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魔法世界の超能力者  作者: 壱弐参


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第三部 その二

「ルーネ」

 三大賢者の一人。トレーディア中将。魔法兵団の統括団長として王アレクトを支えている。かつての大戦で英雄的な働きをし、世界中で知らない者はいないという程である。アレクトからの信頼も高く、相談役ともしても重宝されている。

 長い黒髪は腰元まで届き、一念より黒く深い瞳。人と話す機会が少ない為、謎の多い人間である。大戦は十数年前に起こったが、当時から一切老けていないという噂もちらほら……。



「まだ開始時間まで少し時間があるみたいだな……」


 リッツがイリーナと同じ懐中時計を取り出し、時間を確認する。


「あれ? それって……」

「あぁ、これか? 懐中時計は兵士全員に支給されてるぞ。そのうち配給部署からお前にも届くんじゃないか?」


 アレクトは「取引は信頼」という信念から、兵士にも時間がわかる様に懐中時計を支給している。アレクトが兵達から意見を取り寄せ、必要な事、物を配給する事もしばしば起きる。


「あ、俺ちょっと部下達の点呼してくるから、一念はここで待ってなー」


  リッツが思い出した様にそう言うと、一念は慌ててそれを引き止めた。


「おいおい、待てよっ、孤立無援かよ!! 何して待ってりゃいいの!?」

「これを機会に色んな人に声かけてみれば?」

「何かテキトーだなっ!!」


 リッツがニヤニヤしながら袖口を指差した。


「俺のこれ、銀色の二重線が一本入ってるだろ? これ、一本なら少佐、二本なら中佐、三本なら大佐なっ! 一本線が少尉、中尉、大尉っ! 三重線が少将な! 中将はさっきのルーネ中将とムサシ将軍しかいないから大丈夫だろっ!! 話しかけるにしても言葉遣いに気をつけろよ!!」


 生意気な一念の為を思ったリッツの発言だったが、一念はその気遣いには気づかなかった。


「へー、見分け方あったんだ……」

「んじゃなっ!」

「あ、待っ……行っちゃったよ……」


 リッツを視界から失い、言葉通り孤立無援となった一念は、周りに知り合いを探すが、誰も見つける事は出来なかった。


『イリーナァ……早く戻って来てくれぇ……』

「……あの」


(何かいじめられてるみたいじゃんっ!)


「あの~……」


(リッツが悪いっ。こういう空気苦手……ん?)


「もしもーし」


 一念は己を指差し、声の主が誰に呼び掛けているのかを確認した。目の前には……いや、目の斜め下にいたその存在は、男性とも女性ともとれない、中性的な容姿の男性(制服から判断)が立っていた。


「はい? なんでしょう?」

「あぁ、よかったです。リッツ兄さんと仲が良さそうだったので、ご挨拶だけでもと思いまして……」


 本人の申告からリッツの弟(制服から判断)だとわかったその子は、人懐っこい様子で一念に話しかけてきた。


「リッツ……の、弟さん?」

「はい! 初めまして。トロンといいますっ」


 トロンと名乗るその少年は、目を煌めかせながら一念を見ていた。


(袖口のラインが二本……中尉?)


「あぁ、初めまして。一念です」


 トロンに軽く会釈をし、挨拶をかわす一念。


「一念さん……ですか。よろしくお願いしますっ。兄とあそこまで砕けて話す方は珍しいので、思わず声をかけてしまいましたっ」

「リッツと? あいついつもあんなんじゃないの?」

「兄は誰に対しても距離を一つ置いて話す癖があるんです。なので、あれほど表情豊かに話す兄を見るのは初めてかもしれません」

「へ~。会った時からあんなもんだったと思うけど……」


 一念の返答に少し驚きの表情を見せたトロンだったが、すぐにまた笑みをこぼし一念を見る。


「フフッ、では、兄の心の中で何か動くものでもあったんでしょう」

「そんなもんなのかね~」

「一念さんの制服は何か特殊な物の様ですが、それは一体?」


 一念の学ラン姿に興味をもったのか、トロンは一念の身体周りをキョロキョロ見ていた。


「あぁ、俺は一昨日こっちに来たばかりだからね。制服は自前なんだ」

「へー、そうなんですね。僕も真っ黒の制服は初めて見ます」

「そんなに珍しいものなのかね?」

「そういった訳ではありませんが、着飾ってない制服というのはこの時代珍しいものですよ」


 トロンの言う「この時代」が、どの時代かは皆目見当のつかない一念だったが、適当に相槌を打ち、話の続きに耳を傾ける。


「あれ……一念さん、これ階級章はないんですか?」

「あ、俺まだ階級ないんだ。一応ミーナさんの護衛隊長って事になってるけど、正式な授与は今日じゃないかって言われてる…というかさっきそう言われた」

「ミーナ殿下の!? 確かイリーナさんが隊長だったんじゃ?」

「ちょっと失敗しちゃって、副隊長のお仕事に就きました」


 一念は、これと全く同じやりとりをあなたの兄とした事がある…とは言わず、トロンの反応を待った。


「そんな事が……では、イリーナさんは降格処分に?」

「らしいよ、さっき中尉になったとかどうとか言ってたし……」


 一念の答えにシュンとしたトロンだったが、すぐに持ち前の明るい表情に戻った。


「でも、イリーナさんの事だから大丈夫そうですね♪」

「うん、なんかショックとかは特に受けてなかった様に見えたね……ところでトロン君はだいぶ若いみたいだけど?」

「あ~、よく言われるんですよそれ……こう見えても僕十七歳なんですよっ」


 どこから突っ込んでいいかわからなかった一念は、沈黙する事で驚きを表現した。


(同い年……だとっ!?って事はリッツは俺より年上か?てゆーか、皆の年齢聞いてなかったわ……)


「あ、因みに兄と僕双子なんです♪」


 誇らしげにそう言うトロンは腰に手を置き胸を張り、気のせいか鼻が高くなっている様に見えた。


(顔が全然似てないって事は……二卵性? てか、双子レベルで似なくていいけど、兄弟レベルでは似ろよっ!!)


「双子……似てないって……言われない?」


 苦笑混じりで言う一念にトロンはすがる様な目で訴えかけた。


「そうなんですよぅ……僕も兄みたいな強い男性になりたいと常日頃から夢みてますが、身体が弱いせいか、鍛えられず魔術師型に染まる一方で……」

「そうそう、気になってたのがその魔術師型ってやつ。メルが言うには俺も魔術師型らしいんだけど……。魔術師型って……何?」


 トロンは口を開け質問の意図、意味がよくわからない様子だった。一念はこの反応から一般常識である内容を聞いているのだと悟った。


「あぁ、えーっと単純に俺、この世界の事に疎くてさ、魔法って存在もついこの前知ったんだ…」

「おぉ! では一念さんは異世界からいらっしゃったのですかっ!!」


(ぐぬぅ……「異世界」って単語を伏せて話したのにっ! ……この子の言葉に疑問符がない以上、言い逃れは無理っぽいなぁ……)


「あぁ…まぁね…」

「ゴホンッ!…ゲフゲフッ…うん…では、僭越ながら説明させて頂きます。魔術師型は簡単に言ってしまうと兵種の中の一つです。兵種は主に三種類。「魔術師型」・「剣士型」・「合魔型(ごうまがた)」の三つです。

 魔術師型は魔法を駆使して戦うタイプの事です。僕や一念さん、イリーナさんもそうですね。

 剣士型は剣や盾、時には弓矢を駆使して戦うタイプです。兄やムサシ将軍がこれに当てはまります。

 合魔型は魔法と何かをかけ合わせた物を駆使して戦うタイプですね。例えば、剣に雷魔法をかけたり、拳に火を纏わせたりと使い方は様々です。一念さんの周りだと、メルやフロルがそうですね。陛下とミーナ殿下もこのタイプだとか聞いてます」


(なるほど、剣に魔法に合成魔法ね…簡単なRPG設定と一緒って事だな……)


 一念は現代っ子なら対応出来るレベルでのゲーム経験は積んでいた。ありがちな設定をうまく飲み込み、気になる点を追求する。


「「主に三種類」って言ってたけど他にもあるのかい?」

「ほとんど世に出ないんですけど「異能型」っていうタイプがあります。言葉程恐ろしい物ではなく、動物を使い戦うだとか、人間の心理を利用した幻術を使ったり、薬品を使ったりだとかまぁ色々ありますけど、まぁそんな感じです」


(なるほど、隠しジョブの忍者ね……)


 一念が異能型を勝手な解釈で「忍者」と修正した時、周りのざわめきが静かになり、次第に沈黙へと姿を変えていった。


 玉座の左手奥の廊下からミーナが現れ、玉座の左側で止まった。


(本日のミーナさんはミニスカポリスか)


「あ……では後程……」


 トロンがそう言うと、音を立てずに一念から離れて行った。

 ミーナの供をしていたイリーナ達は壇上から降り、一念の元まで歩いてくる。


「さ、一念さんこちらですよ」


 イリーナに手を引かれ、謁見の間の左端方面に、一念、イリーナ、メル、フロルの順で並んだ。どうやらミーナの到着を機に整列を始めた様であった。

 一念の左側にはリッツがおり、その後ろではトロンが一念に小さく手を振っていた。

 右側には見覚えのない女性が立っており、その女性が一念の顔を見てキョトンとした様子で首を傾げている。しかし、一念の後ろにいるイリーナに気付き、合点がいった様子でイリーナに小さく手を振っていた。

 そこへリッツが一念に顔を寄せ小声で話しかけてきた。


「これは兵舎の番号順に左端から並んでるのよ。俺らが第一兵舎、一念のとこはが第二、その右側が第三ってな。」


 二十列程ある列を見て一念はある疑問に辿り着いた。


「こんなに兵舎があるの? だったら普通、若い番号からお偉いさんが入るもんなんじゃないの?」

「さすが一念君。よく気がついたね偉いぞぅ♪」


 無性に腹が立った一念は、衝動的にリッツの右足を踏んでいた。


「っ!? ってぇなぁ!」

「悪い悪い。よく見えなかったわ♪」


 ノリは全校集会の男子高校生といったところだ。


「ったくよぉ……。まぁあれだ、兵舎は第十までしかなくてな、それ以降の右側にいるのは、全て軍のお偉いさんやらだな。ムサシ将軍も中央付近にいるはずだ……ほらいた。で、そろそろ足どけてくれません?」


 仕方がないかの様に納得し、リッツの足から自分を足をどける一念。


「あー痛かった……あ、始まるみたいだぜ」


 リッツのセリフが言い終わる前に、玉座右手奥の廊下からアレクトが姿を現した。


(スウェットに……マントだと!? ……ん? あれは……革靴ぅ!?)


 一念は、白いスウェットに赤いマント、黒い革靴を履いて登場したアレクトのファッションセンスだけは理解出来なかった。


(絶対あれ素足に革靴だろ! 蒸れるだろっ! なんだあの人!)


 アレクトが全員の視界に入る頃、ミーナ以外の兵が跪いた。そう、一念を除いて。


「へ? これ俺もやるの?」


 そう言った一念の声に反応した複数名は、ポツンと立っている一念をギロリと睨んだ。

 一念は慌てて周りを見渡す。左隣りにいるリッツの肩が震えていた。やや離れた場所にいるムサシの顔が呆れている。玉座に着いたアレクトの肩も震えていた。イリーナは「なんで?」という面持ちだった。ミーナは笑っていた。


(これは……リッツの巧妙な……罠っ!? 本来なら、並んだ時にイリーナが諸注意をしてくれるはずだっ!! しかし、リッツが俺に話しかける事によって、それを防いだ!? リッツが俺に話し掛けている時、イリーナはリッツが俺に諸注意を説明してくれているのであろうと思ったはずだ。迂闊……こんなに早く復讐がくるとはっ!!)


 アレクトがそれを察したかの様に一念に頷き、リッツを見た。


「特殊警備隊隊長リッツよ……」


(そうだ! 言ってやれ!)


「……大義であった!」


(……違う……違うよアレクトさん……)


 心に洪水の涙を流した一念は、リッツへの更なる復讐を誓った。

 リッツは肩を震わせながらアレクトに応じた。


「恐悦至極に存じます! ……プッ」


 最後の笑いが漏れた音はリッツの周り、トロン、一念、イリーナにしか聞こえなかった。

 アレクトの意味不明な「大義」発言に疑問を持ちながらも、未だ跪かない一念に対して痺れを切らす者がいた。


「そこの者っ!! 御前である!!」


 この大柄な男はこれだけ言えばわかると思ったのだろうが、一念にはさっぱりわからなかった。


「へ? 御前?」


 一念の世界の現代っ子が、この状況で「御前」とだけ言われ「王の前なのだから跪け」と解釈出来る者はそういないだろう。

 額に青筋を立て、今にも一念に飛びかかりそうになったその男を止めたのもアレクトだった。


「よい、あの者はまだ勝手がわからぬのだ…」

「しかしっ!」

「よいと言っている…」

「っ…」


 玉座に座るアレクトが玉座の上に立たず、立ち上がった。


「では、会議を始める」


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