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プロローグ

 超能力。

 サイキックとも呼ばれ、特異な能力で通常の人間には使えず、科学や理屈では説明出来ない超常的な現象を引き起こせる者を超能力者、または超能力者(サイキッカー)という。

 念じる事で手足を使わず物を動かす事の出来る、念動力(サイコキネシス)。瞬時に場所を移動出来る、瞬間移動(テレポーテーション)等様々な能力があるが、現在、二〇一四年の社会では、未だに一般社会に存在を認知されるには至っていない。

 現在未確認情報ではあるが、『いきなり人が消えた』・『誰かの声が聞こえた』等、多数の情報がメディアにて報道されてはいるが、大半はヤラセや誤まった情報である。

 二〇一四年の段階で各国で多種多様な超能力研究を行っている機関はあるが、どの機関も有益な功績を上げる事は出来ていない。

 国民から「税金の無駄遣い」と言われる機会は少なくはないが、各国の上層部は頑なに研究への投資を続けている。

 超能力が必要な世の中ではない為、不自由のないこの世の中ではあるが、「無かったモノが有るモノ」になるという膨大な有益性を各国上層部は理解しているのだ。

 近年、ソレが不可能でないと知った日本は、特にその政策に力を入れている状態だった。


 二〇〇〇年、都内に住む年端もいかない男児に、ある兆候が見られたのだ。

 男児の周りに置いてある遊具(つみきやおもちゃの人形等)が宙に舞い、男児の周りを上下左右に動きながら旋回をしている。と、男児の両親から連絡があったのだ。

 すぐさま研究員を現地へ向かわせ、両親の了承を取り、簡単な検査が行われた。

 両親から聴取した内容によると、この様な不思議な現象は、男児が一歳の頃から多々確認出来たとの事だった。

 研究所所長の計らいにより、両親と話し合い、男児の意思や身体が成長するまでは経過観察という事でその日の話は終わった。

 経過観察に関しても、定期的に研究所の所長や所員が男児の家を訪ねるという事であったし、大がかりな検査を行う際は、両親に対して、どんな診察をするのか?安全なのか?という説明を所長自らが行い、納得の上で行う検査だった。

 よく映画や、アニメ、漫画等で、こういった状況が起こった時に、家族が引き離されて、四六時中検査漬けの生活という内容の話があるが、そういった事にはならなかった。いや、実際に一部の上層部からそういった提案も投げかけられたが、所長がソレを断固拒否をした。

 強行手段を選択する事も可能だった状況の中で、こういった対応をしている所長の人柄の良さは男児の両親も感じ取っていた。


 

 それから十四年。


 

 青空の下、街角のアパートの一部屋に、いつもと同じ時間にいつもと同じ電子音が鳴り響く。


「ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……」


 音が止まる気配のない目覚まし時計は痺れを切らした様に最後のトドメをさす。


「ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!!!」

「わかった、わかった〜……」


 機械相手に返事をした男、「吉田 一念(よしだ いちねん)」は、布団の中でもがき苦しみながら、目覚まし時計のスイッチを切った。

 目覚まし時計の頭頂部にあるボタンを押すだけでは、スヌーズ機能が働き、再び不快な電子音が鳴り響くのが身体で理解しているからだ。


「……」


 再び静寂に包まれたアパートの一室に五分程の時間が流れ、先程とは変わった電子音が鳴り響く。


「ジリリリリリリ! ジリリリリリリ!」


 一昔前の電話着信の音とほぼ同じ電子音は、先程の目覚まし時計の電子音より一念にダメージを与えた。


「なんだよ〜、もう……」


 ねぼけつつもイライラしながら、充電していたコードからスマートフォンを外し、画面の応答ボタンに指を運んだ。


「……もしもし」


 身体を起こしたその青年は黒髪のボサボサ頭(寝起きだという理由もあるが)。一念の同級生が言うには、顔は中の上から上の下。成績は中の中。運動は上の下から上の中。総じて「ややイイ男」らしい。

 その気だるい声に電話の相手は察したのかいつもの事なのか、電話越しでため息をついた。


「一念、あんたまだ準備してないでしょ!? 時計を見て、今すぐ頭を起こしなさい!」


 その指示に従い、一念は枕元にある目覚まし時計を確認した。短針は8の数字を、長針は12を指していた。

 寝ぼけた頭で状況を整理し、「……あっ」と発した時、電話越しから笑い混じりの声が聞こえる。


「起きた? アンタ起きれないから『ギリギリの時間に目覚ま時計をセットして自分を追い込む』とか言ってたわよね? そろそろヤバいんじゃない?」

「やっべ……切るぞ!」


 切断ボタンに指を運んだ際に聞こえた笑い声に気付いてはいたが、構ってる暇はなく、電話を切った一念であった。

 どこを見てもどこにでもいる高校生の、どこにでもありそうな光景だが、このアパートの一室には少しの《異常》が見られた。

 一念が歯を磨いている間に、ハンガーから一念の学生服やYシャツやTシャツ、クローゼットの中にある収納棚の引き出しから靴下が《宙》を舞ったのだ。

 衣類はゆらゆらと揺れる余韻を残しながら、口をゆすぎはじめた一念の前で止まった。

 フェイスタオルで顔を拭き終えた一念は、宙に浮いている靴下を手に取り、足の先端へと運んだ。

 同様の流れで全て着用し、多くの一般学生と同じ格好になった一念は、玄関まで小走りで向かった。玄関に腰をかけ、靴を履きながら一念がドアノブに意識を集中すると、「ガチャ」と音をたて、鍵が開きドアが開く。


「おっと、忘れ物忘れ物……」


 最後に宙を舞ってきたのは、何の変哲もない銀縁のハーフフレームの眼鏡と、黒い革製の学生鞄であった。

 玄関先でその二つを宙から取り、眼鏡をかけ、アパートの階段を降りていく。

 一念が階段を降りていく時、またドアノブから「ガチャ」と鍵が閉まった事を知らせる音が鳴った。


 

 東京都立彩桜高校。

 来年開校二十周年を迎える古くも新しくもない高校で、偏差値も平均的な高校だが、「元気に楽しくのびのびと」という校風に惹かれ、都内での競争率は平均以上となっている。

 また、男子は学ランだが、女子生徒の制服が可愛いと評判である事も競争率戦争に拍車をかけている。

 今は冬なので桜の木々に彩りを感じられないが、春になれば高校へ続く道のりは一面に咲く桜並木となる。

 この学校に通う二年生の吉田一念は、やや小走りで学校の校門を通り過ぎる。

 昇降口に向かう途中、二階のベランダの方から叫び声が聞こえる。


「いちねーん! ギリギリセーフじゃーん、あたしに感謝しなさいよ!」


 声の犯人はわかっている。


「美菜か……」


 たしかに心の中で感謝はしていたが、口に出して感謝をするのはなぜか納得がいかなかった。


「ふぅ……」


 昇降口でポケットに入っていた端末を取り出し、スマートフォン内蔵の時計を確認する。八時十五分というデジタル表示を確認して一息ついた一念は、靴を脱ぎ、上履きに履き替える。

 彩桜高校は一年生は一階、二年生は二階、三年生は三階に教室がある。

 一念は『来年(四月以降)は絶対に「普通逆だろ…」とか思うんだろうな』、と考えているうちに、慣れ親しんだ教室、二年A組に着いた。

 教室に入ると、自分の席に一人の女子が座ってた。そしてその女子は待っていたかの様に一念に質問がを投げかける。


「なんで無視するの、いちねーん!」

「無視はしてねー、無視する暇も反応する暇もなかっただけだ!」と一念が自慢げに言うと、「威張るな! アンタそんなんじゃ社会に出れなくなっちゃうわよ?」と、いつもの様なやりとりをしていた。


 彼女は「吉田 美菜(よしだ みな)」。やや赤みを帯びたセミロングの髪に、端正な顔立ちに大き瞳(端正の意味とは矛盾してしまうが)。引き締まったウエストは、彼女の年代の平均より二回り大きいバストをより引き立てている。制服は赤と深い緑のチェックのスカートに、桜の花模様が刺繍されている。スカートと同じ柄のネクタイと白いワイシャツ。腰元まであるかないかという短めの黒のブレザー。ブレザーの右の胸元には同様の桜の刺繍がされている。黒のニーハイソックスを穿いている(靴下に関しては目立ち過ぎなければほぼ自由)が、これに学校指定の白い上履きはどうなのだろうか。と毎年生徒会で議題になるものであるが、それはまた別の話。余談だが、一念の紹介の際に挙げた「同級生」とは彼女の事である。

 美菜は一年生の時点で隠れファンが多数いて、二年生に上がったと同時期に、非公認のファンクラブが設立する程の美貌の持ち主だ。

 一部で彼氏がいると噂された事もあるが、どうやらそれは一念が彼氏と間違われていただけであった。この時に、一念はファンクラブの代表に呼び出され、尋問をされたという苦い経験がある。


「まぁ、感謝はしてるよ。ありがとなー」


 納得がいかないながらも、苦笑混じりの礼を言った一念に対し、


「いいえー! どういたしまして♪ どうせ朝練が終わったところだったしね」


 いかにも「エヘヘー」という表情を見せながら頬にやや赤みを帯びる。この表情でお願いでもされたら、一般男子は火の中にでも飛び込むだろう。


「剣道部か。秋の大会は惜しかったよなー」

「うん! だから最後の夏は絶対優勝するんだ!」

「おう、頑張れよ! 応援してるぜ!」

「うん、ありがと!」


 美菜と一念は一年生になったばかりの頃に、同じ名字「吉田」というだけで仲良くなった。明るく元気で一直線なところは変わらないままだ。秋の「全国高等学校剣道大会」では、決勝で惜しくも敗れるが、敗れた原因は、大会前日に近所の子供たちと鬼ごっこして転んでしまい、軸足である右足の小指の骨が折れてしまった事である。

 その敗れた当人は「いやー仕方ないよね。大丈夫! 最後に勝てればそれでいいから!」という有様である。


「ところで……」

「うん?」

「さっさと席に座らせてくれ……」

「あーごめんごめん」


 席に座るとほぼ同時にチャイムが鳴り響いた。

 先程まで一念の席に座っていた美菜は慌てて自分の席に着席した。


 帰り前のホームルームが終わると美菜が一念に近づいて来る。


「一念一念、今日帰り暇ー?」

「悪い、今日は帰りに寄らなきゃいけない所があるんだ」

「また病院?」

「そうそう。まー、めんどくさいけど、仕方が無い」

「そっかー、残念」


 頬を少し膨らませて言う美菜を見て、一念は予定を後日にずらそうか割と本気で考えたが、ギリギリで思いとどまった。


「病院」というのは嘘であるが、超能力の事を申告するわけにはいかず、「ストレスで胃痛が慢性的に起こる」と、周りには伝えている。

 因みに今日は「国営超常現象研究所」に向かう予定である。前日に父親から電話で連絡を受けていた。

 一念はアパートで一人暮らしをしている。決して裕福な家庭ではないが、一念が一人暮らしを出来たのは理由がある。


「そんなわけで、ごめんな。明日でよければ付き合うけど?」

「ホント!? 絶対だよ! 約束!」

「おう。んで、どこに行きたいんだ?」

「んー…内緒!」


 ん? と、思いながらもそこまで時間がなかった一念は「よくわからないが明日楽しみにしとくわー」と話を区切り、研究所へと向かった。

「国営超常現象研究所」は彩桜高校から歩いて十分の場所にある。

 近所では怪しい場所だとか、悪の研究所だとか言われているが、人は見えないモノを怖れる。神然り、友情然り、愛情然り。超能力に関しても同じ事が言えるのだろう。一念はそう考えていた。

 研究所の自動ドアが開き、突き当たりにある「関係者以外立ち入り禁止」のドアを開ける。そこには分厚いガラスの様な扉があり、扉の中央右手側にナンバー入力式の電子パネルが備え付けてあった。一念は慣れた手つきでパネルを操作し、番号を入力。最後に手のひらをパネルにかざす。静脈の生体認証である。

 ピンポン。というクリアな電子音が鳴り響き、扉が音を立てて開く。

 研究所内を慣れた様子で歩き始める高校生。

 傍から見たら異様な光景だが、一念を見た所員は皆笑顔になり挨拶をする。

 所長室の案内板が天井からぶら下がり、案内板には「所長室→」と記されていた。

 その突き当たりを右に曲がると、一人の所員と鉢合わせた。高身長(百八十五センチ程)で、眼鏡をかけている。髪の色は茶髪だが、髪型は七三分け、研究所の所員らしく、白衣を着ているが。インナーのシャツはピンクのストライプである。


「おぉっと…やぁ、一念君。所長に呼ばれたの?」

「木下さん! はい。どーせまた世間話でしょうけど」

「ハッハッハ。所長も気さくな人だよ。帰りにうちの部署に寄ってくれたまえ! イイモノをあげよう」

「はい。わかりました!」


 木下と挨拶を交わした後、木下が歩いてきた方向へ向かい、突き当りの部屋のドアをノックをした。ドアの上部には「所長室」と書かれたプレート。


「どうぞ」


 ドア越しから聞こえた声は低く響きのある太い声だった。


「失礼します」


 ドアを開け、室内の奥にある木目調の机。その更に奥にある黒革で仕立てられた気品溢れる椅子。それに座っている研究員とは思えない大柄な男性。初老と言うにはまだ若いが、太い眉に威圧感のある眼には優しさを伴っている。男性は一念の姿を確認すると、先程と同様低く太い声で言った。


「よく来たね。一念君」


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