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魔法世界の超能力者  作者: 壱弐参


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第五部 その六

 アグリカ城、城門前。


 一念達一向は城下町を通り抜け、城門前までやって来ていた。


「聖王城も凄かったけど、アグリカ城も凄いなこりゃ……」(ちょっと古いけど)

「天樹に向かうにつれて土を盛り、掘りや段を作っているのだ」


 アグリカ城は確実かつ堅実に造られた、典型的なモット・アンド・ベーリー型の城であった。そして最上段の中央には天樹が高く聳え立ち、それを囲み、寄り添う様に城が併設されている。


「あ、あそこっ。天樹の枝を利用した構造になってますよ!」


 トロンが上空を指差し、本塔から別塔への渡り廊下が、天樹の太い枝を利用しているのがわかった。

 興奮するトロンにルーネが更に興奮剤を投下していく。


「それだけではないぞ。ちょっとした樹洞を利用した部屋や、階段も存在するのだ」

「おぉっ、早く入りたいですっ!」

「……門番、戻って来ました」


 フロルの視線の先から、鉄の甲冑を装着した門番が小走りで門まで戻って来た。門番は一念の前で止まると、胸の中央に右手の握り拳を置いた。


「大変お待たせ致しました! どうぞこのままお進みください!」

「ありがとうございます」(この国の敬礼かな? やっぱりこういった違いも国によってあるんだなー)


 一念は門番に一礼した後、アグリカ城の正門を通って行く。城内はやや暖かく、薄暗い印象である。

 一念がそう思った瞬間、盛大な音楽が一行をビリビリと包んだ。


 ジャジャジャーン!


「うおっ!?」


 重厚かつ軽快な音楽に一念の心が躍った。

 左右に整列する音楽隊をキョロキョロと見渡す一念にルーネが声をかける。


「これ一念、中将の……いや三ヶ国間同盟大使としての仕事を果たせ。ほらあちらの将官も見えた様だぞ?」


 ルーネの視線の先、一念達の進行方向の先には美しい黄緑色のローブを羽織った女が立っていた。

 そして、その女は一念達の速度に合わせ、徐々に歩み寄って来た。


「お待ちしておりました一念様。私、アグリカの外交大臣兼大将を務めさせて頂いている「サフラ」と申します」


 サフラと名乗った女は金色の髪を頭頂部で纏めていて、非常に長い髪だった。髪は背中下部まで届き、その先を赤いリボンにより留めていた。

 一念はやや緊張しながらもアレクトイから預かった親書が入った黒い箱を持って一歩前へ出た。


「トレーディア中将、そして三ヶ国間同盟大使の吉田一念です。こちらは今回の件に関する親書です」

「お預かりします。……ふふ、あまり緊張されずとも結構ですよ。お噂はかねがね伺ってますし」

「えっ、アグリカにまで俺の噂がっ?」


 一念のちょっとした動揺に、再びルーネが口を開く。


「全く困ったものだな。非礼を詫びようサフラ殿」

「ふふ、問題ございません。本来人とはこういったものですから。堅苦しい形式やしきたりこそ人の感性を縛ってしまうとも言えるのですから」

「おぉ、サフラさんとは良いお友達になれそうっす」


 警戒心を緩めまくった一念を見てフロルとトロンが苦笑し、ルーネが額に手を当てた。


(まぁ、この方が一念らしいと言えばそうなるか……)


「はい、是非陛下との謁見の後、お話でもと思っております」

「えぇ、美味しいご飯を期待してます!」


(いや、やっぱり違うかもしれん……)


 遂にルーネまで苦笑チーム入りしたが、周りのアグリカ兵の反応はとても明るかった。一念とサフラのやり取りを見て、俯いて震える者、噴き出してしまう者、そして必死で堪える者……。


「あなたを招いた事は失敗では無かったみたいですね。陛下がお待ちです……こちらへどうぞ」

「はい」


 サフラはゆっくりと歩き出し、一念達がその後に続いた。











 ――魔の砂漠。


 シグルドが身の丈程の剣を抜き、目を瞑る。美菜はそのシグルドを大人しく見ている。


(前方に五体、左右に三体ずつだな。さてどう炙り出すかな……。ふむ、美菜が出来る内容で少しずつ教えていくとするか)


 そう判断し、シグルドは剣を一度腰の鞘に納めた。それを見て美菜がピクリと反応する。


(納刀? ……これは風の太刀?)


「正解だ。流石美菜だな。……風の太刀、戻しっ!」


 掛け声と共に抜刀し、周囲に風が巻き起こる。そしてその風がシグルドを中心に引き込まれ始める。次第に風が強くなり、美菜は立っていることも困難となった。

 先程の位置より徐々にシグルド達の近くへ魔族の気配が近づいていた。


「戻しにより、敵をこちらへ引きずり込むのだ。どうだ、使えるだろう?」

「いえ……この威力の風は、私には無理です……」


 美菜が半ば呆れ、シグルドの顔が少し困った表情になった。


「シグルドさん、相変わらず戦闘の指導は……」

「いい、皆まで言わんでくれ」


 その時、砂の中から紫色の大小様々な生物が目の前に現れた。それを見た美菜は驚愕した。


「そ、そんな……っ」

「やはりわかるか。そう、魔族とは元人間だ。……美菜に切れるかな?」


 シグルドはこの事実を今まで美菜に黙っていた。こういう事は自分で乗り越えて欲しい。ただその願いから。

 戦場を経験する者は必然的にこの問題を超えなければならない。敵である事実が変わらない以上、選択肢は戦って殺す事しか出来ないのだから。


「なんだね、もっと異形の者を想定していたのかね? そんな物は邪魔なだけだぞ」

「……っ」


 押し黙る美菜に、シグルドは正しく諭した。敵を勝手に想像し創造する事は非常に危険な行為であると。

 国家間の戦争、小競り合いの中で、肉親が敵になる事はよくある事である。それをよく知っているシグルドだからこそ、そう言えたのだった。


「肌が紫色に変色してしまうのは、血の凝固と闇の精霊の力が原因であると言われている。ふむ……現れたのは九体か」

「の、残りは……二体ですね」


(ほう、もう立ち直りつつあるな。やはり芯が強い)


「あぁあああ……うぁああああああ!」


 一体の魔族の叫び声と共に、九体の魔族がシグルド達に襲いかかる。


 そしてシグルドの一閃……そう、一閃だった。


 一刀のもとに六体の魔族の首が飛び、美菜がそれを認識する前に残りの三体の首が飛んだ。


「す……凄い……」

「む、一体は逃げたか。もう一体は……美菜、上だぞ」


 シグルドは近くの岩場の上に身構える魔族を発見した。


「なっ?」

「実力は……君と同等程度だ。間もなく襲ってくるぞ」

「な、なんでわかるんですかっ?」

「三、二、一……ほら来たぞ」

「質問に答えてもらって……ませんっ!」


 そう言い捨て、美菜は剣を両手に持ち駆け始めた。


「雄大な地を雄々しくゆく大地の精霊よ、我に神速の脚を与えたまえ……レッグ・レインフォース!」


 美菜が補助魔法を唱え、シグルドが感心した様子で呟いた。


「ほぉ、覚えたか」


 言葉通り、とはこの事を言うのだろうか。いくら精霊が魔法を教えてくれると言っても、美菜の言葉遣いは当初酷いものだった。故に精霊を味方につけ、魔法を唱えても発動に至る事は出来なかった。シグルドの下手な指導と、美菜の努力により、ようやくここまで辿りついたのだった。


「これで美菜有利か……いや、相手には地の利があるか」

「はぁっ!」


 美菜は掛け声と共に、美菜の元へ直進していた魔族の上へ飛びあがった。勿論魔族も気付いたが、迎撃態勢に入る前に美菜が次の行動に移っていた。


「力の太刀、金剛っ!」


 美菜は両手で剣を大きく振りかぶった後、瞬時に振り下ろした。そして魔族は応急的な迎撃として左腕を前に掲げ斬らせた。


「よしっ!」

「油断はよくないぞ」


 魔族の腕が地に落ちる前に、腕は元の切り口まで戻って瞬時に繋がった。そして振りかぶっておいた右手で美菜の顔目がけて振りぬいた。


「嘘っ!? ……がっ!」


 美菜は咄嗟の身体移動により、魔族の攻撃を左肩までずらし、致命傷を防いだ。


「いっつー……か弱い乙女に何してくれちゃってんのよっ!」


(か弱い女子は、普通魔族のいる土地へ来ないのだがな……)


「そこ、今何か言いました!?」

「口すら開いておらんよ」


 美菜は右手のみで剣を持ち、左腕が完治した魔族と対峙する。


「再生するなんて聞いてませんよ!」

「実戦経験を積ませたいのになぜ敵の特技を教えねばならんのだ?」

「あーはいはい!」


 段々とボロが出てきた美菜を見て、シグルドの口に笑みがこぼれる。


(らしさが出てきたか。さぁ、ここからだぞ)


「んー……やっぱり首なのかしら? シグルドさんもそうしてたからそうなんだわっ! まったく、なんでこんな世界に来ちゃったんだろう……っと!」

「がぁああああっ!」


 魔族が左右の腕を上段から振りぬき、美菜が垂直に跳んでかわす。着弾予定位置がずれた魔族は重心を地面に落としてしまうが、そのまま逆立ちし、美菜の腹部を蹴った。


「ぐっ!」


 咄嗟に剣の柄で受け、衝撃と共に後方へ飛ばされる。後方にある岩場に着地し、魔族の追い打ちに備える。

 しかし魔族は追って来なかった。


「ふむ、砂の地面を己の有利と見たか」

「もうっ、戦いにくいのよねっ。……あ、そうだ!」


 何か思いついた様子で美菜は剣を投げ槍を持つ様に構えた。


「雄大な地を雄々しくゆく大地の精霊よ、彼の者に剛力誇る恵みを与えたまえ……アーム・レインフォース! そして……力の太刀、投塵(とうじん)っ!」

「――ギャッ!」


 美菜は凄まじい勢いで剣を投げ、魔族の首を跳ね飛ばした。


「やりぃっ!」

「全く……一か八かが好きな奴だな」

「へっへへー♪」

「かわされていたらどうしていたのだ?」

「なるようになります」

「はぁ……私にはそんな戦い方は出来んな」


 ルーネが一念の後ろので額に手を当てた頃、シグルドが同じく額に手を当てた。


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