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魔法世界の超能力者  作者: 壱弐参


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第三部 その十六

 ナビコフは疲れて屈んでいる一念に手を差し伸べ、「やられましたな……」と呟いた。


「いや、こっちはいっぱいいっぱいですよ」


 一念はそう言い、ナビコフの手を取り立ちあがった。


「それはこちらもです」

「アハハ、そりゃどうもっ」

「フフフ、お見事です」

「……ありがとう」


 二人の会話の区切りの良い所で、ムサシ、ディールが二人の元へ歩いてきた。


「ナビコフ、ご苦労だった」

「はっ!」

「一念。なかなか見事な戦闘だったぞ?」

「はい! ありがとうございます!」

「これにより訓練を修了とする。一念、今後も鍛練は怠るな」

「はい! ディールさん!」

「うむ。……では、ナビコフ、付いて来なさい。明日の会議について少し話がある」

「はっ!」


 ディールはナビコフを連れ試合場を出て行った。去り際に見せた笑顔にはムサシだけが気付いていた。

 試合場に一念とムサシが残り、ギャラリーも一念の知り合い以外は持ち場に戻った様だった。ムサシが一念に近づき小声で一念に語りかけた。


「一念、何か気付いた事はあるか?」

「身体能力の話ですか?」

「やはり気付いていたか」

「俺の世界で一ヶ月地獄の訓練をした位で、ナビコフさんの身長分の跳躍を……それも助走無しで出来たら、一躍有名人ですよ」

「そうだ。一念、私の年齢は言っていなかったな。わかるか?」

「え、んー、四十代……後半?」

「ふふ、だろうな。私は今年で七十五になる。周りには六十と言っているがな」

「ななっ!?」

「この世界に来たのは五十五の時だった。それ以来、数年この世界を彷徨ったが、身体は衰えるどころか若返っていくようだった」

「……」

「十数年前、この国で数多の戦闘訓練や実践をこなし気が付いた。この世界は、異世界より現れた者の身体能力を極端に上昇させる環境にあると」

「……なるほど」

「無論、鍛練をしなければ向上はしないが、その向上速度はこの世界にいる者とは比べ物にならない」

「すげーおまけまで付いたもんだ」

「一念、お前はまだ若い。これから先鍛練を怠らなければ、お前はいくらでも強くなれるだろう」

「はい!」









 ――通路を歩くディールとナビコフは、先にリッツに剣を返すという事で第一兵舎に向かっていた。

 次の角を曲がれば第一兵舎……というところで、ディール、ナビコフ両名は凄まじい殺気に襲われた。歴戦の戦士ディールが立ち止まり、身構える程に……。


(何だこの殺気は……)

(信じられん。ディール少将が身構えているのを久々に見た……)


 ナビコフが殺気に緊張し、ディールの額に汗が流れる。殺気はディール達の元へゆっくり近づいて行った。

 二人の緊張が最高潮まで達した時、殺気の持ち主の姿が二人の前に姿を現した。


「「……リッツ?」」


 二人がすぐにリッツだとわからなかったのには理由がある。


「お前、その顔……」


 リッツの顔は鼻が黒く塗られ、両側の頬に三本の髭が書かれ、額には「肉」の文字、鼻の下には鼻毛が数本描かれていた。


「あ゛あん? ディール少将とナビコフの旦那じゃないですか? 何か!?」

「あ、いや……これを……」

「これ俺の剣ですよね? 何でディール少将が持ってるんですか?」


 ディールは大戦の際、敵に追いつめられた時の事を思い出していた。


(出方を間違えれば……「死」っ)


「うむ。ナビコフが一念から預かり、ナビコフに用があった私も同行していただけだ」


(まさかっ! ディール少将が私にキラーパスをっ!? 考えろ、考えるんだっ……ナビコフッ!!!)


「へ~、で? その一念准将はどこにいるんで?」


 リッツの血走った目がナビコフに突き刺さる。彼は刹那の時間をもがき苦しみ、起死回生の一手を投じた。


「さ、先程試合場の方でお見かけしたな……」

「へ~、そりゃどうも。あ、これ返してもらいますよ。この後使うんで……」


 ディールから剣を受取り、ゆらゆら揺れながらリッツは試合場の方へ歩いて行った。


((……使うだとっ!?))


 リッツの去り際の一言で、ディール、ナビコフの両名は一念の死を予期した。しかし、彼らの足は試合場へ向かう事を拒否した。


「一念の馬鹿者めっ。剣だけであればリッツがああも変わり果てる事は無かったものを……」

「心中お察しします。……しかしディール少将、先程の無茶振りは今後ご勘弁を」

「う、うむ。すまなかった」

「いえ……」


(死ぬなよ、一念っ)

(一念殿っ、ご武運を……)










 ――ムサシとの会話を終え、試合場の隅に腰掛けていると、イリーナ、メル、フロルが一念の前に現れた。


「いっちねんさーん!! お疲れ様です!」

「あぁ、イリーナ。ありがとう」

「お前、今度私と勝負しな!」

「ハハ、お手柔らかに頼むよ」

「……一念さん。お水」

「あぁ、ありが――」


 フロルが一念に水筒の蓋に水を注ぎ渡そうとしたその時、試合場に大きな声が響いた。


「「「お待ちなさいっ!!」」」


 一念の前に現れたのはアイリン、メイ、フローラの三人だった。


「あなた達、一念さんにお水を渡すのは私達ですわっ!!」


(うわぁ、ほんとにこんなパターンあるのかー)


「いくら部下だからと言って、一念さんの独占はよくありませんっ!」

「ありませんっ!」


「こいつら、セドナ少将のとこの魔法兵団遊撃部隊?」

「大尉に向かって「こいつら」とは、口のきき方に気をつけなさいメル少尉っ」

「……っ」

「あぁ……アイリンとメイとフローラだっけ?」

「「「はい、一念さん!」」」

「お水はフロルが一番最初にくれたから、今日はいいや」

「「「なっ!」」」

「あ、フロルありがとね?」


 フロルの顔が少し赤くなり俯くが、水を飲んでる一念はそれに気付かなかった。


「「「……」」」

「……ぷぅ。ごちそうさまー」


(あわぁ……アイリンちゃん達の目が怖いよぅ)


 イリーナが緊張感に耐え切れずあたふたしている。


「……蓋」

「あぁ、はい」


(一念どうすんだよこの空気っ)


「……アイリン、メイ、フローラ」

「「「は、はいっ!」」」

「今俺が止めなかったらどうなってたと思う?」

「それは……」


 アイリンが先行して答えるが、その先を続ける事は出来なかった。


「君達が俺を気にかけてくれるのは嬉しいけど、今の問答が先へ進めば、必ずこの三人と君達の間で亀裂が生じるだろう。けどそれは君達にとって有益かな?」

「……」

「今やこの子達は俺の可愛い大事な部下だ。その部下を俺の前で悪く言うのであれば、俺は君達に良い印象をもたないよ?」

「「「……っ」」」


 一念の発言によりイリーナ、メル、フロルは顔を赤くし、一念から顔を背けた。


「今回の引き金を引いたのは君達だ。だけど、今後は身内の中で引き金を引く行為だけはしないで欲しい。……何より君達が、引き金を引く側にはならないで欲しい」

「「「……はい」」」


 一念がそう言うとアイリン、メイ、フローラはシュンとした面持ちでその場を去ろうとした。


「あぁ、俺、明後日からちょっといなくなっちゃうんだけど、帰ってきたらどこか美味しいお店でも紹介してよっ」

「「「は、はい! 是非!!」」」


 三人が少し明るさを取り戻し去っていき、一念は「ほっ」っと息を吐いた。


「い、一念……」

「ん? どうした、メル?」

「そ、その……助けてくれて、ありがとな」


 メルはそう言うだけ言って、走って去ってしまった。


「あぁ、メル! あ、あぁ……一念さんっ! あの、ありがとですっ!」


 メルを追いイリーナが駆けていく。


「……フロルは行かないの?」

「……一念さん」

「ん? なんだい?」

「……明後日、聖王国に行ってしまうんですよね」

「うん」

「……そう、ですか」

「……」

「……」

「フロル」

「……はい」

「心配してくれてありがとう……」

「……っ!」


 フロルは多くを語らない。しかし一念はフロルの一言一言を、重く、大事に受け止めていた。フロルにはそれが嬉しかった。何よりも一念が自分をわかってくれた事が嬉しかった。


「……」

「……」

「……死なないでください」

「あぁ」

「……絶対帰ってきてください」

「あぁ」


 フロルは、口から出そうになった「行かないでください」という言葉を遂に言えなかった。


「行くよ……」

「……っ!」

「で、絶対帰ってくる」

「…………はい」

「ほら、メルのサポートはフロルじゃないと出来ないんだから、行ってあげな? メルが俺に礼を言ったんだ。今は絶対後悔してるから」

「……はいっ」


 目に涙を溜め、しかし明るい面持ちでフロルは小走りで駆けて行った。


「……ふぅ」

「出て行かないで正解でした」

「うん。出て来るかなって思ったけど」

「お見事でした」

「……そんな事ないさ」


 一念の側に現れたパティは、一念に渡すつもりだった水筒を持って一念の近くへ座りこんだ。


「あ、水もらえる?」

「さっき飲んだのでは?」

「最後の薬、飲んでないからね。それに、今日はパティが来ると思ってたから……」

「あ、あぁその……。ありがとうございますっ」

「アハハ、可愛い可愛い」

「か、からかわないでくださいっ」

「ごめんごめん」

「はい、お水です」

「ありがと……」


 一念は革袋から最後のミモネリラルを取り出し、パティに渡された水と一緒に飲みほした。


「ふぅ。……ちょっと疲れた」


 一念はそう言うと俯いたままになり、ほんの数分で寝息をたててしまった。


「お疲れ様です……」


 一念達の死角にいて、一念への復讐の機会を伺っていたリッツは、抜いていた愛剣を鞘へ戻した。


「へっ、気がそがれちまったぜ。あー、ねみ! もっかい寝なおそっ。……これ落ちっかなぁ?」







 ――数刻の時間が流れ、アレクトの部屋ではいつも通り一念とアレクトの漫才が行われていた。


「だーかーらー、調印式にはお前がギブリグに行けって!」

「何故私があの国に出向いてやらんといかんのだっ!」

「ジョージさんよりおめーのが年下だからだよ!」

「生まれたのが早いのがそんなに偉いのか!?」

「早いのが偉いんじゃねーんだよ! 人間はな、年上の人を見て育つんだよ! 年上の人がいなかったら、アレクトは今頃まだ歩けなかったかもしれないだろ! いや、歩く事すらも考えつかなかったかもしれない!」

「何を言う、この賢王が歩く事も考えつかない等、思いもよらないな!」

「駄王が何言ってんだよ! 先人達の知恵を受け継いで今の俺達があるの! その努力、功績を敬うんだよ!!」

「駄王と言うなっ、駄王とっ! バッツ、何か言ってやれ!」

「一念准将の言う通りかと」


 扉越しにバッツの援護射撃が一念ではなくアレクトを襲った。


「……ぬぅ!」

「ったく……じゃあこう考えろ。お前があの国に行く事で、お前が……トレーディア国王アレクトの器が、どれだけ大きいかをギブリグの連中に知らしめて来い」

「ほぉ、それは悪くないな。うん。悪くない……」

「まぁそれは考えとけ。俺はもう寝る」

「ん、あぁ。明日の会議はいつも通り謁見の間で行うからな。寝坊するなよ」

「出来ない約束はしない様にしてるんだっ」

「ふん、緊張感のないやつだっ」

「おやすみー」

「あぁ、おやすみ」





(ん、ところであいつ、私より二つ年下だったのでは!?)



「陛下……」

「なんだ、バッツ」

「私の方がもっと年上です」

「……っ!」(読まれたっ!?)








 ――本日は外ではなく、一念の部屋にルーネが訪れていた。


「で、今日は? 魔法訓練は昨日で終わりって言ってましたけど」

「うむ。明後日から外部で活動する一念に、渡しておきたいものがあってな……」

「渡すもの?」

「まずこれだ」

「これは……」


 ルーネは銀細工の首飾りの様な物を机に置いた。中央の飾り部分には一際輝く銀色の石が埋め込まれていた。


「ミスリル鉱石を結晶化し、首飾りにした物だ」

「ミスリル鉱ってめっちゃ高いとか聞きましたけど? ミーナさんもそれで危なくなったし……」

「君が先日稼いだ金額に比べれば微々たる値段。なぁに、数億イーエン程だ」

「億!」

「私が陛下にお願いして発注させた」

「あ、ありがとうございますっ。……で、これにはどんな効果が?」

「人には「魔法力」というものがある、という事は先日話したな?」

「ええ。魔法力が少なくなると一定時間魔法が使えなくなるとか、魔法力の最大量に比例して魔法の威力が上がるとか……」

「その通りだ。この石はそれを補うサポートアイテム「パーマネントマジック」だ」

「おぉ!」

「これを身につけていれば、魔法力に関してそう困る事はないだろう」


(常時マジックポイント回復装備アイテムだなっ)


 一念はそう思いながら早速首飾りを着用した。


「そしてこれだ」


 ルーネは次に三枚の紙を手渡した。


「これは……「火」・「水」・「回復」の魔法訓練方法?」

「その通りだ。先に教えた二つの魔法については、もう私から教える事はない。君がもし、その先へ行きたい。もしくは行かなければならないと思った時、それを有効活用してくれ」

「わかりました」

「……最後にこれだ」


 ルーネは鞄から黒いマントを出し、机の上に置いた。


「これは―」

「防刃、防魔で隠形術も無理なく使える万能マントですね?」


 ルーネがピクリと驚いたが、すぐにニヤッと笑った。


「その通りだ。「ミストマント」という。少し過保護だったかな?」

「いえ、とても嬉しいですよ」

「フフ、そうか」

「感謝してます」

「礼ならいらない。無事に帰ってきたまえ」

「はいっ」

「さて、夜も遅い、帰るとしよう」

「あぁ、はい」


 一念はルーネと共に立ち上がり、扉の前まで付いていった。ふとルーネが止まり、それを気になった一念がルーネの顔色を伺う。と同時に、一念に少しの物理的衝撃が与えられた。衝撃があったのは心なのか身体なのか……。一念はそれを考える余裕がなかった。

 一念はルーネの腕に、胸に、強く抱かれていた。動揺しながらも「どうしたんですか?」と聞いたが、ルーネからの返事は返ってこなかった。自分の心臓の音さえ捉え、沈黙が響き渡り、やがてゆっくりとルーネが口を開いた。


「死ぬなよ。愛弟子」

「えぇ」

「うむ。……では、おやすみ」

「はい……おやすみなさい」


 ルーネが去り、一念は一息つく。ベッドに腰掛け両膝に両肘を軽く置き体重を預ける。


「皆……心配してくれてる」


 ――そして翌日……。

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