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魔法世界の超能力者  作者: 壱弐参


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第五部 その二十一

 ――トレーディア城、一念の部屋――


 深夜、と言うにはまだ早い頃。外は既に静寂に包まれ、訓練に疲れた兵は勿論、様々な疲れがトレーディアという国を睡眠へと誘った。

「ふぅ」とベッドに腰を下ろした一念がそのまま後ろへ倒れ込む。すると扉の方からノック音が響いた。しかし微かに聞こえる程度の力加減で、それはまるで一念の疲労を気遣うような優しいノックだった。

 一念には扉の向こう側にいる人物がわかったのか、念動力(サイコキネシス)を使い扉を開いた。

 普段は身体を動かそうとする一念が、扉を開けるのに力を使ったのは、やはりその肉体の疲労度故だろう。


「失礼します」


 口ぶりから一念より階級が下であると伺える。そして部屋に入ろうとするその声は、静かで透き通っていた。

 一歩……部屋と廊下の隔たりを一歩越えたところで、足音は止んだ。けれど、彼女は声すらも発しなかった


「どうしたの、パティ?」


 目を瞑りながら、ベッドに仰向けに倒れながらではあるが、一念は優しい声でパティに声を掛けた。

 尚も口を開かない彼女に、しばらくの沈黙が流れる。

「――よっと!」……、そう言って一念は足を持ち上げてその反動ですっと起き上った。しかしそれでもパティの顔は俯いたままで、両の拳はぎゅっと握られていた。

 こつこつと数歩歩いて彼女に近づいた一念は、ゆっくりとその手を取った。

 静かに震えるその手は、ほんのりと温かく、しかし震えていた。パティは俯き、表情を窺う事は出来ないが、一念にはその手から気持ちを察する事が出来た。

 ぽろぽろと胸元に落ちる滴が落ちる度に、彼の心はきゅっと締め付けられるような痛みを引き起こした。

 パティの震える手に力が入り、一念がそれを優しく包んでいる。


「申し訳……ありません……」


 軍人故、芯はあるが、掠れ震える声。

 ようやく顔を上げたパティの顔はくしゃくしゃで、双眸からは止めどなく、だが静かに涙が流れていた。


「ごめんね……。パティに凄く心配させてたみたいだね……」

「いいえ……いいえ……。わ、私がいけないんです。こんな大変な時に一念さんに……迷惑を……っ」


 声を殺し、微かに漏れた嗚咽が一念の耳に残る。

 僅かに見せるパティの《()》に、彼の胸に強い衝撃を与えた。

 瞬間、包んでいた手は彼女の身体を引き寄せ、そして彼の胸まで招き入れた。トンという小さな音。

 パティの小さな顔が一念の胸に当たり、その頬で愛する男の体温と鼓動を感じた。少し残る汗の匂いと、日の匂い。彼女が好きな一念の匂い。


「わ、私……一念さんが……どこか遠い所に行ってしまうのではないかとっ……」


 その言葉はズキンと一念の胸を打つ。

 元いた世界とこの異世界。もし戻れるのならば一念はパティを置いていく事になる。勿論、パティがそれを知らずに一念に好意を寄せた訳ではない。彼が異世界から現れた事はトレーディアではほとんどの人間が知っている事なのだ。

 彼女を連れて行くのか、彼女と残るのか、それとも別れを決断するのか。彼自信、そんな事を考えた時がなかった訳ではない。けれどもいつもその答えを出さずに終えてしまっていた。もどかしくも切ない気持ちに挟まれ心が悲鳴を上げる。

 この封鎖的な答え(、、)が自分を苦しめ、結果的にパティを苦しめた。そんな罪悪感から、一念はただただ謝る事しか出来なかった。


「……ごめん……」

「大丈夫です……ただ、どうしても嫌な胸騒ぎがして……」

「……明日、皆を連れてイースティアへ行く。そしてその後は市民の誘導。それが終わったら……少し話そう……」

「……はい」


 優しい声と優しい腕に抱かれ、パティは一念の胸を吐息で温めた。




 ――翌日――


 トレーディア西の平地では、八千五百のトレーディア兵が一糸乱れず整列している。

 無論その中にはイリーナやフロルにメイ、ピピンやラッセル、セドナ達もいた。

 パティは目を腫らせながらも歩兵隊の列の先頭に立ち、その隣にいるナビコフに負けない気迫を放っている。


「うわぁ、なんだその格好は……」

「変か? トレーディア王族に伝わる戦闘服だ」

「いや、変じゃないが……」(まんま海兵だなこりゃ)


 一念が目にしたのは元の世界で見慣れているセーラー服。勿論スカートではなく軍服でという意味だが、アレクトがそれを着ると、幼さ溢れるせいかどこか違和感を感じるようだ。

 まるで新兵……そう思った一念だったが、戦争という面で見ればアレクトもまだ経験が浅い故、あながち間違いではないと妙に納得してしまった。

 アレクトの近くには一念、ディール、ムサシ、ルーネが立ち、出発の時を待っている。


「昨日はよく眠れたか、一念?」

「ルーネさん。ドラゴンさんに頂いたミモネラリアルのおかげで元気百倍ですよ」

「…………そうか」


 間が空いた返事に一念が首を傾げる。

 少し寂しげなルーネの顔に、アレクトが助け船を出す。


「一念、嘘を言わないのは殊勝な事だが、ルーネの質問とは違う事を答えているぞ」

「え……あ」

「元気なのは薬のおかげだろう。しかし眠れなかったのならそう言うべきだ。それが見破れないお前の師匠じゃないぞ」

「……すみません、ルーネさん」

「……イースティアでは少し休むといい。今の君にはそれが必要だ」


 薬で体調が良くなっても、精神的疲労を回復させる事は出来ない。

 様々な不安が疲れを倍増させ、一念の顔にはいつものような陽気さはなかった。ルーネはそれを見抜いたのだ。


「だがしかし、ここは一念に頼らざるを得ない。いけるか?」


 ムサシがポンと一念の肩に手を置いた。

 自分の体調に気を遣いながらも優しく背中を押されるような感覚に、一念は精一杯の返事で応えた。ムサシが目でサインを送ると、ルーネは一念に対して補助魔法「フィジカル・レインフォース」、そして「フィジカル・ブースト・マキシマム」を発動させた。

 二つの青白い光が重なってぼぉっと彼を包みこみ、そして静かに身体に入り込むように消えていく。

 すると、一念が肩を軽くくるくると回して身体をほぐす。一念自身、いつもの陽気さをアピールしたつもりだったが、周囲には明らかにそれが溜まっている疲れだと知らしめた。

 戦争が始まる前から、過度なストレスが本人の知らぬ間に蓄積しているのだ。


「…………」


 この時、アレクトだけが気付いた。


(既に戦時下と呼べるだけの状況だが……、いくら気を張っているからと言って、いつものように力を使っただけでここまで疲労を溜めるものだろうか? まだ二日……戦争始まっているならばわかるが、その前にこれだけのストレスを? ……いや、一念の中ではもう既に始まっているのか。だからこその疲れ……なのだろうな)


 誰よりも早く戦争を終わらせたい一念だからこそ、誰よりも早く戦争への緊張感へとシフトさせた。その心を知ったアレクトは、「かなわないな……」と呟いた。


「あん? 何か言ったか?」

「……いや、なんでもない」

「……?」

「い、いいからっ。急ぐぞ一念!」


 気恥ずかしさを隠しながらアレクトは東を指差した。

「おうっ」と軽い返事をした一念は、気合いを一つ入れ、トレーディア八千五百の兵をゆっくりと持ち上げ、そして念動力(サイコキネシス)の障壁を張った。

 ギブリグの兵とは違い、彼等は一念の力を何度か体感している。少し声が零れはしたが、それはすぐに治まった。

 兵が少なくほぼ歩兵で構成された軍故、昨日程の負荷を感じなかった一念は、速度を比重を置き、東にあるイースティアを目指す。

 凄まじい速度を思わせる大きく空に響く音が、トレーディアに轟く。


 トレーディア国の民は、東の空をじっと見つめ、国の……いや、全世界の行方を案じた。

 ある者は跪いて神に祈り、またある者は愛すべき家族を抱きしめ、そしてまたある者はアレクトの無事を願った。

 日は天に差し掛かり、間も無く正午を告げる鐘が鳴る。

 雲一つなく降り注ぐ光が、民を照らす。


 ――しかし、その影はより濃く、より深い闇色になっている。

大変申し訳御座いませんが、【転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)】第二巻執筆の為、更新が遅れております。

ご理解頂ければ幸いです。

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