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魔法世界の超能力者  作者: 壱弐参


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第四部 その六

 一念が聖王国に発ってから数日、ここトレーディアでは、間もなく行われる「賭博国家ギブリグ」との調印式の準備が行われていた。


「それはあちらへ、椅子は二つの国家で同じ数を用意して、左右に並べるのよ!」

「ミーナ殿下、調印式の内容について、陛下からご相談があるそうです」

「兄上が? わかりました。すぐ伺います」


 調印式はいよいよ明日となり、アレクト、ミーナは、仕事に追われる状態となっていた。


「お兄様、ご用事とは?」


 アレクトの自室。調印式を明日に控え、アレクトの部屋にある応接用のテーブルの上は、書類で埋め尽くされていた。


「ミーナか、いや参ったぞ」

「どうしましたの?」


 ミーナは応接用のソファーに腰掛け、書類の山から見え隠れするアレクトの話を聞いた。


「城門からトレーディア城までの装飾が間に合いそうにない……」

「まぁ。それではどうなさいますの?」

「急ピッチで一定区間まで装飾し、民に協力してもらおう……というのが私とセドナの案だ」

「民に……ええ、いい考えだと思います」

「そうか。よし」

「大変そうですわね」

「ミーナも人の事言えないんじゃないか?」

「一段落はしましたわ」

「なに、ずるいぞ!」

「要領が良いと仰ってください」

「ぬぅ……」


 アレクトが指示書に筆を入れ始めた時、扉から「コンコン」というノック音が響いた。


「誰だ?」

「トロン大尉であります!」

「おぉ、戻ったか。入れ!」

「失礼します!」


 トロンは緊張しながらアレクトの自室に入り、扉の前で敬礼した。


「一念さんの件でご報告に来ました!」

「休んでくれ……とゆーかミーナの隣でいいから座ってくれ」

「はっ!」


 ミーナはトロンの為に少しスペースを空け、左端へと腰掛け、トロンは右端にちょこんと座った。


「では、聞こう」

「行った意味があまりありませんでしたっ」

「……どういう事だ?」

「陛下からの指示の「反乱軍に接触し、協力しろ」……これについては既に一念さんは決行しておりました」

「……」

「もう一つの指示、「聖王とコンタクトし、その容体を探れ」……。これも既に一念さんは聖王バルト様とのコンタクトに成功しておりました」

「……」

「一念さんからの伝言です。えぇーっと「バルトは復調の兆し有りだ。復権に関しても精力的。とかあの駄王に言っておけ」との事です。……うわぁ、違う違う! 「バルトは復調の兆し有りだ。復権に関しても精力的」……です!」

「……」

「トロン、ご苦労様♪」

「は、はい!」

「あいつには一般常識より状況判断を仕込むべきだったかもしれん……」

「あら、一念はお兄様に、とても素晴らしい常識を教えてくださいましたよ」

「はぁ……次の指示を出すのが不安だ」

「アハハ……」


 アレクトは書きかけてた指示書に再度筆を入れ、トロンに手渡した。


「トロン、すまんがこれを持ってセドナの所へ行ってくれ」

「はっ!!」


 トロンは指示書を受け取るとすぐさま立ち上がり、アレクトの部屋を後にした。


「次はどうするおつもりですか?」

「しばらくは反乱軍に身をおいてもらうのが一番だと思うがな……」

「しばらく……とは?」

「聖王バルトの体調次第だな。次の指示には反乱軍への協力と、聖王バルトの体調の詳細……こんなとこか。あんまり細かい事があいつに出来ると思えん」

「ですわね。……誰に向かわせますか?」

「人選は任せる……」

「わかりましたわ」


 ミーナはそう言ってアレクトの部屋を後にした。

 アレクトはソファーに寄りかかり、「ふぅ……」と、大きな溜め息を吐いた。











 ――聖王国。夜、一念の自宅では房江が一念の為に料理を振舞っていた。

 食卓には、何故かケイト、アーツ、ノア、エメリアの姿があった。


「……うちにはねぇ、椅子が四脚しかないの。四人座ったら、俺とサエさんどこに座るの? ねぇ?」

「サエさんの手料理、私大好きだっ」

「……」

「うん、良い匂いだ」

「……」

「お腹空いた」

「……」

「この料理をマスターして、ミツル君の胃袋を掴む……」

「……」

「はいはい、お待ちどうさま!」


 サエが大皿に沢山の唐揚げを載せ、テーブルの上に運んできた。因みに一念はベッドに腰掛けている。


「待ってました!」

「良い匂いだ」

「お腹空いた」

「これがミツル君の好物」

「……はぁ」


 仕方ないので一念は簡易的な椅子として、念動力(サイコキネシス)の反発力を利用した椅子を作り上げた。

 知らない人が見れば、空気椅子をしている様にしか見えない状態だ。

 房江が一念の対面の中空に腰掛け、一念がそれを支えた。


「ありがと、ミツルちゃん♪」

「いいえー」


 大皿に載っている唐揚げを小皿に小分けし、一念と房江の正面に浮かせる。

 エメリアが唐揚げを飲み込み、一念に顔を向ける。


「なかなか便利ねそれ」

「本当は使いたくないんですけどね」

「なんで?」

「これに頼り過ぎると身体が鈍りますから」

「ふ~ん」

「それは良い考えだな」


 アーツが同意し、房江がニコニコ笑っている。

 ケイトとノアは唐揚げに夢中だ。


「そういえばミツル君とサエ様はどういった知り合いなの? バタバタしてて聞けなかったから……」

「サエさんは、俺が三、四歳位の頃から七歳位まですんごいお世話になった人なんです」(……ん?)

「へ~。よく覚えてたわね」

「えぇ、母親みたいな感じですかね」

「んー、ミツルちゃんにそう言われると複雑だわぁ」

「アハハ……」(あれ……?)

「いつの間にかこんなにカッコ良くなっちゃって……私も狙っちゃおうかしら?」

「あー、サエ様それはズルいですっ」


(なんだ……身体が、重い……)


 浮いていた小皿が落ちた時、周りも異変に気が付いた。「パリィン」と割れた皿は皆の注目を浴び、房江が立ちあがった。

 一念が倒れたのはそれから間もなくの事だった。


「一念ちゃん!」

「「「ミツル!」」」

「はぁ、はぁ……うぅ…ぅ」


 房江の「一念」発言を誰も気に留めず、全員が一念の元へ集まった。

 一念の顔は青ざめ、見れば額から首筋にかけて大量の汗が流れていた。

 房江は一念の額に手を当て、異常な体温を感知した。


「大変、凄い熱だわっ」

「ケイト! アジトに行ってシーダイムを呼んで来て!」

「わ、わかった!」

「ノア! 布団が一枚じゃ足りないわ! アジトから持って来なさい!」

「は、はい!」


 一念はアーツの手によりベッドに乗せられ、そのまま意識を失った……。










 ――聖王城。謁見の間。

 大理石が床に敷かれ、その上に敷かれる真紅の絨毯。水が透き通る様な色調の空間は、見る者を圧倒する。

 玉座の真後ろには大きなステンドグラスがあり、それには神秘的な女神の絵が描かれている。

 玉座の前にはリエンが立っており、その正面には青い鎧を纏った肌の色が浅黒い黒髪の男が跪いていた。男の眼光は鋭く、左の目には大きな傷跡があった。傷は額から左目を通り、左頬までおよんでいた。


「ではライネルよ、頼んだぞ」

「はっ!」


 ライネルと呼ばれた男は、謁見の間を後にすると、城を出て馬に跨った。

 城門近くで、ライネルは一人の女に話しかけられた。


「ライネル将軍、どちらへ?」

「リディアーナ将軍……」


 リディアーナと呼ばれた女は、金色の長い髪を真っ直ぐにおろし、ライネル同様の鋭い眼光を放っている。

 ミーナとは対照的な妖艶さを持ち、端正な顔立ちだが、キツイ印象を感じる。漆黒の鎧を装着し、左手には同色の兜を持っており、その頭頂部には真紅の羽が装飾されている。


「今回の作戦、私が指揮を執る事になりました」

「ほぅ、ではやはり……」

「えぇ、後程指示が届くでしょう」

「あまり気乗りはしませんが、仕方がないでしょう」

「これも務め故、では!」

「また後程……」


 リディアーナはライネルを見送ると、本丸の頂上部を見上げた。丁度バルトの寝室に当たる所だ。


(陛下……)



 ――ライネルは西にある駐屯地に脚を運ぶと、作戦室へと向かった。

 作戦室は中央施設の西はずれにあり、ライネル将軍が施設に入ると、その後ろにライネル同様青い鎧を装着した兵が続いた。


「オーダイム! オーダイムはいるか!?」

「はっ! ここに」


 オーダイムと呼ばれた男は大柄で、肥満体形、スキンヘッドの人の良さそうな男である。


「先程リエン宰相から指示が下った」

「……」

「お前に先陣を任せる。先にウエスティンまで向かっていろ」

「はっ、承知しました」









 ――場所は変わり、一念の自宅では。


 白衣を着た男が一念の胸を触診していた。 男は大柄で、肥満体形、スキンヘッドの人の良さそうな男である。

 その後ろでは房江が一念を心配そうな眼差しで見つめている。

 エメリアが男の険しい表情を見て、更に険しい表情になる。

 アーツ、ケイト、ノアはサエの代わりにアジトに戻り、待機している。


「どう、シーダイム?」


 シーダイムと呼ばれた男はエメリアに質問に答えた。


「詳しい事はまだわからないが、これは一時期、東のイースティアで見かけた「砂熱(さねつ)」というやつだろう」

砂熱(さねつ)?」


 エメリアが砂熱に対しての説明をシーダイムに促した。


「どうやらイースティアの東の砂漠には、まだ魔族がいるみたいでな、その魔族の体液、糞尿が砂漠の砂に浸透し、その砂が風でイースティアに運ばれる。それが人間の体内に入り、こういった熱を引き起こすんだ」

「初めて聞いたわ……」

「イースティアでもかかる者は稀だった。……おそらく彼は空を飛ぶ事により、舞っている砂を多く吸い込みその被害を受けてしまったのだろう」

「で、ミツルちゃんは治るのっ?」


 少し張った声で房江がシーダイムに問いただす。


「治療は普通の熱とほぼ一緒です。身体を温め消化に良い食べ物を与えてください。胃まで届いたその砂が、便として排出されればすぐに良くなるでしょう」

「……そう。良かった」

「三日から四日安静にすれば大丈夫です。人に移る心配もないので安心してください」

「わかったわ。ありがとうシーダイム」

「サエ様やエメリアの頼みなら断れません」

「うふふ嬉しいわ」

「では、私はここで……」


 シーダイムは黒い鞄を持ち一念の家を出て行った。


「昔から身体は頑丈だったから、今回はホントビックリしたわ…」

「ところでサエ様」

「なぁにエメリア?」

「いちねんとは?」

「……咄嗟に声に出しちゃったからね」

「ではミツルはやはり偽名?」

「あら、気付いてたの?」

「陛下の反応で少し不審に思いまして……」

「まぁ仕方ないわね。……掛けて頂戴」

「はい」


 房江はエメリアに本当の事を話した。

 自分の名前。地球の事。葛城の事。娘の事。一念が七歳の頃、房江がこの世界に来た事。それから三年経った事。その三年で十七歳になった一念が目の前に現れた事。

 一念がトレーディアの准将である事。間者である事。一念の能力が魔法ではない事。そして、周りには内密にして欲しい事を……。


「……そんな事が」

「全て事実よ。彼は知っている人がいないこの世界で、孤独に……しかし力強く生きているの」

「……いい男ですね」

「ええ、本当にカッコ良くなったわ……」

「わかりました。彼……一念君の事は周りには伏せておきましょう」

「そう言ってくれると信じてたわ。ありがとう」

「いえ、そんな……」

「それじゃ、一念ちゃんのお世話はエメリアに任せようかしら」

「ほ、ほんとですか!?」

「あら、嬉しそうね」

「は、はい! でも、房江様の護衛が……」

「大丈夫よ、一念ちゃんのおかげで、手持無沙汰になってる子が多いから、その子達にお願いするわ」

「はい! 頑張ります!」

「よろしくお願いね♪」


 房江はそう言って立ち上がり、エメリアを残して一念の部屋を去って行った。

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