第三部 その八
「アイリン」
トレーディア国第一魔法兵団遊撃部隊隊長。階級は大尉。
行動は大胆不敵。その肝っ玉を認められセドナから遊撃部隊を任せられる。珍しい物が好きで、城下町で新商品等が発売されると、いち早く入手するという。魔法兵団内での人気は地味に高い。
「メイ」
トレーディア国第一魔法兵団遊撃部隊副隊長。階級は中尉。
行動は冷静沈着。行き過ぎたアイリンのブレーキ役として、セドナに副隊長を任せられるが、アイリンがより一層暴走するという、科学反応が起きてしまった。
「フローラ」
トレーディア国第一魔法兵団遊撃部隊隊員。階級は少尉。
行動は奇想天外。隊長であるアイリンの世話係兼良き友人として、彼女を支えている。稀にアイリン以上の爆弾をセドナに投下する事があり、彼女を困らせている。
「ディール」
トレーディア国「国家特殊部隊ブレイブ」の副隊長。階級は少将。
白髪と金髪の混じったオールバック。ムサシより歳は若いが、その風貌はそれを思わせない。自分にも部下にも厳しいが、アレクトからも部下からも信頼に厚い。性格は寡黙の一言。
シグルドの留守を預かる身だが、その実力はムサシ、ルーネに引けを取らない。
「シグルド」
トレーディア国「国家特殊部隊ブレイブ」の隊長。階級は大将。
詳細不明
大広間、一念が自分を指差し固まっている。
ナビコフが詳しい説明を続ける。
「一念殿であれば、聖王国への調略に適任だと申し上げております」
「聞かせろ……」
少し強い口調でアレクトはナビコフに先を促す。アレクトの額には脂汗が、ナビコフの頬にはアレクトの圧による冷や汗が流れていた。
「はっ、まず一念殿の情報は我々が情報経路を塞いでしまえば、聖王国に漏れる事はまずないでしょう。
そして、一念殿の魔法です。飛行魔法、物体浮遊魔法、瞬間移動魔法、更に発動が素早い催眠術、そして、先程透明化魔法の存在を確認しました」
「なんと……」
アレクトが一念を見る。
「おそらくまだ持っている魔法があるでしょうが、挙げさせて頂いた魔法だけでも、隠密行動をするのには非常に有効かと存じます」
「…………」
「魔法障壁さえ通り抜ける瞬間移動魔法があれば、捕まる事はないでしょう! 気配と足音を消す訓練を積んで、尚も透明化魔法があれば敵に見付かる事はないでしょう!! 万が一見付かったとしても、顔が知られていない一念殿であればトレーディアの攻撃とはわからないでしょう!! 瞬間移動魔法と飛行魔法をうまく使えば、一日もかからずトレーディアに戻ってこれるでしょう!!! ……っ! 陛下ご英断を!!」
「……一念」
「アレクトさん……この前の空中会議、もう忘れたの?」
無論アレクトが忘れるはずはない。しかし、アレクトは怖れていた。初めて得た「生涯の友」が傷つく事を……そして、失う事を。
(……人間とは難しいものだな)
「……他に提案や質問のある者はいるか?」
「「「…………」」」
――挙手の沈黙を以てこの会議を終了――
アレクトはゆっくりと目を閉じ、深く深呼吸をした。
……そして、ゆっくりと目を見開いた。
「……決を出すっ!!!
……ムサシ中将!!!ディール少将!!!」
「「はっ!!」」
「一ヶ月……一ヶ月だ! 一ヶ月で一念の隠形技能を出来るだけ向上させよ!! これは最優先事項だ!!」
「「身命を賭してっ!!!」」
「一念准将っ!」
「はいよ」
「一月後、お前には聖王国に潜ってもらう……。それまでの間、私が出来るだけ聖王国の知識をお前の頭に叩き込む! ……朝は鍛錬、夜は勉強だ!」
「お手柔らかに……」
一念は困りながらもアレクトの心地良い声に身を委ね、心の中で笑っていた。
「ミーナ、ルーネ中将!!」
「はい、お兄様」
「はっ!」
「ミーナ、聞いての通り私は夜一念に付く、極力日中で仕事を済ませるつもりだが、足りない部分があればサポートを頼む! そして城外への外出を禁ずる!!
ルーネ中将、ミーナのサポートと護衛、魔法兵団の増強を頼む! 予算が足りなければその都度報告する様に!」
「「はっ!!」」
「ナビコフ大佐!!」
「はっ!!」
「ムサシ中将が一念の指導に当たる間、歩兵部隊を一任する! 増強に必要な物を纏めて、後ほど私に提出しろっ!」
「はっ!!」
「リッツ少佐!!」
「はっ!!」
「重要な任務だ!いつ敵の調略に遭うかわからん以上、常に目を光らせておけ!訓練も怠るな!! この期間ミーナは城外へ出ない! 一時的だがミーナの護衛にルーネが就く以上、護衛隊の仕事も減るだろう。よってイリーナ、メル、フロルも警備に回す! 鍛えてやれ!」
「了解しました!!」
「セドナ少将!!」
「ここに!」
「金だ! 莫大な金が必要になる。いつも以上に民に協力を仰ぐと共に、出来うる限りの経費削減案と金策の提案を後ほど提出しろ! 場合によっては兵に野良仕事をさせても構わんっ!!」
「はっ!」
「バディ大佐!! パティ大佐!!」
「「はっ!!」」
「全兵士の連携指導に当たれ!! 必要な人材は後ほど報告しろ!! 兵に連携の何たるかを叩き込め!!」
「「はっ!!」」
「指示のなかった者も後ほど指示書を届けるっ!! 全兵士気合いを入れろ!! 力を抜いたら国が滅びると思え!!! この国の正念場だ!!!」
「「「「「「おぉおおおおおっ!!!!!」」」」」」
「解散!!」
アレクト……いやこの場にいる全兵の目に同じモノが見えていた。
一念は部屋に戻ると、ベッドの上にいつもの状態になっていた。時刻はまだ夕暮れ前だったが、身体の疲れを感じ眠りにつくことにした。しかし、人との約束を思い出し、上体を起こす。
(そうだっ、ルーネさん!)
ルーネの所在が不明だったので、一念は精神感応を発動した。
『ルーネさん、今大丈夫ですか?』
『一念君か、……まぁ大丈夫だぞ?』
『あ、何かまずかったですか?』
『いや、ちと湯浴みをしていただけだ。その様子だと身体までは見えないのだな』
『ゆ、湯浴みっ!?』
『ハッハッハ、そうだ、生まれた時と同じ、あられもない姿だぞ?』
『……っ……か、からかわないでくださいっ』
『いや、すまん。で、用事とは?』
『今から会ってお話出来ませんか? 出来れば……その、人目のつかないところで』
『なるほど。しかし、夜這いをするにもまだ明るいが……』
『っ!? そ、そんな事しませんっ!!』
『アハハハ! 君はからかい甲斐があるなぁ……。いや、わかった。では、私の部屋か、君の部屋が良いだろう。君を招待し、閉じ込めてじっくり観察してもいいのだが、生憎研究資料でごちゃごちゃしていてな。私が君の部屋に行くとしよう。で、君の部屋はどこにあるのだ?』
『……うぅ、だ、第二兵舎の一番奥の部屋です』
『わかった。では、一刻程で着くようにしよう』
『すみません。お待ちしています』
一念は顔を赤くし、両手で顔を覆っていた。
(あの人……サユリさんタイプだ……)
一念がそれをきっかけに研究所の所員の顔や、家族、美菜、学校の皆の顔を思い出していた。
初日に取り戻してきた学生鞄。その中にあるスマートフォンは、バッテリー残量が0%になってしまい、使う事が出来ない状態となってしまっていた。
(はぁ……明日からきついだろうなぁ……。覚えなきゃならない事が沢山ある。いや、まて。発想の転換だ。学校でも似たような事してたし、最近運動不足だったし、考え様によってはいつも通りだ。うん。なんとかなりそうな気がしてきた……。
いやぁ、キツイよなぁ……)
ポジティブに考えようと思った一念だったが、ムサシとディールの顔を思い浮かべたら、『決してそんな事はない』と考えを改めていた。
一念が目を閉じて色々考えていた時、ドアを叩く音が聞こえた。聞こえるか聞こえないかという小さいノック音だった。
(ん? ルーネさん? まだ一刻経ってないんじゃ?)
因みに「アンアース」では一日を四十八刻で分割している。一刻は三十分。半刻になると十五分である。
一念は扉に「はいー」と返事をし、扉に近づいた。「はいはい、今開けますよーっと」と言いながらドアノブを下ろすと、扉の奥には予想外の人物が立っていた。
「……パティさん?」
「い、一念さんっ! お、お疲れの所申し訳ありません!」
「いや、べ、別に大丈夫ですけど、どうしました?」
「あ、あのえーとそのですね!」
「まぁここじゃなんだし、部屋入ったら?」
「へ、部屋にっ……ですか!?」
少し裏返った声を出したパティだったが、身体をモジモジさせながら、顔を紅潮させたパティは非常に魅力的であり、男性で免疫がなければ目を奪われてしまうだろう。
(か、可愛い……)
それは一念も例外ではなかった。
「あぁ、うん。ど、どうぞ」
「は、はい。失礼しますっ」
一念はパティを招き入れ、先日のムサシ同様、中央右側にある椅子を引き、パティに座る様促した。
パティは椅子の背もたれから背中を数センチ程開け、姿勢正しく座っていた。
(ぐ、軍人すげぇ……こんな美しく座れるもんなのか?)
「えー、で、どうしたんですか?」
「はっ、えっと、今日の試合とても素晴らしかったですっ」
「……あぁ、ありがとうございます」
「はいっ! とても励みになりましたっ!」
「……? うん」
「一念さんのお姿、お力に目を奪われましたっ!」
(ん? なんぞこれ?)「…はぁ」
「本日は一念さんにお伺いしたい事がありまして……」
「……はい?」
「一念さんはご結婚はされていらっしゃいますかっ!?」
目を瞑り精一杯声を振り絞ったパティの顔は、更に赤みを帯びて、少し泣きそうになっていた。
「結婚? ……いやいやいやいやいやいやいやいや!! 俺まだ十七だし、結婚なんてそんな!!」
パティの顔に明るさが灯る。
「で、ではお慕いしている異性の方は!?」
「えっと、「お慕い」ってどういう……?」
「つ、つまりその、現在好きな女性は……いますか?」
「えっと…それは、いない……かな……」(ハハ、ここまでくればもうわかった…………目立ちすぎたかっ)
「で、ではこれを読んで下さいっ!!」
パティが頭を下げ両手を突き出し、一念に手紙の様な物を差し出してきた。
「……手紙?」
「は、はい! 「陛下」からですっ!」
(アレクトさん……だと!?)
一念は一瞬固まった。パティからの手紙でなくアレクトからの手紙に不審を抱いたのである。
(待て待て待て待て。アレクトさんからの手紙? よくわからん)
「よ、読んで下さいっ」
「こ、ここで?」
「陛下がそうしろと……」
一念がしぶしぶ手紙の封を開けると、一枚の紙が入っていた……。一念は紙を広げると――
――やぁ一念。アレクトだ。
このパティ大佐、お前の事好きだってさ!! がんばれ!!――
(あの野郎……)
何かが割れる音がした。
一念はいつの間にか怒りを覚え、眉間に皺がより、目が血走り、鼻孔は広がり、顎がしゃくれていた。
それを見たパティは慌てて一念に手紙の内容を聞いた。
「一念さん、手紙には一体何がっ!?」
我を抑える事に集中していた一念は、パサリと手紙を落としてしまった。パティがそれを拾い――
「…………っっっっ!!!!」
先程とは比べ物にならないほどパティの顔が真っ赤に紅潮し、その場にへたり込んでしまった。
パティも落としてしまった手紙を一念が拾い、「ちょっと待ってて」と告げると同時に、一念は部屋から存在を消した。
パティが腰を落としてから八秒後、一念はアレクトの部屋にいた。
パティが腰を落としてから十秒後、一念はアレクトを念動力により持ち上げていた。
パティが腰を落としてから十三秒後、一念はアレクトに手紙を突き出し罵詈雑言を浴びせていた。
パティが腰を落としてから二十三秒後、アレクトは念動力により正座を強要されていた。
パティが腰を落としてから三十秒後、アレクトは過去の自分を悔いていた。
パティが腰を落としてから三十二秒後、一念はアレクトに「さん」を付けなくなった。
パティが腰を落としてから三十五秒後、一念は「駄王」と「アレクト」を連呼していた。
パティが腰を落としてから四十秒後、アレクトは「生涯の友(悪友)」を得た。
パティが腰を落としてから四十九秒後、一念は自分の部屋の床にアレクトを正座させた。
パティが腰を上げてから二秒後、アレクトは生涯初の「土下座」を経験した。
パティが土下座をしてから四秒後、アレクトは一念に「ハウス」と命じられた。
パティが土下座をしてから十二秒後、アレクトは「失礼しました」と言い扉を出て閉めて行った。
「……ホントごめん。アレクトが余計な事して」
「いえいえいえいえ! そんな滅相もないですっ!」
「けど、……その、気持ちは凄く嬉しいよ」
「ホントですかっ!!」
「でも、まだ俺パティさんを、余りよく知らないからさ、友達からとかじゃ……ダメかな?」
暗かったパティの表情がみるみる明るさを取り戻し、満面の笑みになるまでそう時間はかからなかった。
「よし、じゃあ握手っ」
「……え?」
「友達の印」
「は、はい!」
二人は握手を交わすが、その時間が長く、いつの間にかパティは両手で一念の右手を握っていた。
互いの顔に赤みを帯び、両者共気恥ずかしそうにするその反応は、恋愛の免疫のない者にとっては相応しい反応なのかもしれない。
「では、失礼しましたっ」
「うん。気軽に遊びにおいで。……なんにもないけど」
一念が苦笑をするとパティもクスッと笑い、「是非」とだけ言い、自分の部屋へ戻って行った。一念はその背中を姿が見えなくなるまで見送った。
扉を閉め、ベッドに腰を下ろし「ふぅ……」と息を吐くとまだ残る「握手」の余韻に浸っていた。そして気持ちが落ち着き、丁度良いタイミングで再度扉を叩くノック音が聴こえる。
「はいはーい」
「私だ。ルーネだ」




