表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/77

第三部 その三

「トロン」

 トレーディア国特殊警備隊副隊長、階級は中尉。同警備隊隊長リッツの弟。リッツとは双子の関係ではあるが、容姿が似てない事から二卵性の双子かと思われる。萌黄色の短い髪にセピア色の瞳、年齢不相応の容姿に「僕」という一人称から年齢詐称の疑惑も出ている。本人は至って真面目である事から話は下火となっているが、その反面、トロン愛好会という組織が出来てしまっている。

 身体は弱く、過酷な状況に耐えきれない為、職務は文官の様な事務処理等を行っているが、魔術師としての才能は他の追随を許さない。



 アレクトが玉座に腰を下ろし、ムサシに目をやった。

 ムサシが声を張り全員に指示を出す。


「全員、やすめっ!!!」


 ムサシの掛け声と同時に、一念を除く全員がその場に立ち上がり、足を閉じ、姿勢を正した後、足を肩幅まで開いた。

 一念の知る、背中で両手を組むものではなく、足を肩幅に開いた後の手の所在は人それぞれだった。背中で両手を組む者、腕を組む者、手を腰に置く者等、様々である。

 全員が姿勢を整えると、アレクトが全員に注目を促す。


「ではまず、報告から始める。事前に各々に配った報告書にあった通り、先日私の妹ミーナが取引を称した場で襲撃された。この事に関し、当人から説明がある」

「敵は十四人、内魔術師は三人。部下イリーナ大尉の囮作戦虚しく、私、メル少尉、フロル少尉の三名は敵に捕えられました。その後、イリーナ大尉と協力者により無事救出されましたが、敵の狙いはミスリル鉱の違約金である可能性が高いと思われます」


 アレクトが頷き、リッツに目を向ける。


「同日の夜に取引現場で起こった出来事について、リッツ少佐、説明を頼む」


 無言で頷き、リッツが一歩前に出て説明を始めた。


「同日の暮れに陛下から指示を受けた私は、取引現場を見張っておりました。時刻が二十一時半を迎えた頃、現場付近で異常を確認。洞窟内にいる不審者二名を発見しました。一名を倒す事に成功しましたが、もう一名は無詠唱の補助魔法を用いました。倒すのが困難な状況でしたが、協力者の力を借り、二名共捕縛に至りました」

「ここまでは報告書にあった通りかと思う。そして昨日、先の二名の尋問に私も立会い、協力者の力を借り情報の収集に成功した。そして背後関係に聖王国宰相リエンがいる事が判明した」


 アレクトの発言に兵がざわつく。無言を貫いたのは事実を知っているアレクト、ミーナ、ムサシ、リッツ、一念……そして、それを予期していたルーネだった。

 そしてアレクトが右手をあげ、兵を黙らせた。


「理解してくれたか? 喧嘩を売られたという事だ。しかもご丁寧に調略から入ってくるところを見ると、トレーディアを相当高く買ってくれてるみたいだ。因縁をつけて無理矢理戦争を起こそうと思えば出来るはずだが、リエンはそれを避けた……。その戦争、すぐには終わらないと判断したのだろう。それには私も同感だ。ここトレーディアには少数とはいえ、私が揃えた有能な兵がいる。そう簡単に負ける事はない」


 アレクトの発言により兵が鼓舞する。兵は声を上げ士気を高める。そしてアレクトは手を上げ再度兵を静めた。


「さて、先の事件でのイリーナ大尉の失敗について一階級の降格処分を下した。他の者異存はないな?」


 兵が沈黙を以って答える。それに反応したアレクトがイリーナに目を向ける。


「ではイリーナ中尉、この失敗に囚われず、以降努めてくれ。今後活躍に期待する」

「はっ!」


 イリーナが気持ちの良い声で返答すると、アレクトはニッと笑い先を続けた。


「吉田一念……前へ」

「へ?」


 急に出番が来た一念は反応が出来なかった。すかさずミーナがフォローする。


「一念、お兄様の前へ」

「あぁ、はい!」



 アレクトの前に立った一念はアレクトに精神感応(テレパシー)を発動した。


『これ、なにすればいいんですか?』

『ん? 階級の授与だ。跪いて黙っていればいいぞ』

『いやー、跪くのはちょっと……』


 一念があからさまに嫌そうな目をする。


『なっ!?』

『こっちの世界は皆平等だったので跪く習慣なんてなかったっすよ?』

『おぉ、それは素晴らしい……じゃないっ! 他の者に示しがつかん。形だけで構わん頼む』

『え〜……』

『くっ……では交渉だっ』

『チョコレートパフェ一個で手を打ちましょう』

『ぬっ……足元を見おって……か、構わん! 後で私の部屋に来るといい』

『アレクトさんの足「下」は今から見るんです』

『誰が上手いことを言えとっ……私の今日のオヤツが……くっ……』


 一念がゆっくりとアレクトの足下跪き、二人の長い沈黙によりざわついていた周りの兵は、再度沈黙を取り戻す。この一念の行動がチョコレートパフェ一個分の平伏だという事に気付く者はいなかった。


「ゴホンッ……皆の者、この者が先程の報告で述べた協力者「吉田一念」である。彼はミーナ、イリーナ中尉、メル少尉、フロル少尉の命を救い、十四人の敵をを一人で一掃し、その夜リッツ少佐の命も救ってくれた。翌日…つまり昨日の尋問にも協力。彼の協力がなければ、リエンという核心に確証たる事は出来なかった!」


 兵にどよめきが起こるが、アレクトは気にせず続けた。


「一念には現在ミーナの護衛隊長を任せている。本日この場でその任に相応しい階級を授与する。

 長らく空位にあった「准将」の階級を、一念、そなたに与える。今後も私に……いや、国の為に力を貸して欲しい……」


 異例の出来事に、先程のどよめきが沈黙へと変わり、誰もがアレクトの次の声を待った。一念が立ち上がり横にアレクトその隣に立った。


「私が決めた事だ……だが、この異例の決断に異論のある者もいるだろう。構わぬ……その者は前へ出よ」


 数秒の沈黙の後、一番最初に前に出たのは二人いた。先程一念を叱った大柄な男、そして一念の良く知る金髪の青年だった。


(リッツ!? てかなんだこの状況? 確かに准将とか偉そうだけどさ……)


 次々と前に出る兵に一念はアレクトの横目で睨みながら精神感応(テレパシー)を発動した。


『どーいうつもりですかっ?』

『まぁまぁ、協力してくれるのだろう?』


 アレクトが少しニヤつくと一念はムスっとして展開を待った。


「さて、これだけかな? ふむ、合計五人か……。ではナビコフ大佐から反対理由を聞いていこうか」


 ナビコフと呼ばれたその男はムサシ程ではないが、大柄で胸板が厚く、真朱色の坊主頭だが額から襟足にかけて六本の線で剃りこみを入れている。見るからに強面で眉が……ない。


「陛下、理由は単純明快っ! その者に私の上に立つだけの器があるかという事だけです。実績を積み、周りから認められるのが昇格の常でしょう。しかし一部の方々以外はその者の実力を知らない! 納得出来ないのも至極当然かと存じます!!」

「ふむ、わかった実力を示せと……」


 アレクトがニヤリと笑い、それを見たリッツがニヤッと笑った。


(やっぱりか……陛下も強引だねぇ~)


「次は……セドナ少将か」


 フロルよりも深い青い髪、群青色の髪を持つセドナという女性は、後ろの髪をポニーテールで纏め、左右に分けた前髪は頬を通り越し、首筋前まで垂れている。


「なにやら面白そうだったもので……。それに、この階級の者が一人は出た方が都合が良いでしょう? 陛下……」

「ほほぅ、さすがセドナ少将」


(あー、俺この展開知ってるかも……)


 一念が過去の冒険の書を脳内でめくっている中、アレクトはこの時代では革新的な計画の手引きを脳内でめくっていた。


「バディ大佐、パティ大佐……そなた達兄妹はいかなる理由かな?」

「「おそらく……そちらのリッツ少佐と同意見でございます。何より自分達を試したいという我が儘でしょうか……」」


 リッツ、トロンと違い、顔が瓜二つなこの二人はおそらく双子であろう。バディは男性制服、パティは女性制服を着用しており、二人とも黄色い髪の毛がウェーブ状になっており、襟足部分で跳ね上がっている。

 二人の発言により注目を集めたリッツは、腕を組み目を瞑っていた。アレクトがリッツに目を向けると、リッツは目を開き開口した。


「陛下、回りくどいんじゃないですか? ナビコフの旦那が言った通り一念が実力を示せば周りが認める……そういう事ですよね?」


(はぁー……やっぱりか。セーブポイント探しておこう……)


 そんなものはないと知りつつも、アレクトにささやかな復讐を誓った一念だった。


「よろしい。では一念、外の試合場でその実力を示せっ!!」


『チョコレートパフェ一個じゃ足りないっすよ!!!』

『契約書の確認は取引の常だろう!!』

『そんなものっ……』

『まぁ良いではないか? この先の戦いに勝機がある事を、私に…いや、皆に信じさせてくれ』

『……』


 一念は口を尖らせて、照れと不満をブレンドさせた。


「では、全員付いて来てくれ!!」



 昨日の牢獄への階段の手前の道を奥に進むと、大きいドーム型の試合場がある。大きい石造りのこのドームは、賭け試合にも訓練にも使われる事もあり、観客席が設けられている。常日頃溜め込まれている魔力のおかげで、試合場内から観客席へ、観客席から試合場までの干渉は出来なくなっている。もちろん作動装置の切り替えにより干渉可能な場合もある。観客席から試合場に入る事が可能な事から、試合場への直接通路は存在しない。


(そうそう……こんな感じの試合場を……2Dで見た事がある……)


「一念、あそこだ」

「へいへい。見りゃわかりますよー」


 肩を落としながら試合場の東側に一念。西側にリッツ、ナビコフ、セドナ、バディ、パティが立っていた。


「さて、一念誰からやる?」


(ここは……)


 見学者の中にいるアレクトが声を張り一念に…いやリッツ達に伝えた。


「全員でかまわんっ!!! 武器は訓練用の木製のものを使え!!! 勝敗は私が決める!!!」


(ははっ、知ってる知ってる……)


 アレクトの「全員」という言葉に、イリーナ、ミーナ、メル、フロル以外の兵が驚きを隠せず動揺の声を上げていた。


「一念、お前相当陛下に気に入られたな……」


 リッツは苦笑し、一念を哀れんでいた。


「油断するなリッツ少佐。我々五人がかりでも勝てない可能性があると判断して、陛下はああ仰ったのだ」


 ナビコフがリッツに言いながらも、周りに対して注意を促した。


(あれ、ここは普通ナビコフさんみたいな人が「手をだすな! 俺一人でやる!」とか言うんじゃないの!?)


 セドナが開口し、全員に指示を出す


「巨大な力を持つ敵を相手と思えっ!!」

「「「「おぉっ!!!」」」」


(ちょっと想定外……)


「では試合開始っ!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ