3:スリッパを買いに行きませんか・上
「おはようございます。」
『おはようございまーす』
「円、来て早々大変だけど例の担当から伝言よ。」
「また…?」
「今日夜七時にいつものホテルで待ってるって。ねぇ、円、そいつ、なんもして来てない?大丈夫?」
「う、うん。ありがとう美由希。」
酒井美由希―原稿回収率(?)が一番高い大学時代からの親友。
担当の作家に〆切を守らせるためにあの手この手を使ってるとかなんとか。
その美由希が心配してるんだからよっぽど危ないのだろう。
「どーしても心配だわ。今日は絶対一人で行かせたくないなあ…あ、そうだ。渡辺さーん!」
「はい?」
「渡辺さんまだ原稿取りに行ったことないですよね?今日見学行ってみません?」
にっこりと微笑んで渡辺に話しかける。
「是非、見学に行かせて下さい。よろしくお願いしますね?伊藤さん?」
絶対話聞いてただろー!
このへたれっ!
―夜。
俺は伊藤と一緒に例のホテルのロビーに居る。
「あたしは見学とか行った事ないんですけどね。」
「だろうね。」
「さっき話聞いてましたね?」
「・・・うん。ごめん。」
「いえ、別にへたれに聞かれたところで痛くも痒くもありませんから。」
「・・・・・。」
「あ、今日行く担当さんの事簡単に説明しますね。」
「なんか話題変わるの唐突だね?」
「何か?」
「いえ。」
「園田建。あたしと同い年の新人作家なんです。顔ははっきり言って美形ですね。自分でそれを分かってるから女癖悪いって言うか何て言うか・・・。まったくあいつは。昔っから・・・」
「あの、ちょ、たんま。あいつって?知り合い?」
「・・・えっと・・・」
「明らかに動揺してるんだけど?」
「・・・・・・です。」
「え?」
「幼馴染です・・・。」
「なんで気まずそうなのさ?」
「・・・渡辺さんが口が堅いと信じて言いますけど・・・元彼、なんです・・・うぅ・・・」
っっ!うぅ・・・とか言うな!
萌えっぶっ?
「顔がにやけている・・・」
「ずびばぜん・・・」
脛を蹴られた俺は約十分泡を噴いて悶えていた。