森の化け物3
「まあ、それではあなたがここにいらしたのも、太陽の女神ラナン様のお導きだというのですか?」
フィエルナ姫は改めてクロフの顔を見つめた。
燃えるような赤い髪が印象的な、端整な顔立ちをした若者だった。
「何という偶然でしょうか。わたくしも先日、女神様を夢で見ましたの。これからここにやってくる若者を手助けするようにと」
フィエルナ姫はクロフの手助けがしたいと思い、父親である王に出来る限りの援助をするように頼んだ。
王は若者達に馬や食料、化け物退治に必要と思われる武器や防具を授けた。
貴族のヒーネには、噴火口から引き上げた鉄で打った剣を。
傭兵のケーディンには、岩の中から掘り起こされた金属で鍛えた盾を。
吟遊詩人のクロフには、聖なる宿り木で編んだ靴を手渡された。
次の日の朝、三人は馬を駆り、早速森へ向けて出発した。
しかし森へ向かう途中、貴族のヒーネがフィエルナ姫を他の二人に取られたくないと思い、ある提案をした。
「このまま三人でそろって森の化け物を退治すれば、簡単に倒すことが出来るだろう。しかしそれでは姫も財宝も三人で分けないといけない。財宝はともかく、姫を三人と結婚させるわけにはいかないだろう? そこでどうだろう。一番早く森に着き、化け物を倒した者が姫も財宝もすべて手に入れるというのは」
少しでも多くの財宝が欲しかったケーディンは賛成した。
内心では姫と結婚して、この南の国を治めるのも悪くないと考えていた。
それに対し、クロフは反対した。
化け物の正体がわからない以上、むやみに別々に行動するべきではないと考えたのだ。
しかし二人は聞く耳を持たなかった。
さっさと馬を走らせ、我先にと荒野を駆けていってしまった。
クロフは馬を走らせ二人の後を追ったが、森にたどり着く頃には二人を見失っていた。
クロフは馬の手綱を木に結びつけ、目の前に広がる広大な森を見上げた。
深い緑の森は丘の彼方まで広がっているかのように思えた。
するとどこからか赤い小鳥が飛んできて、クロフの肩に止まった。
「太陽の女神様の言伝です。ここにあなたの求めるものがあります。さあ森にお入り下さい」
それだけ言うと、赤い小鳥はどこかに飛んでいってしまった。
クロフは辺りを見回し、一歩一歩慎重に森へと入っていった。
森は厚い木の葉に覆われ、ほとんど太陽の光が届かない暗闇だった。