だというわけじゃあない。
隣街に行って帰ってくるだけだったり、出会った地から一歩も出なかったりなんてこともあるかもしれない。
偶然の重なりだという性質から、その旅の行きつく先は本質的に予想不可能だ。
言い換えれば、あるひとつの旅がもたらす結果の可能性は無限大ということになる。
どこへも行く気なんてなかったのに災厄的な出会いによって家から引きずり出されたり、ちょっと行って帰ってくるだけのつもりが、出先で厄介に巻き込まれたせいで帰れなくなったり。
でも、可能性が無限大というのは、そんな生易しいものなんかじゃない。
偶然がもたらす旅の行きつく先を誰が予想できようか。
それは時に、文字通り人間の想像を絶する結末となるときがある。
大陸有数の大都市に住むある男が、小賢しい餓鬼のような少女によって人生を変えられるなんて、誰が予想できようか。
どこでもあるような、何でもないひとつの出会いによって、これまで隠され続けてきた世界の奥底に潜むひとつの神秘が暴かれようなんて、誰が予想できようか。
これに関しては、俺は異論を認めるつもりはない。
何故ならこれは、偶然の重なりによっておそらく史上最大に引き延ばされた旅を経験した俺が行きついた結論だからだ。細かいことは気にしないでもらいたい。
あの日、あの場所であいつと会っていなかったら、俺は今ここでこうしてせっせとペンを動かしていることなんてなかっただろう。
いや、例えあそこであいつと会っていたとしても、その後のことがなければ、俺はさっさと身を退いてあの件には関わらずにいられたに違いない。
だが、偶然というものは恐ろしい。結果的には俺はあいつと出会い、その後の運命的な出来事も避けることができず、ここでこうしてこの物語を書き残そうとするに至っている。
青い目の少女。
あいつとの出会いが、俺にとっては災難の始まりだった。
だらだらと前置きなのか愚痴なのかわからない文章を書き連ねてしまったが、そろそろ本題に移りたいと思う。
これは、ひとつの出会いから始まった、壮麗な悲劇の物語である。――アイカの手記より、『序章』