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魔法世界の超能力者  作者: 壱弐参


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第三部 その十

「バッツ」

 王親衛隊隊長。階級は大佐。

 ミーナ選抜の人格者。常にアレクトを護衛し、時には教育を施す。身体能力が高く、魔法なしでムサシやディールに遅れをとらない。

 功績としてはとうの昔に少将になれるだけの器だが、「将官になると、給料は増えるが仕事も増える」という理由で断っている。この発言から人格者を疑う者もいるが、彼は私財を後進の育成にあてている。


「レミリア」

 王親衛隊隊員。階級は中佐。

 天井裏の過酷な任務を難なくこなす。スピード至上主義で、身の軽さを利用し敵を翻弄する。

 以前は背が低い事を気にしていたが、フロルの考えに共感し、今はコンプレックスを克服している。


「ジャンヌ」

 王親衛隊隊員。階級は中佐。

 負けず嫌いで地味な存在。暗器を得意とし、虚や死角を突くのが非常に上手い。以前バッツと百番訓練をし、一本取る事に成功している。



 一念がベッドで覚醒をしてから一、二分程の時間が経過していた。


(落ち着け……視界を広げて瞬間移動(テレポート)出来る場所に飛べば良いだけだ……)


 一念は飛べる空間を探すが、左目を自身の左手甲で覆われ完全に塞がれている。右目はベッド側にある為、視界には目の前にある爆弾と黒髪、辛うじてベッドのシーツが見えるのみ……。


(しかたない……起こすかもしれないが跳ね除けよう……)


 一念が身体に力を入れるが、頭はおろか足さえ動かない…。それどころか力を入れると左手の爆弾が作動してしまう。


(なんだこの万力は……!? ……っく、仕方ない。空中浮遊(レヴィテイション)でっ)


 一念の身体が浮き、共にルーネの身体が浮き上がる。右目の視界が開いた一念は、飛べる空間を見つけ出す。


(……ここだっ!!)


 ルーネを浮かせたまま瞬間移動(テレポート)でベッドに不時着した一念は、即座にベッドから転がり落ち、床へ避難し、ゆっくりとルーネをベッドに下ろした。

 一念は落ち着きを取り戻し、深呼吸の後、動悸息切れの回復に努めた。


「なかなか巧い回避だったぞ? 一念君」

「!?」

「本来であればその能力無しで逃げなければならないのだぞ?」

「ルーネさんっ! 起きてたんですか!?」

「あぁ、君が少し力を入れた時にな」


 上体を起こしベッドに腰掛けたルーネは、脚を組んで魅惑的な笑みをこぼし、一念をからかった。

 一念はルーネの魅力に心が折れそうになったが、なんとか踏み堪える事に成功した。


「……性格わるいっすよぉ」

「ハハハ、悪い悪い。長生きをするとな、狡猾になるものだ……」

「ルーネさんて……いったいいくつなんですか?」


 十数年前の大戦時に活躍していたルーネは、一念がどう見ても二十台半ばにしか見えなかった。

 一念の質問に対し、ルーネはクスッと笑って脚を組み替えた。


「一念君、それは野暮というものだぞ?」

「はいはい。俺が悪ぅございましたー」

「では、先程の話に戻ろう。……魔法を教える事は構わないが、君は明日から朝は体術訓練。夜は勉強だろう?」

「夜中とか……難しいっすか?」

「ほぉ……」

「やっぱ……無理っすかね?」

「いや、驚いているだけだ。……幸い、私はいつも明け方まで起きている。いいだろう付き合おうじゃないか?」

「あ、ありがとうございます! 宜しくお願いします!!」

「では準備しなくてはならないな……」

「……準備?」

「そうだ。訓練には準備がある。従って今この場で、どの系統の魔法を会得したいのか決めてくれたまえ」

「なるほど……でもその、覚えたい魔法が二系統あるんですが」

「かまわんさ。あのレベルの対話が出来るなら二系統位わけない……。それに……」

「それに?」

「フッ、この私が教えるのだぞ?」

「す、すごい自信ですね」

「数千人を鍛えてきたのだ、それなりの自信は付くさ」

「ほへ~。す、凄いっすね……」

「で、どの魔法なのかな?」

「「補助」と「雷」です」

「ほぉ、たしかに君に体術が身に付き、補助魔法が加われば鬼に金棒だな。……しかし、雷魔法の意図が読めんな」

「それは、ちょっと試したい事があるっていう……まぁ、おまけみたいなものです」


 一念がニッと笑うと、ルーネはそれ以上余計な詮索はしなかった……。


 一念はルーネを見送り、ふらふらとベッドに倒れこんだ。そしてほんの一息深呼吸をすると、考える間もなく深い眠りに落ちてしまった……。


 ――そして、翌朝……。


 鳥の囀りがまだ聞こえる時分、一念の部屋にノック音が響いた。

 扉が何回も音を出したが、部屋の主はいつも通り熟睡中であった。


「一念、私だ。ディールだ!」


 その声を聞いた一念以外の第二兵舎メンバーが、部屋をバタバタさせ扉の外に出てきた。

 一番最初に制服姿で出てきたのはフロル、次いでメル。最後に何を思ったのか、イリーナが桃と白ストイプ模様のパジャマを着て慌てて出てきた。

 三名が揃うと、足を揃えディールに向かい敬礼をする。


「「「おはようございます! ディール少将っ!」」」


「……うむ。休んでよろしい」

「「「はっ!!」」


 ディールが再度扉に目を向けると、また扉を叩き始めた。


「一念、私だ。ディールだ!」


 この作業が数回行われ、繰り返される度にイリーナ、メル、フロルの冷や汗が増えていった…。


「……ふむ。仕方がない」


 三名に聞こえるか聞こえないかの声でディールが呟くと、突然扉が轟音を鳴らし一念の部屋の中に吹き飛んでいった。


「「「っ!!!」」」


 ディールは右手を開き正面に出している姿勢を維持していた。


(バケモンかよっ!?)

(……ディール少将。っぱないっす)

(扉がぁ、扉がぁ。あわわ……)


 ディールが一念の部屋に侵入し、ベッドで熟睡している一念を持ち上げる。ベッドの下に置いてあった一念の靴を持ち、部屋を退出する。


「ご苦労。訓練を怠らない様に。良い一日を」

「「「はっ!」」」



 一念は熟睡したまま昨日の試合場に連れてこられ、中央の地面に放り投げられた。


「っ!? ってぇえええ!!! 何するんだ――」


 目の前には、ムサシという名の、ディールという名の二人の「修羅」が立っていた。

 一念は瞬時に覚醒へ追い込まれ、萎縮という名の直立不動を強要された。

 ムサシはディールの後ろで腕を組んで立っている。そして、ディールが一歩前へ出る。


「お、おはようございますっ!!」

「おそよう一念」

「きょ、今日から宜しくお願いします!!」

「うむ。では靴を履きたまえ」

「は、はい! ……履けました!」

「私とムサシ中将は、陛下から出来るだけ君の隠形技能向上を命ぜられた。……しかし一つ問題がある」

「は? ……問題というと?」

「私とムサシ中将が君を個人指導するならば、君は数日で並の隠形技能を会得できるだろう」

「ほ、本当ですかっ!?」

「無論だ」

「で、その……問題というのは?」

「なぁに簡単な事だ。日が余ってしまう……というだけだ。逆を言うならば、詰め込めるだけ詰め込めば、君は一流の隠形者になれるという事だ。我々の考えた訓練メニューならば、丁度一ヶ月でギリギリモノになるだろう」

「……で、その訓練メニューというのは?」

「君は言われた事をすればいい。大丈夫だ。……死ぬ事はないだろう」


 ディールの発言と共に、一念は背筋に氷の様に冷たいモノを感じた。恐怖?いや、違うだろう。一念は逃げきれない死と向かい合っている感覚だった。

 一念の目には二人の修羅が笑っている様に見え、修羅の眼光により意識を失わない事で精一杯だった。


(これは、死んだな……)


 ――今、生に繋がる地獄の訓練が始まった。


「はぁ、はぁ……ひぃ、ひぃ……げぶ」

「腰が上がっている! もっと落とせ!」

「……はいぃ、ひぃ」

「足のクッションを最大限使え! 出していい音は風切り音のみだと思え!」

「へぇ……へぇ、うっぷ」

「吐くなら動きながら吐け! 身体に動きが染み付くまで動き続けろ!!」

「う……げぷ、がっ! はぁ」

「死角に回り込め! 敵の死角が生き残れる場所だ!!」

「…………死ぬ」

「違う! 死なない為にやっているんだ!!」

「………………」

「よし良い調子だ! うむ。本日はこれまで!!」


 ディールはうつ伏せでピクンピクンと動く一念の身体の下に足を入れ、仰向けにひっくり返した。閉じられている一念の目を指で開き、注視する。


「……よし。問題ない!」

「今日は私の出番はなかったか」

「ムサシ中将の訓練を一日目から行う体力は一念にはないでしょう……んー、多分四日目あたりにいけるかと」

「うむ、把握した」

「一念、陛下との勉強は数刻後に行われる。勉強する分の体力は回復させとけ!」

「…………ぁぃ」


 ディールがポケットから小さい革袋を取り出し、一面の顔近くの地面にスッと置いた。


「訓練後には毎回一粒飲んでおけ。疲労が緩和されるだろう。……では職務が残っている為失礼する」

「また明日な、一念」


 ムサシとディールは一念を置きその場を後にした。


(うぅ、想像はしてたが……これはキツイ)


 一念が動けずに半刻程の時間が経った時、一念の顔に差し込んでいる太陽光が遮られた。


「大丈夫ですか?一念さん」

「大丈夫……じゃない」(……誰?)

「これは、ちょっと待ってて下さいね、水を持ってきます!」

「……………………」


 走っていく音が遠ざかったが、ほんの一、二分程で、声の主は一念の場所まで戻ってきた。


「お水……これを飲み込んでください」

「ん……ん、うん」


 一念は上体を持ち上げられ、声の主の肩を借り寄りかかっていた。

 半刻程の時間の後、次第に一念の悪かった顔色が赤みを帯びてきた。


「……ん……うぅ」

「お気づきですか?」

「ん? ……パティ?」

「はいっ! 御無事なによりです!」

「いつつ……無事なのかな、これ」

「本来ディール少将のしごきに耐えれる新兵はいません。……しかも個人指導で最後まで耐えられる方は珍しいかと」

「褒め言葉……なのかな? あぁ、肩ごめん。俺今超臭いよ?」


 吐瀉物が一念のワイシャツの至る所に付着しており、今の一念に近づこうと思う人間はそういないだろう。

 パティはクスッと笑い頭を肩から引きはがそうとする一念を引きとめた。


「大丈夫です。私も新兵の時はそうでしたから……」

「パティの新人時代とか、想像つかないな……」

「あー、酷いですっ。私にもそんな時代があったんですよ?」

「ハハ、とにかくありがとう。とりあえずお風呂入りたいな」

「フフッ、ではお連れしましょう」

「……ありがとう」


 場内一階にある第一兵舎から第五兵舎には共同(男女は別)の浴場が設置されている。二階の第六兵舎から第十兵舎も同様のものが設置されている。

 第一兵舎にはリッツ達「特殊警備隊」が起居し、第二兵舎に一念達「ミーナ護衛隊」が起居している。因みに第三から第五は尉官の者が起居し、第六から第十は佐官以上の者が起居している。

 城から東側。少し離れた場所には「大兵舎」が存在し、多くの一般兵はここで生活している。

 一念は浴場の脱衣所前まで着くとパティの肩を離れようとした。しかしパティがそれを制し、ゆっくり腰かけさせた。


「ここでお待ちください。一念さんの部屋まで着替えを取りに行ってまいります」

「ほんとごめん。この借りはいつか必ず……」

「フフッ、気長にお待ちします。……すぐ戻りますね」


 パティが脱衣所前から去るとほぼ同時に、脱衣所の中から少し髪が湿ったリッツが出て来る。


「お、一念じゃん。……うお、ゲロくせぇ~」

「あ、リッツか。悪いな……」

「んな事気にしねーよっ。将軍達に相当しごかれてるらしいな?」

「……あぁ、とりあえず一日目は生き残ったよ」

「それだけ言えりゃ大丈夫だろっ。この後は勉強だっけか? ……気張れよ!」

「おう…」


 そうこうしている内に、パティが一念の着替えを持ち、戻ってきた。


「一念さん、お持ちしました」

「……あぁ、ありがとう」

「パティ大佐……だと?」

「リッツ少佐?げ、元気そうだな……」

「なんで? ぇ、一念? ……おい!」


 いつの間にか脱衣所に入って行った一念。リッツとパティは脱衣所前で沈黙を守っていた。


「ゴ、ゴホンッ、リッツ少佐……この事は他言無用だぞ?」

「……は、はぁ」

「で、では失礼するっ」


(………へぇ。あのパティ大佐が一念をねぇ)


 リッツは自室に戻りながら口元を緩めていた。


 ――数刻程の時間が経ち、一念は壁を伝いながらアレクトの自室の前に辿り着いていた。


「一念様、陛下がお待ちです」

「あ、えっとバッツさん……でしたっけ?」

「名前を覚えて頂き、光栄ですな」

「あぁ……その、昨日はすいませんでしたっ」

「なぁに、陛下には良い薬です。さ、お入りなさい」

「はい、ありがとうございます」


 一念はアレクトの部屋の扉を叩いた。


「アレクトー。いるー?」

「おぉ、来たか一念。入れ入れ」


 一念がアレクトの部屋に入ると、応接用の机には山積みの本が無数に載っていた。


(うっ! あれはなんだ……?)


「よくきた。まぁ座れ」

「……いやだ」

「なにを言うっ!?」

「なんだその山積みの本は!」

「勉強に本は必要だろうがっ」

「さてはお前、俺を殺す気だなっ!」

「本を読んで人が死んでたまるかっ」

「いいや、死ぬねっ」

「いいから座れっ」

「……わーったよ」


 しぶしぶ席についた一念は、手前の席に腰を掛けた。


「では、始める」


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