森の化け物6
それは森に来る途中で分かれたケーディンだった。ケーディンは首を動かすのが精一杯だった。
「すまないが、このつるを切ってもらえないか? 礼なら後でいくらでもする。だから助けてくれ」
クロフはケーディンの求めにうなずいた。
しかしどうすればつるを切ることが出来るのかわからない。
ためしに短剣で斬りつけてみたが、太いつるにはわずかに傷が付いただけだった。
クロフは何か方法がないか、辺りを見回し考え込んだ。
少し離れた暗がりにはヒーネが頭までつるに覆われ、叫び声を上げている。
「早くつるを切ってくれ! 礼なら後でいくらでもする!」
そこでふとクロフは疑問に思った。
他の二人がつるに絡め取られているのに、なぜ自分だけはそんなこともなくここまで来られたのだろう。
クロフは馬に教えてもらった狐の言葉を思い出した。
『木の葉の中は火を持て通れ』
クロフは松明に灯った炎を見上げる。
そして恐る恐る松明の灯火を木のつるに近づけた。
何も知らないケーディンは、財宝ほしさに自分がつるごと燃やされるのではないかと思ったようだ。
「おい、やめろ。財宝なら全部あんたにくれてやってもいいから、命だけは勘弁してくれ」
ケーディンはつるに縛られた体を揺らし、もがいた。
「動かないでください。大丈夫、あなたに危害を加えるつもりはありません。少しの間じっとしていてください」
クロフはゆっくりとつるに松明の火を近づけていく。
するとそれまでケーディンの体を縛り上げていたつるが、するすると解け始めた。
つるが急にほどけたので、ケーディンは支えを失い、宙に放り出される。
クロフが受け止める間もなく、ケーディンは木の枝をつかみ、両腕でぶらさがった。
「松明、か?」
ケーディンの言葉にクロフがうなずく。
「思った通りです。このつるは火を怖がり、松明を持った者には巻き付かないようです」
ケーディンは片手で枝にぶら下がり、すぐさま肩にかけた革袋を探った。
そこから松明の棒を取り出し、クロフの松明にかざし、火を灯した。
ケーディンは松明を持ったまま、体をひねり器用に太い木の枝に飛び乗った。
「松明を持っていれば、あのつるはもう襲ってこないらしいな」