森の化け物2
王は酒の入った杯を片手に、ほろ酔い加減にフィエルナ姫に声をかけた。
「お前の花婿が、この三人の中から見つかるかもしれないぞ。森の化け物を倒すほどの勇気あるものが、次の王になるのだからな」
王はそういって豪快に笑う。
フィエルナ姫は広間を見渡し、そばにいた若者に近づいていった。
一人目の若者は、ヒーネと言う貴族だった。
彼はうやうやしくひざまずき、フィエルナ姫の手に口づけする。
「お可哀想な姫、すぐにわたしが化け物を退治して、お父上の悩みを解決して差し上げましょう。そしてその暁には、ぜひわたしの妻になってください」
フィエルナ姫はお辞儀をして、おしゃべりをしている人々をすり抜けて行く。
広間の隅のテーブルの前で酒を飲んでいた若者に声をかけた。
二人目の若者は、ケーディンと言う傭兵だった。
彼は大きな体で見下ろすように、無愛想に頭を下げる。
「森に住む化け物を退治すれば、莫大な金貨が手に入るというのは本当かい、姫さん。本当にそうかどうか、領主に念を押しておいてくれないか?」
フィエルナ姫はケーディンに、父は約束を破らないと言って、広間を見渡した。
広間のどこを探しても三人目の若者が見当たらない。
フィエルナ姫は近くの人々に、三人目の若者の居場所を尋ねた。
ある者が、広間を出て行くのを見た、と言い、フィエルナ姫は若者を探しに出かけた。
広間を出ると、フィエルナ姫の耳に物悲しい竪琴の調べが聞こえてきた。
竪琴の音に導かれるように、廊下を曲がり、塔の階段を上へ上へと登っていく。
塔の最上階に一人の若者が月明かりに照らされて座っていた。
三人目の若者はクロフと言う吟遊詩人だった。
クロフはフィエルナ姫の姿に気付くと、竪琴の手を休め立ち上がる。
「ご機嫌麗しゅう、姫。この度はどのようなご用でここまでいらしたのでしょうか?」
フィエルナ姫はクロフの前まで歩いていくと、他の若者にしたのと同じ質問をした。
「あなたはどうして森の化け物を退治しようと思ったのです? 命が惜しくは無いのですか?」
するとクロフは黙り込み、暗い空に目を向けた。
夜空には白い月がぽっかりと浮かんでいた。
「命が惜しくないと言ったら、嘘になりますね」
クロフは夜空から視線を戻し、月の光に照らされた赤金色の瞳でフィエルナ姫を見つめる。
「しかし、ぼくにはそれをやり遂げなくてはならない理由があります。太陽の女神様がそうするように神殿に啓示を下されたのです。そうしてぼくは地方を巡る神官、吟遊詩人として、動物や小鳥たちに導かれ、ここにやってきたのです」