森の化け物8
やがて細かい枝が絡み合い木の葉の絨毯のようになっているところまでやってきた。
そこで暗闇の端に松明の明かりでない光が見えた。クロフは光の差す方向を指さした。
「あれは、あの光は」
クロフの指さす方向を、ケーディンも見つめる。
「光だな。行ってみるか」
お互い顔を見合わせ、枝の上を光の見えた方角へ進んでいく。
はじめは白い粒のようにしか見えなかった光も、近づくにつれて少しずつ大きくなっていく。
ついには目の前一杯に白い光が広がった。
満ちあふれた光の粒に、クロフは思わず目を閉じた。
明るさに目が慣れてくると、クロフの立っているところが美しい湖の上に張り出している枝の上だとわかった。
湖の水は青く澄み、中央の泉からは清らかな水がこんこんと湧き出している。
クロフは木の枝から降り、岸辺にある木の幹にヒーネを寝かせた。
「この湖の水はとても澄んでいます。でも」
クロフは岸辺に近づき、湖の水をすくい取った。
「でも、ここには全く生き物の気配が感じられない」
近くで水をくもうとしていたケーディンを手で制す。
ケーディンは水に浸していた手を慌てて引っ込め、指を服のはしでふいた。
「何だ? この水に毒でも入ってるって言うのか?」
「いいえ、それはわかりませんが」
クロフは言いよどみ、湖を見渡した。
湖の周囲は草や藻がほとんど生えておらず、白い石とごつごつした灰色の岩とが並んでいる。
「この湖は底が見えるほど水が澄んでいるのにも関わらず、魚一匹見当たらない。それはどうしてでしょうか? この泉の水に毒が入っているのか、それともその逆か」
クロフは湖の縁に沿って歩き出した。
「この水は森全体を潤し、この水で木々が育っているというのなら、近くの土地で作物が育たなくなったのも、土地が腐ってしまった原因も」
クロフは岩の上に座り、湖の輝く水面に顔を映した。
するとその頭上に黒い影が落ち、さざ波が立った。
「上だ!」
ケーディンが鋭く叫ぶ。
クロフはとっさに腰の短剣を抜き放ち、上に刃を向ける。
頭上に黒い影が覆い被さってくる。
抜き身の短剣を通して、クロフの腕に重い衝撃が伝わってくる。