第四部 その三
「ケイト」
聖王国反乱軍のメンバー。橙の短めの髪に小顔ながらも大きな目。反乱軍内でも指折りの美人である。焦げ茶色のマントの下には白いシルクのシャツに深い緑色のショートパンツを履いている。靴は走りやすい薄い茶色い革靴を履いている。
脚は速いが、抜けているところが多く、所々でピンチになる。しかし、いつもピンチになると誰かが助けてくれる為、あまり危機感を感じていない。
アーツも頭を痛めてるが、自身がサポートに付く事によってピンチの軽減を計っている。
「アーツ」
聖王国反乱軍の幹部。赤髪の短髪で、体術は反乱軍一の使い手。黒いマントを着用し、黒い革靴、黒いシャツ、黒いパンツを履き、闇夜に行動しやすくしている。
並の兵では相手にならない為、聖王国の兵士内では要注意人物とされている。一念の見たてではリッツと良い勝負になると予想している。
愛想はないが、面倒見は良く、反乱軍内では良い兄貴分として、慕われている。
「ノア」
聖王国反乱軍のメンバー。エメリアの妹。薄い緑髪を首元で二つに分けている女性…というより、少女に近い年齢である。ケイト同様の焦げ茶色のマント、その下にはYシャツに茶色いベスト、青いスカートを履き、白い靴下、爪先が尖った茶色いブーツを履いている。
姉に憧れており、いつも姉を目標としている。極度のシスターコンプレックスであるが、怖い為誰も口に出来ずにいる。
「エメリア」
聖王国反乱軍の幹部。ノアの姉。緑髪を三つ編みで縛っており、眼鏡を着用している。袖無しの短い白いシャツはヘソを隠せておらず、ジーンズ生地のホットパンツにサスペンダーを刺し固定している。膝上まである茶色いブーツはそこからホットパンツまでにかけての生足を更に引き立てている。
サエの身の回りの世話をしているが、あくまで護衛が仕事。有能な魔術師であり、優秀な戦士。
反乱軍内にもファンがいるが、やはり怖い為誰も口に出来ずにいる。
「サエ」=「葛城 房江」
葛城の妻。黒髪を一本縛っている。美人で、活発。薄い桃色のワンピースに薄い黄色のカーディガンを羽織っている。彼女の基本装備は兎のスリッパである。
一念が幼い頃、研究所で一念を可愛がっていた。一念が七歳の頃、葛城一家三人で海水浴へ行った時に、大きな波に飲まれ行方不明に…。捜査は打ち切られ、水難事故とし、死亡扱いとされた。
一念と同様にアンアースに来ていた彼女は、現在聖王国反乱軍のリーダーとして、日夜聖王国の改善を計っている。普段はサエ、反乱軍内の会話ではボスと呼ばれている。
一念の涙が治まった頃、サエと一念は元の世界とアンアース、そして自分が今までどうしてきたかについて話していた。
「そう、元の世界ではあれから十年経ってるのね……」
「ええ、葛城さんも、真理ちゃんも元気ですよ」
「真理は可愛くなった? もう十二歳だものね……好きな人でも出来たのかしら?」
「あ、それ俺かもです。会う度に結婚しようって言われてます」
「あら、一念ちゃん。それは犯罪よ?」
「だから逃げ回ってます」
「フフッ、一念ちゃんも大変ね」
「聖王国に現れた異世界人って房江さんだったんですね」
「そう、この世界に着いたのは三年前だけど、誰もあまり信じてくれなくて……」
「仕方ないですよ」
「それからこの国のあり方が大変になって、若い皆だけじゃ心配でね……」
「確かに、反乱軍のメンバーは若い方が多いですね」
「あら、一念ちゃんも十分若いわよ?」
「ですね。アハハ」
「酷いわっ。これでも私まだ二十八なんだからっ」
「ええ、あの時の綺麗な房江さんのままです」
「嬉しい事言ってくれるんだから……」
「そりゃ大好きでしたから!」
「まぁ……」
房江が少々大袈裟に驚き、顔を赤らめる。
「ところで一念ちゃんはどうして聖王国へ?」
「……ちょっと頭で話しましょうか」
「うふふ、よく内緒話したわね♪」
「俺は凄く懐かしいですよ」
そう言って一念は精神感応を発動した。
『テストテスト』
『はい。聞こえてますよ』
『良かった』
『成長したわね。もうコントロールは大丈夫なのかしら?』
『バッチリですよ』
『そう、暴走した時はよく私が止めてたわね?』
『そ、その話はいいじゃないですかっ』
『照れちゃって……可愛いとこは変わってないわね♪』
『うぅ……』
『さ、聞きましょうか』
『敵わないなぁ。……俺は今トレーディアの間者としてここに来ています』
『まぁ……』
『成り行きでトレーディアの准将やってまして』
『凄い出世だわ! お赤飯炊かなくちゃねっ!』
『あぁもうっ!』
『うふふ、冗談よ』
『……で、トレーディアにリエンの手の者が調略を仕掛けてきたので、その捜査と仕返しと妨害? それをしに来てます』
『なるほどね。次はトレーディアを狙うのか』
『戦争になったら困るので、うちの駄目王が色々考えてます』
『トレーディアの王は賢王って呼ばれてなかった?』
『あいつは駄目です。大馬鹿です』
『まぁ……。仲が良いのね?』
『……悪友です』
『いい事だわ』
一念は少し照れると、照れ隠しか再び話を元に戻した。
『バルトの馬鹿も今夜様子見てきます』
『バルトって……聖王!?』
『そう、あの駄目駄目野郎です』
『良かった。まだ生きてるのね?』
『リエンのやつに毒盛られてるのに、リエンの事信じ切ってますよ』
『なるほど、それで外に出て来れないのね』
『そういえばこの反乱軍はどんな活動してるんですか?』
『主に妨害工作ね。城内にはそうそう入れないから、西にある駐屯地の倉庫を狙うの』
房江がそう思うと、一念の頭の中に駐屯地のイメージを送った。精神感応の応用技で、画像化したものを念じて相手に送る事が可能。房江は一念とよく精神感応のキャッチボールを行っていた事から、画像送信が可能となっていた。勿論一念の能力が必要不可欠である。
『ここの……この倉庫の中に武器や食料が大量に保管されてるの』
『画像まで送ってくるって事は……』
『一念ちゃんっ。お願いっ♪』
『でもケイトはこの前、城内に入ったとか心を読んだんですが……』
『あれはそれが失敗した日ね。外壁登ってる最中に見つかったとか言ってたわ』
『女の子に外壁登らせないでくださいよ』
『あの子が勝手にやっちゃったのっ。とにかくよろしくね?』
『わかりましたよ』
『やったわ! 戦力ゲット!』
『房江さんの頼みですからね。明日でもいいですか?』
『ええ、お願いするわ』
『じゃあ、明日のこの時間あたりにここに来ます』
『一念ちゃん、そういえばどこに住んでるの?』
『……この家の真裏です』
『まぁ、あの青い屋根の? ビックリね』
『ホントビックリですよ』
『じゃあ今度私がご飯作りに行ってあげるわ♪』
『おぉ!! 房江さんの唐揚げが食べたいですっ!!』
『大好きだっわね。わかったわっ』
『じゃあ、そろそろバルトのとこ行きます』
「あ、一念ちゃん待って」
椅子から立ち上がった一念を呼び止めた房江は、手元にあった紙の束を一念に手渡した。
「これは?」
「最近起こった出来事を纏めてある紙よ。税金の詳細、罰則、新法律。リエンのサイン入りだから、それを彼に見せてあげてちょうだい」
「なるほど。馬鹿にはいいクスリだな……。ありがとうございます」
一念は懐かしい知り合いとの楽しい会話を終え、渡された紙の束を鞄に入れながら一階へ登って行った。
「あら、もういいの?」
「ええ。明日また伺います」
「アーツさん」
「なんだ?」
「ケイトの事、お願いしますよ?」
「わかった」
「ケイト」
「……なに?」
「あまり無理しない事っ」
一念に顔を近づけられて注意をされ、顔が紅潮したケイトは一念の肩を両手で押し、一念と距離をとった。
「だ、大丈夫だっ!」
「アハハ、また明日ねっ」
一念は扉を出ると聖王城の方まで駆けて行った……。
見送ったケイトを、後ろから見つめていたエメリアがニヤッと笑いながら話し掛けた。
「ケイト」
「な、なんだ?」
「惚れた?」
「……っ!」
尾行の有無を確認し、裏路地に入る。薄暗い路地に一念の姿が歪んでいく。一念の身体が透明になると、ふわりと浮かびあがり、三日前同様、聖王城の本丸を目指しゆらゆらと飛んで行った。
『ん……灯りが点いてる。またリエンが来てるのか?』
本丸の頂上窓から漏れている灯りを不審に思った一念は、窓の中を視認し、慎重に灯りの近くまで歩いて行った。
リエンの気配はせず、寝台に蝋燭が灯り、寝ているはずの聖王が上体を起こし、何やら分厚い本を読んでいた。
「……来た、か?」
『へぇ……よくわかったね?』
一念が少し驚き、精神感応を発動する。
『なかなかの隠形技術だな。配下に欲しいくらいだ』
『その様子じゃ、三日間あの毒料理を食わなかったみたいだな?』
『ふん、貴様の言う事を聞くのは癪だったがな……』
『それだけ言えりゃ十分だ』
一念は鞄の中から紙の包みと水筒を取り出し、寝台の上に置いた。一念の手から離れた包みと水筒は透明化の影響下から外れ、バルトの前に姿を現した。
『それは?』
『お茶と、この国一番の人気店「コズミックパン」のクリームパンだ。食っとけ』
『おぉ、これがあの……』
『……食った事ないのか?』
『食えると思うのか?』
『いや、王ってのも中々大変だな』
バルトは一念の置いた包みを手に取り、初めて見るクリームパンに齧りついた。一口が大きく、数回の咀嚼で喉を鳴らすバルトを見て、一念は水筒のお茶を慌てて入れる。
『おいおい、喉詰まらせたらどうすんだよっ。……ほれっ』
まるで宙に浮いている様な水筒の蓋を手に取り、バルトはそれを一気に飲みほした。
「ん、ん……ん、ふぅ」
『うまいだろ?』
「あぁ、これはうまい…私は今まで損をしていたな…」
『ハハッ、そりゃそうだ』
「そろそろ姿を見せてくれないか? 一応君は命の恩人なのだからな。そして、出来れば頭でなく、君と喋りたいのだがな?」
「しゃあねぇな……」
一念は透明化を解き、バルトの前に姿を現した。
「ほぅ……。かなり若いな」
「アンタも似たようなもんだろう?」
一念は寝台前の椅子に腰かけ、水筒のお茶を自分にも入れ始める。
「で、君は……」
「んー、名乗っていいものかな……」
「口外はしない。約束しよう」
「まぁ、いいか。証拠もないしな。俺は一念。トレーディアの准将をしている」
「ほぉ。あの貿易国家の……。アレクトは元気にしているか?」
「知ってるのか。あの駄目王を」
「ハッハッハッハ。あいつを、主を駄目王と呼ぶ配下も珍しいな。なぁに、小さい頃少し遊んだ仲さ」
「小さい頃……今もあいつ小さいぞ?」
「確かに、身長は低かった……ハッハッハ。いやぁ、懐かしい」
一念は水筒の蓋に注いだお茶を飲み干し、再度注いでバルトに渡す。
「ありがとう。で、アレクトの密使……というわけではなさそうだな」
「あぁ、俺はトレーディアの間者だよ」
「クックック……アッハッハッハッハ! 間者が余に施しを? 滑稽でならないな……」
「うっせ! お前がしっかりしてりゃ俺はここまで来なくてすんだんだっ」
バルトは目に涙を溜め笑っていた。一念は不服な様子でバルトに反論する。
「だろうな。さぁ話してくれたまえ。今なら一念の言葉を信じる事が出来る」
「まず俺がここに来た理由からだ。この前、聖王国が西のウエスティンと傘下同盟を組んだ事は言ったな」
「あぁ、俄かに信じがたい話だがな……」
「んで、リエンの次の狙いがトレーディアになった」
「…………」
「んで、俺が間者として入り、その妨害が出来たらいいなーって感じ」
「そんな事が起きていたとはな……」
「信じるのかい?」
「少なくとも余の食事に毒が入っていた事は事実だ……」
「あぁ、後これ」
一念は鞄から房江から預かった紙の束を出し、バルトの膝に「バサッ」と、放り投げた。
「これは?」
「この国の反乱軍のリーダーからだ」
「反乱軍……そんなものまで出来てるのか」
「出来た理由は多分そこに書いてあるだろうな」
「………………」
バルトは半刻程その資料を読み、一念はお茶を飲みながら感想を待った。
「……一念」
「なんだ?」
「余を殴れ……。痛いっ! 本当に殴る奴が……いたっ。やめぬか! おい! っ!」
「こんなもんか?」
「本当に痛いぞ貴様っ」
「殴れって言ったのはお前だぞ」
「あぁ、もう既に後悔しているよ」
「で、どうだった?」
「税収が、余が執政していた頃より……少なくとも五倍になっている」
「少なくとも……ね」
「なんだこの罰則の数はっ。これでは民に死ねと言っている様なものだ」
「おーおー、わかってきたか。あの爺がやってる事が……」
「あの爺っ!」
「まぁ、しばらくは体力回復に時間を使え」
「何故だ?」
「お前、あいつに勝てるのか? 一応賢者なんだぞ」
「何を言う。余は聖王なんだぞ? 私の言う事には従うはずだっ」
「だから俺にバカって言われるんだよ。バカト!」
「なっ! 余はバルトだ! わざとらしく間違えるでない!」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い。あいつがどうせこの部屋の鍵持ってるんだろ?」
「そ、その通りだ」
「つまりここで、この場所で反抗するしかないわけだ。そうしてみろ。あいつはお前を痛めつけてベッドに寝かしつけて、鎖でも括りつけるに違いない」
「だから、なぜ余が襲われるのだ?」
「……あいつはお前を王だと思ってないからだ」
「………………………………なるほど」
「溜める必要ねーだろ」
一念はバルトの微妙に抜けた所をアレクトに重ねながら、本当にこの先大丈夫なのか不安に思ったのだった。




