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魔法世界の超能力者  作者: 壱弐参


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第五部 その八

「フーディア」

 農業国家アグリカの女王であり、アグリカの頭脳。王位についてまだ十年と経ってないが、先代女王が急逝(きゅうせい)し、女王不在の中サフラと共に頭角を現す。当時は「美しいだけ」と、周りの目は冷ややかだったが、部下の女達を率いての意識改革に併せ、農作業の効率化を図り、民衆の支持を得る。臣下の男共からの評価はそこまで高くはないが、民衆や女の臣下からの信頼は絶大である。

 平和主義だという事は歴代女王と変わりないが、その主義の中にある「攻めの姿勢」こそがフーディアとの違いだと言えるだろう。



 ――トレーディア城、アレクトの部屋――


 扉の外にはいつも通りバッツが控え、バルコニーにはジャンヌ、天井裏ではレミリアが美味しそうにやきそばパンを食べている。

 灰色のスウェットを着ているアレクトは、部屋のソファーの上で書類に目を通している。書類を見るその表情はいつになく険しく、書類をめくる手に力が入る。

 正面に座るオフィスレディの格好をしたミーナは、心配そうにアレクトの様子を見守る。机に置かれている結露しているコップにはお茶が入っているが、コップには手の痕は無く、飲み物には一切触れていない事がわかる。

 アレクトは最後の一枚を読み終えると、目頭を抑えながらソファーにもたれかかった。


「お兄様……一体どなたからの密書でございますか?」


 アレクトを気遣いながらも、兄を支える身としての仕事をこなさなくてはならない。その葛藤の中、ミーナは書類の詳しい内容を聞いた。

 アレクトは髪をかき上げ、再び姿勢を正してミーナに書類を手渡す。

 書類を受け取ったミーナは、数枚の書類をゆっくりと読み、つい先程までアレクトがしていた険しい表情が移ったかの様になる。


「これは……シグルド殿からの……」


 密書の差出人が判明し、同時にシグルドが今まで何をやっていたのかがわかる重要な内容だった。


「魔族の動向を調査していたのですね……」

「先代の国王ヨシュアの命令とある。父上には何よりも重要な密命と言われていたが、まさかこんなとんでもない事だったとはな……」

「動きが活発になっている、とありますが?」

「貿易国家トレーディアは、北に工業国家ダストリー、南に農業国家アグリカ、西に賭博国家ギブリグ、東には聖王国とイースティアも存在する。国に囲まれている以上、その外から押し寄せる魔族の情報はどうしても他国に劣ってしまう。父上はそれを危惧し、シグルドをこの任務の専任としたのだろう。ギブリグのジョージ王からは情報は入ってなかったし、聖王国のバルトからも連絡はなかった。……その書類の三枚目、真ん中辺りを読んでみろ」

「……えぇ、「魔族が北上、ダストリーを跨ぎ徐々に東へ移動してる」とあります」


 ミーナの書類を持つ手が震える。魔族の恐ろしさを知っているからである。

 魔族は非常に強い、美菜の強さでようやく倒せるレベルである。そしてその美菜の実力に対して、シグルドは「既にそこらの佐官程度では相手にならない」とイースティア国王のギンに進言していた。そう、一兵卒では相手をする事も出来ないのだ。無論、数で当たればその限りではないが、人間の被害は甚大なものとなるだろう。

 軍が役に立たない……というのは言い過ぎという程でもないだろう。事実、軍に出来るのは精鋭達のバックアップのみ。魔族の前に立とうものなら、それは絶対死の覚悟を決めざるを得ないのだ。


「東……か」

「また一念に頼る事になるのでしょうか……?」

「本来頼ってはいけない人物なんだがな……。どうなるかはわからんが、極力あいつに迷惑をかけたくないものだ」

「それを聞いて安心しましたわ」

「ふ、ふん。当然だっ」


 アレクトは腕を組み、二コリと笑ったミーナから顔を背ける。恥ずかしがる兄を見てクスリとまた笑い、すぐに仕事用の顔に戻る。


「先の大戦の経験者、ディール、バッツ、ラッセル、ピピンと、魔族との戦闘経験が豊富なムサシを招集します」


 そう言うと、ミーナはスッと立ち上がり頭を下げる。


「あぁそれと……」

「はい?」

「ブレイブの副隊長も呼んでおけ」

「最近、お気に入りですね」

「次世代を牽引する人材に育ってもらわねば困るからな」


 ミーナは静かに笑みをこぼし、小さく頭を下げ、そして部屋を出て行った。

 ミーナの足音が聞こえなくなると、アレクトは書類を整え立ち上がる。


「ジャンヌ、レミリア!」

「はっ!」

「ここに」


 バルコニーからジャンヌ、天井裏からレミリアが現れ、アレクトの前へ跪く。


「聞いての通りだ。これより会議室へ向かう。ジャンヌはここで待機、レミリアは会議室まで来い」

「はっ!」

「かしこまりました」


 ジャンヌは持ち場に戻り、レミリアも天井まで跳躍する。アレクトは天井を見上げレミリアを見る。


「レミリア」

「はい、なんでしょう」

「頬に青のりが付いてるぞ」

「…………」


 パタンッ


 一気に顔が真っ赤になり、何も言わずに頬の青のりを回収し、天井裏の蓋をはめて消えていくレミリアだった。


「まったく……。バッツ、供をしろ!」


 扉越しから「かしこまりました」という声が聞こえ、アレクトはバッツと共に会議室へ向かった。








 ――アグリカ城、天樹上部――


 一念、フーディア、サフラが天樹の突起を利用し、腰かけている。

 天樹の最上部付近には開けた場所があり、フーディアとサフラはここでお茶を飲む事を好んでいた。

 この屋外テラスからの景色は素晴らしく、青空を感じ、大地を感じ、天樹の神秘的な力を感じる事が可能だった。


「――で、サフラがわがままを言ってここに屋外テラスを作ったのよ」

「あははは、確かに手作り感満載ですね」

「飛竜を使ってじゃないと来れない場所だからね。あ、聞いてよ一念殿、ここを作る時、サフラったら私にノミと金づちを持たせたのよ?」

「ちょ、女王陛下っ」

「あははははっ、凄いや。まるで俺とアレクトみたいです」


 ノミと金づちを持つ女王フーディアを想像し、噴き出す一念。異性の前で恥ずかしいのか、サフラは赤面し俯いてしまう。


「あらそうなの? トレーディアの賢王とも会ってみたいものね」

「あいつ頭は良いんだけどたまにどっか抜けてるんですよねー」


 アレクトを立てつつもけなす一念節に、サフラは顔を上げフーディアと顔を見合わせる。


「「あはははははっ」」


 今度は二人が噴き出し、仲良く肩を支え合いながら笑っている。


「だ、だめよ一念殿、自分の国の王をそんな風に言っちゃ」

「その通りですよ。どこに耳があるかわかりませんよ?」


 二人が一念に釘を刺す。


「誰だって陰で何か言われちゃうんですよ。だから俺はあいつの前で正直に言ってやるんです。陰口は嫌なものですから……」


 語尾に近づくにつれて一念の言葉に力がなくなっていった。二人もそれに気付いたのか、それには触れずにサフラが話題転換に乗り出す。


「では一念殿はトレーディアでもアレクト王とそういった感じで?」


 一念もすぐに切り替え、何かを思い出したかのようにニヤニヤと笑っている。

 二人の顔は一念の顔により、不気味そうに、そして興味深そうにという感じに変わっていく。一念がポケットに手を入れ出したのは……やはりスマートフォンだった。


「これです、これが賢王と呼ばれる男の真の姿なんです!」


 ルーネ達に見せた写真を二人に見せる。面白いネタは誰とでも共有したがる……一念のこういった所は……いや、一念のどういった所もまだまだ高校生の枠を出ないのかもしれない。


 写真を見たフーディアとサフラが大笑いをする。

 一念は、他に笑えるネタがないかスマートフォンを操作し写真を探している……その時だった。


 ピコーンッ


 スマートフォンから電子音が鳴る。

 聞き慣れた電子音が鳴った原因を調べるべく、一念はスマートフォンをホーム画面へと切り替える。


 《You’ve Got Mail》


 一念のスマートフォンには、確かにその文字が表示されていた。

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