2:モテヘタレ、渡辺円
―結局、あたしは渡辺さんに会社の近くの駅まで送ってもらった。
雨が降ってきて、傘まで貸して頂いて。
結構モテるって噂だけど、皆ヘタレの部分は知らないのかしら。
なんて考えながら駅までの十五分間を過ごした。
渡辺さんとあたしは会社がある駅から真逆の方向に住んでるらしい。あの勢いだと、多分一時間早く終わっていたらあたしの最寄り駅まで送ってきたことだろう。
今、こうして電車を降りたわけだけど・・・。
あの後、鍵を閉めるまであの人の交渉は続いた。
せめて駅まで送るだとか、女の子の一人歩きは危ないだとか、どんなに必死に断っても渡辺さんは諦めなかった。・・・なんで三つも下のあたしにそこまでしてくれるのだろう。男の人は怖い。何を考えているか分からない。
あたしの家は昔父親がお母さんに暴力を振るった挙げ句、通帳を持って出ていった。
確か高校一年生の頃だったから、あれから十年も経つ。お母さんはあたしと妹を大学卒業までさせてくれて、今は二十三歳の妹と二人で暮らしている。
男の人を信じるのは嫌だ。が、不覚にも今日渡辺さんとアドレスを交換してしまった。
しかも、“上司・担当”のフォルダではなく、“友人”のフォルダに入れてしまった・・・。
彼女、いなさそうだな。うん。
・・・あ、メールでお礼しないと失礼だな・・・。
絵文字とか、入れた方がいいのかな。
・・・はっ!
何をやっているんだ、何を。
・・・スリッパ買わなきゃな。