第四部 その七
「ライネル」
聖王国の将官。階級は大将。
性格はディールに似て寡黙である。「トレーディアにムサシ在らば、聖王国にライネル在り」と称される武人。
左目の傷は昔ムサシとの死闘によりつけられた傷である。無論私怨からではなく、双方の合意での戦いである。
指揮力がずば抜けており、過去の戦争で無敗という常勝将軍である。。
「リディアーナ」
聖王国の将官。階級は大将。
聖王国の大魔道師。現在賢者に最も近い女性と言われている。研究でも成果を出しており、様々なマジックアイテムを作成している。
バルトの忠臣であり、バルトに秘かに恋慕の感情を抱いている。
「オーダイム」
聖王国の将官。階級は中将。
心優しき男。シーダイムは双子の弟だが、シーダイムが反乱軍に属している事をオーダイムは知らない。
大戦時に名を上げた武闘派、ただそれは魔族に対してのみであり、人間を標的としたものではない。
「シーダイム」
聖王国反乱軍の軍医。階級は元少将。
心優しき男。オーダイムの双子の弟。軍にいる兄の苦悩を目撃し、反乱軍に属する事を決めた。
元は聖王国の軍医だったが、リエンの執政になり、聖王国の在り方に疑問を持ち聖王国軍を退役。
オーダイムとは仲が悪くもなく良くもなく。ただ、二人で戦場に立ったならば負けなしであった。
――トレーディア国アレクトの自室。
応接用のソファーの奥側に黒いスウェット姿のアレクトが腰掛けている。その左側にセドナが立っている。
応接用のソファーの手前に青いジャージ姿のジョージが腰掛けている。その右側にはアレクトの様な細目でガタイの良い、黒い燕尾服を着た角刈りの男が立っていた。
「まずは調印の儀が終わり、一段落だなジョージ王」
「アレクト王、城門からの装飾…間に合わなかったな?」
「うむ。よくわかったな」
「まるで凱旋の様な民衆の出迎えだったからな」
「ふふ、良い民であろう」
「あぁ、素晴らしいな」
「それは光栄だ」
「ところで一念君はいないのかね? 彼にはもう一度会いたいと思っていたのだが……」
「申し訳ない。あいつは今任務中で城を空けている」
「そうか、それは残念だ」
「しかしよく同盟に踏み切ったな?」
「聖王国の件か?」
「あぁ、一念の奴がこの国が聖王国に狙われている事をギブリグに話すべきだ……と言うからな」
「黙っていれば、問題無く同盟が組めるのにな」
「私なら受けないぞ?」
「あぁ、実際国でも意見が割れた」
「だろうな」
「しかし、その誠意が私の気持ちを動かした」
「では、この同盟は一念の手柄だな……」
「彼無くしてこの同盟は成り立たなかっただろう……」
「あいつめ、任務出発の前日まで私がギブリグに赴くべきだと言っておったぞ」
「フッ、礼に厚いな……」
「この世界の者ではないからな」
「ほぉ、そうなのか?」
「異世界より現れた。元の世界に戻れるまでの間、この国の仕事を手伝ってもらっている」
「なるほど。……わかった。力になれるかはわからぬが、異世界へ帰る方法や情報がわかれば、必ず一念君に伝えよう」
「そうしてやってくれると助かる」
「ところで……彼を、一念君を譲る気はないか?」
「ほぅ、あいつも気に入られたものだな」
「五十兆出そう」
「破格だな。およそ人に付く値段じゃないぞ?」
「十八兆を一夜で稼ぐ男だ。安すぎると思うが?」
「ハハ、確かにな。まぁしかし、交渉は俺ではなくあいつ本人にしてやれ。困った顔をするだろうがな。あいつの任務が終わったらギブリグに向かわせる様にしよう」
「では、そうしよう。……行くぞ、ドラゴン」
「はっ」
「またいつでも来てくれ」
「王族は本来、国外には中々出られないのだぞ?」
「では、一念と共に私が行こう」
「あぁ、待っている」
ジョージがアレクトの部屋を退出し、城の出入り口まで歩いて行った。道中バッツが案内したが、彼がジョージに喋りかける事はなかった。
ジョージが隊を率いて城門まで向かう途中、一頭の早馬がジョージの脇を駆け抜けた。
「陛下に至急の用件有り! 横切る無礼、許されよ!!」
ジョージがそれを聞きピタリと止まった。
「ドラゴン」
「はっ」
「あの早馬の後を追い、アレクト王に内容を聞いて参れ」
「承知しました」
ドラゴンが踵を返し、トレーディアの城へ馬を走らせた。
「しばしここで待機だ」
「「「はっ!」」」
「民衆の諸君! 私はギブリグ国王ジョージである! 皆の往来で止まる事をここにお詫びする!」
(なるほど。彼も良き王ですな……)
バッツがジョージに感心していた頃、早馬の兵が息を切らせ、謁見の間に辿り着いた。
アレクトはセドナを脇にに置き、玉座を立った。
「何事だ!」
「はぁ、はぁ……国境部隊より報告です!」
「話せ」
「ひ、東の地、ウエスティンにて不穏な気配有り! 国境付近に続々と兵が集結している模様!」
「ちっ!」
「アレクト王!」
「そなたは、ドラゴン殿……」
「話は聞かせて頂きました!」
「……すまない」
「いえ! 急を要する為、この場は失礼いたします」
「なかなか良い将だ」
「お褒めに預かり光栄です! ……では!」
「うむ」
ドラゴンは全てを語らずジョージの元へ駆けて行った。
「そなた、名をなんと申す?」
「はっ、国境部隊副隊長イース少尉であります!」
「イース少尉! 急使ご苦労である! 休息をとり、任に戻る様に!」
「はっ!!」
「セドナ!」
「はっ!」
「戦争となる! 緊急会議だ!!」
「はっ!!」
トレーディア中の全ての兵が駆け回った。
尉官以上の全員招集。全ての兵がただ事ではない事を認識していた。
謁見の間ではアレクトが玉座に、その左隣に用意された椅子に、ジョージが腰掛けた。ミーナは右隣に立ち、その正面にはら一念と要職に就いた兵を除いた兵が集まっていた。
「時間がない! 簡潔に話す!」
「「「はっ!!」」」
「今しがた国境部隊より報告があり、東の国、ウエスティンよりトレーディアに向かい、兵が終結していると連絡を受けた!」
兵に動揺の表情は見られない。全てを覚悟していた顔だった。
(なるほど、人材の宝庫トレーディア……我が国も見習わなくてはな)
「おそらく戦争は避けられないだろう! 各々上官の指示に従い、事に当たれ!」
「「「はっ!!」」」
「ジョージ王」
「うむ」
アレクトに促されるとジョージが立ちあがった。
「ギブリグ国王ジョージである。同盟当日とはいえ、既に我々は固い絆で結ばれている!! 今、我が国のドラゴン中将が飛竜に乗り、ギブリグに戻っている!
救援までは三日とかからないだろう! それまでの間私もここに残り、出来うる限りの協力をさせてもらう!」
全ての兵がジョージに跪いた。
「「「はっ!!」」」
アレクトは再度声を張る。
「何か質問はあるか!?」
「陛下!」
「パティ大佐!」
「はっ! 一念准将からの連絡は!?」
「聖王国からの連絡は先日トロン大尉から受け、皆に伝えた通りだ! それ以外の報告はない!」
(ほぉ、一念君は聖王国へ間者として……大した男だな)
「はっ! 申し訳ございません」
パティの肩が震えていた。それに気付かないアレクトではなかった。
「……心配するな! あいつが死ぬはずがない!」
「はっ!!」
パティの目には涙が溜まっていたが、パティはそれをこぼす事はなかった。
「ムサシ中将!」
「はっ!!」
(彼が西のムサシ……)
「歩兵部隊の全権を委任する。後程報告書を提出しろ!」
「身命を賭して!!」
「ルーネ中将!」
「ここに!」
(賢者ルーネ。相変わらず凄まじいオーラだ)
「魔法兵団の全権を委任する。後程報告書を提出しろ!」
「承知した!」
「ディール少将!」
「はっ!!」
(ほぉ、あれが伝説の……)
「一時的に国家特殊部隊ブレイブの隊長に任命する! 国境まで赴き随時情報を届けろ! 戦闘は極力回避! だが、緊急時の判断は任せる!」
「身命を賭して!!」
「リッツ中佐!」
「はっ!!」
(彼は……?)
「一時的に国家特殊部隊ブレイブの副隊長に任命する! 以降特殊警備隊はディール少将の指揮下に入り指示を仰げ!」
「……はっ!!!」(大役だなっ……)
(ほぉ、あの者にあの「ブレイブ」の副官を……。良い人材が育っているという事か)
「ミーナ!」
「はい!」
「以降、寝所を私の部屋とする。ジョージ王もだ」
「うむ。それがよかろう」
「はいお兄様」
「バッツ大佐!」
「ここに、陛下」
「……」
「……陛下?」
「飛竜に乗り、一念准将の同行を探り、見つけ次第、共に帰還しろ!」
「……」
「返事はどうしたっ!」
「はっ」
バッツが返事を躊躇ったのには理由がある。その理由は全ての兵が理解していた。そう、アレクト自身も……。
貴重な兵であるバッツ。貴重な機動力を持つ飛竜。この二つのカードを一念の為だけに切る事で生じる戦力の低下。
しかし、全ての兵がそれについての指摘をしなかった。
アレクトが信頼するバッツという人間。最速で移動する飛竜。これは、国を傾けてでも一念を助けたいという、アレクトの意思の表れだった。
「行け! バッツ!」
「失礼します」
バッツは無礼を承知でその場を駆けて行った。
「レミリア中佐!」
「……は」
「一時的に王親衛隊の指揮を任せる!」
「承知しました」
「イリーナ、メル、フロル!」
「「「はっ!」」」
「王親衛隊の指揮下に入り、以降レミリアの指示に従う様に!」
「「「はっ!」」」
「皆の者、全力を尽くせ!! 辛い時は後ろを向け!! そこには国や家族や故郷がある!! そして前を向け!! 自らを奮い立たせ勇者となれ!!」
「「「「「「おぉおおっ!!」」」」」」
(なるほど。賢王アレクト……その名に恥じぬ、王の中の王だな)
――聖王城バルトの寝室。
バルトは横になり、リエンが今日も毒料理を運んで来る。
「陛下、お加減はいかがですかな?」
「うむ。……やはりあまり力が入らない」
「左様でございますか。お顔の腫れは引いた様で……」
「あぁ、情けないな。ベッドから落ちてしまうとは……」
「いいえ、そういう動こうという気持ちが陛下の身体に力を与えるのでしょう」
「ありがとう」
「では、ここに薬膳を置いておきますので……」
「……」
リエンが部屋を退出し、「ガチャリ」と鍵をかける。
(爺めっ!! しかし、昨晩一念の奴が現れなかったのは気になる。腹が減ったぞ一念! まぁ、前に持ってきてくれた保存食があるから大丈夫だが、しかし気になる。どうした……一念っ)
バルトは身体を起こし、毒膳を窓の外から流し捨てた。
――翌日。一念の自宅ではエメリアが一念の介抱を行っていた。
エメリアは井戸から汲んで来た水に布を浸し、一念の額に乗せ解熱の促進を試みている。
「うぅ、はぁはぁ……」
「頑張れ一念君……」
「うぅ……エ、エメリア?」
「気付いたのね一念君っ」
「あれ……俺ミツル、え?」
「サエ様……いえ、房江様から聞いたのよ。安心して。知ってるのは私だけよ」
「そう、房江さんが……」
「ご飯食べれる?用意するわ」
「あぁ、ありがと……」
エメリアは半刻程で米をスープで浸したリゾットの様な食べ物を一念に与えた。
「……どう?」
「うん。うまい」
「よかった。料理には自身あるのよっ」
「うん。良いお嫁さんになるね……」
「そそそそそうっ? が、頑張るわっ」
他愛もない会話だが、エメリアはそこに少しの幸せを感じ取っていた。
「……みんなは?」
「今は皆アジトよ。一念君のおかげで仕事が少ないの」
「ハハ、そりゃよかった……」
「だから……ね? 安心して休んで」
「うん、ありがとう」
エメリアにそう伝えると、一念は再び寝息をたて始めた。




