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魔法世界の超能力者  作者: 壱弐参


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第五部 その十一

 ――アグリカ城内、とある一室――


 一念、ルーネ、トロン、フロルがそれぞれ客室に案内され、一念は豪華な部屋の中でスマートフォンを覗き込んでいた。

 部屋は、自然を多く取り込みながらも、それに合わせて作られたような調度品の数々が更にそれを引き立たせている。

 一念は右手でスマートフォンを操作し、左手をハンドポケットで、茶色が基調としたベッドに腰掛けた。


「一体何だこのメールは……?」


 覗き込んだメールの文面は文字化けしていた。辛うじて読み取れる文字を一念が読み上げていく。


「葛城…………空間…………吉田……試…………終……北……戦…………。んー、わっかんねーな。天樹だから届いたって訳じゃなさそうだ。あそこもここも電波がなかった。引っかかる文字もあるけど……気になるのは《試》と《終》と《戦》かな?

 送信者が葛城さんからだから、文面の冒頭は「葛城だ」とかだろう? 《空間》ってのはあの黒いやつの事か? いや、そうなると、そもそも葛城さんは何であの空間の事について知っていたかって事になるし……やはりわかんないなぁ。……返信も出来ないし、有益な情報は無しか」


 一念は、やわらかなベッドに背中を落とし、深く溜め息を吐く。スマートフォンを何度か操作し、過去のメール履歴等を確認している。


「父さんに母さん、葛城さん、木下さん、サユリさん……それに美菜……か。皆どうしてっかなー?」


 そう独り言を呟いていると、扉を叩く音が聞こえてくる。

 始めは音に気付かなかった一念だったが、二回目のノックで反応し返事をする。一念はむくりと起き上がり扉の向こう側に意識を向けた。


「はーい」

「私だ」


 扉の向こう側から聞こえた返事は、一念にとって慣れ親しんだ声だった。


「ルーネさん? すいません、今開けます」


 一念が、師匠を待たせる訳にはいかないと、小走りで扉へ向かう。

 扉の前で一念は眼鏡を少しずり下げ、所謂鼻眼鏡にし、透視(クレヤボヤンス)を発動する。眼を凝らし扉を透かすと、やはりそこにはルーネの姿があった。

 この一年、ムサシとディールに扱かれた一念は、私生活にまでこういった警戒心を叩き込まれたのだ。

 ルーネを確認した一念は、また眼鏡をクイっと上げ扉を開けた。

 ルーネを部屋に上げると、一念は、近くにあるフルーツジュースが入ったピッチャーをとり、ガラス製の花の細工が入ったお洒落なコップに注ぎ込んだ。


「はい、どうぞ」

「悪いな。中々面白い座談会だったぞ?」


 木が編み込まれた椅子に座り、ルーネが足を組む。


「それは俺の方もですよ」


 一念は対面のテーブルを挟み同じタイプの椅子に腰掛けた。


「謁見の間から女王が消えたと、ちょっとした騒ぎになったぞ? 女王の置き手紙と、一念からの連絡が無ければ私達は捕らえられてただろうな。慌てるトロンの顔は中々可愛い反応だったな」

「あっちゃー、後でトロンには謝っておきます」

「そうしなさい。ところで、話はどう進んだのだ?」

「ええ、なんとか前向きな返事をくれそうな感じでしたね。詳しくは明日に返答するそうです。どうも公務が忙しくて大変みたいです」

「王が忙しいのは国として良い事だ」


 ルーネと一念は、自国の王の顔を思い浮かべて苦笑した。


「ところで一念、私は君にお願いがあってお邪魔したのだ」

「へ、なんです?」

「実はな、あのスマートフォンというカラクリを触らせて欲しいのだ」

「あぁ、そんな事なら構いませんよ」


 一念は席を立ち、ベッドに置いてあるスマートフォンを取ってルーネに手渡した。

 珍しくも緊張するルーネは、慣れない手つきでスマートフォンのホームボタンを押した。


「あれ、点け方よくわかりましたね?」

「ふん、愛弟子の一挙手一投足を見逃す訳がないだろう。一念がポケットからスマートフォンを取り出した時、最初にこのスイッチを入れた事は見ていたのだ。どうだ、凄いだろう?」

「はははは、最後の一言が無ければ凄いです」

「む、最後の一言があっても凄いはずだぞ?」


 可愛らしく口を尖らせたルーネは、一念に不満を述べた。


「はいはいすごいですねー」

「ぬぅ、まあいい。では、このバナナのような形のボタンはどういった機能があるのだ?」

「それがさっき言った、遠方の人と話す為の機能ですね。端末毎に番号が振られ、その番号と一致した番号を打ち込んで発信ボタンを押すとその端末を持つ人と繋がります」

「ふむ……という事は、このボタンを押すと、その先には数字を打ち込む絵に移動するという事か?」


 一念は目を丸くして驚いてみせた。


「……今のはマジで凄いです」

「正解という事だな!」


 ルーネは嬉々として一念の率直な感想を受け答えた。


「では、この四角いボタンは……手紙?」

「そうです、それが手紙、メール機能ですね。遠方の人に手紙を出す事が出来ます。さっき言ったように端末に割り振られた数字や記号と一致する端末に届くようになってます」

「どれくらいの時間で届くのだ? 一日か?」

「誤差はありますけど、普通なら数分で届きますよ」


 今度はルーネが驚く。しかし疑問が残ったのかすぐに顔を戻した。


「では、何故電話とメールが並行して使われるのだ? いや、情報を残すという意味でならメールは有効か……」

「それもありますけど、あくまで民間企業のサービスなので、情報を届ける為にお金がかかるんです。電話は話した時間でお金がかかり、メールなら……大抵はタダです」

「ほぉ、豪気な企業だな……しかし、なるほど、面白い商法だな。特定のサービスを無料にし、別のサービスで料金を発生させる……確かに素晴らしい。仕組みを知りたい。中を見ては……駄目か?」

「俺の()を知ってるルーネさんなら構いませんよ」


 超能力の事を知っているルーネに関しては、個人情報もないなと判断したのか、一念はルーネにメール内容の開示を許した。

 ルーネは拳を握り喜びを表現すると、メールのボタンを押した。


「……ほぉ……ふむ、思った通り送信者がわかる仕組みか。かつらぎ……これは前に言っていた房江殿の?」

「そうですね、旦那さんです」

「しかし、一念……」

「何です?」


 師匠からの質問攻めに悪い気がしない一念は、微笑ながら首を傾げる。


「葛城殿は古代文字を使用するのか? 暗号として使うにしてもこの量では私でも解読に五分程、時間がかかってしまうぞ?」

「あぁ、それは文字化けって言って――――え?」


 一念の陽気な口調が止まる。ルーネが口にした言葉を脳内で復唱しているのだろう。ルーネの言葉は一念にとってそれだけの効力を含んでいた。


「どうしたのだ、一念?」

「そ、それってこの世界の文字なんですかっ!?」

「え、あぁっ」


 一念はルーネに迫りルーネの肩を掴んだ。

 ルーネの軍服の皺がその力強さを表していた。


「なんて書いてあるんですか!」

「い、一念、とても情熱的な迫り方だとは思うが……その、少し痛いぞ?」


 ルーネの頬は赤みを発し、しかしその表情は満更でもない様子だった。


「あぁもう、なんでこんな時にふざけられるんすかっ」

「ふっ、たまには私もそういう気分になるという事だ。パティだけに譲るのは些か勿体無いからな」

「なんでパティの事が出てくるんすか!?」

「この私が気付かないとでも思ったのか?」

「うぅ……それは……」


 一念が口ごもり、ルーネの肩を掴む手からも力が抜ける。次第に手が離れ、ルーネは小さく息を吐いた。


「そういう反応をされると私も困る。少しからかっただけだ、許せ。

 それでは質問に答えよう、確かにこの文字はアンアースの古代文字で一部の人間ならこれを解読出来る。勿論賢者と呼ばれる私なら造作もない事だ」

「ぜ、是非お願いします!」


 再びルーネの肩を強く掴む一念。

 再び頬を紅潮させるルーネ。しかし、今回は同時に微笑(ほほえみ)ながらそれを迎えた。


「……もしかして狙ってやってます?」

「賢者だからな」


 再び肩を強く情熱的に掴んで欲しかったルーネの計算力は、一念には読み取れなかったのだ。

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