表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

1:戦う女、伊藤円

1:戦う女、伊藤円。


 華麗に宙を舞う・・・・スリッパ。

 ヌチョっ…という音とともに潰れる黒い物体。


 彼女―伊藤円(イトウ マドカ)は勤め先の出版社で残業中にゴキブリを見つけ、たった今自分の履いているフリース生地のスリッパで決着を着けた。

 

「ふう。スリッパ買って帰らなきゃ。」


 もう十時だよ。どこも開いてないよ。そうつっこみそうになったのをぐっと堪え、目の前で起きた戦いに唖然とする男―渡辺円(ワタナベ エン)


「・・・い、伊藤?」

「・・・何?」

「お前・・・男みテッ?!」


 痛ってえ!足踏むな!


「ゴキブリも殺せない軟弱男に言われたくないわ」

「ぐ・・・ごもっともです・・・。」


事の発端はこうだ。

夜九時半を回った頃、残業しているのは俺と伊藤だけになった。

伊藤はまだ二十五歳なのに多分一番仕事が出来る。

俺は先月営業部からこの編集部に異動してきたため、仕事もまだまだ。伊藤の3つ上ではあるものの、頭が上がらない。

伊藤とは今まで何度か挨拶はかわしたけれど、ちゃんと話したことは一度も無い。伊藤の時の新入社員歓迎会で「伊藤さんって呼ばれるの嫌いです。皆さん伊藤って呼んで下さい。」と言っていたので伊藤と呼んでいる、それだけ。

同じ“円”の字ってのもあってちょっと気になっていた。

話しは戻るが、俺が印刷をすべく席を立つと、隣のデスクの下から黒い物体。

「ごっごっごっ」

「どうしたんですか渡な…」

「ゴキブリ!ゴキブリ!」

「殺せばいいじゃないですか」

「・・・む、無理無理無理!」

「・・・このへたれが。」


そして話は冒頭に戻る。


「・・・伊藤。」

「・・・・。」

「・・・伊藤ってば。」

「・・・なんですか?」

「俺の名前、知ってる?」

「知りません。」

「あ、やっぱり」

「渡辺ヘタレ?」

「・・・・・・。」

「マドカ、ですか?」

「いや、エンって読む」

「・・・そろそろ帰ります。」

「それまた唐突だね」

「・・・渡辺さん。」

「はい?」

「鍵よろしくお願いしますね」

「あ、え、ちょっ!」

「・・・?」

「お、く、送って、く。」

「いいです。まだ終電まで余裕ありますし。」

「スリッパ!買わなくちゃいけないし」

「もう十時過ぎてますよ?どこも開いてません」


分かってたのか!





 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ