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魔法世界の超能力者  作者: 壱弐参


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第四部 その十

 聖王国。

 バルトは本丸頂上の寝室の窓から反乱軍の奇襲を待った。


(おそらく……そろそろだろう。来た!! あれは……アーツ君! ノア君に……ケイト君!! あれは……シーダイムッ!?)


 聖王城城門に反乱軍と思われる数百名のメンバーが現れ、シーダイムを中心とし正門に攻め込み始めた。


「よし!!」


(おそらく余が顔を出せればリエンを失脚に追い込む事が可能だ。あの者たちが敗れる前に……急がなくてはっ!!)


 バルトは寝室の扉前に立ち呪文の詠唱を始めた。


「雷鳴轟く雷雲より生まれし雷の精霊よ、鎧と成して我に力を与え給え…………雷闘気(ボルテックオーラ)!!」


 バルトの身体に雷が鎧となって出現した。「パチパチ」と音を立てるバルトの身体は雷の電流によって血流が促進され、超人的な動きを可能にする。

 順調に体調が回復したバルトは魔法を使用する事が可能になっていた。


「サンダーソード!」


 無詠唱によって出現した雷の剣は、バルトの右手に握られた。

 剣を上段に構え、バルトは扉を一刀した。


「はぁああああああ!!」


 大きな焼け跡を残し割れた扉の先には階段があり、バルトはゆっくりとその階段を下りていった。









 ――聖王国謁見の間。リエンが玉座に腰掛け兵に指示を出していた。


「何をしておる!! さっさと反乱軍を抑えんか!!」

「しかし、反乱軍の中にはあのシーダイム少将がおり……」

「シーダイムは既に少将ではない!! ゲオルグ中将に伝令を出せ!!」

「は、はい!!」


 いつの間にか玉座から立ち上がっていたリエンは、すぐにまた玉座に腰掛け、反乱軍の狙いを探っていた。


(なぜこのタイミングでやつらが攻め込んでくるのだ。あれほど慎重にウエスティンに兵を送ったのだ……バレるはずがない! しかし、シーダイムだと? あやつめ反乱軍なんぞにおったのか! 奴らの狙い……? ワシの命か? いや、それだけではない。ワシが狙われる事で生じる奴らのメリット………………バルトの救出? しかし何故この絶妙なタイミングで……? 影で何者かが暗躍したか?)


 リエンは考えても結論には至れず、終始険しい表情をしていた。












 ――聖王国正門前。シーダイムが指示を出し、アーツ、エメリアを先頭に反乱軍が猛攻をかける。


「雄大な地を雄々しくゆく大地の精霊よ、我らの力となりて歩を進める勇士達に神力を与えたまえ!! フィジカル・レインフォース・オール!!」


「「「っしゃあああ!! ナイスエメリア!!」」」


「いいから行きなさい!!」


「「「おぉおお!!」」」


「シーダイム!!」

「どうしたエメリア!?」

「ここは構わないからアーツと一緒に陛下の救出を!!」

「しかしっ!」

「任せなさい!!」

「あぁ! わかった!! アーツ!!!」

「おぉ!!」

「エメリア、援護だ!!」

「まっかせなさい! 雷鳴轟く雷雲より生まれし雷の精霊よ、我が信念の槍となり彼の者を貫き通せ!! ……サンダーランス!!」


「「「ぐあああぁっ!!」」」


 正門前の複数人の兵が雷の槍に貫かれ、その場に倒れこみ、道を塞ぐ者がいなくなった。


「道が開いたわ!! シーダイム!アーツ!! 行って!!」


「「おぉおお!!」」


 シーダイムとアーツが正門を抜け、城内へと駆けて行った。


「ふぅ……任せたわよ、二人ともっ」

「あらあら、エメリアったら張りきってるわね♪」

「房江様!? なんですかその格好!?」


 房江はいつものワンピースではなく、動きやすい黒いパンツにブーツ、インナーに薄くて白いシャツを着こみ、その上から黒いフード付きのマントを装着している。


「……まさか!?」

「そ、そのまさかっ♪」

「おやめください! 房江様に何かあったら一念君になんて言えばっ!!」

「大丈夫。一念ちゃんはそんなに弱くないわよ。あの子は生まれながらの戦士なの♪」

「そ、それってどういう……?」

「まぁ、いずれ話す機会もあるかもね? じゃぁね!」

「あ、房江様!! 待っ……!! 速いっ!?」


 房江はエメリアを置き、アーツ、シーダイム顔負けの速度で駆けて行った。



 ――ウエスティン西の外れ、平野に面した大きな崖の影に、緑が霞んだ色の皮膚をした竜が座っていた。

 大人しく主人の帰りを待っており、外敵を発見したら戦闘を回避し、隠れるように訓練されている。その飛竜の元へ、飛竜が気付く前に一念とバッツが現れた。

 突然の出来事に目をパチパチさせている飛竜は、主人(バッツ)の姿を見て安堵の表情を浮かべた。


「お待たせしました、グリード。今からちょっと大変な事が起きますが、危険はないので安心してください」

「おぉ、これが飛竜か!! かっこいい!! あ、初めましてグリード、俺、一念!! 宜しくな!!」

「グゥ?」

「可愛いなぁ……」

「一念殿」

「あ、はい。急ぎましょう」


 グリードは出発するのかと思い羽を広げるが、バッツは一向に乗ろうとはしない。

 グリードは気付いた。バッツと一念の身体が浮いている事に。そして、自身の身体に起きている事実に。


「グゥ!? ググルゥ!?」

「飛ぶぞグリード!! 舌噛むなよ!!!」

「グゥ?」


 一念、バッツ、グリードの二人と一頭は音を越え、遙か西のトレーディアを目指した。


「グゥゥァアアア!?!?!?」




 ――トレーディア平野。

 戦場から数キロ程ウエスティン方面に走った地には、ウエスティンの飛竜騎士団が停留している。

 飛竜騎士団団長のスプリガルド中将は飛竜の手綱を強く握り険しい面持ちだった。


(こんな戦争に何の意味があるっ!! リエンは一体何を考えているのだ! 民なくして国が成り立つ訳がないだろう…っ!! …………これも軍に身を置く者の宿命か。皆も……それは感じているだろう)


 その百メートル外れにある茂みの中にディール、リッツ、トロン達の姿があった。

 リッツ、トロンを含めた特殊警備隊の面々は作戦内容に恐怖し、身体の震えを抑える事で必死だった。

 国家特殊部隊ブレイブのメンバーは特殊警備隊を含めおよそ二百五十人。

 飛竜騎士団の規模はおよそ五千。

 ブレイブの作戦内容は「飛竜騎士団の足止め、可能ならば鎮圧」。

 そんな中、ディールはいつもの表情で皆に指示を出した。


「私が手を上げたらそれが合図だ。合図を確認したらここから飛竜騎士団に奇襲をかける」


(じょ、冗談だろ!? 百メートルの距離じゃ奇襲にすらならねぇ!! 事実上の正面突破じゃねぇか!!)


「皆の者、敵はおよそ五千。我々は二百五十。単純な計算だ。一人で二十人倒せば我々は勝てるっ」


 既存のブレイブのメンバーは小さな声で失笑する。

 そんな中でやや小柄な男がディールに声をかける。

 彼はピピン。シグルドがいなくなり事実上隊長となったディールをそばで支えた、事実上の副隊長だった男だ。

 ブレイブのメンバーには階級が存在しない。階級を与えられるのは要職に就く隊長と、副隊長のみである。

 しかし、精鋭としてディールに育てられた彼等は、全員が大佐以上の実力を持っている。

 体術だけではなく、状況判断能力、危機察知能力、魔法技術の全てが、ディールの手により究極というまでに研ぎ澄まされている。


「ディール少将、警備隊の者には荷が重いのでは?」

「ふむ。では、既存のブレイブメンバーは一人三十をノルマとしよう」

「クックック……それは中々の課題ですな」


(笑い事じゃねーぞっ)


「リッツ」

「はっ」

「お前は百人がノルマだ」

「っ!!」

「百人倒さねば、お前の弟や部下は全員死ぬと思え」

「……」


 ディールの非情な一言はリッツの身体に力を入れさせた。

 しかし、リッツにとってはそれが事実であった。

 既存のブレイブメンバーが更に失笑する。


 ピピンがリッツの肩に背後から手を置いた。


「リッツ君。ディール少将はそれだけ君に期待しているという事だ。事実、我々も君の力を認めている。まぁ、少し若いがな」

「ピピンさん……」

「……ふん」

「あれ、ディール少将。もしかして照れてるんですか?」


 この一言により、失笑の渦は広がり警備隊のメンバーに伝染した。

 もちろん敵から百メートルの距離である。

 小声ではあるが、腹を抱える者までいた。


(……負けらんねぇな)


 失笑の渦に耐えられなくなったディールは少し咳払いをした。その目には覚悟の力が籠っていた。

 その意味を全員が理解し、全員が静かに緊張の表情となった。


「合図をしたら既存のブレイブメンバーは、警備隊の者に一人以上付きながら奇襲をかけろ。警備隊の若者を死んでも殺させるなっ」


「「「はっ」」」


 既存のブレイブのメンバーは百三十人。

 警備隊のメンバーは百二十人。


「警備隊メンバーよ。学べ。そして強くなれ。お前達の双肩にトレーディアの未来がかかっている。我々より先に絶対に倒れるなっ」


「「「はっ」」」


「では、行ってくる。……後程な」


 そう言うとディールは背中で手を組みながら、ゆっくりと飛竜騎士団の元へ歩いて行った。

 トロンはディールの背中へ向かい詠唱を始めた。


「雄大な地を雄々しくゆく大地の精霊よ、我の力となりて歩を進める勇士に神力を与えたまえっ。フィジカル・レインフォースッ」


 ディールの身体が一瞬青白い光に包まれそして消えて行った。

 ディールは振り向く事なく、真っ直ぐに歩いていた。


 飛竜騎士団の兵がディールの行進に気付き武器を構える。


「何者だっ!!」


 その声に全ての兵がディールに目を向ける。


 全ての兵が気付いていた。ディールの制服に。

 制服は乾いた泥に覆われていた。しかし彼がトレーディアの少将である事は、袖の三重線を見れば一目瞭然だった。


 彼らはディールに仕掛ける事が出来なかった。仕掛ければ一撃で自分が倒れる映像(ビジョン)を容易に想像が出来たのだ。

 動けない。動けば己に死が降りかかる。

 ディールは殺気を放ちながらスプリガルド中将の元へ到達した。


「……」

「トレーディアの少将殿がどの様な用かね?」

「私の名はディール! トレーディア国、アレクト王の命により貴公らの足止めに参った!!」


 飛竜騎士団の兵達は戦慄した。およそ五千人の全ての兵がその名を知っていた。その殺気、その風貌が、兵達の頭の中にあるディールの情報と一致した瞬間だった。

 スプリガルド中将は己の力量を弁えていた。ウエスティンの中将といえど、トレーディアの少将より強いという訳ではない。

 人材の宝庫と言われるトレーディアでは全ての能力を含めた実力主義。ウエスティンは規模が小さい国であるが実力主義でないという訳ではない。

 しかし、その「質」は明らかに違い、大きな差を出している。ウエスティンの尉官はトレーディアでは一般兵と言われる程である。それほど開きがある事をウエスティンの兵は信じていなかった。だが、ディールの実力は飛竜騎士団の全員にそれを悟らせた。

 スプリガルドはウエスティンの将官として、飛竜騎士団の団長として、五千人の部下の長として自らを奮い立たせた。


「……我々は、ウエスティン国軍の飛竜騎士団である!! その足止めの任! 立場上見過ごす訳にはいかぬ!! 世界に名高きディール少将のお相手、至極光栄である!! このスプリガルド! 身命を賭してお相手させて頂く!!」


(なるほど、中々良い将だ……)


 ディールは静かに手を上げ、百メートル先にある茂みの中から国家特殊部隊ブレイブが静かに駆けだした…。


(かぁあああつっ)!!!!」


 その時、ディールの体内に溜め込んだ殺気が解き放たれた。

 その殺気に全ての兵が釘付けになり、飛竜は驚き(すく)みあがった。誰もブレイブの存在に気付く者はいなかった。


(まじかよっ!? 五千人がディールのおっさんガン見だっ!! これは……奇襲成功っ!?)


 リッツが考えていた事を特殊警備隊のメンバーも考えていた。

 その時、既存のブレイブメンバーが雄叫(おたけ)びをあげた。


「「「「おぉおおおおおおお!!」」」」


「何っ!?」


 スプリガルドがそれに気付いた時には、既に飛竜騎士団に少しながらの損害が出ていた。

 スプリガルドは即座に周りの兵に指示を出した。


「皆の者!! 後れをとるな!! 剣をとれ!!」


「「「「お、おぉおおおおお!!!」」」」


 ディールが静かに……しかし通る声で放った。


「さぁ、始めよう」


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