第四部 その四
「では、次は「ウマック」の照り焼きサンドキャッスルを頼むぞ」
「わーったよ。リエンの前では体調悪そうなフリすんの忘れるなよ」
「仕方ないが、そうしよう」
「また明日来る」
「うむ。おやすみ」
一念は透明化を発動し、バルトの前から姿を消した。
「ほぉ、便利なものだな……」
それについての返事をせず、一念は空中浮遊と瞬間移動を併用して、帰路についた。
家に入る前に裏の様子を見るが、特に変わった様子はなかった。
――翌日。
朝、一念の額をつつく鳩の姿があった。一念は鳩を払うが、数秒後一念の額を再度つつくのだ。
「……痛い。起きないと血が出そうだ」
一念は上体を起こし、鳩の侵入口がある天窓を睨んだ。まだ太陽が昇って間もない頃合いだ。
鳩の脚には金属の筒が付いており、中には宝石と紙が入っていた。
鳩に食べかけのパンを与え、紙に書いてある内容を読む。
《中央区広場の酒場。青いフード》
それだけ書いてある内容をを読み。一念は外出の準備を始めた。
食事の終わった鳩を家の外で放し、西へ飛んでいくのを確認する。
一念は初日に行った酒場を思い出し、重い足取りで中央区へ向かった。
初日に行った酒場に着いて、青いフードを探す一念。カウンターとは離れた窓側の席に青いフードの人物が座っていた。
(あれは……)
一念は精神感応を発動し、青いフードの人物にコンタクトをとった。
『よぉトロン、元気にしてたか?』
『わぁ、……本当に頭に声が聞こえるっ』
『ハハハ、トロンには初めてだったな』
『陛下に聞いてなければ動揺していたところです』
『そういえばここにはどうやって来たんだ? 馬で二十日はかかる距離だろ?』
『え、聞いてないんですか? 僕、飛竜に乗って来たんですよ』
『そんな設定知らなかったわ……』
『設定……?』
『いや、なんでもない……続けて』
『飛竜に乗れば、二日でここまで来れるんですよ』
『そんなのトレーディアにいたのかよ』
『トレーディアには一頭しかいませんからね』
『貴重なのか?』
『トレーディアでは……。聖王国は飛竜の産地ですからね。軍隊に導入する程いますよ』
『へー。ところで今日は何の用なんだ?』
『はい。陛下からの伝言です。「反乱軍に接触し、協力しろ」との事です』
『あー、それもうやってる』
『なっ!?』
『偶然知り合っちゃってな』
『で、では、もう一つ。「聖王とコンタクトし、その容体を探れ」との事です』
『あぁ、それももうやってる』
『僕……なんの為に二日も掛けてここに来たんでしょう』
『それに対する返事になるかわからんが、バルトは復調の兆し有りだ。復権に関しても精力的。とかあの駄王に言っておけ』
『おぉ! 流石仕事が早いですね!』
『ほぼほぼ成り行きみたいなもんだけどな』
『こっちの事は聞かなくていいんですか?』
『あぁ、聞いたら帰りたくなるからな……』
『一念さんらしいですね』
『それより、トロン結構元気になったな。前は身体弱かったとか聞いたのに……』
『一念さんに言われた通り、食生活を変えたら咳一つ出ない身体になりましたよ。ここにも来れましたし……』
『やっぱ食事はバランスだな』
『はいっ』
一念はトロンとの会話を終え、酒場を後にした。
(感心感心。トロンも成長してるじゃないか。俺も頑張らなくちゃなっ!)
バルトご注文のウマックの「照り焼きサンドキャッスル」二つ購入し自宅へもどる一念。
(朝早かったからもう一度寝なおそう……)
そう思った一念は、テーブルに買った物を置き、ベッドにダイブしてそのままスヤスヤと眠りに落ちた。
「ん、んぅ……」
夜、深夜に近いこの時間。寝過ぎた一念は眠いながらも起きる事に成功した。……が。
そもそも一念が目を覚ましたのは自身の身体に重さを感じたからであり、「自然と起きた」というには言い難い状況だった。
一念の目の前に確かにそれはあった。
「ケ……ケツゥ!?」
一念の首には脚が絡み付いており、目の前にあるジーンズ生地のホットパンツからこぼれる艶のある肉は一念を覚醒させるには十分なものだった。
「だああああっ!! っと!!」
ルーネの時とは違い、その脚に万力は宿しておらず、すぐに跳ねのけ、床に転がり落ちる事に成功した。
そこには緑髪の三つ編みで、一念同様眼鏡をかけたまま寝るエメリアの姿があった。
「エ、エメリアさんっ!」
「ん……ん? あぁミツル君、おはよう」
「おはようじゃないですよ! ここ俺の家っすよ!」
「そりゃそうでしょ。君の家で寝てたんだから……」
「いや、意味わかんないっすよ」
エメリアは身を起こし髪をかき上げる。そのしぐさは一念も目を奪われる程だ。
「でも君、不用心よ? 鍵をかけないなんて…」
「あぁ……すみません」
「まぁ、おかげでミツル君と添い寝する事が出来たわけだけど」
「この世界の世間一般の添い寝は、相手の首に脚を絡みつかせるんですか?」
「あれは私の寝相が悪いだけよっ」
「なお性質悪いですよ」
「さ、今日は駐屯地まで行くんでしょ? 隣でアーツも待ってるわよ」
「先に聞いておきますが、誰が付いて来るんですか?」
「今日は私とアーツだけ♪」
(房江さんも人が悪いよ……)
一念は「ミストマント」を装着し、エメリアと反乱軍のアジトへ向かった。
アジトでは一階で房江がニコニコしながら待っていた。
「ふさ……サエさん困りますって。知ってるでしょ? 一人で十分ですって……」
「ごめんねぇ。私もそう言ったんだけどアーツ君が認めてくれなくて……」
(アーツ君って顔かよ……)
「ミツル、過信は敵だぞ」
「過信じゃなくてアンタ達がいると邪魔なのっ」
「なにっ!」
「アーツ君!」
アーツの拳に力が入ると房江の声がそれを制した。
「言ったでしょう? い……ミツルちゃんの言う事が聞けないなら同行は認めないと」
「しかし」
「エメリアはわかっているわよ」
「……」
「ごめんねミツルちゃん。多分ミツルちゃんの力を知ればアーツ君も納得すると思うの」
「はぁ。まぁいいです。危険なんで動かしませんから」
「まぁ。そうねそれがいいかもね♪」
(昔から豪気だよなぁ、この人……)「で、今日は何をすればいいんです?」
「そうね、軍の食糧を空にしてもらおうかしら」
「「「なっ!?」」」
「了解しました」
「「「っ!?」」」
一念と房江の会話を理解できる者は当人同士以外では確認できなかった。
数千人分の食糧の備蓄である。重さにして数百トン。それを三人で運ぶ等、考えもつかない様子だった。
「いける?」
「んー、多分いけます。どこに運べば?」
「そうね……ここと、ミツルちゃんの家?」
「なんで俺の家が選択肢に入ってるんですかっ。てか、俺の家教えるのやめてください。いや、もう遅いんですけどね……」
「うふふ、まぁいいじゃない」
「じゃあ行きますよ。エメリアさん、アーツさん」
「ええ」
「……ふん」
「「っ!!」」
外に出たエメリアとアーツは、自分の身体が動かない事に驚愕した。
「声は出せますけど、静かにしててください」
そして見送りメンバーも異変に気が付く。そう房江以外の人間が……。ケイトは両手で口を塞ぎ、ノアはぽかーんと口を開けている。
エメリアとアーツの身体が浮き上がり、それに続いて一念の身体が浮き上がる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい♪」
「「っ!!」」
一気に上空まで上がった三人は。西の駐屯地までゆっくり飛行を始める。
ゆっくり…というのは理由がある。一念がエメリアとアーツを気遣ったのだ。身体が動かない状態での飛行とは、どんな屈強な大人であっても怖いものだ。徐々に身体に慣らす為、一念はそれを選択した。
(……サエ様が一人で行かせたがるわけだ)
(飛行魔法だと……)
駐屯地の上空に着くまでは、そこまで時間がかからなかった。
上空五十メートル程の高さでは、アーツが小声で一念に質問を投げかけていた。
「どうする気だ?」
「食糧庫はあれだよね?」
「そうだ」
一念はあえてアーツに確認をしたが、本来それをする必要がなかった。
一念には透視があるし、房江に画像送信をされ、主な配置場所は全て頭に入っていたからである。
倉庫の天窓を見つけニヤリとすると、一念は二人に向かい「行ってきます」とだけ言い、その場から消え、天窓の上に現れ、そしてまた消えて行った。
「なんなんだ……。あいつは」
「サエ様は正義の味方って言ってたわよ?」
「悪い奴じゃない事はわかるが、この状態はいささか苦しいぞ」
「文句言わない。サエ様に無理言って付いて来たのは私達なんだから」
「少しでもケイトの恩を返そうと思ったんだが、本当に必要ないとはな……」
倉庫内。一念は薄暗い中に兵がいない事を確認し、小声で呪文を唱えた。
「サンダーソード」
一念の右手に雷が宿り、剣状となった。それを使い、静かに天窓を切り取った。
少々の焦げ臭さはしたものの、すぐに臭いは無くなり、天窓があった部分には大きな穴が形成された。
上空ではエメリアとアーツがそれに気付いた。
「穴……?」
「あそこから取り出す気?」
倉庫内では一念が新たな呪文を発動する。
「フィジカル・レインフォース」
身体強化。これにより、一念の身体の力が上昇すると共に、念動力の力も飛躍的に上昇する。
一念が両手を前に突き出し腰を落とす。勿論このポーズも一念の言う「力が出る気がするから」という簡単な理由からだ。
念動力が発動し、倉庫内の荷物が少しずつ浮かびあがり、ふわりふわりと天窓があった部分から外に出ていった。
エメリアとアーツの横に綺麗に整列する荷物は、次第に量が増え、五十メートル程の高さでは目立つ量となってしまった。
「なんなんだ一体っ」
「そりゃ人間が浮かぶんだから、荷物も浮かぶでしょうよ」
「いや、わかってるが、この量は異常だ」
最後の荷物が整列した時、一念がその荷物よりも先にエメリアとアーツの元へ戻ってきた。
「お待たせ」
「おいおい、いくら暗いからってバレるんじゃないか?」
「だからこうする」
一念は整列し、ピッタリくっついた荷物に手を触れ、荷物だけに透明化を発動。
次第に薄く消えていく荷物をエメリアとアーツは凝視した。目を擦りたくても一念に二人の身体の制御がある為動けない。
「さ、帰りましょう」
「あ、あぁ」
一念はアジトを出てから半刻もしないうちに、アジトに戻り房江を除いた全員を驚かせた。
「「「っ!!」」」
一念の制御を外れたアーツとエメリアは身体を動かし、コリをほぐしている様だった。
「ふぅ……やはり自由に動けるというのはいいものだな」
「以後邪魔しないでくださいよ」
「あぁ、私では君の役にたちそうにない……」
「そうです。だから、ケイトやサエさんをお願いします」
「っ! ……わかった。約束しよう」
「うんうん青春ねミツルちゃんっ」
「こんな青春は予定にありませんでしたけどね……」
眼鏡をクイッとあげるエメリアが一念に向かい質問を投げかけた。
「……時にミツル君。君は決まった女性はいるのかな?」
「えぇ!?」
「好きな女はいるかと聞いている」
(パティは、まだ……違う? から)「いないですけど…」
「ふむ。どう? 私と子孫を残す気はない?」
「へ? ……えぇええええええ!?」
その瞬間、反乱軍メンバー、主に男性から殺意の眼差しが送られた事に気付かない程、一念は鈍感ではなかった……。




