8 討伐日和
この世界では1年を季節によって5つにわける。ひとつの季節は3ヶ月で巡るとされ、都合15ヶ月で1年は構成される。1ヶ月が約30日であることは元の世界と変わりない。
とするならばつまり、元の世界で25年間、此方に来てから2年間の時を過ごした私は、全てを此方時間で換算すると実は27歳ではなく、なんとまだ22歳ということになる。その事実に心慰められた記憶は特にない。
もちろん、こんなこと暗算でできるような理系脳ではないので、以前実際に紙に書いて計算した結果なのだが、むしろなんでそんなことした私。空しさ痛恨の極みである。
脱線した。
結局何の話かと言えば、本日が紅花節らしい大変よいお天気である、という話である。
紅花節は元の世界でいうところの春に近い。寒くもなく、暑くもなく、ただ心地良いという言葉がふさわしい天候には、春眠暁を覚えずという言葉は世界さえ飛び越えるのだ、などと陽気な思考さえ飛び出してきそうだ。
そんなよき日に、私は金翼騎士団の皆様と魔物討伐に駆り出されている。
聖女様は別行動だ。今頃は王宮で皇女殿下主催のお茶会に招かれているはずである。先日の毒物騒動が起きた茶会の主催も彼女で、自らが主人役の茶会で起きた不手際に――控えめに言って大変ご立腹され、この度の催しはそのリベンジなのだそうだ。
お天気にも恵まれ、ぬくぬくとした日差しと爽やかな風はまさしくお茶会日和である。
繰り返して言うが、そんなよき日に、私は暑苦しい男どもと魔物討伐である。空気読めよ、とは誰に訴えればいいのか。
金翼騎士団と言えば王立騎士団を担う片翼であり、団員は王宮近衛兵を兼任する。対となる銀翼騎士団に比べ貴族子弟の騎士が多いが、実力主義である点は両騎士団共に変わらないと言う。団長は、王国筆頭騎士エドワルド=バーリ卿だ。
そして今回の討伐隊にはなんと団長自ら加わっていて、ますますがっかりが重なるばかりだが、それでも銀翼と出かけるよりはマシだったと考えると、この国の騎士団には心底がっかりする要素しか見つからない。右を見ても左を見てもロクな奴がいない。イケメンだったら何でも許されると思ったら大間違いである。
「おい!」
つらつらと無駄な思考を重ねていたら、怒鳴られた。
ああ、現在目下進行形で魔物討伐中なのだった。まなじりをつり上げている茶髪の騎士を見上げて、私は一切隠す気のない溜息をついた。――ああ、つらい。
さて、私が今こんなにもつらいめに合っているのは、こんな話が理由である。