プロローグ
無人のホールで幕が開く。真っ暗な客席に真っ暗な舞台。息の音一つしないその場所。突如、舞台の上に二つのスポットライトが点灯する。
スポットライトの下には、それぞれ一人づつ、黒髪の少女が立っていた。
客席から見て右側には、白のロリータを着た、ロングヘアの少女。反対側には、黒のロリータを着た、ショートヘアの少女。
二人の少女は、張りのある声を上げ、語りを始めた。
「あるところに」
「仲睦まじい、双子の姉妹が、おりました」
少女たちの表情と声は自信と誇りに満ちており、態度は尊大で不遜だ。その反面、彼女らの眼光は人形にも似ていて、まるで作り物のようだった。
何者も語りを邪魔できないような精力が、彼女らにはある。
「二人は常に共にあり」
「幸福な日々は永遠に続くとも思われました」
「しかし!」
「姉妹はある日、二つに分かたれました」
張りのある声が、重みのあるものに変わる。語る少女らの表情と眼光は変わっていない。
「姉は嘆きました」
「妹は嘆きました」
「二者一体だった彼女らは!」
「自らの半身を失ったのですから!」
少女はさらに声を上げる。演じる自らに陶酔するように、二人は続けた。
「お母様は言いました!」
「お母様は言いました!」
「この世は悲劇に満ちていると!」
「そしてあの世さえも苦難に満ちていると!」
「生き別れに、死に別れ」
「煉獄の灼熱に地獄の業火」
「ああ!」
「なんと!」
「生けとし生けるものの!」
「辛苦に満ちたことか!」
空間が、しんと静まりかえる。二人の少女の、ガラス玉のような薄紅色の瞳は、この世のものとは思えないような美しさがある。しかし、同時にその四つの目玉は、酷く不気味だ。
「今から、お話を始めましょう」
「これから語るお話には」
「砂糖菓子のように甘ったるいロマンスも」
「炎のように暑苦しい友情も」
「存在いたしません」
その時、舞台奥のホリゾントが、照明で照らされた。舞台中央に、薄く汚れた、高い建造物が映し出される。少女たちは、低い声で告げた。
「さあ」
「物語の」
「幕開けです」
積み上げられた建築物と、生えるように突き出した電柱。麓に広がる低い建物たちの広大な群れ。
舞台奥に映し出された建造物は、雑多で醜い姿をしていた。