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4 浮

 ぼくが妖精=白い衣装の人に出会ったのは里山に出かけるようになって三回目。

 だから里山の地図を明白に把握していない。

 メインストリートは憶えたものの、里山と地続きの神社から入る方法をまだ知らない。

 その後里山に通い続け、航空写真からではわからない里山の地図を知ってしまうと思ったより狭いことがわかる。

 狭いといっても中に二つ畑があるので並みの公園よりは広い。

 普通の公園と違って坂が多いから、歩くだけで運動になる。

 ぼくはまだ太っていないが、社会人になり三年を過ぎると太る人は太る、と何人もの社内外を問わない先輩たちから脅かされている。

 その意味では里山散歩は丁度良かったかもしれない。


 一月ほど、つまり土日を合わせて計九回里山に通ったが、白い衣装の人には会えていない。

 ぼくに発見されたことで、もう里山には来なくなってしまったのだろうか。


 ……だとすれば寂しい。

 けれども違うかもしれない。


 時間帯が合わないのか、それともぼくがいる気配を感じ、木々の間に隠れてしまうのか。


 ……となれば正に妖精。


 現実とは繋がるが、幻想世界の住人と思える。


 ならば、ぼくも幻想世界の住人となれば良いのだろうか。

 が、どうやって……。


 残念ながら、ぼくにはコスプレの趣味がない。

 嫌いではないが、就職してからマンガも読まない。

 だから成りたいキャラクターが見つからない。

 まったく見当がつかないのだ。

 ゲームは昔から殆どしない。

 生徒や学生の頃から惹かれたことがない。

 唯一ぼくが好むゲームがスパイダーソリティアだ。

 現時点で理論は思いつけないが、最初にどんな面が与えられても必ずクリアできると確信している。

 ただし、それには数百回以上繰り返しトライする時間と根性があれば、という条件が付く。


 地図が頭に入ってしまうと里山に対する興味が薄れる。

 それで別の場所に浮気しようかと考える。

 白い衣装の人に会えない寂しさも後押ししたかもしれない。


 翌週ぼくが試したのは城址公園。

 正式名は緑地だが、昔、お城だった場所。

 知らない公園ではなく、小学校の頃、PTA活動で何度も遠足に通っている。

 園内に民家園と故画家の名を冠した美術館があり、梅の名所でもある。

 昔は近くに遊園地があったらしいが、ぼくが生まれる数年前に閉園。

 現在遊園地跡地の隣に故漫画家のミュージアムが建っている。


 事実上の城址公園だから、地形は山。

 標高八十四メートルだから高くはないが、ビルだと思えば高いだろう。

 マンションのような住居ビルだと一階当たりの高さが約三メートルだから二十八階、オフィスビルなら同約四メートルなので二十一階。

 どちらにしても天守閣跡に行き着くには坂道を昇らなければならない。

 里山で慣れていたが、道が違えばまた息も上がる。

 天守閣跡に辿りついたときには汗だくだ。

 広場のベンチで休んでいる数人の老人たちは涼しい顔。

 慣れているためか。

 見たところ、ぼくの三倍以上の年齢のはずだが……。


 ちなみに日本における『標高』は東京湾平均海面を基準(標高〇メートル)とした土地の高さだ。

実用的には国会前庭に設置された日本水準原点(標二十四・三九〇〇メートル)を基準とし、測量される。

 一方『海抜』は『標高』と同じで平均海面を基準とするが、それが東京湾ではなく近傍港湾等の平均海面という違いがある。

 これは津波対策や高潮対策に得られた数値を用いるため。


 調べてみると里山展望台の標高は百二十七メートル。

 城址公園より四十三メートル高い。

 マンションの階数だと約四十二階となるので十四階分。


 男女の老人たち同様、ぼくもベンチで寛ぐが、目は白い衣装の人の姿を探している。

 当然いないが妙な高揚感に身が震える。

 それでベンチから腰を上げ、歩き始める。

 子供の頃に良く来たといっても、その後はあまり訪れていない。

 また子供の頃は民家園と天守閣跡しか行ったことがなかったから公園の構造を良く知らない。

 それで道がわからないが、案内板を見て行き先をホタルの里に決める。

『里』という文字が付いているのも何かの縁だと考えたのだ。


 天守閣跡のある広場からホタルの里に至る道は下り階段。

 山道に良くある木と土の階段だ。

 それを下ると分岐。

 結構急な木の階段が現れる。

 公園地図によればホタルの里へはどちらのコースからでも行けるが、ぼくは木の階段を選ぶ。

 ぼくにとって珍しかったから。

 段差は普通の階段と変わりないが、足許が透けるので少し怖い。

 注意しながら一段ずつ下り、会談が終わると、そこに木板だ。

 水場に木の台といった感じか。

 そこから木板の道が少しだけ続き、土の道に代わり、草の広場に至る。

 広場を横切るとまた木の階段があり、それで漸くホタルの里に至る。

 時間のせいなのか、偶々なのか、道で人と擦れ違わない。

 時季はともかく昼間なのでホタルの里にホタルはいない。

 けれども白い衣装の人がいる。

 まるで妖精のように宙に浮かんでいる。


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