お前は本当に何も出来ない奴だな。
読み終わったら、感想ください。
私には、年上の幼馴染みがいる。
綺麗で可愛くて美しく、勉強も出来るし運動も出来るし、リーダーシップがあって、多分完成された人間の一種だと思う。
そんな彼の口癖はいつもこうだった。
「お前は本当に何も出来ない奴だな」
私はそれを言われるのが嫌だった。
彼との出会いは、多分仕組まれていて、親の打算が殆どだったと思う。
まだ、物心がつくかつかないか位の歳に、いきなり父に車に乗せられたかと思うと、大きな大きな屋敷に連れてこられた。
その屋敷に、多分30代くらいの格好いい美形の男性が、私をみていた。
「その子が、君の娘かい?」
「は、はい!えーと、この子は私の娘で、名前は……小百合というんです」
あ、私の名前ってそうだったんだ。
この当時の私は、父や母にはいないものとして扱われ、お前とか、クズとかおいって呼ばれてたから、初めてしった。
父は少し怯えたように、男性にへりくだっていた。
そんな父を愉快そうに男性はみていたとおもう。
「ふむ、可愛い子だね……どうおもう?悠紀」
そういって、話かけたのは、綺麗で美しい少年だった。
まるで人形のように整った顔立ちで、目がパチパチしてしまいそうだ。
「コイツは何か出来るのか?」
父はパニクったのだろう。こういってきた。
「こ、この子は本当に何も出来ない子で……えっとですね、しかし、ご子息に何か迷惑は……」
汗だくだくな父はみていて哀れだった。
そんな父をみて、少年はふーんといったあと。
「お前、なにも出来ないのか?」
「……うん」
「文字も書けないのか?算数も出来ないのか?友達もいないのか?」
「……うん」
だってそもそも学校に行ってないし、言葉だってそこまで言えない。友達なんているはずがない。
「じゃあ、俺が世話してやるよ!!」
こうして私は、どういう訳か悠紀に気に入られてしまった。後ろでは、父と男性がリストラは回避してやるだの、礼金だの、そんな会話をしていた。
「お前って、本当に何も出来ないな」
この日から、こう言われるばかりだった。
文字が読めない、書けないと知れば、嬉々として教えるといいだし、実際に教える能力は高かった。
算数も教えられて、文字も教えられ、ついでに服も与えられだした。
まるでペットや人形のような扱いで、私を溺愛してる彼に少しの怖さを感じながらも、受け入れていた。
「お前って、俺がいないと本当にダメだな」
高校生になった今も、彼は私をそんな風にいう。
金は出すと言い出した彼は、私を同じ高校にいれ、私を側に置きだした。みんなの憧れで、カリスマ性をアホみたいに発揮していた彼から私は逃げ出したいと思っていた。
「そんな事はないよ」
一時期反抗して、そういったこともあったが、悠紀は怒る別けでもなく、そうだなと肯定する訳でもなく、淡々といった。
「私だって、出来ることはあるよ」
「じゃあお前は料理が出来るのか?数学で一番になれるか?せめて5ヵ国語くらいは喋れるのか?」
「出来……ない」
「だろ?ほら、やっぱりお前は何も出来ないじゃないか」
頭を撫でて、愛しそうに抱き締める彼に、私は涙が出そうだった。解放されたい。けれど自分は何も出来ない。
感謝はしている。
私に文字を教えてくれて、勉強もみてくれて、服も与えられて、腐ってなくて美味しいご飯も食べさせてくれた。
だから、私は少しの反抗しか出来ない。
「随分と、悠紀と仲良くしてくれているようだね」
ある日、悠紀のお父さん……譲さんに呼び出されて、私は彼の部屋にいた。
「はい……」
ニコニコと、優しそうな、けれど威圧感がある譲さんは私は苦手だった。
「悠紀が君のことを何も出来ない子だといってたけど、そうじゃないね。君はちゃんと頭がいい」
「ありがとうございます」
頭がいいなんて、初めていわれた。譲さんは、何かを言いたそうにしているようにニコニコしていた。
「実はね……悠紀に縁談があってね、婚約する予定なんだ
でもね、悠紀が承諾してくれないんだよ……」
そういえば、そんな話もあった気がする。
中学の時に、悠紀の誕生パーティーでそんな女性がいたと思う。とても美しくて、とてもプライドの高い人だった。
確か悠紀はその人を徹底的に無視していて、ずっと私の側を離れようとしなかった。
「私のせいと?」
「いや、そういうんじゃないよ。ただ、悠紀にいっといてくれないか?婚約してくれと」
「わかりました」
私は了承し、部屋から出た。
「小百合、親父となんの話をしていたんだ?」
私は悠紀の部屋に戻ると、彼は本を読みながら話しかけた。眼鏡をかけている彼はそれを絵になる。
「少し……お願いがあります」
「ん?なんだ?」
「来ている縁談に了承して、その女性と婚約してください」
一瞬、静寂の時間がやってきた。
バタンと、悠紀は読んでいた本を閉じて私の方へ顔を向けた。
その笑顔にゾッとした。
「小百合~親父に何か言われたかぁ?」
猫なで声でそういう彼は、私の髪をなでた後、喉を指で撫でた。まるで猫を可愛がるかのように、まるで喉を突き破ろうとしているかのように。
私は恐怖に縛られながらも、必死で言葉を紡いだ。
「私からの……望みでもあります」
「ふ~ん……いいぜ、婚約してやる」
あっさりと、彼はそういった。
やれやれと、まるで我が儘なペットに手を焼いているみたいな感じのあっさりさだった。
「いいんですか!?」
「おう……俺の願いも、聞けよ」
「わかりました」
私はこの日、家に帰ってから泣きそうな程に凄く歓喜した。
やっと解放されたと、やっと自由になれたのだと、もう悠紀の偏愛に怯えることも、そのせいで誰かに恨まれる事もなくなるのだも、本当に歓喜した。
婚約発表の日、私は自分の荷物を纏めていた。ここを出ようと、思ったのだ。
金は譲さんから礼金として貰ったのがある。資格も一応とったから、仕事も見つけることは出来る。取り合えず、遠い何処かにいこう。
父と母は私のことなんてどうでもいいと思っていると思うから、探さないだろう。
「よし、行くか」
私は荷物をもって、ドアをあけると……
「何処へいくんだ?」
悠紀がいた……。
思わず悲鳴を上げそうになった私はドアを閉めようとするが、彼はその前に部屋に入り、私を隅に追い詰める。
「小百合、結婚しよう」
頭が、真っ白になった。
そんな頭で、必死に言葉を吐き出そうと頑張っている私は、さぞ滑稽だろう。
「なん……だって……悠紀は……婚約し、したはずじゃ…」
「あぁ、婚約はした。ちゃんと発表もした……でもな、それって破棄出来るんだぜ?知らなかったのか?
あぁ、お前は何も出来なくてダメだから、仕方ないか」
クスクスと笑う彼を私は泣きそうになった。これから起こることを現実と捉えたくなくて。
「譲さんには……なんて言うつもりなんですか?」
「お前と結婚できなきゃ死ぬって言ったら、アッサリ了承したぞ」
そんな……
「さぁ、お前の我が儘はちゃんと聞いたぞ……今度は小百合が俺の願いを聞く番だ」
あんまりな現実に思わず目眩を起こして倒れそうになった私を彼は抱き締めて、耳元でいった。
「これからは、夫としてお前の世話をしてやる。だってお前は……
何も出来ない奴だからな」
あぁ、私は彼から逃げることも出来ないんだと、一筋の涙を流した。
なんだか、ヤンデレものが書きたくなったので、書きました(^o^;)